上 下
66 / 76
第二部(スピンオフ)【レオンくんのしっぽ】

20.彼女の背後②

しおりを挟む
 ◇





 結婚式の時は絶対なかった。
 この二年ちょっとの間に生えて、しかも結構色が濃かった。
 今までの経験上、生えてから寿命までは十年程度だと思っていたが、彼女のあの色はそれにしては中期の色に見えた。

 ーーあの若さで? なんでだ。
 癌かなにかか? 検査するように勧める? 何て言って? 寿命が見えるから検査しろ? そもそも、あのしっぽってそんなことで覆せるのか?

 突然目の前が明るくなって、俺は顔を上げた。無意識に撫でていた手は血の気が引いてとても冷たい。

「電気もつけないでどしたの? まだ帰ってないのかと思った」

 レオンが上着をぬいでダイニングの椅子に掛けながら言った。
 はっとして時計を見るとすでに夜の九時だ。講習会から帰ってきて、かなり長い時間俺はソファに座り込んでいたらしい。

「レオン、おかえり。ごめん、ご飯まだ……」
「たいじょぶ、慎さんまだ仕事なんだと思ってたから、買ってきたよ。一緒にたべよ?」

 そう言ってレオンはダイニングに乗せたエコバッグをトントン叩いた。

「ありがとう……」

 テーブルに置いていたスマホに目をやると、何通かのメッセージの着信を知らせていた。手に取り開けるとレオンからで、俺はそれにも気がついていなかったらしい。

「慎さん?」

 俺の様子がおかしいことに気がついたらしく、レオンはソファの隣に腰を下ろすと顔をのぞきこんできた。
 俺はレオンに大丈夫だと伝えたかったが、上手く笑顔が作れない。
 体を寄せるレオンの背後にちらつくしっぽが、俺の心を締め上げている。
 色は変わっていないと思ったけど、少し濃くなっているような気もする。
 もしかして、ずっと見てるから変化に気が付きにくいだけで、じわじわと進んでいるのかもしれない。

「しーんさん? 仕事大変だった?」

 言葉を失っていた俺の眼前でレオンがヒラヒラと手のひらを振った。俺はその体を抱き寄せた。
 しっぽが見えないように、肩に目元を押し付ける。レオンの頬が耳に擦れて、堪らなくなった。

「どしたの? エッチしたいの?」

 レオンが俺の背中を撫でる。俺は顔を上げないまま、無言で首を振った。

「何買ってきたの?」

 切り替えるように息を吐いてから、俺は頭を上げてレオンの顔と向かい合った。
 綺麗な琥珀の瞳と白い肌が愛おしくて、思わずその頬を手のひらで撫でる。

 ーーあれ、なんか……

「回鍋肉と餃子だよ。餃子は自分で焼くやつね、慎さん、羽つくってー」
「レオン」
「ご飯は炊かなきゃだね」
「レオンって」

 立ちあがろうとしたレオンの手を掴んで引き止める。

「うん?」
「体、あっつくない? 熱あると思うよ?」
「え? そ?」

 俺はレオンの額に手のひらを当てた。
 やっぱり熱い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...