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第二部 第二章 闇の咎─淫獄の魔女─

闇を払うは黒狼の 5

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「そう言われれば、確かに魔獣の姿がない。黄泉比良坂よもつひらさかは無制限に魔獣を呼び寄せて生成するはずだ。しかも今は魔獣が湧きやすい夜……」
「神器の解除が出来たわけじゃねぇんだよな?」
「解除は出来ていない。これはどういうことなのだ……?」

 ヴァンガルムが困惑の表情を浮かべていると、ジェシカが「そういえば……」と、何かを思い出したように口を開く。

「マヤの魔術ということはないか? 昨日眠りに落ちる前、一瞬だが嫌な感じがしたんだ。眠気に負けてそのまま眠ってしまったが……姉さんも感じなかったか? [うん。何かが体を通り抜けた感じ……かな?]」
「となるとおそらく広範囲の大規模魔術だろうか……? ちっ……分からんな。闇属性魔術はやれることが多いのだ」

 闇属性魔術は使用者が少ない。それこそ小規模魔術であればデータはある程度揃っているが、大規模魔術ともなると謎が多い。

「なんだかよくねぇ流れみてぇだけどよ、止まってる場合じゃねぇよな」
「ああ。ここからはスピード勝負になる。ひとまずはイルネルベリ住民達の魔術を優先して解除しようではないか」
「んじゃまぁ、頼むぜわん公? 『アクセプト黒狼の鎧』」

 ノヒンがヴァンガルム──黒狼の鎧を身に纏う。

「ではジェシカよ。ヨーコとスイッチするのだ」
「了解した!!」

 ジェシカがヨーコへと主導権をスイッチし、肌の色は白く、髪も桃色へと変わる。

「ふふん! どう? どうどうノヒン?」
「あぁん?」
「[な、なんでチャイナドレスのままなんだ姉さん! 他の服に変えられるだろ!] え? だってこの格好はノヒンが好きだから! ね? ノヒン?」
「ちっ……緊張感の欠片もねぇ……」

 ノヒンが頭をガシガシと掻く。

「よし。では魔術解除のやり方をデータ共有しようではないか。『アクセプト共有』」

 ヴァンガルムの目の前に、『/convertコンバート dataデータ sharingシェアリング Fenrirフェンリル andアンド Jessicaジェシカ』と白く輝く文字が現れ、黒い霧が二人を繋ぐ。

「どうだジェシカ? 魔術解除のイメージは理解出来たか?」
「[ああ。把握した]」
「ならば次はヨーコ、死の女神ヘルモードを発動だ。その状態で住民達を傷つけないように立ち回り、ジェシカは導術によって魔術の解除。我らも我らで魔術の解除に全力を尽くす」
「任せて! [頼りにしてるぞ姉さん!]」

 ヨーコが死の女神ヘルモードを発動。ざわざわと黒い翼が背中に現れる。

準備は万端だよ!いつでもいける!
「ははっ! うちのお姫さん方は頼りになるぜ。んじゃまぁこの糞みてぇな闇ぃ……払いに行くぜぇ?」

 ノヒンがギチギチと全身に力を漲らせ、ズガンッと地面を蹴りつけて駆け出した──


---


 ──数刻前のマヤ視点(ノヒン達がウティコリン港に到着時)

「んん……マヤ……さん……どうしたんです……か……?」

 セティーナが身を捩りながら、マヤに問いかける。

「何者かの船がウティコリン港に来たようだわ。いったん身を隠しましょうか……『永劫たる黒き精霊よ──始まることを許さぬ虚無を我が眼前に──顕現せし黒の波動……覆い隠す闇の帳……ダークカーテン』」

 マヤとセティーナの周囲に黒い半円状の膜が現れ、外から視認の出来ない空間を作り出す。

「せっかくこれからいいところだったのに、誰なのかしらね? まあでも視認されるわけでもないですし……楽しみましょうかセティーナ?」
「は……い……んん……」
「かわいいわねセティーナは……」

 マヤとセティーナが絡み合っていると、二人のすぐ側を凄まじいスピードの通り過ぎた。

「今のは何かしら……って! ああ! 嘘でしょう!? せっかく私が準備した最高のショーなのに許せない……」

 放った目から送られてくる映像をマヤが凝視し、怒りに震えている。映像には、今にも犯されそうだったジェシカを助ける黒髪の男の姿。

「え……でも待って……? この顔はヴァン……? どういうこと……?」
「ノヒン……さん?」

 セティーナが映像を見て呟く。

「セティーナはこの男が誰なのか知っているの?」
「この人はノヒンさん……です。神話大戦の英雄ヴァンの生まれ変わりだと言われている人で……」
「なんてことなの……」

 マヤが自身の体をまさぐりながら身悶える。その表情は酷く興奮しているようで……

「カグツチ家やヘルの子孫だけではなくヴァンの子孫まで……? あぁ……ん……たまらないわぁ……セティーナ? もしかしてだけど……オーディンの子孫も?」
「はい……」
「ふふふ……数千年の時の流れで朽ちたものだと思っていたけれど、まさかこの時代に三英雄の因子が目覚めた個体が生まれているなんて……。こんなことならロキと情報交換でもしていればよかったわぁ……。あぁ……それにしても全員食べちゃいたいわねぇ……。ふふ……そうとなればもっと面白くしないといけないわね……」

 そう言いながらマヤが手をかざすと、新しい映像が目の前に現れる。そこにはウティコリン港に停泊する魔導戦艦ファムノヒンと、セリシア、ファム、マリルの姿。

「えぇ? カグツチ家がもう二人? それに可愛らしいお嬢さんまでいるじゃなぁい。セティーナ? この娘達は知り合いか何かかしら?」
「はい……娘のファムと妹のセリシア……もう一人は見覚えはありますが……詳しくは分からないです……」

 セティーナも次元崩壊前にマリルと会ってはいたが、それはマリルが半魔となる前の黒髪の姿。そのうえしっかりと話したわけではなく、モザンビーク港へと送り出す際に少し挨拶をした程度である。

「そうなると……セティーナが行けば気を許すわよね? そこを操って……。ふふ……いいわぁ! たまらないわぁ!! とりあえず行きましょセティーナ? みーんな操ってぇ……たくさん気持ちいいことしましょ?」
「はい……マヤさん……」

 こうしてセティーナとマヤがファムノヒンへと向かい、気を許したセリシア、ファム、マリルの三人はマヤの魔術によって傀儡とされた。ファムノヒンの乗員も全て操られ、今このイルネルベリで操られていない者はノヒン達だけとなる。

 マヤはセティーナと共に、傀儡とした三人を連れてイルネルベリ城へと移動。魔術によって視認されない拠点を設置した。

 そうして新しく傀儡とした三人を交えての淫靡な宴を開始した。


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