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EP08 【弱虫デート】
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シドやケインと揉めた後、別な社員にも声を掛けられた。また喧嘩を売られると思ったが、どうやら、そうでも無いらしい。
ソイツは俺に白いスーツと丸文字で書かれたメモを預かっていた。
「社長からの伝言だ」
メモによると今日の夜、二十一時。中央の噴水広場で待つようにとある。文の最後のハートマークが付いていたのには、寒気が抑えられなかった。
正直最悪の気分さ。なんで、大っ嫌いな女を待たなきゃなんねぇんだよ。今日は、もうこのまま不貞寝してやろうと思ったが、PSと綴られた一文を見て諦めた。
来なかったら、許さない。ネジ・アルナートより。
「ははっ……やってらんねぇ」
ネジの許さないは洒落にならないことなんて、今更言うまでも無いだろう。
◇◇◇
そんなわけで中央の噴水広場。急いで顔を直して待ち合わせ場所まで急いだお陰か、少し余裕を持って到着することが出来た。
ここは落ち着いた雰囲気のある心地よい場所だ。待ち合わせスポットとしても重宝しているらしく、右を見ても、左を見てもカップルが互いのパートナーを待っている。
「お幸せそうで何よりっすね、ぺっ!」
こっちは死刑宣告を待ってる罪人の気分だっつーの。待ってるのは恋人じゃなくて、人の魂を人形に閉じ込めるような闇金の魔女なんだよ。
よし、別なことを考えて気分を変えよう。
そういえば、ここは親父とお袋にとって思い出の場所だとか言ってたな。ちょうど二人が二十歳の頃で、世界を救う旅も後半に差し掛かってた。んで最後の決戦前に
「街並みの美しいこの国で過ごしたい」というお袋の意見を汲んで立ち寄ったんだとか。
そこで親父はお袋をこの噴水前まで呼び出したらしい。「この戦いが終わったら、俺と結婚してくれ!」だなんて死亡フラグみたいな台詞と一緒に指輪を渡されたとお袋は赤裸々に語るのだ。
「……バッカじゃねぇの」
親の馴れ初めなんて、変に気まずいだけだ。
軽く鳥肌が立ってきた。そんなしょうもないこと思い出してどうすんだよ!
「けど、なんつーか……アレだな」
俺のお袋は天然というか……ネジとは違う方向のバカだ。
親父や俺にベタベタに甘いし、世間知らずで、頭への栄養が胸に行ってるダメ魔族。
けど、そんなお袋が俺を追い出した後、親父と本気で大喧嘩したという。親父には親父の教育方針があって、お袋にはお袋の教育方針がある。そこで激しくぶつかってから、二人は未だに上手く口が聞けていないと、噂で聞いた。
国の皆が知ってるオシドリ夫婦が今じゃ、会話のたびに口籠っていて、ぎこちない関係になってしまったらしい。
「けど、それも、俺のせいなんだよな」
俺の行動は全て裏目に出ている。全部、俺の弱さが招いた自業自得だ。
「ごめん……お袋」
思わず本音が口に出てしまった。やっぱりいくら反抗しても、あの人にはいつも通りの笑顔でいて欲しいんだ。
「あら? どうしたの、浮かない顔して」
項垂れる俺に声を掛けたのはネジだ。どうやら時間も来たらしい。
「なぁ、ネジ」
「うん?」
「俺は何やってるんだろうな」
つい弱音が漏れた。よりによって一番、弱音を見せたく奴の前でた。
「大丈夫。スパナがいくら悪ぶろうとも、私には全部お見通しだからさ」
やはりというか、ネジは俺を見透かしていた。多分、俺がどれだけ取り繕うと、彼女は俺の中身を知っている。
「……魔女め」
俺はやはりコイツが大嫌いだ。嫌いな理由なんて幾つもある。暴力的で面倒くさくて、世話焼きで。今だってそうだ。ネジは人の心と同調するのが上手い。
ネジの闇金で働いている奴は、俺みたいなチンピラやクズがほとんどだ。
そんな奴らが大人しく従ってるのも、彼女が人の心に寄り添ってあげる才能を持ってるからだろう。
「俺はやっぱりお前が嫌いだ」
「知ってる」
「善人のお前が目障りだ」
「分かってる」
面と向かって罵倒を連ねても、ネジは平静だった。ニカッと笑い、何事もなかったように俺に手を差し伸べる。
「待たせてからって、怒ってる?」
「……待ってなんかねぇよ」
「えー? 絶対待ってたって。ほら拗ねないの」
「うっぜぇ……拗ねてなんかねぇよ!」
俺はネジの手を取った。
彼女は力を入れて俺を引き上げようとしたのだが、一つ思い出してもらいたいことがある。俺は〈魔導人形(ドール)〉だということだ。
「重い……」
「すまん……」
「もっーなんで、こんなに重いのよ! ここまでカッコ付けてたのが台無しじゃん!」
「いや、お前が俺をこんな身体にしたんだろうが!」
いろんな部品が詰まってる俺の身体は八十キロはある。ネジは俺を引き上げられず、腰をピクピクと振るわせるという、なんとも間抜けな格好になってしまった。
「やっぱお前……バカだな」
「うっさい! アンタみたいなクズに言われたくない!」
「やーい、バーカ! バーカ!」
「クズ! 債務者! ギャンブル廃人!」
よし、切り替えていこう! 俺の最優先は借金を返して身体を取り戻すことだ。
「あっー、らしくねぇことで悩んじまったぜ」
今度は俺がネジに手を伸ばす。
「デートなんだろ? 行こうぜ」
ネジのやつが遅れた理由。それに関してはコイツの格好を見ればすぐにわかる。
慣れないメイクだ。唇には朱色をさして、頬にはチークを塗っている。それに、いつもは流星号で空を飛んでくるくせに、今日はセットした髪が乱れるのを気にしてか、歩いてきたみたいだ。
「私たちのデート先、ドレスコードがあるのよね」
なるほど。だから、互いにこんな気合を入れた格好になってるわけか。なら最初から妙に回りくどく言わずにドレスコードがあると言えば良いものを。
けど、妙だな……この辺りでドレスコードがあって金を稼げる場所なんて、あそこしかないぞ?
ソイツは俺に白いスーツと丸文字で書かれたメモを預かっていた。
「社長からの伝言だ」
メモによると今日の夜、二十一時。中央の噴水広場で待つようにとある。文の最後のハートマークが付いていたのには、寒気が抑えられなかった。
正直最悪の気分さ。なんで、大っ嫌いな女を待たなきゃなんねぇんだよ。今日は、もうこのまま不貞寝してやろうと思ったが、PSと綴られた一文を見て諦めた。
来なかったら、許さない。ネジ・アルナートより。
「ははっ……やってらんねぇ」
ネジの許さないは洒落にならないことなんて、今更言うまでも無いだろう。
◇◇◇
そんなわけで中央の噴水広場。急いで顔を直して待ち合わせ場所まで急いだお陰か、少し余裕を持って到着することが出来た。
ここは落ち着いた雰囲気のある心地よい場所だ。待ち合わせスポットとしても重宝しているらしく、右を見ても、左を見てもカップルが互いのパートナーを待っている。
「お幸せそうで何よりっすね、ぺっ!」
こっちは死刑宣告を待ってる罪人の気分だっつーの。待ってるのは恋人じゃなくて、人の魂を人形に閉じ込めるような闇金の魔女なんだよ。
よし、別なことを考えて気分を変えよう。
そういえば、ここは親父とお袋にとって思い出の場所だとか言ってたな。ちょうど二人が二十歳の頃で、世界を救う旅も後半に差し掛かってた。んで最後の決戦前に
「街並みの美しいこの国で過ごしたい」というお袋の意見を汲んで立ち寄ったんだとか。
そこで親父はお袋をこの噴水前まで呼び出したらしい。「この戦いが終わったら、俺と結婚してくれ!」だなんて死亡フラグみたいな台詞と一緒に指輪を渡されたとお袋は赤裸々に語るのだ。
「……バッカじゃねぇの」
親の馴れ初めなんて、変に気まずいだけだ。
軽く鳥肌が立ってきた。そんなしょうもないこと思い出してどうすんだよ!
