10 / 24
彼の奥様 ①
しおりを挟むその日の朝の目覚めは、非常に心臓に悪いものだった。
ふと眩しさに目が覚めたエリィは、いつもよりベッドが柔らかいことに違和感を覚える。だが、心地よい羽毛に包まれて「そんなことどうでもいいか」と、薄く開けた瞳を再び閉じ、微睡みに体を委ね用としていた。
だがそこに、コンコンッと部屋の扉がノックされ驚いてベッドから跳ね起きた。エリィの意識は徐々に覚醒していく。
「あれ……ここ…………どこ?」
心臓がばくばくと音を立て、周囲を確認する。
自分の住んでいた古い森の外れの木の家とは程遠い、全てのものが高級品だと一目でわかった。宝石の類が埋め込まれたドレッサーに、年代物のサイドテーブル。なんとも言い難い不思議な壁はいかにも貴族が好みそうなもので、極め付けに天井には小さいながらもシャンデリアが吊るされているのだ。
同様の隠せないエリィは、部屋の扉が叩かれたことなど記憶から抜けてしまったようで、使用人らしき女人が入ってきたときは内心悲鳴を上げた。
「あの……お嬢様?」
使用人の女がエリィを心配そうな顔で見つめてくる。歳は同年代くらいであろうか。茶色い髪を三つ編みにした、そばかすのある愛らしい女の子だった。
エリィは恐る恐る自分の中の疑問を口にした。
「えっと……ここはどこかしら?」
使用人の彼女は不思議そうな表情で答える。
「……? レヴィアン子爵邸にごさいます」
――レヴィアン子爵邸……?
頭の中で反芻する。すると、昨日の記憶が鮮明に蘇ってきた。
昨日の痴態。鋭い快楽に溺れてしまった自分と、それを見つめるフランツ。あれは非現実ではく、現実で起こったことなのだ。唐突に、冷や汗が吹き出し口がカラカラに乾く。勢いはあったとは言え、なんてことだ。
動揺を悟ったのか、使用人の女はコップに水を注ぎ、青ざめたエリィに渡す。それを一気に飲み干し大きく息を吐くと、ようやく心がけ落ち着いてきたように感じた。
「あの……大丈夫でございますか」
「えぇ、少し落ち着いたわ。ありがとう」
エリィはお礼を言い、そのあと自身の体を確認する。
――大丈夫だ。服は着ている。
昨日は上半身裸のまま、寝落ちてしまったのだ。その場にいたフランツがそれを元に戻してくれるとは考えにくい。
だが、現実は服をきちんと着ているどころか、豪奢な部屋のベッドで寝ていたのだ。客室だろうか。
「そう言えば、あなたはここの使用人?」
疑問に思ったことを口にすると、相手は柔らかな口調で質問に答えてくれた。
「私、レヴィアン子爵家で使用人をさせて頂いておりますイリーナと申します。本日より、お嬢様のお世話を担当させていただくこととなりました。えっとえっと、その……よろしくお願いしますっ!!」
……彼女はとても元気な人らしい。勢いに圧倒されつつも、可愛らしさに思わず頰を緩めた。だが、なにか聞き逃せない言葉が聞こえたような気がし、眉を寄せる。
本日よりとは一体どういうことだろうか。
「えっと、そのこちらこそよろしくね」
戸惑いながらもエリィは言葉を返すと、イリーナはホッとしたように肩を下ろした。
その様子を目で確認したあと、先ほど持った疑問をぶつけようと口を開こうとした。しかし、目の前の彼女は何かを思い出した様子で、焦りだした。
「そうでしたっ! 要件を忘れておりました、申し訳ございません。フランツ様がお呼びになっております」
その名前を聞いた瞬間、エリィは息を飲み込んだ。
そうである。ここでイリーナにすべて尋ねても、答えられることなどほとんどないだろう。直接あって、話を聞けば済む話だ。
納得を覚え、よろよろと身の支度を始めた。……いつもよりも体がすっきりとしているのに、恥辱を感じたのはいうまでもない。
0
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
仮面舞踏会を騒がせる謎の令嬢の正体は、伯爵家に勤める地味でさえない家庭教師です
深見アキ
恋愛
仮面舞踏会の難攻不落の華と言われているレディ・バイオレット。
その謎めいた令嬢の正体は、中流階級の娘・リコリスで、普段は伯爵家で家庭教師として働いている。
生徒であるお嬢様二人の兄・オーランドは、何故かリコリスに冷たくあたっているのだが、そんな彼が本気で恋をした相手は――レディ・バイオレット!?
リコリスはオーランドを騙したまま逃げ切れるのか?
オーランドはバイオレットの正体に気付くのか?
……という、じれったい二人の恋愛ものです。
(以前投稿した『レディ・バイオレットの華麗なる二重生活』を改題・改稿したものになります。序盤の展開同じですが中盤~ラストにかけて展開を変えています)
※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。
※表紙はフリー素材お借りしてます。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる