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第二部(スピンオフ)【レオンくんのしっぽ】
2.もう一度、はじめまして②
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俺が、「やめておきなよ」と言う隙もなく、マコはとことこ反対側の席に回ると突っ伏した男の隣にちょこんと座り、不躾にも肩をつんつん指でつついている。
「お兄さーん、おーい」
マコの呼びかけに、派手な髪がもそもそ動くが、男が起きる気配はない。
俺は食べ終えたピラフの皿をカウンターの上におき、「ごちそうさま」とハトちゃんに告げるとおしぼりで口元を拭った。
マコが突っ伏した男に気を取られている間に次の店に移動するかと頭をよぎる。
――と、その前にちょっとトイレへ。
俺は立ち上がり店の奥のトイレに向かった。
丁度マコの後ろを通った先の通路の隅にある。
用を済ませてトイレから出ると、マコがまだ突っ伏した男の肩を揺らしていた。
少し進展があったのは男がむくりと体を起こしたことだが、それでも顔は伏せていて髪の毛が表情を隠している。
"ものすんごいイケメン"なのかどうかをどうしても確かめたいらしいマコは、カウンターに頭を乗せるほど体を伏せて、男の顔を覗き込んだ。
「わ! ほんとだ、すっごいイケメン!」
マコが色めきだった声を上げた。
「ね、慎さんみてみて! この人ハーフかな?」
マコは手をひらひらと降って、トイレから戻ろうとしていた俺を呼んだ。
そんなに言われたら流石に気になる。俺は呼ばれるまま彼らの席へと近寄った。
「……慎……さん?」
「しゃべった!」
突然名前を呼んだのは、酔って顔を伏せていた男だった。マコが被せるように声を上げたせいでよく聞き取れなかったが、確かに男は俺の名前を呼んだ。
そして直後、男に突然腕を掴まれ、俺の心臓が跳ね上がった。
男の手のひらは大きく、長い指はスーツ越しでも伝わるほどの熱をはらんでいた。でも、俺の心臓を揺らしたのはそれが理由じゃない。
驚いた。
こんな瞳の色を、俺は見たことがない。
琥珀色の虹彩がまっすぐ俺に照準を合わせるように煌めいた。睫毛の色が薄く、マコが言う通り、日本人ではなさそうだ。もしかしたら銅食器のような魅惑的な色の髪は地毛なのかもしれない。アーモンド型の目元は女神のように美しく、しかし、二つの瞳の間を通る鼻筋からはしっかりと雄々しい印象を受けた。
確かにすんごいイケメン。
――そして、俺のドストライク。
長い時間見つめあっているように錯覚したが、周りにとっては一瞬の出来事だったらしい。
「え、慎さん知り合い?」
とマコに問われて俺は我に帰った。
「い、いや。初めまして……だよ……ね?」
こんな子見たら絶対忘れない。
だから俺はほとんどわかりきっていたが、一応確かめるように男にそう尋ねた。
男は少し長めの間を開けた後、コクリとどこか寂しげに頷いた。
――なんか、そのちょっと寂しげな感じ……めちゃくちゃそそる!!
