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EP39【グレゴリーブラッドは悪辣である】(前編)

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 俺たちはひとしきりダンスを楽しんだ後、フレデリカの帰りを待っていた。

 ただ、どうにも遅くないか。裏手の倉庫から葡萄酒を運んでくるにしては、時間が掛かり過ぎているように思える。

「ねぇ……フレデリカさん、少し遅くないかしら?」

「奇遇だな、俺も同じことを考えてた」

 まさか彼女に限って、倒れたりしてないよな。

「少し見に行こうぜ」

「そうね」

 俺とネジは裏手の倉庫まで彼女を探しに行くことに決めた。そして、ドアを開けようとした、その瞬間、

「おぇぇっ!!」

 背後から、なんとも不快な音が聞こえてきた。酔っ払い供の嘔吐である。

「ったく! 何やってるのよ……ごめん、スパナ! 私は皆の介抱もしないとダメみたい」

 ゲロったのはシドだが、ほかの面々を顔を青くして、今にも吐いてしまう寸前といったご様子だ。正直、ザマァみやがれとも思ったが、今は笑っている場合でもない。

 はぁ……どうやら、俺一人で探しにいくしかないみたいだな。

 ◇◇◇

 俺は薄暗い夜道でフレデリカを探しに歩いた。

〈ドール〉は充填された魔力で動く。だから魔力の気配を辿れば、フレデリカを見つけられる筈なのだ。

「こっちか?」

 だいぶ、気配が近くなってきた。

 しかし、妙でもあった。同じ方向から人の気配を感じるのだ。それも複数人。

「おいおいキナ臭いことになってきたじゃねぇか……」

 俺が物陰から様子を伺おうとした時だ。フレデリカの悲鳴が響く。

「や、やめて下さい!!」

 それを聞いた俺はほとんど反射で物陰から飛び出してしまった。いつでも暴発魔法(アウトバースト・マジック)を撃てるように両腕の先に魔力を集め怒声を張る。

「おい、テメェら!! 何やってやがる!」

「スパナ様⁉」

 驚くフレデリカは両手両足を縛られ、荷車の上に乗せられていた。口元に巻かれようとしている布は、彼女を黙らせるためのものか。そして辺りに跋扈するいかにもガラの悪そうな連中。

 なるほどな、人攫いならぬ〈ドール〉攫いって言ったところか。

 連中のなかでも、一際大きな男が俺の前に立つ。

「また会ったな、200・FD」

 ソイツは俺を〈ドール〉としての名前で呼んだ。最近はなんだかんだで、ネジの社員たちにも、「スパナ」と呼んでくれるのだ。

 だから、俺のことを〈ドール〉の名前で呼ぶヤツなんて、アイツくらいしか思い付けない。

「グレゴリー・ブラッド」 

 そう。俺に負けたことから、逆恨みでこの辺りを彷徨いている悪漢だ。

 この男は俺に異様なまでの執着を持っている。ならば、俺と懇意な関係にあるフレデリカをターゲットに選んだのにも嫌がらせの意図が含まれているのだろう。

「へっ! お袋にグルグル巻きにされてもまだ懲りてねぇのかよ? 挙句にフレデリカを攫おうとするなんて、裏闘技場のチャンピオン様も落ちるとこまで落ちたじゃねぇか」

「フッ、そいつはお前の見当違いだぜ」
 
 グレゴリーが鼻で笑った。その余裕綽々な態度が少し引っ掛かるな。

「あ? 言い訳は止せよ。テメェら全員、ボコボコにして〈ドール〉窃盗の現行犯として警察に突き出してやんよ」

 だから俺も結構強めの言葉で脅しを掛けてみた。コイツらにしたって、犯行の現場を見られたのはかなり不味いはず。

 しかし、連中はグレゴリーを筆頭に薄ら笑いを崩さない。

「まぁ、ひとまずコイツを見てくれよな」

 そう言ってグレゴリーが見せてきた書面に一枚の書面に俺は言葉を失ってしまう。

「どうだ? 俺がやってることは悪いことか?」

 その書類にはグレゴリーがフレデリカを購入したという旨の記載があったのだ。

 クソが、酒場のオーナーめ。大枚積まれてフレデリカの所有権を手放しやがったな!
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