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EP05 【理想の仕事と収入と】

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「ほら、楽にして」

 ネジは俺の全身に供給糸(〈コード〉)を繋ぎ始める。

〈コード〉っていうのは、魔導人形に魔力を効率よく流すための糸だ。〈コード〉自体も術者の魔力で作られた透明の細い糸で、引っ掛たり、切れたりすることもないという地味な特性を秘めている。

 ただ、糸が全身に巻きついた俺の姿はさながらマリオネットだ。

「それで、こっちにも結んで……それじゃあ、流すわね」

 ネジも五指に〈コード〉を巻きつけると、俺の身体に魔力を流してくれた。

 魔力を流される感覚は不思議なもので、身体が軽くなっていく感じがする。

「ふぅ……なんか薬をやってるみたいだな! 頭がパァッって感じだ」

「最低の感想ね。私に失礼だとか思わないの?」

 俺はもうコイツに気を遣おうなんて思わない借金を返した後は、二度と顔も見たくないくらいだし。

「というか、私の横、座れば? ずっと立ちっぱなしでしょ?」

「別にいいって。魔導人形の身体は疲れ知らずだし」

「私だけ座ってたら、私だけがサボってるみたいじゃん!」

 やっぱこの闇金魔女、サボりじゃねぇか! 

 まぁ……足のパーツに負担がかかっている事実だったのだが。それに主人様、公認でサボれるのなら、願ったり叶ったりだ。

 充填が終わるまで、ありがたく隣に座らせてもらうとひよう。

「それで、どう? 〈ドール〉に魂を封印されて一週間、身体には慣れた?」

「まぁ……慣れた。今じゃ、元の運動不足だった頃より動けるし。日に日に、身体の使いが上手くなってるって感じてる」

 この身体も最初は戸惑うことばかりだったが、慣れてしまえば、人間の頃より良いことづくめだった。疲れを知らず、人間の何倍もの労働をこなせる。馬力もあれば、細かい作業だって難なく出来る。

 ダンスが上手く踊れるようになったのも好観点だ。なんだかモテそうな気がする。

「ただ、関節を外して油を刺したり、定期的に体内の部品を交換する必要があるのが面倒だな……」

 俺は腹の蓋を開けて、ネジに内部を見せた。

 自分なりにカスタマイズして、無駄な魔力の消費を抑えるようにしてみたんだ。特にここの小腸みたいな長いチューブを、魔導核に繋ぎ直して、エネルギー循環率を……ってネジ? なんか怒ってないか?

「グっ……グロイ!! スパナのバカ! なんで、そんなグロいもの見せんのよ!」

「なっ……グロくねぇぞ! ほら、見ろって! ここなんて、凄いんだから!」

「ヤダッ! それ内臓みたいだもん!」

 ガコン! とまた殴られてしまった。

「というか、アンタの身体を作った造形師がメンテナンスを担当するんだから、自分でやる必要もないでしょ」

「そうなんだけどさ、弄ってたら楽しくなって来ちゃって」

「ふーん。なら、魔導エンジニアの仕事の方が向いてるのかもね。紹介しよっか?」

 こ、この女……人の趣味まで金儲けの道具にしようなんて、なんて業が深いんだ!

「お、俺はお前の金儲けの道具じゃねぇぞ!」

「失礼ね! 人が善意で仕事を紹介してるのに!」

 そこまで、お前の世話になる義理がねぇから、信用できないんだよ。それに魔導エンジニアなんて地味な仕事、やりたくねぇし……。

「アンタ、まだ親父さんに言っても恥ずかしくない仕事に就きたいとか考えない?」

「うっ、うっせぇ! そんなこと考えるわけねぇだろ! つか、あんな奴のことなんて考えるわけもねぇだろ!」

「ふぅん……本当にそうなら良いけど」

 ケッ……わかったような口利くんじゃねぇよ。。

「あと、アンタがいくら嫌がっても私はアンタに仕事を紹介するからね。王宮警備兵なんかもスパナには向いてると思うの」

「やだね。大体、人間の身体に戻れば、働くのも大変だし。ギャンブルで一発当てる方が余程単純明快でわかりやすい!」

「その畜生な性格のせいで、アンタはこんな目に遭ってるでしょ、少しは反省しなさいよ」

 反省? んな言葉、知らねぇな! 

