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第二部(スピンオフ)【レオンくんのしっぽ】
20.彼女の背後②
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◇
結婚式の時は絶対なかった。
この二年ちょっとの間に生えて、しかも結構色が濃かった。
今までの経験上、生えてから寿命までは十年程度だと思っていたが、彼女のあの色はそれにしては中期の色に見えた。
ーーあの若さで? なんでだ。
癌かなにかか? 検査するように勧める? 何て言って? 寿命が見えるから検査しろ? そもそも、あのしっぽってそんなことで覆せるのか?
突然目の前が明るくなって、俺は顔を上げた。無意識に撫でていた手は血の気が引いてとても冷たい。
「電気もつけないでどしたの? まだ帰ってないのかと思った」
レオンが上着をぬいでダイニングの椅子に掛けながら言った。
はっとして時計を見るとすでに夜の九時だ。講習会から帰ってきて、かなり長い時間俺はソファに座り込んでいたらしい。
「レオン、おかえり。ごめん、ご飯まだ……」
「たいじょぶ、慎さんまだ仕事なんだと思ってたから、買ってきたよ。一緒にたべよ?」
そう言ってレオンはダイニングに乗せたエコバッグをトントン叩いた。
「ありがとう……」
テーブルに置いていたスマホに目をやると、何通かのメッセージの着信を知らせていた。手に取り開けるとレオンからで、俺はそれにも気がついていなかったらしい。
「慎さん?」
俺の様子がおかしいことに気がついたらしく、レオンはソファの隣に腰を下ろすと顔をのぞきこんできた。
俺はレオンに大丈夫だと伝えたかったが、上手く笑顔が作れない。
体を寄せるレオンの背後にちらつくしっぽが、俺の心を締め上げている。
色は変わっていないと思ったけど、少し濃くなっているような気もする。
もしかして、ずっと見てるから変化に気が付きにくいだけで、じわじわと進んでいるのかもしれない。
「しーんさん? 仕事大変だった?」
言葉を失っていた俺の眼前でレオンがヒラヒラと手のひらを振った。俺はその体を抱き寄せた。
しっぽが見えないように、肩に目元を押し付ける。レオンの頬が耳に擦れて、堪らなくなった。
「どしたの? エッチしたいの?」
レオンが俺の背中を撫でる。俺は顔を上げないまま、無言で首を振った。
「何買ってきたの?」
切り替えるように息を吐いてから、俺は頭を上げてレオンの顔と向かい合った。
綺麗な琥珀の瞳と白い肌が愛おしくて、思わずその頬を手のひらで撫でる。
ーーあれ、なんか……
「回鍋肉と餃子だよ。餃子は自分で焼くやつね、慎さん、羽つくってー」
「レオン」
「ご飯は炊かなきゃだね」
「レオンって」
立ちあがろうとしたレオンの手を掴んで引き止める。
「うん?」
「体、あっつくない? 熱あると思うよ?」
「え? そ?」
俺はレオンの額に手のひらを当てた。
やっぱり熱い。
結婚式の時は絶対なかった。
この二年ちょっとの間に生えて、しかも結構色が濃かった。
今までの経験上、生えてから寿命までは十年程度だと思っていたが、彼女のあの色はそれにしては中期の色に見えた。
ーーあの若さで? なんでだ。
癌かなにかか? 検査するように勧める? 何て言って? 寿命が見えるから検査しろ? そもそも、あのしっぽってそんなことで覆せるのか?
突然目の前が明るくなって、俺は顔を上げた。無意識に撫でていた手は血の気が引いてとても冷たい。
「電気もつけないでどしたの? まだ帰ってないのかと思った」
レオンが上着をぬいでダイニングの椅子に掛けながら言った。
はっとして時計を見るとすでに夜の九時だ。講習会から帰ってきて、かなり長い時間俺はソファに座り込んでいたらしい。
「レオン、おかえり。ごめん、ご飯まだ……」
「たいじょぶ、慎さんまだ仕事なんだと思ってたから、買ってきたよ。一緒にたべよ?」
そう言ってレオンはダイニングに乗せたエコバッグをトントン叩いた。
「ありがとう……」
テーブルに置いていたスマホに目をやると、何通かのメッセージの着信を知らせていた。手に取り開けるとレオンからで、俺はそれにも気がついていなかったらしい。
「慎さん?」
俺の様子がおかしいことに気がついたらしく、レオンはソファの隣に腰を下ろすと顔をのぞきこんできた。
俺はレオンに大丈夫だと伝えたかったが、上手く笑顔が作れない。
体を寄せるレオンの背後にちらつくしっぽが、俺の心を締め上げている。
色は変わっていないと思ったけど、少し濃くなっているような気もする。
もしかして、ずっと見てるから変化に気が付きにくいだけで、じわじわと進んでいるのかもしれない。
「しーんさん? 仕事大変だった?」
言葉を失っていた俺の眼前でレオンがヒラヒラと手のひらを振った。俺はその体を抱き寄せた。
しっぽが見えないように、肩に目元を押し付ける。レオンの頬が耳に擦れて、堪らなくなった。
「どしたの? エッチしたいの?」
レオンが俺の背中を撫でる。俺は顔を上げないまま、無言で首を振った。
「何買ってきたの?」
切り替えるように息を吐いてから、俺は頭を上げてレオンの顔と向かい合った。
綺麗な琥珀の瞳と白い肌が愛おしくて、思わずその頬を手のひらで撫でる。
ーーあれ、なんか……
「回鍋肉と餃子だよ。餃子は自分で焼くやつね、慎さん、羽つくってー」
「レオン」
「ご飯は炊かなきゃだね」
「レオンって」
立ちあがろうとしたレオンの手を掴んで引き止める。
「うん?」
「体、あっつくない? 熱あると思うよ?」
「え? そ?」
俺はレオンの額に手のひらを当てた。
やっぱり熱い。
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