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第二部
56:名うての武具屋
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王都グランディアへとやってきたシノ達がまず目指したのは西地区。そこにある武具屋を目指す前、移動中の車両の中でリエルはずっと外の景色に見入っており、その度に感嘆の声をあげていた。
セリアは見たまんま子どもだが、こういう時のリエルもやっぱり見た目相応の少女のようにしか見えない。今いる場所が場所なのだから、前にリューンベルを観光した時以上の感動があるに違いないだろう。それこそ、放っておけばずっと観光していそうである。
「こっちの地区は初めて来たけれど、見た感じ冒険者が多いのね」
「名のある武具屋や道具屋を始めとした店舗が軒を連ねているからね。一般の人もこの辺りの地区にはそこまで住んでいないんじゃないかな」
「王都を拠点に戦う人達の生命線にもなっているんですね」
「そうとも言えるかも。ま、その分荒くれ者もそれなりにはいるけどねー」
「ふんっ、喧嘩売ってこようものなら返り討ちにしてやるわよ」
王都で荒事を起こすと物凄く面倒になりそうなのでそこは遠慮願いたい。
港よりも更に多い人の波の間を歩きながら、三人は西地区を進んでいた。シノの言う通り、一般人ではない者達――――――冒険者や兵士の姿を頻繁に見かける気がする。
「えーっと……あった、このお店だよ」
しばらく歩いていると目的の店を見つけたらしく、シノが足を止めた。そこは周囲の店よりも倍は大きな武具屋で、看板にはいかにもな感じの剣と斧が交差した彫刻がなされている。かなり繁盛しているのが外からでもわかり、ひっきりなしに冒険者などが出入りしていた。
店内もかなり広く、品定めをしている客の間を縫うようにして進んでいくと、奥に工房と思わしきスペースを発見。そこで鍛冶作業をしている人物にシノは近づいていった。
身長は低いが、後ろ姿でもわかるほど筋肉質な身体をしており、白髪の角刈りに髭を生やした初老の男性だ。
「――――――こんにちは! お久しぶりです、ザッカスさん!」
彼女の呼びかけに気付いたのか、ザッカスと呼ばれたその男性は鍛冶作業の手を止めてこちらを向いた。強面の表情と黒い瞳に、ハッキリとした驚きの感情が浮かんでいるのがわかる。
「おぉ! 誰かと思えばシノさんじゃあねぇか! 久しぶりだなぁ……二年振りぐらいかい?」
「去年は中々王都に来る用事がなかったですからね。ザッカスさんもお元気そうでよかったです」
「がっはっは、まだまだ俺ぁ現役よ! おーい、ルージュ! 麗しいお客が来なすったぞー!」
ザッカスは豪快に笑うと再会を喜び、奥の方に引っ込んでいた妻――――――ルージュを呼んだ。ドワーフ族の鍛冶職人である彼は、夫婦でこの武具屋を経営しているのである。
一応必要かと思ってベルースで書いてもらった紹介状を手渡してはみたものの、
「ったく、紹介状なんぞなくてもシノさんなら大歓迎だってのによぉー。あのオヤジも心配性だな」
一言で片づけられてしまった。ワリと適当なところもあったりするようだ。紹介状は形式的なもので、そこまで重要ではないのだろう。
しばらくすると、店の奥からもう一人が顔を見せた。こちらは肩の位置で切り揃えられた灰色の髪と、優しい印象のある丸く黒い瞳を持つ女性である。身長こそシノと同じか少し高いぐらいだが、やたらとがたいが良いのが目立った。
――――――その理由は、彼女もドワーフ族だからである。
ドワーフ族で女性というのはかなり珍しく、種族全体で見ても僅か数パーセント程度しかいない希少な存在だ。もちろんこの世界におけるその設定も、シノが考えたまんまではあるが。
「まぁ! 久しぶりだねぇシノさん。また一段と美人になっちゃって! 元気にしてたかい?」
ルージュもシノの姿を見て大層喜んだようで、まるで娘かのように優しく抱きしめてみせた。物言いには女性ながらもどこか豪快さが残るが、これはドワーフ族特有の気質なのだろう。
「ふふふ、私はそうそう姿が変わったりはしませんよ。今日は友人も連れてきましたので」