「けど、なんつーか……アレだな」
俺のお袋は天然というか……ネジとは違う方向のバカだ。
親父や俺にベタベタに甘いし、世間知らずで、頭への栄養が胸に行ってるダメ魔族。
けど、そんなお袋が俺を追い出した後、親父と本気で大喧嘩したという。親父には親父の教育方針があって、お袋にはお袋の教育方針がある。そこで激しくぶつかってから、二人は未だに上手く口が聞けていないと、噂で聞いた。
国の皆が知ってるオシドリ夫婦が今じゃ、会話のたびに口籠っていて、ぎこちない関係になってしまったらしい。
「けど、それも、俺のせいなんだよな」
俺の行動は全て裏目に出ている。全部、俺の弱さが招いた自業自得だ。
「ごめん……お袋」
思わず本音が口に出てしまった。やっぱりいくら反抗しても、あの人にはいつも通りの笑顔でいて欲しいんだ。
「あら? どうしたの、浮かない顔して」
項垂れる俺に声を掛けたのはネジだ。どうやら時間も来たらしい。
「なぁ、ネジ」
「うん?」
「俺は何やってるんだろうな」
つい弱音が漏れた。よりによって一番、弱音を見せたく奴の前でた。
「大丈夫。スパナがいくら悪ぶろうとも、私には全部お見通しだからさ」
やはりというか、ネジは俺を見透かしていた。多分、俺がどれだけ取り繕うと、彼女は俺の中身を知っている。
「……魔女め」
俺はやはりコイツが大嫌いだ。嫌いな理由なんて幾つもある。暴力的で面倒くさくて、世話焼きで。今だってそうだ。ネジは人の心と同調するのが上手い。
ネジの闇金で働いている奴は、俺みたいなチンピラやクズがほとんどだ。
そんな奴らが大人しく従ってるのも、彼女が人の心に寄り添ってあげる才能を持ってるからだろう。
「俺はやっぱりお前が嫌いだ」
「知ってる」
「善人のお前が目障りだ」
「分かってる」
面と向かって罵倒を連ねても、ネジは平静だった。ニカッと笑い、何事もなかったように俺に手を差し伸べる。
「待たせてからって、怒ってる?」
「……待ってなんかねぇよ」
「えー? 絶対待ってたって。ほら拗ねないの」
「うっぜぇ……拗ねてなんかねぇよ!」
俺はネジの手を取った。
彼女は力を入れて俺を引き上げようとしたのだが、一つ思い出してもらいたいことがある。俺は〈魔導人形(ドール)〉だということだ。
「重い……」
「すまん……」
「もっーなんで、こんなに重いのよ! ここまでカッコ付けてたのが台無しじゃん!」
「いや、お前が俺をこんな身体にしたんだろうが!」
いろんな部品が詰まってる俺の身体は八十キロはある。ネジは俺を引き上げられず、腰をピクピクと振るわせるという、なんとも間抜けな格好になってしまった。
「やっぱお前……バカだな」
「うっさい! アンタみたいなクズに言われたくない!」
「やーい、バーカ! バーカ!」
「クズ! 債務者! ギャンブル廃人!」
よし、切り替えていこう! 俺の最優先は借金を返して身体を取り戻すことだ。
「あっー、らしくねぇことで悩んじまったぜ」
今度は俺がネジに手を伸ばす。
「デートなんだろ? 行こうぜ」
ネジのやつが遅れた理由。それに関してはコイツの格好を見ればすぐにわかる。
慣れないメイクだ。唇には朱色をさして、頬にはチークを塗っている。それに、いつもは流星号で空を飛んでくるくせに、今日はセットした髪が乱れるのを気にしてか、歩いてきたみたいだ。
「私たちのデート先、ドレスコードがあるのよね」
なるほど。だから、互いにこんな気合を入れた格好になってるわけか。なら最初から妙に回りくどく言わずにドレスコードがあると言えば良いものを。
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