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EP37【幼馴染か、それとも初恋の人か?】(後編)
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「ふーん……」
フレデリカが元人間。そういえばネジは元人間の〈ドール〉から、人間の魂を〈ドール〉に移す方法を教わったって言ってたな。
話の流れから察するに、その方法を教えたのがフレデリカってことなのだろう……って、待て、待てッ!
「んなこと、聞いてねぇぞ!」
「何よ、いきなり大きな声出して。びっくりするじゃない」
「びっくりしたいのは俺の方だわ!」
これまで、俺はフレデリカが超高級な〈ドール〉だって思ってたし、彼女が見せる〈ドール〉とは思えない仕草もそのせいだと思ってた。
けど、それらは全て、彼女が元人間だから出来たことなのだ。
「元人間の〈ドール〉は罪人から作られてる……けど、私にはフレデリカさんがそんなに悪い人には思えないのよね。性処理道具なんて酷いことも言われてるけど、それだって根も葉もない噂だし」
「えっと……フレデリカって本当に元人間なのか?」
「だから、そう言ってるでしょ。フレデリカさんは、魔法の研究に行き詰まってる私に、効率的な魔力の運用法とか、〈ドール〉の仕組みとか、そういうことを色々教えてくれた先生でもあるの」
俺が知らない所で、ネジが魔法の腕を上げた理由はそういうことか。
〈ドール〉に魂を移された人間は歳を取ることもない。だから彼女も若々しい外見に反して、俺たち倍以上の人生経験を積んでいるのだった。それならば、豊富な魔法関連の知識を持っていたとしても何の不思議もない。
俺は少しフレデリカについて考えてみる。
〈ドール〉として永遠に奉仕することが罪人である彼女にあてがわれた罰ならば、彼女は一体どんなことをやらかしたのだろうか?
殺人? 禁断魔法の使用? クーデターの画策?
頭の中にざっと重罪を挙げてみたが、やはりそのどれもが彼女のイメージに合致しなかった。
フレデリカは心優しい性格の持ち主だってことは、この店に通い続けてる俺が一番よく知っているのだから。
「ネジ……お前はフレデリカがどんな罪を犯したのか聞いてないのか?」
「さぁ? 勿論、気にはなるわよ。けど、さっきも言った通りフレデリカさんは私の先生。本人からしてみれば、困ってる私に手を貸してあげた程度にしか思ってないだろうけど、それでも私はフレデリカさんを尊敬してるし、彼女が望まないのなら、無理に過去を詮索する必要もないと思ってる」
というか、俺はこれまで当然のようにフレデリカを呼び捨てにしてきたけど、実はとても失礼だったんじゃないか。
「やべぇ、俺、これからフレデリカ……いや、フレデリカさんにどういう顔して話せばいいんだよ」
彼女が〈ドール〉だと勘違いしてたせいで、フレデリカの前では散々、格好を付けてきた過去が俺を苛む。
あと、俺がガキの頃に渡したラブレターとか、普通に読まれてたってことじゃねぇか!
「顔、赤くなってるわよ」
「うっ、うっせぇ!!」
「やっぱり嬉しい? 初恋の人が元人間ってことは、まだまだスパナにもワンチャンあるってことでしょ」
嬉しくないといえば、嘘になる。
彼女は俺の初恋の人だ。そのルックスや純情さは勿論、彼女の優しさに幼い日の俺は惚れたのだ。
ずっと作り物だと思っていた昔の思い出が、作り物じゃないってわかって俺は嬉しくないわけがない。
同じ〈ドール〉になった人間として、彼女のことを色々理解できるのも俺だと思う。借金を返した後、この店のスタッフになって、片手間でクルスくんに技術を習いながら、フレデリカを支える。
そういう未来もアリだと思った。だけど……
「何だろうな。初恋は初恋だ。けど、今はもう違う」
「そうなの?」
「自分でもよく分からないけど、今はフレデリカさんどころじゃないっていうか、彼女に昔持ってた気持ちが、今の彼女には向けられてないんだよ」
ネジは俺の答えを聞いて、しばらく考えるような素振りを見せる。
そして、俺の方をまっすぐ見つめながら、次の質問を投げかけた。
「それならその気持ちは誰に向いてるの?」
「わかんねぇよ。なんか、こう、モヤっとしてるんだ。……ていうか、今は借金とお前から逃げ続けたことに立ち向かう。それしか、頭にないんだよ」
「そっか……まぁ、そうよね! アンタには私に借金の借金もあれば、約束もある。そんなアンタが女の尻を追いかけたり、鼻の下を伸ばしたりしてる余裕なんてある訳ないんだもん」
ネジはケラケラと笑う。人を色欲の塊みたいに扱いやがって、本当に失礼な奴だ。
俺は抗議しようと身を乗り出したが、彼女はそれを遮った。
パチンっ! と指を弾いて次の話題を切り出すのだ。
「ねぇ、スパナ」
「な、なんだよ?」
「話は変わるけど、エキシビション・マッチに勝てれば、私の〈ドール〉として働くのも最後になるかもしれないのよね」
「いわれてみれば、そうだな。これで魔女の支配から解放されると思うと精々するぜ」
「減らず口だけは治らないようね」
そりゃ、俺は天下のスパナ様なんだからな。変わるところは変わるが、変わらないところは本当に変わらないぞ。
「だったら最後に私の〈ドール〉として、一つ仕事を任せたいわ。給料は出ないけど、聞いて貰いたいの」
ネジが持ってくる仕事にはロクなものがない。しかも、給料なしとくれば、俺が彼女の頼みを聞く理由なんて微塵もない。
ただ、コイツには貸があるのも事実だ。
「んだよ、その仕事ってのは?」
「ちょっと待ちなさい。……まずは、コレ。衣装魔法(ドレスアップ・マジック)」
彼女がそう唱えれば、俺の着ている安っぽいスーツが、上等なタキシードへと変わった。
そして、彼が着ている魔女の衣装も、真っ赤なドレスへと早変わりする。
「スパナ・ヘッドバーン。今日はめでたい日なんだし、私と一曲踊ってくださらないかしら?」
俺が困惑する間もなく、彼女がその手を差し出した。
まったく、コイツは何を考えているのやら。ただ偶にはこういうのだって悪くないはずだ。
「へいへい、逢瀬のままに。お姫さんよ」
フレデリカが元人間。そういえばネジは元人間の〈ドール〉から、人間の魂を〈ドール〉に移す方法を教わったって言ってたな。
話の流れから察するに、その方法を教えたのがフレデリカってことなのだろう……って、待て、待てッ!
「んなこと、聞いてねぇぞ!」
「何よ、いきなり大きな声出して。びっくりするじゃない」
「びっくりしたいのは俺の方だわ!」
これまで、俺はフレデリカが超高級な〈ドール〉だって思ってたし、彼女が見せる〈ドール〉とは思えない仕草もそのせいだと思ってた。
けど、それらは全て、彼女が元人間だから出来たことなのだ。
「元人間の〈ドール〉は罪人から作られてる……けど、私にはフレデリカさんがそんなに悪い人には思えないのよね。性処理道具なんて酷いことも言われてるけど、それだって根も葉もない噂だし」
「えっと……フレデリカって本当に元人間なのか?」
「だから、そう言ってるでしょ。フレデリカさんは、魔法の研究に行き詰まってる私に、効率的な魔力の運用法とか、〈ドール〉の仕組みとか、そういうことを色々教えてくれた先生でもあるの」
俺が知らない所で、ネジが魔法の腕を上げた理由はそういうことか。
〈ドール〉に魂を移された人間は歳を取ることもない。だから彼女も若々しい外見に反して、俺たち倍以上の人生経験を積んでいるのだった。それならば、豊富な魔法関連の知識を持っていたとしても何の不思議もない。
俺は少しフレデリカについて考えてみる。
〈ドール〉として永遠に奉仕することが罪人である彼女にあてがわれた罰ならば、彼女は一体どんなことをやらかしたのだろうか?
殺人? 禁断魔法の使用? クーデターの画策?
頭の中にざっと重罪を挙げてみたが、やはりそのどれもが彼女のイメージに合致しなかった。
フレデリカは心優しい性格の持ち主だってことは、この店に通い続けてる俺が一番よく知っているのだから。
「ネジ……お前はフレデリカがどんな罪を犯したのか聞いてないのか?」
「さぁ? 勿論、気にはなるわよ。けど、さっきも言った通りフレデリカさんは私の先生。本人からしてみれば、困ってる私に手を貸してあげた程度にしか思ってないだろうけど、それでも私はフレデリカさんを尊敬してるし、彼女が望まないのなら、無理に過去を詮索する必要もないと思ってる」
というか、俺はこれまで当然のようにフレデリカを呼び捨てにしてきたけど、実はとても失礼だったんじゃないか。
「やべぇ、俺、これからフレデリカ……いや、フレデリカさんにどういう顔して話せばいいんだよ」
彼女が〈ドール〉だと勘違いしてたせいで、フレデリカの前では散々、格好を付けてきた過去が俺を苛む。
あと、俺がガキの頃に渡したラブレターとか、普通に読まれてたってことじゃねぇか!
「顔、赤くなってるわよ」
「うっ、うっせぇ!!」
「やっぱり嬉しい? 初恋の人が元人間ってことは、まだまだスパナにもワンチャンあるってことでしょ」
嬉しくないといえば、嘘になる。
彼女は俺の初恋の人だ。そのルックスや純情さは勿論、彼女の優しさに幼い日の俺は惚れたのだ。
ずっと作り物だと思っていた昔の思い出が、作り物じゃないってわかって俺は嬉しくないわけがない。
同じ〈ドール〉になった人間として、彼女のことを色々理解できるのも俺だと思う。借金を返した後、この店のスタッフになって、片手間でクルスくんに技術を習いながら、フレデリカを支える。
そういう未来もアリだと思った。だけど……
「何だろうな。初恋は初恋だ。けど、今はもう違う」
「そうなの?」
「自分でもよく分からないけど、今はフレデリカさんどころじゃないっていうか、彼女に昔持ってた気持ちが、今の彼女には向けられてないんだよ」
ネジは俺の答えを聞いて、しばらく考えるような素振りを見せる。
そして、俺の方をまっすぐ見つめながら、次の質問を投げかけた。
「それならその気持ちは誰に向いてるの?」
「わかんねぇよ。なんか、こう、モヤっとしてるんだ。……ていうか、今は借金とお前から逃げ続けたことに立ち向かう。それしか、頭にないんだよ」
「そっか……まぁ、そうよね! アンタには私に借金の借金もあれば、約束もある。そんなアンタが女の尻を追いかけたり、鼻の下を伸ばしたりしてる余裕なんてある訳ないんだもん」
ネジはケラケラと笑う。人を色欲の塊みたいに扱いやがって、本当に失礼な奴だ。
俺は抗議しようと身を乗り出したが、彼女はそれを遮った。
パチンっ! と指を弾いて次の話題を切り出すのだ。
「ねぇ、スパナ」
「な、なんだよ?」
「話は変わるけど、エキシビション・マッチに勝てれば、私の〈ドール〉として働くのも最後になるかもしれないのよね」
「いわれてみれば、そうだな。これで魔女の支配から解放されると思うと精々するぜ」
「減らず口だけは治らないようね」
そりゃ、俺は天下のスパナ様なんだからな。変わるところは変わるが、変わらないところは本当に変わらないぞ。
「だったら最後に私の〈ドール〉として、一つ仕事を任せたいわ。給料は出ないけど、聞いて貰いたいの」
ネジが持ってくる仕事にはロクなものがない。しかも、給料なしとくれば、俺が彼女の頼みを聞く理由なんて微塵もない。
ただ、コイツには貸があるのも事実だ。
「んだよ、その仕事ってのは?」
「ちょっと待ちなさい。……まずは、コレ。衣装魔法(ドレスアップ・マジック)」
彼女がそう唱えれば、俺の着ている安っぽいスーツが、上等なタキシードへと変わった。
そして、彼が着ている魔女の衣装も、真っ赤なドレスへと早変わりする。
「スパナ・ヘッドバーン。今日はめでたい日なんだし、私と一曲踊ってくださらないかしら?」
俺が困惑する間もなく、彼女がその手を差し出した。
まったく、コイツは何を考えているのやら。ただ偶にはこういうのだって悪くないはずだ。
「へいへい、逢瀬のままに。お姫さんよ」
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