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第13特務消防師団と吸血鬼たち

第8話 ミステリアスな炎

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「多分、水鉄砲みたいなもんだよ。あれってさ、噴射口を小さくすれば、する程勢いが増すでしょ。それと同じで周哉くんも極力、炎を小さくしようとイメージしたんだろうね」

「その結果として、一点に集約された炎が熱線(レーザー)のような威力を発揮したと」

「そゆこと。いやぁ、末恐ろしいとは、このことだね」

 鈴華はぼやきながらに、抱えていた周哉の身体を仮眠室に寝かせた。

 恐らくは、あれだけの火力を放出した反動であろう。体力のすべてが熱エネルギーに変換された結果がグロッキーというわけだ。

「まぁ……一朝一夕には行かないらしいね。トレーニングプランも見直さなきゃならないし、何より私自身が彼の潜在能力を見誤ったのが一番のミスだったな」

 彼女は口苦そうにぼやく。

「周哉くんってさ、本人の自覚が薄いだけで、意外とミステリアスだよね」

 単に妖魔に憑かれた人間が焼死するという事例なら、過去に幾つかの事例が確認されている。────ここまでは周哉にも説明した通りだが、そこから先は敢えて誤魔化している部分があった。

 まず妖魔に憑かれた人間の殆どは、憑かれた瞬間に全身が激しく燃焼し炭化する。現状の彼のように、妖魔が宿主の中で休眠状態にあるのは極めて奇妙な状態であった。

 そのおかげで周哉が一命を取り留めていると言えばその通りなのだが、内に寄生虫が棲みついて、羽化の瞬間を待ち侘びるような気味の悪さがある。

 そして、次に特筆すべきは彼の火力だ。

 鈴華はこれまでに彼から噴き出した蒼炎と四度に渡り対峙した。時々に応じてムラっ気こそ見られたが、その火力はハッキリ言って異常であった。

 陽炎を揺らし、周りを燃やすどころか、持て余した熱はありとあらゆる構築物を融解させてしまう。それほどまでの火力を誇る妖魔なんて、殆どいない。

「ふーむ、度し難いねぇ」

 鈴華の記憶の中でも、それだけの火力を誇るのは羅刹衆に属する者か、或いは。

「鈴華団長。少し、よろしいでしょうか」

 火垂が小さく、口を開いた。けれども、渋り気のある表情はどこか言いにくそうだ。

「どうしたのかな?」

「その……何と言いますか。周哉さんは……彼は、ごく普通の学生だったんですよね?」

「そうだね。まだ家系やなんやらは調査中だけど、とりあえずは市内の一般高校に通うごく普通の少年さ。両親や妹との関係も良好。やや内向的なところこそあれど、あまりに凡的で、私らからしたら羨ましい限りの人生を送ってきたとも言える」

「ならば団長は、どうして彼を『特務消防師団』に勧誘したのでしょうか? 彼はただの一般人だったはずだったのに」

 彼女の指摘は鋭いものであった。

「私たちの職務は、人外の起こす災禍から人命と財産を守ることにあります。けれど、そこに伴う責任は大きく、自分自身が死の境界に立たされることだって珍しくはない」

「なるほどね。つまるところ、火垂ちゃんは『一般人を危険に晒すな』と言いたいわけだ」

 彼女は先程の顛末から、周哉を危険視し始めたのだろう。

 周哉にはまだ未熟な面が多く目立つ。幾ら内側に妖魔を秘め、紅血血清によって人工吸血鬼の因子を得ようと、その精神には十代特有の危うさを孕んでいるのだ。

 そんな危うい少年を、わざわざ特務消防師団へ引き込む理由があるとも思えない。

「今の彼に必要なのは心理的なカウンセリングと、自己を見つめ直す時間ではないのですか?」

 火垂の指摘はどこまでも正論であった。彼女の真っ直ぐと見据えた眼差しは、それを確信しているのだろう。

 だから、双眸も揺らがない。

「けどさ。それを言うなら君もじゃないか、火垂副団長?」

「私……ですか?」

「君だって、元はただの一般人に過ぎなかった筈だ。それも将来有望な東大のエリート様。そんな君がどうして自ら危険な道を選んだのか、殆どの人間は理解しないだろうね」

 鈴華はさらに、こう続けた。

「賢い君ならば、自分には無限の選択肢があったことを理解できただろう。堅実に努力を重ねられる君ならば、どんな道を選んだとしても大成した筈だろう」

 犬歯を覗かせるようにほくそ笑んで、彼女は少し意地悪な質問を投げかけた。

「────なのに、どうして君は私と共に歩む選択をしたのかな?」
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