あまりにも好みど真ん中すぎて、俺の思考は彼の一挙手一投足に対して、全肯定モードに入ってしまった。
「お兄さん大丈夫? けっこう飲んだの? 名前は? 彼氏いる?」
マコは声を弾ませて矢継ぎ早に尋ねている。俺はさりげなくマコの隣の椅子に腰を下ろし、マコ越しに好みの彼を観察した。
顔が抜群にイイ! それに、体つきもしっかりしてそうだ。足も長そうだし、下手したら俺より背が高いかも、180とかあるのかな。若く見えるが大学生か、もう少し年上か? まあ、俺よりは下だろうな。
あー……でも……
――まだ若いのに、見えるな。
「ねーねー、名前は? 名前くらい教えてってぇ!」
マコは彼の膝に手を置き足をばたつかせながら、またあの媚びるような上目遣いをしている。マコは間違いなく、今夜の相手に彼を狙っている。
俺は人知れず唾を飲んだ。
この子がネコかタチか。この界隈の比率で言うとネコの可能性の方が高い。つまり、マコより俺が優勢だ。
「もしかして、日本語わからないの? ネームだよ! ユアネーム!」
「こらこら、寝起きでぼっとしてるんだろ? あんまり矢継ぎ早に聞いたら可哀想だよ。ハトちゃんお水あげたら?」
俺が言うと、ニヤニヤ彼の顔を見ていたハトちゃんがはっと我に帰ってグラスにレモン水を注いで出した。
彼はそれを手に取ると、ぐっとグラスを傾け一気に飲み干している。
「うーん、どこの国の人だろ? スマホの翻訳つかってみる?」
マコがポケットからスマホを取り出した。すると彼はその動きを止めるようにマコの腕に手を当てた。
「ワカルヨ、日本語、だいじょぶ」
カタコトだ。めちゃくちゃ可愛い。
俺は勝手ににやける口元をごまかすように唇を結んだ。
「良かったあ! ねえ、お兄さん、お名前は?」
マコがあざとくこ首を傾げた。
「ナマエ……名前は、レオン……レオンだよ」
そう言って、レオンと名乗った彼は視線を上げた。
何か言いたげに俺の顔をまっすぐ見ている。
悪いなマコ。これは多分俺の勝ちだ。
「うわぉ、名前もカッコいい! ね、レオンくん酔っ払っちゃったんなら、俺とホテルで一緒に休む?」
マコはこの機を逃すまいと、ガッチリとレオンの腕を掴んでいる。
「……ホテル?」
「そ、行こうよ一緒に、ね?」
マコに言葉を返しながら、レオンはずっとまっすぐ俺を見ている。
こんなにアピールされて、何もしないわけにはいかない。というか、俺だってこの機を逃したくはない。
「マコ、彼はたぶん……タチじゃないよ」
俺はややおさえめな声で、マコに囁きその肩に手を置いた。
「えー? 俺のレーダーはタチだって言ってるけど」
マコは口を尖らせている。
このマコのレーダーはかつて俺にも反応したわけだけど、多分好みの男を都合よくタチだと思い込んでるだけの気もする。
「いや、違うと思う」
俺はきっぱりそう告げた。
「じゃあ、本人に確かめてみようよ」
マコの言葉に多少不躾だと思いつつも、俺はレオンに尋ねることにした。
「レオンくん、君って、ネコ、だよね?」
少々遠慮がちに言うと、レオンはその琥珀色の瞳を揺らした。
「うん、そうだよ、慎さん」
その言葉を聞いて、俺は小さく拳を握り、マコがカウンターの上で項垂れた。
「お兄さーん、おーい」
マコの呼びかけに、派手な髪がもそもそ動くが、男が起きる気配はない。
俺は食べ終えたピラフの皿をカウンターの上におき、「ごちそうさま」とハトちゃんに告げるとおしぼりで口元を拭った。
マコが突っ伏した男に気を取られている間に次の店に移動するかと頭をよぎる。
――と、その前にちょっとトイレへ。
俺は立ち上がり店の奥のトイレに向かった。
丁度マコの後ろを通った先の通路の隅にある。
用を済ませてトイレから出ると、マコがまだ突っ伏した男の肩を揺らしていた。
少し進展があったのは男がむくりと体を起こしたことだが、それでも顔は伏せていて髪の毛が表情を隠している。
"ものすんごいイケメン"なのかどうかをどうしても確かめたいらしいマコは、カウンターに頭を乗せるほど体を伏せて、男の顔を覗き込んだ。
「わ! ほんとだ、すっごいイケメン!」
マコが色めきだった声を上げた。
「ね、慎さんみてみて! この人ハーフかな?」
マコは手をひらひらと降って、トイレから戻ろうとしていた俺を呼んだ。
そんなに言われたら流石に気になる。俺は呼ばれるまま彼らの席へと近寄った。
「……慎……さん?」
「しゃべった!」
突然名前を呼んだのは、酔って顔を伏せていた男だった。マコが被せるように声を上げたせいでよく聞き取れなかったが、確かに男は俺の名前を呼んだ。
そして直後、男に突然腕を掴まれ、俺の心臓が跳ね上がった。
男の手のひらは大きく、長い指はスーツ越しでも伝わるほどの熱をはらんでいた。でも、俺の心臓を揺らしたのはそれが理由じゃない。
驚いた。
こんな瞳の色を、俺は見たことがない。
琥珀色の虹彩がまっすぐ俺に照準を合わせるように煌めいた。睫毛の色が薄く、マコが言う通り、日本人ではなさそうだ。もしかしたら銅食器のような魅惑的な色の髪は地毛なのかもしれない。アーモンド型の目元は女神のように美しく、しかし、二つの瞳の間を通る鼻筋からはしっかりと雄々しい印象を受けた。
確かにすんごいイケメン。
――そして、俺のドストライク。
長い時間見つめあっているように錯覚したが、周りにとっては一瞬の出来事だったらしい。
「え、慎さん知り合い?」
とマコに問われて俺は我に帰った。
「い、いや。初めまして……だよ……ね?」
こんな子見たら絶対忘れない。
だから俺はほとんどわかりきっていたが、一応確かめるように男にそう尋ねた。
男は少し長めの間を開けた後、コクリとどこか寂しげに頷いた。
――なんか、そのちょっと寂しげな感じ……めちゃくちゃそそる!!