シノはそう言って、隣にいたリエルとセリアを紹介してみせる。夫妻がそれに対して覗き込むと、迫力に押されたのか二人は思わず一歩後ずさった。
「は、初めまして! シノさんの元でお世話になっている、精霊のリエルといいます!」
「こいつの先輩のセリアよ。シノとは……腐れ縁ってとこかしら?」
それぞれが自己紹介をしてみせるとザッカスとルージュは、二人が精霊であることに驚いたようだ。さすがの王都暮らしでもそうそうお目になんてかかれないからだろう。
もっとも、それを言ってしまえばペリアエルフであるシノは更に珍しい存在ではあるのだけれども。
「なぁんだそうだったのか! 俺ぁてっきり、シノさんの娘さんかと思っちまったよ。がっはっは!」
「そうそう! シノさんなら、いつの間にか結婚してて子持ちになっても不思議ではないものねぇ」
当てがが外れたといわんばかりに夫妻が笑った。どうも、シノの人となりからして子持ちのように見えてしまっていたらしい。
当の彼女は「こちとら百年以上独身だぞ!」と、物凄く言いたそうな表情をしていたが、多分無駄なので黙っておくことにした。
あまり夫妻のペースに呑まれ過ぎても話題が行方不明になってしまいそうだったので、シノは改めて要件を伝える。
「――――――なるほどなぁ。確かにその杖は長い事使ってるだろうし型も結構古いときた」
「これも買った当時は店の人に選んでもらいましたからね……自分に何が合うのかサッパリで」
「シノさん自身も相当珍しい御仁だしなぁ……身の丈にあったブツを持たなきゃいけねぇ。よし、ちょっと待ってな!」
ザッカスは唸りながら話を聞いていたが、何かを思い出したのか店の更に奥へと引っ込んでしまう。そしてしばらくの間ゴソゴソと音が聞こえた後、丁寧に包装がなされた長物を抱えて戻ってきた。
「今のシノさんにだったら、これぐらいのブツを預けてもいいかもしれねぇな」
作業机の上に置かれたそれは、シノの身長ほどの長さがある立派な杖。本体は薄い銀色に塗られており、三日月を象った先端部分に取り付けられた地水火風を象徴する魔法石がそれぞれ輝きを放っていた。その造形はまさに職人の技であり、誰が見てもわかる一級品である。
「凄い……杖自体から既に強い力を感じます」
「さ、さすがドワーフ族。技術の賜物ですね」
「そうだろうそうだろう! ま、石の加工はルージュがやってくれたんだけどな」
「なるほどね……女性ならではの技って感じがするわ」
「ありがとう、セリアちゃん。精霊さんに褒められるなんて、鼻が高いねぇ」
技術が凄いのは十分に分かったのだが、問題はこの杖がどのぐらいの価値なのかという点についてだ。包装の丁寧さからしても、普通の品物じゃないことは間違いない。
話を聞いてみると、元々は王室への贈答品として作ったものらしく、その候補の一つだったらしい。結局は別に作った物の方が出来がよかったため、残念ながらお蔵入りになってしまっていたそうだ。
「埃被らせておくのも勿体なくてなぁ。店の看板にして、客寄せにでも使おうかと考えもしたんだが」
「シノさんさえ良ければ、使ってやってくれないかい? あたしら夫婦の自信作さ」
「私は別に構いませんけど……それって、物凄く高価な品なんじゃあ……?」
やはりシノも値段を気にしてしまっていた。名のある武具職人が王室に向けて作ったのだから当たり前だろう。よっぽどでなければ払えなくはないとは思うのだが、今後に備えてお金は残しておきたい。貯蓄は大事である。
そんな彼女の心配を予想していたのか、ザッカスは再び豪快に笑ってみせると、
「がっはっは! 美人から大金なんて取っちゃあ罰が当たるってもんよ! 普通なら数百万グランは値段をつけたいところだが……特別に十万グランでどうだい?」
まさかまさかの超大幅値引きをしてくれたのだ。普通の武具屋ならば経営が傾くレベルの値下げ幅だろう。正直なところ元の値段でも払えない額ではなかったのだが、ここは大人しく厚意に甘えておくべきだろうか。
「本当にいいんですか……?」
「男に二言はねぇ! 美人は良いブツを手にして、長生きしなきゃ損だからなっ!」
なんだかベルースでも似たようなことを言われた気がするがそれはさておき。シノが差し出した十万グランの金貨袋と引き換えに、ザッカスはあっさりと杖を手渡してくれた。
