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再点火 イグニッション
第30話 久々の再開
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詰所に戻るなり、周哉はすぐに消防車両へと乗せられた。息をつく間もなく鈴華に防火装備を着せられ、車両内に突っ込まれたのだ。
「えっと……」
運転席にはハンドルを握る火垂の姿が、そして自分の隣席にはまだ全快とは言えない包帯グルグル巻きの煉士の姿があった。
そこには既に『第十四特務消防師団』の顔ぶれが揃っていたのだ。
「えっと、あのぉ……」
正直、周哉には現状が飲み込めていない。ここまで何の説明も連れてこられたのだから。
「まずは身体を拭け。風邪を引くぞ」
「へ……?」
煉士がぶっきらぼうにハンドタオルを手渡してきた。
「……」
そこで周哉は自分がズブ濡れであったことを思い出す。季節外れの土砂降りに振られたのだから、髪はぐしょぐしょに濡れたままになっていた。
おまけに外の日は落ち切って、気温も下がりはじめたのだ。身体は今更ながらにカチカチと震えることを思い出す。
「ア、ア、ア……アリガトウゴザイマス」
「震えるか、お礼を言うかどっちかにしろ。それに真っ先にお礼を言うのなら俺じゃなく、副団長にだ」
煉士は眼差しを、火垂の方へとズラした。
「大したことはしてませんよ。自分の職務を全うしたのみですから」
「なんて言っているが。彼女は団長顔負けのパワープレイをしてみせたんだぞ」
何が何やら分からない周哉に、煉士がさらに補足を加えてくれる。
「周哉。お前の意思がどうであれ、お前は一度市街地で力を暴走させた。だからその身柄は、いち早く現着した第九師団や、上層部が預かることになってもおかしくはなかったんだ」
いくら周哉自身が叱咤激励を受け、立ち上がったのだとしても、その事情は他人にとって何の関係もない。
そんな自分の錠が解かれ、煉士たちと合流できている現状もなかなかに不可思議であった。
「それじゃあ、僕はどうして、」
「さっきも言ったろ。副団長に感謝しろと」
聞けば、第九師団の団長と上層部全員を相手に火垂が交渉を行ったという。
それも周哉が鈴華に叱られている間という短時間かつ、「明松周哉は必ずもう一度立ち上がる。何かあれば全ての責任を第十四特務消防師団全員で負う」という無茶苦茶な主張を携えてだ。
「俺もその場に立ち会っていたんだが、あれは強引にもほどがあるやり口だった。あの時ばかりは日頃の団長の方がマシだと思う程度には」
煉士が情報を付け足すたびに、運転席の火垂は次第に赤くなっていく。
「べ、別に大したことでは……」
そこで助手席に座る鈴華がいらぬ茶々を挟んだ。
「おやおやぁ、火垂ちゃーん? 勢いでやっちゃった行動が今更恥ずかしくなってきたのかなぁ?」
「っ……! 大体、初めに『周哉くんが必要だから、面倒臭い連中をまとめて言いくるめて来てー』なんて無理難題を押し付けたのは貴女でしょうに!」
「あれ、そうだったかなぁ? けど流石、現役の東大主席だ! その頭の回転の速さと、話術の巧妙さは賞賛に値するよ!」
「なんかすごく馬鹿にされている気がするんですがッ!」
やいのやいのと言い合う二人。
そんな言い合いに一区切りついたのならば、火垂がゆっくりと此方に顔を向けた。
「周哉さん。何度も繰り返すようになりますが、私は別に大層なことをしたつもりはありません」
ぶっきらぼうに言い放ったその様子には、誇張も謙遜も含まれない。紛れもない本心から出た言葉であるからだ。
「この際ですから、私もハッキリ言っておきましょう。私は貴方の入団直後、この第十四師団の中で誰よりも貴方を危険視していました。内に宿る妖魔の力にも、少年特有の精神の脆さにも」
彼女の言い分は正論である。
それどころか、先の事態を見越し、それを見事に的中してみせたのだから、彼女の慧眼に狂いはない
「……そうですよね」
分かりきったことに、周哉も小さく頷いた。
けれど、彼女の言葉はまだ続きがあった。自分の言葉を遮られたことに少しムッとしながらも火垂は続けてみせる。
「あの人の発言を遮ってまで勝手にネガティブにならないでくれませんか?」
「えっ?」
「周哉さん。確かに貴方は一つの危険因子であり災禍を振り撒く種でもある────けれど、その危うさを御しきってみせた貴方は、いつか多くの人を救う可能性を秘めているんです。それだけは半月間、貴方を鍛え続けた秋月火垂が補償しましょう」
思い出されるのは、訓練越しに互いの刃を打ち合ったあった時の感覚だ。あの時の危うさしかない自分を、火垂はまっすぐ見てくれたのだ。
それは自分を拾ってくれた鈴華や、身を挺して責務を託してくれた煉士を同様である。
「……」
周哉は正直、第十四師団に戻る気まずさを覚えていた。
守るべき彩音を攫われ、周りに炎を振り撒いてしまったことは勿論。自らの命を蔑ろにするという形で、三人の信頼や想いを裏切ってしまったのだから。
けれど、実際はどうだろうか。
(この人たちはどうしようもないお人好しなんだ。僕の向き合わなくちゃいけないものに、一緒になって向き合ってくれて、時には背中も推してくれる)
「火垂副団長。それに皆さんも、本当にご迷惑をおかけいたしましたッ! そして、」
