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第五章
悲しい過去③
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「だから…村長さんにお願いがあります」
幸太はそう言うと
「僕達に…村長さんが知る範囲で構いません。1000年前に何があったのかを教えてもらえませんか?」
と続けた。
村長は重い口を開けると
「私も全てを知っているわけではありませんが…よろしいですか?」
そう答えた。
3人がゆっくりと頷くと
「わかりました。おそらく、此処に来た時点でそれぞれの記憶は徐々に戻るかとは思いますが…。」
と呟くと、外に視線を向け
「もう…陽が暮れてまいりました。
詳しいお話は明日、させて頂きます。
最後に、この村で過ごす上で御三方にお守り頂きたい事がございます」
と村長は言うと
「決して、陽が落ちてから外には出ないで下さい」
そう話した。
「それは…?」
疑問の言葉を投げた遥に
「此処は翠の手の中に居るも同然。
本来ならば、冬夜様はすぐにでも翠によって殺されていてもおかしくは無いのです。ただ、今回、あなたはまだ翠と会ってはいない。あれに会ってしまえば、心も身体を支配され、従順に生き血を吸われるだけの身体になってしまいます。
あれの力が増幅するのは、陽が落ちてから…。この屋敷は、翡翠様の力によって守られております。ですから、翠でさえも入る事はできないのです。なので、どうか陽が暮れたら決して外には出ませぬよう…」
村長はそう言って深々と頭を下げると
「私も直ぐに、深い眠りに付く時間になってしまいます。今日はこれで、失礼いたします」
と付け加えて去って行った。
村長を見送り、村長に言われた通りに屋敷中の戸を閉めて入り口に鍵を掛ける。
ホッと一息着いた時
「あれ?広間に食事が用意されていますよ!」
と、幸太が叫んだ。
3人が広間へ行くと、小さな御膳にお味噌汁、山菜と焼き魚にお漬物が置いてあった。
遥がお櫃を開けると、ご飯が入っている。
ふと、遥の脳裏に着物を貸してくれ、着付けてくれた綺麗な女性が浮かぶ。
「これ…一体誰が…」
戸惑う声を出す幸太に
「…多分、この着物を貸してくれた人だ」
遥がそう呟く。
幸太は納得した顔をすると
「そっか。お婆ちゃんだと、さすがに遥先輩が着ているような可愛い着物は着られないですもんね」
と、笑っている。
遥はその時
「お婆さんではなく、綺麗な女性だった」
と、口に出せないでいた。
おそらく、その女性が翡翠なのだろうと感じたのだ。
あの美しい容貌は、男性なら誰もが魅了されてしまうだろう。
(鬼神…ということは、神様か。そりゃ…人間の私が勝てる相手では無い)
心の中で呟き、遥はハッとする。
一瞬、心を渦巻く黒い感情。
遥が出会った女性は、それはもう息を呑む程に美しい女性だった。
(冬夜もきっと…一目で心を奪われてしまうのだろうな)
ぼんやりと考えていると
「遥先輩?大丈夫ですか?」
心配そうに幸太が顔を覗き込んでくる。
「あぁ…すまない。大丈夫だ。ご飯をよそうから、お茶碗を持って行ってくれ」
慌てて遥がお櫃に手を伸ばすと
「遥先輩は疲れているみたいですから、僕がやりますよ。だから、そこに座って下さい」
幸太はそう言うと遥を座らせてご飯をそれぞれに手渡した。
「さぁ、せっかくですから食べましょう!」
明るい声でそう切り出した幸太に、遥と冬夜は微笑み返して食事を始めた。
食事中はこの村の話も全て忘れて、楽しい話題を幸太が降ってくれて笑いながら食事を進めることが出来た。
こんな時、場を明るくしてくれる幸太が居てくれて、本当に良かったと思いながら、遥と冬夜は、この後に待っているであろう出来事への不安を胸の中へと押し込めた。
幸太はそう言うと
「僕達に…村長さんが知る範囲で構いません。1000年前に何があったのかを教えてもらえませんか?」
と続けた。
村長は重い口を開けると
「私も全てを知っているわけではありませんが…よろしいですか?」
そう答えた。
3人がゆっくりと頷くと
「わかりました。おそらく、此処に来た時点でそれぞれの記憶は徐々に戻るかとは思いますが…。」
と呟くと、外に視線を向け
「もう…陽が暮れてまいりました。
詳しいお話は明日、させて頂きます。
最後に、この村で過ごす上で御三方にお守り頂きたい事がございます」
と村長は言うと
「決して、陽が落ちてから外には出ないで下さい」
そう話した。
「それは…?」
疑問の言葉を投げた遥に
「此処は翠の手の中に居るも同然。
本来ならば、冬夜様はすぐにでも翠によって殺されていてもおかしくは無いのです。ただ、今回、あなたはまだ翠と会ってはいない。あれに会ってしまえば、心も身体を支配され、従順に生き血を吸われるだけの身体になってしまいます。
あれの力が増幅するのは、陽が落ちてから…。この屋敷は、翡翠様の力によって守られております。ですから、翠でさえも入る事はできないのです。なので、どうか陽が暮れたら決して外には出ませぬよう…」
村長はそう言って深々と頭を下げると
「私も直ぐに、深い眠りに付く時間になってしまいます。今日はこれで、失礼いたします」
と付け加えて去って行った。
村長を見送り、村長に言われた通りに屋敷中の戸を閉めて入り口に鍵を掛ける。
ホッと一息着いた時
「あれ?広間に食事が用意されていますよ!」
と、幸太が叫んだ。
3人が広間へ行くと、小さな御膳にお味噌汁、山菜と焼き魚にお漬物が置いてあった。
遥がお櫃を開けると、ご飯が入っている。
ふと、遥の脳裏に着物を貸してくれ、着付けてくれた綺麗な女性が浮かぶ。
「これ…一体誰が…」
戸惑う声を出す幸太に
「…多分、この着物を貸してくれた人だ」
遥がそう呟く。
幸太は納得した顔をすると
「そっか。お婆ちゃんだと、さすがに遥先輩が着ているような可愛い着物は着られないですもんね」
と、笑っている。
遥はその時
「お婆さんではなく、綺麗な女性だった」
と、口に出せないでいた。
おそらく、その女性が翡翠なのだろうと感じたのだ。
あの美しい容貌は、男性なら誰もが魅了されてしまうだろう。
(鬼神…ということは、神様か。そりゃ…人間の私が勝てる相手では無い)
心の中で呟き、遥はハッとする。
一瞬、心を渦巻く黒い感情。
遥が出会った女性は、それはもう息を呑む程に美しい女性だった。
(冬夜もきっと…一目で心を奪われてしまうのだろうな)
ぼんやりと考えていると
「遥先輩?大丈夫ですか?」
心配そうに幸太が顔を覗き込んでくる。
「あぁ…すまない。大丈夫だ。ご飯をよそうから、お茶碗を持って行ってくれ」
慌てて遥がお櫃に手を伸ばすと
「遥先輩は疲れているみたいですから、僕がやりますよ。だから、そこに座って下さい」
幸太はそう言うと遥を座らせてご飯をそれぞれに手渡した。
「さぁ、せっかくですから食べましょう!」
明るい声でそう切り出した幸太に、遥と冬夜は微笑み返して食事を始めた。
食事中はこの村の話も全て忘れて、楽しい話題を幸太が降ってくれて笑いながら食事を進めることが出来た。
こんな時、場を明るくしてくれる幸太が居てくれて、本当に良かったと思いながら、遥と冬夜は、この後に待っているであろう出来事への不安を胸の中へと押し込めた。
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