やぎゅうひめ!

甘味亭太丸

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第21話 黒幕への手がかり

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「というわけで、さっそく青竜様の下に行くわよ!」
「おー!」
「……戻ってきてそうそう騒がしい奴だな」

 ムッ、天狗様ってば足並みが悪いわねぇ。
 もっとお竹みたいにぐいぐいと来てくれなきゃ。

「とにかく。私としてはじっとしているのって性に合わないのよね。残るは青竜様、これだけわかれば十分よ。青竜様がおられる場所に心当たりはあるのでしょう?」
「朝っぱらは妙に落ち込んでた癖に、今度は乗り気かよ……ま、いいさ。青竜の住処とされているのは平川だ」
「でもちょっと待ってよ。平川って言うけど、そんな川、もうないよ?」

 確か徳川家康様がこの江戸に幕府を開いた時に大きな工事をしているんだよね。
 実は、私たちの住む江戸っていわゆる埋め立て地とも呼ばれている。もともと流れていた平川は、流れを変えて、今では神田川なんて呼ばれているのです。

「まぁ聞け、青竜が司るのは河川そのもの。いうなればこの国全てに青竜はいるといってもいい」
「え、それって広すぎない?」

 全国各地の川が住処だなんてちょっと欲張りすぎじゃないか青竜様!?

「安心しろ。青竜はこの江戸の守護を任された存在だ。江戸から離れるって事はない。江戸には川が多いが、その神田川ってのがあたりだろう。この川は辿っていけば朱雀のいた江戸湊にもつながっているし、白虎の東海道、その始まりとなる日本橋にも通じている。もちろん玄武の守護する山間にもな。全ての力がそこから流れる……いうなれば神田川こそがこの江戸の流れなんだよ」
 
 神田川はとっても長く、広い川になっていて江戸城までの水路もつながっているから時々、将軍様への献上品だって流れる。
 当然、そんな神田川ではほぼ毎日のようにいちが開かれる。
 たぶん、今日も結構な賑わいを見せているんじゃないかな。

「人が多いのはちと厄介だが、逆を言えば怪しい奴はすなわち、この異変の犯人だ。とっ捕まえてさっさと終わらせようぜ」
「天狗様もやる気じゃないですか」
「ったりめぇよ。俺様の予感だが、この異変を解決すりゃ、俺様は自由の身になるはずなんだよ」

 あぁ、そうか。
 そういえば、天狗様って元々はそのつもりで私たちを助けてくれてたんだよねぇ……。
 ま、それもいいか。ずいぶんと助けてもらったし、そろそろ天狗様にも恩返ししないとね。

***

 こうして私たちはいつものように昼を過ぎてから神田川へと向かう。
 朝市はもう終わっているけど、今度は昼の市が始まる時間だったらしく、全く人の勢いが衰えないのは、やっぱり江戸って感じだった。

「お竹、手、つないでおいて」
「はーい」

 勝手知ったる江戸の町、迷子になる事はないけど、お竹と離れると大変だからね。
 なんだかんだと神田川周辺は面白いお店がたくさんある。連日と続いた奇妙な天気でどこかくらい影を落とすものかと思ったけど、江戸っ子というものはその日が良ければどうとでもなるらしい。

「さて、こうして飛び込んでは来たものの……何をどうすればいいのやら」

 市場に来たとしても私たち、なにも買えないし、そもそもそれが目的じゃない。
 勢いのまま神田川に来たけど、これと言って不思議な点はなかった。
 天狗様も「青竜の気配も、邪気も感じねぇ」との事。
 ふーむ、問題なし……と決めつけるのは良くないわね。今朝、朱雀様たちがわざわざ警告してきたことを考えると、何もないって事はないだろうし。
 とは言いつつも、手掛かりなしなのは変わらないわけで……。

「へぇ、あまの屋さんが……」
「あぁ、先日の大火事で、船ごと商品が燃えちまったとか……」
「たいそうな借金抱えて寝込んだとか」

 それとなく散策していると、ふとどこかで聞いたことのある名前が飛び込んできた。
 あまの屋って確か、さこの家だったような。
 それに船が燃えたって……まさか、あの時燃えた船ってさこさんの家のものだったの!?
 あの時は黒頭巾のおじさんを捕まえる事にだけ集中してて、そのあたりの事にまで頭が回っていなかった。
 それに、借金って……さこ、大丈夫かしら。

「こりゃ、あまの屋さんも店じまいだろうな」
「それに、あまの屋さん、お子さんもいねぇしな。ま、それはそれでよかったのかもしれんけどな」

 ……え?

***

 市場から少し離れた河川敷。そこは人通りもなく、まるでこの辺りだけ見えない壁で覆われているようだった。
 息苦しい人の波の中から抜け出したかったのもあるけど、考えをまとめたかったのもある。
 思い出す。あの人たちはなんと言った? あまの屋さんに子どもはいない……そう言ったよね?
 え、でも待って、どういうこと。さこは、自分の事をあまの屋の娘だって……。

「今に思えば、もっと疑うべきだった」
「天狗様?」
「あのさことかいう娘の行動は、怪しい部分もあった。まるで俺様たちを混乱させるみたいに、嘘にまみれている」
「たまたま……じゃないの?」
「ならいいんだがな。直接本人に聞いてみるか?
「ねぇお姉ちゃん」

 お竹がつないで手を引っ張ってくる。

「さこさん」
「え?」

 お竹が指さす方向。
 そこには、さこがじっとこちらを見つめて、歩てくる姿があった。
 
「お松、気を付けろ……あいつ、妙だ」

 姿を消している天狗様が私の耳元でささやきながら忠告をしてくれる。
 そして、私たちの目の前に、さこがやってくると、彼女はゆったりとした仕草で私たちにお辞儀をしてくれた。

「あら、あなたたちもこっちに来ていたのですね」

 さこは、にっこりと前の時と同じような笑顔を向けてくれた。

「さこさん……」
「なんだか最近よく会いますね。でも、ごめんなさい。今日はちょっと、忙しくて……」

 そう言うさこは物憂げな表情を浮かべて、どことなく辛そうな顔を浮かべた。

「お店の方がちょっとたいへんな事になって……」
「ねぇ、さこさん」

 私は思わず、さこの言葉をさえぎってしまう。
 ぴたりと黙るさこは首をかしげて不思議そうな顔を向けてくる。

「あなた、誰なんですか?」
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