あまりにも好みど真ん中すぎて、俺の思考は彼の一挙手一投足に対して、全肯定モードに入ってしまった。
「お兄さん大丈夫? けっこう飲んだの? 名前は? 彼氏いる?」
マコは声を弾ませて矢継ぎ早に尋ねている。俺はさりげなくマコの隣の椅子に腰を下ろし、マコ越しに好みの彼を観察した。
顔が抜群にイイ! それに、体つきもしっかりしてそうだ。足も長そうだし、下手したら俺より背が高いかも、180とかあるのかな。若く見えるが大学生か、もう少し年上か? まあ、俺よりは下だろうな。
あー……でも……
――まだ若いのに、見えるな。
「ねーねー、名前は? 名前くらい教えてってぇ!」
マコは彼の膝に手を置き足をばたつかせながら、またあの媚びるような上目遣いをしている。マコは間違いなく、今夜の相手に彼を狙っている。
俺は人知れず唾を飲んだ。
この子がネコかタチか。この界隈の比率で言うとネコの可能性の方が高い。つまり、マコより俺が優勢だ。
「もしかして、日本語わからないの? ネームだよ! ユアネーム!」
「こらこら、寝起きでぼっとしてるんだろ? あんまり矢継ぎ早に聞いたら可哀想だよ。ハトちゃんお水あげたら?」
俺が言うと、ニヤニヤ彼の顔を見ていたハトちゃんがはっと我に帰ってグラスにレモン水を注いで出した。
彼はそれを手に取ると、ぐっとグラスを傾け一気に飲み干している。
「うーん、どこの国の人だろ? スマホの翻訳つかってみる?」
マコがポケットからスマホを取り出した。すると彼はその動きを止めるようにマコの腕に手を当てた。
「ワカルヨ、日本語、だいじょぶ」
カタコトだ。めちゃくちゃ可愛い。
俺は勝手ににやける口元をごまかすように唇を結んだ。
「良かったあ! ねえ、お兄さん、お名前は?」
マコがあざとくこ首を傾げた。
「ナマエ……名前は、レオン……レオンだよ」
そう言って、レオンと名乗った彼は視線を上げた。
何か言いたげに俺の顔をまっすぐ見ている。
悪いなマコ。これは多分俺の勝ちだ。
「うわぉ、名前もカッコいい! ね、レオンくん酔っ払っちゃったんなら、俺とホテルで一緒に休む?」
マコはこの機を逃すまいと、ガッチリとレオンの腕を掴んでいる。
「……ホテル?」
「そ、行こうよ一緒に、ね?」
マコに言葉を返しながら、レオンはずっとまっすぐ俺を見ている。
こんなにアピールされて、何もしないわけにはいかない。というか、俺だってこの機を逃したくはない。
「マコ、彼はたぶん……タチじゃないよ」
俺はややおさえめな声で、マコに囁きその肩に手を置いた。
「えー? 俺のレーダーはタチだって言ってるけど」
マコは口を尖らせている。
このマコのレーダーはかつて俺にも反応したわけだけど、多分好みの男を都合よくタチだと思い込んでるだけの気もする。
「いや、違うと思う」
俺はきっぱりそう告げた。
「じゃあ、本人に確かめてみようよ」
マコの言葉に多少不躾だと思いつつも、俺はレオンに尋ねることにした。
「レオンくん、君って、ネコ、だよね?」
少々遠慮がちに言うと、レオンはその琥珀色の瞳を揺らした。
「うん、そうだよ、慎さん」
その言葉を聞いて、俺は小さく拳を握り、マコがカウンターの上で項垂れた。
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