【本編完結】三毛猫たちの恋愛事情〜牧瀬くんは猫なので・レオンくんのしっぽ〜

第一部【牧瀬くんは猫なので】

5.※ごほーし失敗！

「な、なんで……」

　どうして、なんでバレちゃったんだ⁉︎
　僕が猫だって！

「え？　ちげぇの？」

　僕の様子に、吉良くんがなんだか気まずそうな顔を見せた。まだ誤魔化し切れるかもしれない。

「違う、チガウヨ！」

　僕がそう言うと、吉良くんはさらに気まずそうに視線を泳がせ、「まじか」と言いながら、体の向きを変えた。

「俺さ、バイなんだけど、突っ込まれる方は無理なんだよね」

　吉良くんが何を言っているのか、僕はいまいちわからなかった。だけど今まで鼻を擦り合わせたり口をつけたりしてたのに、吉良くんは僕から離れて、ソファに正しく座り直してしまった。

「吉良くん、仲良くなれない？」

　僕がそう問うと、吉良くんはソファの背もたれに肩肘をついて僕の方を向いた。そして、僕の方に手を伸ばして指で唇に触れた後、顎の下を撫でてきた。
　僕はそれが気持ち良くて、喉がごろごろなってしまいそうだ。

「まあ、他にもやり方はあるか」

　吉良くんはそう言うと、また僕の唇を舐めた。その舌先が唇を割って中に入ってくる。僕の舌を絡め取った後、一度吉良くんは唇を離した。

「お前の舌何？　気持ちい」

　そうか、人間の舌はみんなつるつるしているらしいから、僕らのとは少し違う。猫の舌はちょっとザラっとしてるんだ。この体は所々まだ曖昧に猫の要素を残している。

「遺伝」

　僕はとっさにそんな風に言い訳してみたけど、別に嘘ではないはずだ。遺伝という言葉がすぐに出た自分を褒めたいと思う。
　吉良くんはイマイチ納得してないようだけど、「まあどうでもいいか」と呟いてまた僕に唇を重ねた。
　僕が吉良くんの舌裏あたりをザラリと舐め返すと、吉良くんは気持ちよさそうに目を細めている。

「なあ、お前俺のこと好きなんだよな？」

　また唇を離した吉良くんが僕の顔を覗き込んだ。

「違うよ、好きじゃなくて、大好き」

　僕の答えを聞いて吉良くんは満足げに笑っている。

「じゃあちょっとご奉仕して」
「ごほーし？」
「そう、ごほーし」

　よくわからないけど吉良くんが言うから、僕は「いいよ！」首を縦に振った。
　吉良くんは頷いた僕の肩を押すと、僕をまたいで膝を立てた。ソファに深く腰かけるような体勢になった僕の目線の先で、吉良くんは自分のベルトを外してファスナーを下げている。
　吉良くんのものが下着の中で僅かに熱をもって膨らんでいた。そのことは僕にも身に覚えがあるのでわかった。

「その舌、めっちゃ気持ちよさそうだからちょっと咥えてみてくんない？」

　なるほど、そう言うことか。
　でも吉良くんが僕に求めていることがなかなかデリケートかつセンシティブな行為だと言うことは流石の僕にもわかる。
　ためらっていると、吉良くんの右手がまた僕の顎をくすぐった。

「してくんないの？」

　吉良くんに甘く掠れた声で囁かれ、僕の胸はざわついた。
　経験はないけど、吉良くんにそんなふうにお願いされたらやらないわけにはいかない。僕は下着の上から吉良くんのものを咥えるように啄んでみた。
　それを答えととったのか、吉良くんは僕の後頭部をなでた後、吉良くん自身の下着を下ろした。
　吉良くんの性器が僕の鼻にあたる。少し硬く起き上がっていた吉良くんの性器の裏筋に恐る恐る僕が舌を這わせると、吉良くんが小さく息を吐いた。
　先端を咥えると、吉良くんの性器はすぐに口の中で硬さを増してそりかえっていった。
　僕は吉良くんの顔が見たくて目線を上げた。吉良くんは気持ちよさそうに目を細めて、また僕の後頭部に手を回してくる。
　少しずつ押さえつけられるように固定されて苦しくなった。
　だけど猫の舌で裏筋を舐めると、吉良くんが気持ちよさそうに息を吐くのが嬉しくて、そしてなんだか愛おしかった。
　そのうち吉良くんの先端が僕の口蓋をくすぐるように行き来し出した。
　むず痒いその感覚が、だんだん心地よくなって、僕は自分の体の中心が熱を持ち始めてしまったことに気がついた。
　だけど、さらに強く固定されて動かされると流石に苦しくて、僕は目元にジワリと涙を滲ませた。
　やめて欲しいのか続けて欲しいのかよくわからない感情に陥って、僕の手は無意識に吉良くんの背後を掴んだ。