 いや……流石にそんなことは言っていられないか。

「私はただスパナに仕事のやりがいとか、そういうのを知って貰いたいだけなの」

「なら〈コントロール・マジック〉を解除するんだな。強制されて働かされるのに、やりがいもクソもねぇぞ」

「だって、そうしないとアンタすぐ逃げるじゃん」

 チッ……理由をつけて〈コントロール・マジック〉を解除する作戦は失敗みたいだ。

 それにしても、仕事のやりがいときたか。

 俺だってこのままじゃダメなことくらい、言われずともわかっている。けど、もう自信がないんだ。遊びや誘惑を知りすぎた俺が、それを絶って更生するなんて出来るわけがない。

「つか、一つ不満を言っていいか……」

 この仕事では得られる金が少なすぎるのだ!

〈ドール〉は人の形をしていて、会話もできる。首筋の番号と赤い瞳を隠して、関節の見えない厚着をすれば見分けるのも至難の技だろう。けれど、いくら人に近かろうと、所詮、〈ドール〉は道具にすぎない。

 道具には人件費も給料も必要ないのだ。〈ドール〉に対し支払われるのなんて、維持費くらいのものだろう。

「俺は数倍は働いてるってのに、給料のほとんどは所持者のお前が〈ドール〉のレンタル料として貰ってるんだろ?」

「貰った分は、ちゃんと全部、借金返済に充ててるわよ。明細見る?」

「いや、お前がそんなセコいことをしないのは知ってる。けど、やっぱり道具のレンタル料じゃ、人間や魔族の給料に比べて収入が低すぎるって言ってんだよ!」

 人間が俺と同じ仕事量をこなしたなら、十万ペルは貰えるはずだ。それなのに一週間、みっちり働いても一万ペルしか貰えない。

 これじゃあ、二百五十万ペルの借金を返し終えるのがいつになるか、わかったもんじゃねぇ!

「仕方ないでしょ。〈ドール〉はこの現場のスコップとかピッケルと変わらないの。貴方がオーナーなら道具にまで給料を払うの?」

「たしかに〈ドール〉には食事も要らなきゃ眠る宿も必要ない。けど、俺は元人間なんだから、やっぱ娯楽は必要だろ。それなのに、こんな少ない金じゃ……」

「私が会った元人間の〈ドール〉はそういうのを諦めたそうよ。最初の〈ドール〉たちは死刑よりも重い罰を課せられた罪人から作ってるの。戻る為の肉体は処分されて、生涯、永遠に死ぬこともなく、社会に奉仕せよってのが、彼女たちの罰らしいわ」

 なるほどね。だから俺にも娯楽を断てと言いたいのか。

 だが、俺はそこまでの悪人でもなければ、過剰な罰を受け続ける理由もねぇんだよ!

 一週間、いくら働こうが一万ペル。これじゃあ、いつまで経っても借金が返せねぇ! 

「なんか、ねぇのかよ? こうやってチマチマ稼ぐんじゃなくて、一攫千金の手段みたいのがよ!」

「はぁ……一応はあるけど、」

「マジか!」

 ボソッと溢された彼女の言葉に俺は希望を見出したぞ!

「というか、私も最終的にはそっちで稼ぐつもりだったから。幼馴染の魂をいつまでも〈ドール〉の中に閉じ込めていくわけにも行かないしね」

 珍しく、ネジのくせに話が分かるじゃないか。

 へへ、派手に稼いで、それを元にギャンブルで当てれば、人生逆転も夢じゃない!
 ネジは再度、「〈ドール〉の身体には慣れたか?」と尋ねてきた。慣れるも何も絶好調さ。優秀なスパナ様は物事の順応が早いんだよ。

「なら、良さそうね。それじゃあ、スパナ。今晩は時間を空けておきなさい。この私とデートよ!」

「へ……?」

「良い、スパナ? 女の子の誘いを二度言わせないことよ。アンタは今晩、一獲千金のためにこの私と二人っきりでデートするの!」
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