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第二部 第三章 異界の客人神
蠢く悪意
しおりを挟む「みっともないところを見せたな。すまない」
ひとしきり泣き終えたジェシカが、ルイスに申し訳なさそうに謝る。
「……色々と起きすぎたからな。君の精神的なストレスは相当なものだ」
「ツラいのは私だけじゃないさ。本当にすまない」
「いや、気にするな。それより……いい話ばかりじゃないんだが、聞けるか?」
「なんだ……?」
ジェシカが不安げにルイスを見ると、「どちらから話そうか……」と逡巡している。
「そんなに悪い知らせなのか……?」
「いや、一つはそれほど悪くはないんだが……何か違和感は感じないか? いつもと違うと言うか……」
「……お前は本当にいつも回りくどいな」
「これでも端的に話しているつもりだが……」
「ヨーコのことだ」とルイスに言われ、ジェシカがハッとする。今思えば目を覚ましてから、一度もヨーコが話していない。
「嘘……だろ……? え……もしかして姉さん……が……?」
「姉さん……返事をしてくれ姉さん!!」とジェシカがヨーコに問いかけるが、返事は無い。
「ああいや、違うんだ。ヨーコは無事だ。しばらくは話せない状態だがな」
「どういう事なんだ……? もうわけが分からない……」
ジェシカが悲壮な表情でルイスを見る。
「君が戦った人型のアラガネは特殊だったんだ。ディザスタードラゴンのレーザーのような攻撃をしてきただろう?」
「ああ。ディザスタードラゴンのそれよりも速かったな。あの攻撃が……?」
「おそらくだが、あのレーザー攻撃にもウイルスが含まれていたんだ。しかも通常のアラガネよりも強力なウイルスだと思われる。ミシェリーはノヒンの超速再生……いや、紛らわしいので強化再生としようか、があるだろう? それによってウイルスを防いでいたが、君には強化再生がない」
「つまり私も強力なウイルスに感染していたと?」
「そうだ。だが君の魔石はヘルの因子が濃く発現した特殊な魔石。アラガネ化はしなかったが、どうやら魔石がウイルスによって不具合を起こしたようなんだ」
「不具合……? 姉さんは……姉さんは無事なのか!?」
ジェシカが感情も顕にルイスに掴みかかる。初めはヨーコと同化したことを受け入れられず、戸惑い、涙を流し……
今では自分という存在を構成する、大切な相手。
「先程も言ったが、ヨーコは無事だ。しばらく話せないことに加えてスイッチが出来ないだけで、今も普通に思考しているし存在している。まあヴァン君が導術でデータ解析したことで分かったんだがな。初めは私たちもヨーコが消滅したと思って……と……ジェシカ?」
ジェシカが自身の心臓──魔石の位置に手を当て「よかった……姉さん……」と、静かに泣いていた。
「……よかったなジェシカ……ヨーコが無事で……」
「う……ん……よがっだ……姉ざんが無事……無事で……よがっだぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
ルイスが優しくジェシカを抱きしめると、堰を切ったように今まで見たことがないほどにジェシカが泣いた。いや、ノヒンが死んだ時と同じくらいだろうか……
「す、すまないルイス……さっきからちょっと泣きすぎだな……」
「それだけヨーコのことが好きなんだろ?」
「好き……だな。ノヒンがいなくなってから……姉さんはずっと私に優しい言葉をかけてくれていた。なのに私はそんな姉さんに冷たくして……このままお別れになったらって考えたら……うぅ゛……よがっだぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……わだ……わだしに関わるひど……み……みんな不幸になるがら……だがら……つめだくじでぇぇぇぇぇぇぇ……ぇっ……ぇっ……ご……ごめ゛ん……ごめ゛んルイス……もう少じ……もう少じだけ……ごのまま……」
そのままジェシカはルイスの胸で泣き続け、しばらくして疲れたのか……気絶するように眠った。
「……もう入って来ていいぞ?」
ルイスの問いかけに答えるように、部屋の中にマリルが入って来る。
「今のを見てもジェシカが怖いか? ジェシカは……とても優しい。自分よりも他者を優先するところなんかは……ノヒンに似ているな」
「うん……ジェシカさん、たくさん我慢してたんだね……」
そう言って眠るジェシカの頭を、マリルが優しく撫でる。
「だが眠ってしまって肝心なことを伝えられていない」
「うん……ナカラのことでしょ?」
「ああ。とりあえずナカラから近いモザンビークはヴァン君とセリシアが警戒してくれてはいるが……はたしてこの精神状態のジェシカに話していいものなのか……」
「ジェシカさんならきっと大丈夫だよ。すごく優しくて……強いって分かった」
「そうだな……」
ルイスとマリルが話している肝心なこととは、ナカラが壊滅したということだ。
ジェシカとミシェリーを助け出した次の日、念の為にセリシアとヴァンガルムにナカラの偵察に行ってもらったのだが……
ナカラは既に壊滅していた。
運良く姿を消す魔術によって生き延びた少年がいたのだが、その少年から聞いた話は凄惨なものだった。複数の人型のアラガネが村を襲撃し、全ての村人を陵辱。アラガネ化させた。
その後、襲撃に訪れた人型のアラガネとアラガネ化した村人は、朝になると共に黒い霧となって消えたらしいのだが……
消える際に何体かの人型が「ジェシカ……マリル……イナイ」「セリシア……セティーナ……ファム……イナイ……」「リセット」などと言っていたと少年が証言している。
この人型の発言は「リセット」を除き、ヴァンガルムが共有したジェシカの記憶とも整合性が取れる。ジェシカの記憶の中、あの特殊な人型のアラガネが最後に口走った言葉……
それは「ジェシカカクニン……ザヒョウテンソウ」という言葉。あの人型は破壊される寸前にジェシカの存在を確認し、その座標をどこかに転送した。
遡ってミシェリーが特殊な人型のアラガネに襲われていた際は、「マリル……チガウ……ジェシカ……デモナイ……」とも発言している。
それによって考えられることは、アラガネはジェシカやマリル、セリシア、セティーナ、ファムに執着している何者かの意思によって動いているのではないか……ということである。
そうして思い当たるのは……
「マヤ……なのか……?」
と、ルイスが拳をギチギチと握り込み、呟いた。
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