どうやら本当にその金額で譲ってくれるらしい。これは思いがけない良い買い物になったことだろう。
元々使っていた古い杖は、店の方で引き取ってもらえることになった。シノの手を離れ、今度は別の冒険者の身を守る武器となってくれることを願う。
「まーたアンタはそうやって……色目使ってんじゃあないよっ!」
「痛ぇっ! 相手はシノさんだから、別にいいじゃあねぇかよぉー」
「ありがとう御座います。大切に使わせて頂きますね!」
鼻の下を伸ばしていると思われたのか、ルージュの容赦ないげんこつがザッカスにお見舞いされた。昔から変わらず、主導権は奥さんが握っているようだ。そんな様子を見た三人は可笑しくなって笑う。
ともあれ、これで新しい装備が手に入ったのだし向かうところ敵なし――――――と言いたいところだが、主目的を忘れてはいけない。
王都近辺の魔物は村の近くより格段に厄介なのだし、この杖を活用して今後の探索に活かすべきだ。
「中々様になってるじゃねぇか!」
「絶世の美人に煌びやかな装備! それなら、世の男どもだってイチコロときたもんだね!」
「わ、私にそんなつもりはないですからっ!」
試しに杖を構えてみたところ、それを見たザッカスは感心したように笑ってみせる。冒険者の服装もさることながら、かなりの使い手に見えることだろう。実際そうなのかもしれないが。
他の皆も頷いていることだし、シノの装備更新は大成功ということか。
「――――――――それじゃあ、私達はこれで。しばらく王都にはいますので、また寄らせて頂きますね」
とりあえずこれで最初の目的は済んだので、シノは改めて礼を言うと武具屋を後にする。
これから近辺の探索などで実際使ってみた後にまた調整などを頼む必要があるとは思われるため、近日中にまた戻ってくることにはなりそうだ。
「おう、気ぃ付けてな!」
「またいつでも来なよ! 精霊のお嬢さん達も、シノさんのことよろしく頼んだよ!」
「はい、任せてください! ありがとう御座いましたっ」
「わかってるわよ。じゃあ、またね」
リエルとセリアも夫妻に改めて礼を言うと、シノに続いて店を出ていく。
満足そうな笑顔でそれを見送った二人は、しばらくの後に再び各々の仕事へと戻っていくのであった。
セリアは見たまんま子どもだが、こういう時のリエルもやっぱり見た目相応の少女のようにしか見えない。今いる場所が場所なのだから、前にリューンベルを観光した時以上の感動があるに違いないだろう。それこそ、放っておけばずっと観光していそうである。
「こっちの地区は初めて来たけれど、見た感じ冒険者が多いのね」
「名のある武具屋や道具屋を始めとした店舗が軒を連ねているからね。一般の人もこの辺りの地区にはそこまで住んでいないんじゃないかな」
「王都を拠点に戦う人達の生命線にもなっているんですね」
「そうとも言えるかも。ま、その分荒くれ者もそれなりにはいるけどねー」
「ふんっ、喧嘩売ってこようものなら返り討ちにしてやるわよ」
王都で荒事を起こすと物凄く面倒になりそうなのでそこは遠慮願いたい。
港よりも更に多い人の波の間を歩きながら、三人は西地区を進んでいた。シノの言う通り、一般人ではない者達――――――冒険者や兵士の姿を頻繁に見かける気がする。
「えーっと……あった、このお店だよ」
しばらく歩いていると目的の店を見つけたらしく、シノが足を止めた。そこは周囲の店よりも倍は大きな武具屋で、看板にはいかにもな感じの剣と斧が交差した彫刻がなされている。かなり繁盛しているのが外からでもわかり、ひっきりなしに冒険者などが出入りしていた。
店内もかなり広く、品定めをしている客の間を縫うようにして進んでいくと、奥に工房と思わしきスペースを発見。そこで鍛冶作業をしている人物にシノは近づいていった。
身長は低いが、後ろ姿でもわかるほど筋肉質な身体をしており、白髪の角刈りに髭を生やした初老の男性だ。
「――――――こんにちは! お久しぶりです、ザッカスさん!」
彼女の呼びかけに気付いたのか、ザッカスと呼ばれたその男性は鍛冶作業の手を止めてこちらを向いた。強面の表情と黒い瞳に、ハッキリとした驚きの感情が浮かんでいるのがわかる。