三人はたくさんの言葉や想いを周哉にくれたのだ。ならば自分もそれを返さなくては。
「ありがとうございましたッ!」
「えっと……」
運転席にはハンドルを握る火垂の姿が、そして自分の隣席にはまだ全快とは言えない包帯グルグル巻きの煉士の姿があった。
そこには既に『第十四特務消防師団』の顔ぶれが揃っていたのだ。
「えっと、あのぉ……」
正直、周哉には現状が飲み込めていない。ここまで何の説明も連れてこられたのだから。
「まずは身体を拭け。風邪を引くぞ」
「へ……?」
煉士がぶっきらぼうにハンドタオルを手渡してきた。
「……」
そこで周哉は自分がズブ濡れであったことを思い出す。季節外れの土砂降りに振られたのだから、髪はぐしょぐしょに濡れたままになっていた。
おまけに外の日は落ち切って、気温も下がりはじめたのだ。身体は今更ながらにカチカチと震えることを思い出す。
「ア、ア、ア……アリガトウゴザイマス」
「震えるか、お礼を言うかどっちかにしろ。それに真っ先にお礼を言うのなら俺じゃなく、副団長にだ」
煉士は眼差しを、火垂の方へとズラした。
「大したことはしてませんよ。自分の職務を全うしたのみですから」
「なんて言っているが。彼女は団長顔負けのパワープレイをしてみせたんだぞ」
何が何やら分からない周哉に、煉士がさらに補足を加えてくれる。
「周哉。お前の意思がどうであれ、お前は一度市街地で力を暴走させた。だからその身柄は、いち早く現着した第九師団や、上層部が預かることになってもおかしくはなかったんだ」
いくら周哉自身が叱咤激励を受け、立ち上がったのだとしても、その事情は他人にとって何の関係もない。
そんな自分の錠が解かれ、煉士たちと合流できている現状もなかなかに不可思議であった。
「それじゃあ、僕はどうして、」
「さっきも言ったろ。副団長に感謝しろと」
聞けば、第九師団の団長と上層部全員を相手に火垂が交渉を行ったという。
それも周哉が鈴華に叱られている間という短時間かつ、「明松周哉は必ずもう一度立ち上がる。何かあれば全ての責任を第十四特務消防師団全員で負う」という無茶苦茶な主張を携えてだ。
「俺もその場に立ち会っていたんだが、あれは強引にもほどがあるやり口だった。あの時ばかりは日頃の団長の方がマシだと思う程度には」
煉士が情報を付け足すたびに、運転席の火垂は次第に赤くなっていく。
「べ、別に大したことでは……」
そこで助手席に座る鈴華がいらぬ茶々を挟んだ。
「おやおやぁ、火垂ちゃーん? 勢いでやっちゃった行動が今更恥ずかしくなってきたのかなぁ?」
「っ……! 大体、初めに『周哉くんが必要だから、面倒臭い連中をまとめて言いくるめて来てー』なんて無理難題を押し付けたのは貴女でしょうに!」
「あれ、そうだったかなぁ? けど流石、現役の東大主席だ! その頭の回転の速さと、話術の巧妙さは賞賛に値するよ!」
「なんかすごく馬鹿にされている気がするんですがッ!」
やいのやいのと言い合う二人。
そんな言い合いに一区切りついたのならば、火垂がゆっくりと此方に顔を向けた。
「周哉さん。何度も繰り返すようになりますが、私は別に大層なことをしたつもりはありません」
ぶっきらぼうに言い放ったその様子には、誇張も謙遜も含まれない。紛れもない本心から出た言葉であるからだ。
「この際ですから、私もハッキリ言っておきましょう。私は貴方の入団直後、この第十四師団の中で誰よりも貴方を危険視していました。内に宿る妖魔の力にも、少年特有の精神の脆さにも」
彼女の言い分は正論である。
それどころか、先の事態を見越し、それを見事に的中してみせたのだから、彼女の慧眼に狂いはない
「……そうですよね」
分かりきったことに、周哉も小さく頷いた。
けれど、彼女の言葉はまだ続きがあった。自分の言葉を遮られたことに少しムッとしながらも火垂は続けてみせる。
「あの人の発言を遮ってまで勝手にネガティブにならないでくれませんか?」
「えっ?」
「周哉さん。確かに貴方は一つの危険因子であり災禍を振り撒く種でもある────けれど、その危うさを御しきってみせた貴方は、いつか多くの人を救う可能性を秘めているんです。それだけは半月間、貴方を鍛え続けた秋月火垂が補償しましょう」
思い出されるのは、訓練越しに互いの刃を打ち合ったあった時の感覚だ。あの時の危うさしかない自分を、火垂はまっすぐ見てくれたのだ。
それは自分を拾ってくれた鈴華や、身を挺して責務を託してくれた煉士を同様である。
「……」
周哉は正直、第十四師団に戻る気まずさを覚えていた。
守るべき彩音を攫われ、周りに炎を振り撒いてしまったことは勿論。自らの命を蔑ろにするという形で、三人の信頼や想いを裏切ってしまったのだから。
けれど、実際はどうだろうか。
(この人たちはどうしようもないお人好しなんだ。僕の向き合わなくちゃいけないものに、一緒になって向き合ってくれて、時には背中も推してくれる)
「火垂副団長。それに皆さんも、本当にご迷惑をおかけいたしましたッ! そして、」
三人はたくさんの言葉や想いを周哉にくれたのだ。ならば自分もそれを返さなくては。
「ありがとうございましたッ!」
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