執着の軌跡

トミー

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一章

お泊まり会

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 私たちはそれから毎日、一緒に過ごした。
「なつめは黒川だからクロね。私のことは白川だからシロって呼んで」
 そう言われ私は人生初のあだ名ができた。学校が終わると、すぐ家に帰りお互いの好きな漫画を持ちより、公園で日が暮れるまで読みあかした。
 そこは遊具がブランコと滑り台しかない小さな公園だったので、ひとけが無く漫画を読むのにうってつけだった。
「この漫画すごく面白かったわ。さすがクロね。私の好みよくわかってるじゃない」
 シロは目をキラキラ輝かせながら、ここのシーンが好きだとか、このキャラクターがかっこいいとか熱く語っている。
「でしょ?絶対、シロが好きそうだと思って持ってきたんだ。よかったら貸すよ。」
「ほんと?ありがとう!持つべきものは親友ね」
 シロはそういって嬉しそうにはにかんだ。シロと私が親友になるのに時間はかからなかった。

「ねぇ、クロ今度ミキちゃんとお泊まり会するんだけどクロもこない?」
 学校が終わりランドセルを背負おうとしている私にシロが話しかけてきた。
「ミキちゃんって隣のクラスだよね?シロ、仲良かったの?」
「うん。小説をお互い書きあって、二人で読みあったりしてるの。それで小説が完成したから、二人で演じてみようっていう話になってるのよ。私の小説にはクロをイメージしたキャラがいるからクロがいてくれると助かるんだけど、どうかな」
 シロが小説を書いているなんて初耳だった。しかも、ミキちゃんと一緒に書いていると聞き、胸が痛く締め付けられた。どうして私じゃなくてミキちゃんと書いているんだろう。私とシロ二人だけでお泊まり会じゃあダメなの。胸の中に黒い感情が渦巻くのを感じた。
 でも、この想いは決して、外にだしてはいけないものだと知っている。私は気持ちを押し殺して笑顔をつくり、行くよと返事をした。
 
 お泊まり会はミキちゃんの家で行われる事になって、その日はシロと一緒にミキちゃんの家を訪ねた。
「いらっしゃい。ミキは上の部屋にいるよ。何もないけどゆっくりしていってね」
 チャイムを鳴らして出てきたのは、ミキちゃんのお母さんだった。丸々と太っていて、雪だるまみたいな体型をしている。目は小さく鼻は丸くて、何かのマスコットキャラクターみたいだ。
「おじゃまします。今日はよろしくお願いします。お口にあうかどうか分かりませんが、これもらってください」
 そういってシロは持っていた紙袋をおばさんに渡した。上品な色合いで一目で高級な物だとわかる。対して私の持ってきた物はその辺のスーパーで購入した物だから見るからに安っぽかった。恥ずかしくて渡したくはなかったが、家に持って帰るわけにもいかないので、勇気を振り絞り、お願いしますとだけいって渡した。 
「ありがとう!後でいただくわね」
 おばさんは顔色を変えずに、こころよく受け取ってくれた。

「二人ともいらっしゃい!」
 ミキちゃんは満面の笑顔で出迎えてくれた。さっき見たおばさんの顔に瓜二つだったので、笑いがこみあげてきたが必死に堪えた。
「ミキちゃん、今日は呼んでくれてありがとう。三人で楽しみましょう」
「うん!楽しもうね。君はクロだよね?まいちゃんからよく話は聞いてるよ。なつめちゃんって呼んでいいかな?」
「なつめで大丈夫だよ。私もミキって呼んでいい?今日はよろしくね」
 ミキは嬉しそうに、よろしくって言いながら私の手を握ってきた。太くて温かくて、シロの細くて冷たい指とは違う感触に思わず振り払いたくなったが、ニコニコと愛想笑いをしながら何とか耐えた。
 辺りを見てみると、所狭しと並べられたアニメグッズが目に入った。本棚には沢山のフイギュアや漫画が、机には大量のゲームソフトが積み上げられている。恐らく、シロとは漫画つながりで仲良くなったのだろう。本棚に入っている漫画は巻数がバラバラで、ミキがいかに大ざっぱな性格か物語っている。
「二人とも、家でお風呂入ってきたよね?さっそく小説演じてみようよ!」
 そういってミキは机の上に置いてあったノートを一冊持って戻ってきた。ノートは使い古されており、あれをシロとミキが交換していたんだって思うと、ドキッと心臓の音が一際大きくなった。
「クロにどんな話か説明するね。まず、私とミキが男の子でクロが女の子っていう設定なの。三人とも魔法学校に通っていて、ライバルであり同級生よ。そして、クロは私に恋してる女の子なの。だから、クロには私と恋人になりたいって思いながら演じて欲しいの」
「え?私だけ女の子なの?しかもシロに恋してるって、そんなのどうやって演じればいいの?」
「クロが私を思って演じてくれればいいわ。クロにならできるでしょう?」
 そういってシロはいつもと変わらないキレイな微笑みを浮かべた。

 そこから数時間ひたすら三人で小説を読み、演じ続けた。私は演技経験はなかったので四苦八苦しながら、シロの期待に応えられる様に、可愛い女の子を演じた。ミキは、元気な男の子というキャラクター設定だったので、本来の性格とキャラがあっており、とても自然に演じる事ができていた。
 シロは、言うまでもなく一際輝いていた。元々の端正な顔立ちも相まって、そこには一人の美少年が存在している様にみえる。
「ぼくに話があるって言ってたけど、なにかな?」
 そういってシロはこちらを振り返り、私の目をじっと見つめる。
 切れ長の瞳には長いまつ毛が縁取っており、思わず見惚れてしまう程キレイだった。
「あっ‥‥」
 私はシロに見つめられるでけで、心臓が早鐘を打つのを感じた。何か話さなければいけないと頭では分かってはいるが、それに反発するかの様に口内の水分はみるみるなくなり、手の平は汗でグショグショになっていた。
「クロ、次のセリフは『私は出会ったその日からあなたのことが好きです』よ。忘れちゃった?」
「だっ大丈夫‥‥セリフは覚えてるんだけど、ちょっと時間が欲しい。その、緊張してる‥から‥」
「そうよね。誰でも愛の告白を伝えるのは照れてしまうものだもの。いいわよ私、待つから」
 シロは私の手をソッと握った。手がビショビショなのに、シロは嫌な顔一つせず、いつもの微笑みで私のことを見つめていた。
 私の汗を気持ち悪いと思わず、シロが受け入れてくれた事実に思わず目頭が熱くなった。
 シロに出会う前の私は、誰の目にもとまらない、いてもいなくても変わらない存在だった。それが、シロが傍にいるだけで私の存在理由ができた。シロが私を見てくれている、それだけで私は充分だ。
 
 結局、私はシロに
「すきです」
 この言葉しか伝える事が出来なかった。シロはそんな私の言葉を聞いて
「ありがとう、ぼくもすきだよ」
 そうこたえてくれた。ミキのはしゃぐ声が聞こえていたが、何も答えることが出来ず、ただただ、シロから目が離せなかった。
 

 
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