「こら、けつ揉むな」

　吉良くんは笑った後でその手を掴むと、僕の口から自分のものを引き抜いた。
　その後で確認するように僕の口に指を入れて中をのぞいてくる。人間の医者が診察する時の、あの仕草に似ている。

「舌はめっちゃ気持ちいけど、お前慣れてないな？　イケなそうだわ」

　どうやらごほーし失敗のようだ。

「ごめん、吉良くん」

　期待に応えられなくて落ち込む僕の顎を吉良くんがまたくすぐるように撫でてきた。
　
「謝るなよ。気持ちよかったって言ってんじゃん」
　
　そう言って、吉良くんは僕の口の中に今度は自分の舌を入れてきた。そしていつのまにか僕のベルトを外してファスナーを下げていたようだ。下着の中に入り込んできた吉良くんの手で直に性器を掴まれてから、僕はそのことに気がついた。
　吉良くんは僕の隣に座り直すと、向かい合って自分の膝の上に僕をかかえるように抱き寄せた。
　腰を寄せられて、僕と吉良くんの熱いものが触れ合っている。促されるように手を握られ、お互いに包み込むように性器を握った。
　吉良くんに触られている、それだけで僕の体の中心は硬く熱を持った。
　すぐに達するのが恥ずかしくて堪えていたけど、吉良くんの手が動くたびに先端から先走りが溢れてしまう。そのせいで二人の手元が水分を孕んだくちくちという音を鳴らしていた。
　僕は堪えながら息を吐いて、無意識のうちに吉良くんの肩に顔を埋めた。
　吉良くんの息遣いが聞こえる。少ししてからくすぐるように、僕の耳を吉良くんの唇がなぞった。ふぅと吐息を吹きかけられて、たまらない気持ちになった僕の体が小さく震える。
　吉良くんの手が速度を上げて、親指が僕の先端をこねるような仕草で刺激した。ビリビリと弱い電気が走るみたいな感覚に、僕はとっさに足先に力をいれた。息を止めて堪えようとしたけど間に合わなかった。
　ビクビクと震えた僕の先端から熱いものが溢れ出してしまう。少しだけ遅いタイミングで脈打っていた吉良くんも、僕に続いて達したようだ。吉良くんの手の中でお互いの体液が混ざり合った。
　僕が達した後の脱力感で弾む息を整えていると、吉良くんが僕の体を押し倒し、頭の横に両手をついた。僕は仰向けになって、脚の間に吉良くんを挟むような体制で彼を見上げている。
　僕の顔を確認するように吉良くんの視線が動き、その後でまた唇を重ねてきた。
　喜ぶかと思ったので、僕は吉良くんの唇をザラリと舐めてあげた。
　吉良くんはしばらく僕の口内を舌で探った後、唇を離して、また僕の瞳を覗き込んできた。

「マジでネコじゃないの？　試す気もない？」
「うん。チガウ」

　吉良くんはまだ僕が猫じゃないかと思っているみたいだ。猫を「試す」の意味が分からないけど、とにかく僕は、僕が猫だと認めるわけにはいかない。

　ルールそのいち！
　人間の前で猫にならない！
　猫だとバレてはいけません！

　猫だとバレたら春日に記憶を消されてしまう。下手をしたら僕はもう人間になれなくなって、吉良くんに会えなくなってしまうのだ。
　体を起こした後、吉良くんがウェットティシュで僕の体を拭ってくれた。
　シャワーを使うかと聞かれて、お水が体にかかるのが苦手な僕は躊躇してしまう。
　人間が毎日お風呂に入ることは知っているし、訓練の一環として頑張って毎日入ってる。でも、息を止めて体にグッと力を入れてできるだけ素早く済ませてる感じだ。入らなくていいなら入りたくない。
　そんなことを考えていたら、テーブルの上に置いてあった吉良くんのスマホが震えた。たぶん誰かから連絡が来たんだと思うけど、僕はそれよりもそこに表示されていた時間をみて青ざめた。

　十一時四十五分……牧瀬家の門限は十二時だ。

「吉良くん！　たいへん！　怒られる！」

「へ？」

　僕は焦って立ち上がり、中途半端だったズボンを引き上げベルトを閉めた。
　
「なんだよ、急に慌てて」

　吉良くんはあわあわと動き回る僕をみて眉根を寄せた。僕は吉良くんの質問に答える余裕もなく、テーブルの上のおウチカードを引っ掴むと転がるように玄関に向かった。

「え？　おい」

　背後で吉良くんの声がする。でも止まってる場合じゃない。十一時四十五分はかなりやばい。
　僕は玄関から飛び出して、エレベーターに滑り込んだ。そしてエントランスでたまたま誰かを降ろしたタクシーに出会し、運良く入れ違いで飛び込んだ。
　焦って口の中がカラカラで、喉が張り付いて声が出なくなったけど、おウチカードをみせたら運転手は僕の家がわかったみたいで、「OK！」と親指を立てて頷いた。

　結局タクシーが牧瀬家についたのは、夜の十二時を回ってからだった。