「おぉ! 誰かと思えばシノさんじゃあねぇか! 久しぶりだなぁ……二年振りぐらいかい?」
「去年は中々王都に来る用事がなかったですからね。ザッカスさんもお元気そうでよかったです」
「がっはっは、まだまだ俺ぁ現役よ! おーい、ルージュ! 麗しいお客が来なすったぞー!」
ザッカスは豪快に笑うと再会を喜び、奥の方に引っ込んでいた妻――――――ルージュを呼んだ。ドワーフ族の鍛冶職人である彼は、夫婦でこの武具屋を経営しているのである。
一応必要かと思ってベルースで書いてもらった紹介状を手渡してはみたものの、
「ったく、紹介状なんぞなくてもシノさんなら大歓迎だってのによぉー。あのオヤジも心配性だな」
一言で片づけられてしまった。ワリと適当なところもあったりするようだ。紹介状は形式的なもので、そこまで重要ではないのだろう。
しばらくすると、店の奥からもう一人が顔を見せた。こちらは肩の位置で切り揃えられた灰色の髪と、優しい印象のある丸く黒い瞳を持つ女性である。身長こそシノと同じか少し高いぐらいだが、やたらとがたいが良いのが目立った。
――――――その理由は、彼女もドワーフ族だからである。
ドワーフ族で女性というのはかなり珍しく、種族全体で見ても僅か数パーセント程度しかいない希少な存在だ。もちろんこの世界におけるその設定も、シノが考えたまんまではあるが。
「まぁ! 久しぶりだねぇシノさん。また一段と美人になっちゃって! 元気にしてたかい?」
ルージュもシノの姿を見て大層喜んだようで、まるで娘かのように優しく抱きしめてみせた。物言いには女性ながらもどこか豪快さが残るが、これはドワーフ族特有の気質なのだろう。
「ふふふ、私はそうそう姿が変わったりはしませんよ。今日は友人も連れてきましたので」
シノはそう言って、隣にいたリエルとセリアを紹介してみせる。夫妻がそれに対して覗き込むと、迫力に押されたのか二人は思わず一歩後ずさった。
「は、初めまして! シノさんの元でお世話になっている、精霊のリエルといいます!」
「こいつの先輩のセリアよ。シノとは……腐れ縁ってとこかしら?」
それぞれが自己紹介をしてみせるとザッカスとルージュは、二人が精霊であることに驚いたようだ。さすがの王都暮らしでもそうそうお目になんてかかれないからだろう。
もっとも、それを言ってしまえばペリアエルフであるシノは更に珍しい存在ではあるのだけれども。
「なぁんだそうだったのか! 俺ぁてっきり、シノさんの娘さんかと思っちまったよ。がっはっは!」
「そうそう! シノさんなら、いつの間にか結婚してて子持ちになっても不思議ではないものねぇ」
当てがが外れたといわんばかりに夫妻が笑った。どうも、シノの人となりからして子持ちのように見えてしまっていたらしい。
当の彼女は「こちとら百年以上独身だぞ!」と、物凄く言いたそうな表情をしていたが、多分無駄なので黙っておくことにした。
あまり夫妻のペースに呑まれ過ぎても話題が行方不明になってしまいそうだったので、シノは改めて要件を伝える。
「――――――なるほどなぁ。確かにその杖は長い事使ってるだろうし型も結構古いときた」
「これも買った当時は店の人に選んでもらいましたからね……自分に何が合うのかサッパリで」
「シノさん自身も相当珍しい御仁だしなぁ……身の丈にあったブツを持たなきゃいけねぇ。よし、ちょっと待ってな!」
ザッカスは唸りながら話を聞いていたが、何かを思い出したのか店の更に奥へと引っ込んでしまう。そしてしばらくの間ゴソゴソと音が聞こえた後、丁寧に包装がなされた長物を抱えて戻ってきた。
「今のシノさんにだったら、これぐらいのブツを預けてもいいかもしれねぇな」
作業机の上に置かれたそれは、シノの身長ほどの長さがある立派な杖。本体は薄い銀色に塗られており、三日月を象った先端部分に取り付けられた地水火風を象徴する魔法石がそれぞれ輝きを放っていた。その造形はまさに職人の技であり、誰が見てもわかる一級品である。
「凄い……杖自体から既に強い力を感じます」
「さ、さすがドワーフ族。技術の賜物ですね」
「そうだろうそうだろう! ま、石の加工はルージュがやってくれたんだけどな」
「なるほどね……女性ならではの技って感じがするわ」
