77 / 77
第二部(スピンオフ)【レオンくんのしっぽ】
31.忘れてほしい②
しおりを挟む
流れでまたレオンを部屋に上げてしまった。
まあ、それはいいとして。
レオンはこの部屋に来てからソファに座ったまま黙り込んで真剣な顔をしている。さっきの男が原因だろうか。
「あの人誰なの?」
俺はお湯を沸かしてまた紅茶を入れた。レオンのために冷たい牛乳を足してぬるめにしてやり、それをソファの前のローテーブルに置くと、自分もレオンの隣に腰を下ろした。
「親戚、みたいな感じ」
身内か。それにしては、レオンの様子は少しおかしい気もするが。
「仲悪いの?」
何か家庭の事情があるのかもしれないと、俺は少し遠慮がちに質問した。
レオンは首を振った。
「慎さん、今度あの人が来たらすぐ俺に教えて?」
「えっ、う、うん……わかった」
真剣な顔で俺の肩を掴んだレオンに、少々驚きながらも俺は頷く。
詳しく聞いても教えるつもりはないようだった。レオンはずいぶん思い詰めた顔をしている。
「レオンくん」
俺が名前を呼ぶと、伏せていた琥珀の瞳がゆっくりとこちらを向いた。
「ご飯もう食べた?」
「……まだ」
無意識に手の甲で彼の頬に触れると冷たかった。またマンションの外で待っていたんだろうか。それとも、単に冬の道を歩いたからか。
「チルドの餃子があるんだ。お取り寄せした有名店のやつだよ。食べる?」
「……たべる」
こくりとレオンが頷いた。
その仕草が可愛くて、俺の胸はまた傷んだ。なんでか危うく濡れそうだった目元を瞬きで誤魔化して、俺はソファから立ち上がった。
「ご飯炊こうか、味噌汁はインスタントでもいいかな?」
「うん」
「餃子ちゃんと羽付けてあげるよ。俺結構得意なんだよ?」
「慎さん」
「うん?」
レオンは唐突に俺の手首を掴んで引いた。
倒れ込んだ俺の体はレオンの腕に抱き止められる。すっぽりとレオンの胸元におさまって、信じられないくらいに居心地がよくて、俺は動くことを忘れてしまった。
「慎さん、大好き」
「……うん」
「大好きだよ」
「……うん、わかったよ」
強く抱きしめるその背中に俺はゆっくり手を回した。
肩口にぐりぐりと目元を押し付けるレオンは泣いているのを誤魔化しているみたいだ。
もうダメだ。
どうしたって俺はレオンを愛しいと思ってしまう。だけど言葉にしたら、きっと、もう戻れなくなる。
「レオンくん」
「……はい」
まるで怒られるのを覚悟したみたいなレオンの返事に、俺はうっかり息を漏らして笑ってしまった。
回した手でゆっくりと背中を撫でてやる。
「ごめん、レオンくん」
肩でレオンが息を飲んだ。
「俺、今から酷いお願いするけど、きいてくれる?」
「……なに」
ぐすんと鼻を啜る音がした。
俺はレオンの肩を優しく押して、体を離す。ソファで向かい合ったまま、目を真っ赤にしたレオンの頬を両手で包んだ。
「本当に、大人気なくて自分勝手なお願いだけど、聞いてくれる?」
「……なぁに」
レオンが左手で頬に乗せた俺の手を握った。右手は俺の目元を指で拭っている。
「俺が今からすること、朝になったら忘れて欲しい」
本当に、酷いやつだ。俺は。
自分のことばかり考えて、怖がって、踏み込む勇気もないくせに、感情ばかりが先走って抑えられない。
泣く資格すら無くて、でも勝手に涙が溢れてくる。
レオンが唇を噛んで黙ったまま頷いた。
それを確かめた俺は、レオンとの距離を詰めて、レオンの口元に自分の唇を重ねた。
まあ、それはいいとして。
レオンはこの部屋に来てからソファに座ったまま黙り込んで真剣な顔をしている。さっきの男が原因だろうか。
「あの人誰なの?」
俺はお湯を沸かしてまた紅茶を入れた。レオンのために冷たい牛乳を足してぬるめにしてやり、それをソファの前のローテーブルに置くと、自分もレオンの隣に腰を下ろした。
「親戚、みたいな感じ」
身内か。それにしては、レオンの様子は少しおかしい気もするが。
「仲悪いの?」
何か家庭の事情があるのかもしれないと、俺は少し遠慮がちに質問した。
レオンは首を振った。
「慎さん、今度あの人が来たらすぐ俺に教えて?」
「えっ、う、うん……わかった」
真剣な顔で俺の肩を掴んだレオンに、少々驚きながらも俺は頷く。
詳しく聞いても教えるつもりはないようだった。レオンはずいぶん思い詰めた顔をしている。
「レオンくん」
俺が名前を呼ぶと、伏せていた琥珀の瞳がゆっくりとこちらを向いた。
「ご飯もう食べた?」
「……まだ」
無意識に手の甲で彼の頬に触れると冷たかった。またマンションの外で待っていたんだろうか。それとも、単に冬の道を歩いたからか。
「チルドの餃子があるんだ。お取り寄せした有名店のやつだよ。食べる?」
「……たべる」
こくりとレオンが頷いた。
その仕草が可愛くて、俺の胸はまた傷んだ。なんでか危うく濡れそうだった目元を瞬きで誤魔化して、俺はソファから立ち上がった。
「ご飯炊こうか、味噌汁はインスタントでもいいかな?」
「うん」
「餃子ちゃんと羽付けてあげるよ。俺結構得意なんだよ?」
「慎さん」
「うん?」
レオンは唐突に俺の手首を掴んで引いた。
倒れ込んだ俺の体はレオンの腕に抱き止められる。すっぽりとレオンの胸元におさまって、信じられないくらいに居心地がよくて、俺は動くことを忘れてしまった。
「慎さん、大好き」
「……うん」
「大好きだよ」
「……うん、わかったよ」
強く抱きしめるその背中に俺はゆっくり手を回した。
肩口にぐりぐりと目元を押し付けるレオンは泣いているのを誤魔化しているみたいだ。
もうダメだ。
どうしたって俺はレオンを愛しいと思ってしまう。だけど言葉にしたら、きっと、もう戻れなくなる。
「レオンくん」
「……はい」
まるで怒られるのを覚悟したみたいなレオンの返事に、俺はうっかり息を漏らして笑ってしまった。
回した手でゆっくりと背中を撫でてやる。
「ごめん、レオンくん」
肩でレオンが息を飲んだ。
「俺、今から酷いお願いするけど、きいてくれる?」
「……なに」
ぐすんと鼻を啜る音がした。
俺はレオンの肩を優しく押して、体を離す。ソファで向かい合ったまま、目を真っ赤にしたレオンの頬を両手で包んだ。
「本当に、大人気なくて自分勝手なお願いだけど、聞いてくれる?」
「……なぁに」
レオンが左手で頬に乗せた俺の手を握った。右手は俺の目元を指で拭っている。
「俺が今からすること、朝になったら忘れて欲しい」
本当に、酷いやつだ。俺は。
自分のことばかり考えて、怖がって、踏み込む勇気もないくせに、感情ばかりが先走って抑えられない。
泣く資格すら無くて、でも勝手に涙が溢れてくる。
レオンが唇を噛んで黙ったまま頷いた。
それを確かめた俺は、レオンとの距離を詰めて、レオンの口元に自分の唇を重ねた。
0
お気に入りに追加
16
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる