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147 後悔

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「……君の場合はソニアとの付き合いが長いし、色々とあるよね。……あまり思いたくはないけど、もう会えない可能性だって否定できない……。そう思うと……やっぱり、あの時ああしておけば良かっただとか、そういう後悔が湧いてくるよね……」

「……後悔?」

 フィリアの言葉を聞いて、ウィズは腹の中で笑った。そもそもウィズの目的は『ブレイブ家』への復讐。それまでのことは全て"過程"でしかない。

 何度も念じる。何度も何念じる。何度も目的地ゴールへ行くまでに踏みしめる雑草のようなものであり、そこに執着が生まれるわけがない。何度も念じる。

 後悔。

(……そもそも、悔いても過去はどうにもならない。変えられない。なら、考えるだけ無益……)

 後悔。
 屋敷に来てから、ウィズは自発的にソニアに対し、行動を起こした記憶が薄い。周囲には自分よりも権力的にも血筋的にも偉いヒトに囲まれ、見知った顔がウィズしかいなかった環境で、ソニアは何を感じていただろうか。

(オレはわっただろ……。こんな力を手に入れて、生きる目的も見つけた。過去のいざこざごときに縛られるわけねぇ……)

 後悔。
 少なくとも、フィリアは彼女なりにソニアを気にかけているようであった。そしてウィズはそれを俯瞰していただけだった。特になにもすることなく、ただただ見ていただけだった。

(あァくそ、気持ち悪い……! 過去を切り捨て、成り替わって、過去による理不尽な苦悩から逃げられたと思ってのに……!)

 後悔。
 家訓に縛られ、さらに境遇の全く異なるフィリアが気にかけていたとはいえ、できることは限られる。一番ソニアに近かったのはウィズであった。しかし、文字通り"それだけ"だった。何もせず、それで関係は終わっていた。手を伸ばせば確実に届く距離だったのにも関わらず。

(また、新しく、こんな……)

 後悔。

 "カットスター"で知り合って以降、そう近くはないはずのウィズの店に、ソニアは頻繁に来てくれていたように思える。定期的に何かを買い続けているというわけではなく、日によっては雑談をするだけして帰ることもあった。――別に、ウィズはそれを鬱陶しく感じていたとかそういうことはなかったと思う。

(……後悔)

 ただ単にいなくなっただけ。たった一人。それなのに考えすぎか。考えすぎてしまう。


 ――後悔。

「後悔……してるのか、オレは」

 誰にも聞こえないぐらい小さな声で、それは音になった。


 ◆


 フィリアとウィズは屋敷と連絡を取るために、『ノルハ』の町役所に訪れていた。

 建物に入り、ウィズは職員と"通信水晶シグナルクリスタル"を使いたいという申し出を行った。受付の人は『アーク家』のことを深くまで伝達されていなかったようで、個室に通されたあとに中年の役員が代わりに出てきた。

 フィリアを一目見るや否や、頭を下げては対応についての謝罪と、歓迎の言葉を口にする。それからは遠回しな言い方であったが、安全を配慮した規則のために自分が『アーク家』であると証明できるものを提示してほしいと告げられ、そのまま提出した。

 そういうこともあり、町役所に到着してから数十分ほどかかってしまったが、なんとか通信水晶シグナルクリスタルを使用できる運びとなった。

 それは個室にあるようで、防音対策も万全とのこと。恐らく一般的なものとは違い、聞かれてはいけないような通信を行う時に使う専用のものとして作られたのだろう。

「お待たせいたしました。こちらでございます。少し狭いですが、何卒ご了承いただければと……」

「分かった」

 恐る恐るといった様子で、腰を低くしながら告げる役員にフィリアは低い声で了承を示した。

 それからウィズの方へ顔を向けると、そのまま淡々と告げる。

「ウィズ。貴方はここで待っていなさい。当然のことだがな」

「はい」

 それだけを残し、フィリアは"通信水晶シグナルクリスタル"のある部屋へと入っていった。

「この通信部屋に窓はなく、出入り口はここだけです。ですので、ここで待っていれば安全かと思います」

「……はぁ、そうですか」

 フィリアが部屋の中に入った今、その入り口にはウィズと案内してきた役員のみが残されていた。

「いや光栄ですよ。今年も『アーク家』の方にお越しいただけるとは」

 ほんわかな微笑みを持ちながら、役員はそう告げる。フィリアがいた時はかなりキッチリした口調であったが、彼女の不在な今ではかなり緩い印象だ。

「『メストマター感謝祭』は古くから続く祭事でしてね。『魔導聖戦マタークルセイド』なんかはちょっとその手の界隈で有名らしく……毎年、各地から強者たちが集まるんですよ。もっとも、私はそういう争いごとは苦手なんですけどねぇ……ハハハ」

「……そうですか。それはなんというか、あれですね」

 談笑を持ちかけてくる中年の男性役員に、ウィズはどこか上の空でそう答えたのだった。
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