「ありがとう、セリアちゃん。精霊さんに褒められるなんて、鼻が高いねぇ」
技術が凄いのは十分に分かったのだが、問題はこの杖がどのぐらいの価値なのかという点についてだ。包装の丁寧さからしても、普通の品物じゃないことは間違いない。
話を聞いてみると、元々は王室への贈答品として作ったものらしく、その候補の一つだったらしい。結局は別に作った物の方が出来がよかったため、残念ながらお蔵入りになってしまっていたそうだ。
「埃被らせておくのも勿体なくてなぁ。店の看板にして、客寄せにでも使おうかと考えもしたんだが」
「シノさんさえ良ければ、使ってやってくれないかい? あたしら夫婦の自信作さ」
「私は別に構いませんけど……それって、物凄く高価な品なんじゃあ……?」
やはりシノも値段を気にしてしまっていた。名のある武具職人が王室に向けて作ったのだから当たり前だろう。よっぽどでなければ払えなくはないとは思うのだが、今後に備えてお金は残しておきたい。貯蓄は大事である。
そんな彼女の心配を予想していたのか、ザッカスは再び豪快に笑ってみせると、
「がっはっは! 美人から大金なんて取っちゃあ罰が当たるってもんよ! 普通なら数百万グランは値段をつけたいところだが……特別に十万グランでどうだい?」
まさかまさかの超大幅値引きをしてくれたのだ。普通の武具屋ならば経営が傾くレベルの値下げ幅だろう。正直なところ元の値段でも払えない額ではなかったのだが、ここは大人しく厚意に甘えておくべきだろうか。
「本当にいいんですか……?」
「男に二言はねぇ! 美人は良いブツを手にして、長生きしなきゃ損だからなっ!」
なんだかベルースでも似たようなことを言われた気がするがそれはさておき。シノが差し出した十万グランの金貨袋と引き換えに、ザッカスはあっさりと杖を手渡してくれた。
どうやら本当にその金額で譲ってくれるらしい。これは思いがけない良い買い物になったことだろう。
元々使っていた古い杖は、店の方で引き取ってもらえることになった。シノの手を離れ、今度は別の冒険者の身を守る武器となってくれることを願う。
「まーたアンタはそうやって……色目使ってんじゃあないよっ!」
「痛ぇっ! 相手はシノさんだから、別にいいじゃあねぇかよぉー」
「ありがとう御座います。大切に使わせて頂きますね!」
鼻の下を伸ばしていると思われたのか、ルージュの容赦ないげんこつがザッカスにお見舞いされた。昔から変わらず、主導権は奥さんが握っているようだ。そんな様子を見た三人は可笑しくなって笑う。
ともあれ、これで新しい装備が手に入ったのだし向かうところ敵なし――――――と言いたいところだが、主目的を忘れてはいけない。
王都近辺の魔物は村の近くより格段に厄介なのだし、この杖を活用して今後の探索に活かすべきだ。
「中々様になってるじゃねぇか!」
「絶世の美人に煌びやかな装備! それなら、世の男どもだってイチコロときたもんだね!」
「わ、私にそんなつもりはないですからっ!」
試しに杖を構えてみたところ、それを見たザッカスは感心したように笑ってみせる。冒険者の服装もさることながら、かなりの使い手に見えることだろう。実際そうなのかもしれないが。
他の皆も頷いていることだし、シノの装備更新は大成功ということか。
「――――――――それじゃあ、私達はこれで。しばらく王都にはいますので、また寄らせて頂きますね」
とりあえずこれで最初の目的は済んだので、シノは改めて礼を言うと武具屋を後にする。
これから近辺の探索などで実際使ってみた後にまた調整などを頼む必要があるとは思われるため、近日中にまた戻ってくることにはなりそうだ。
「おう、気ぃ付けてな!」
「またいつでも来なよ! 精霊のお嬢さん達も、シノさんのことよろしく頼んだよ!」
「はい、任せてください! ありがとう御座いましたっ」
「わかってるわよ。じゃあ、またね」
リエルとセリアも夫妻に改めて礼を言うと、シノに続いて店を出ていく。
満足そうな笑顔でそれを見送った二人は、しばらくの後に再び各々の仕事へと戻っていくのであった。
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