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第二部 第二章 闇の咎─淫獄の魔女─

悪意の魔女 3

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 ──ラバラナドゥ教会、礼拝堂

「あぁ……いいわぁ……そこ……んん……」

 深夜の教会にて、艶かしいマヤの嬌声が響く。マヤは衣服をいっさい身に付けずに椅子に座り、その周りを裸の男達が囲んでいた。この場で服を着ている者は一人もおらず、順にマヤの体を堪能している。

「……それで? ジェシカをどうにかして欲しいってことだったかしら?」
「そ、そうなんです! この一連の魔獣騒動は……むぐぅっ!」
「誰がやめていいって言ったのかしら? ん……」

 マヤが一人の男の顔を下腹部に押し付ける。

「やっぱり隠していてもバレてしまうものなのね……」
「……ってことはやっぱりそうなんですか?」

 別の男がマヤに話しかける。

「そう。ジェシカは呪いの神器によって呪われている。私とセティーナは知っていたんだけれど……ジェシカも大切な仲間じゃない? だから内緒にしてたの。私達だけで何とかしようって……」

 これは明らかな嘘。この噂を広めたのはマヤだ。さらに言えば、使

 そう、マヤは十二の咎。ソウジュ家と呼ばれる魔女──ソウジュ・マヤ。と言っても、ここにいるマヤは本物ではない。神話大戦よりも前、マヤは各地にとして分体を送り込んでいた。

 この分体に可能なことは、簡単な闇属性魔術と、自身が見た映像をマヤに送るということだけ。これによってマヤは各地に黄泉比良坂をばら撒き、その様子を自身の体を慰めながら眺め、楽しんでいた。

 そんな中でのオーディンによる世界の分断。マヤの本体はアースガルズと共に次元の彼方へと消え、ミズガルズにマヤの分体だけが残った。

 この分体、大幅に機能制限をされており、本来のマヤらしさの欠けらも無い。そんな状態で数千年、マヤの分体は生き残っていたのだが……

 イルネルベリに捕らえられ、処刑寸前まで追い込まれていた。それをジェシカ達が

 そうしてその後、エインヘリャルの儀で発生した次元の裂け目によって、ようやく本体との同期を果たす。それによって分体の機能制限は遠隔で解除され、今に至る。

 実は今現在、アースガルズとミズガルズの座標は限りなく近付いている。それによってロキやマヤの本体はミズガルズへと来ることが出来るようになっていた。つまりプレトリアでノヒンが会ったロキは、本体だったということである。だが……

 マヤの本体はアースガルズに留まったままで、次元の彼方からこちらを観察して楽しんでいた。ではなぜ本体が来ないのか。それは──

 なのだ。自分は安全な場所で観察し、人々が苦しみ、藻掻く姿を見ながら──

 火照った体を慰める。

 それがたまらく好きであり、興奮する。マヤもまた性欲のタガが外れており、なおかつ善悪の区別のタガも外れている。自分が気持ちよければそれでよく、他者など気持ちよくなるための道具。

 まさか自分が作り出した神器をロキが使い、その対象者が目の前に現れるとは思ってもいなかったが……

 今ここイルネルベリでは、ロキとマヤ、二人の咎の思惑が絡み合っていた。


「でも……私達で抑えるのもそろそろ限界みたいね」
「ど、どうすれば! どうすればいいんですかマヤ様!? このままではイルネルベリが!!」
「解除の仕方ならあるわ」
「解除出来るんですか!?」
「ええ。呪いの宿主をいいのよ」
「え……? つまりそれはジェシカさんを……?」
「そうよ。ジェシカに使用された神器は黄泉比良坂よもつひらさかと言って、とっても悪趣味な神器なの。解除するには殺すしかないわ」
「さ、さすがにそれは……」
「じゃあ……滅びちゃうのを待つ? 正直セティーナや私だけじゃ魔獣を防ぎきれなくなってきているわ」
「た、例えば! イルネルベリから出て行ってもらう……などは……」
「他の街が滅びてもいいのかしら? あなたってそんなに悪い子だったの? 私……悪い子は嫌いよ? いい子に出来るなら……またあげてもいいけど……」
「マヤ様……」
「他の子達はどうかしら? どうしたらいいと思う?」

 言いながらマヤが立ち上がり、一人一人男達に絡みついて「どうすればいいかしら?」と問いただす。その問いただす口からは黒い霧が漏れ出し……

「そう……だ……」
「そうだそうだ!」
「殺せ! 魔女を殺せ!」

 男達が「殺せ殺せ」と声を上げ始める。

 マヤはここに至るまでゆっくりと時間をかけ、魔術によってイルネルベリ住民の思考を誘導していた。それはセティーナも含まれる。一気に洗脳するのではなく、あくまでゆっくりと。それがたまらなく楽しい。

「ふふふ……いい子達ね。それじゃあ……ジェシカは私が捕まえておくわ。それと……」

 マヤが礼拝堂の十字架の前まで歩き、両手を広げる。するとざわざわと黒い影のようなものが、まるで愛撫でもするようにマヤに絡みつく。

「しばらく邪魔して欲しくないからぁ……『……深淵たる闇に潜みて万物の裏側たる根源の黒──光をも絡め取りて真なる静寂をもたらさせし者よ──我が望むは何もなし──それ即ち始まりたる虚無を望みし空虚なる我が願い──根源たる黒き裁きをもって愚者共に始まりたる終わりを示せ──その闇を覗くは虚ろなる虚像の衆──神を屠りて黒く塗る──空を割りて黒く塗る──大地を砕きて黒く塗る──ああ我が空虚なる魂が虚無で溢れ満たされる──そこに何があるだろうか──何が見えるだろうか聞こえるだろうか──訪れるは黒、黒、黒……我の巡りは黒にて終わる──永劫たる終焉それ即ち始まることを許さぬ虚無──ああ眼前が黒く染まっていく……黒……黒黒黒……黒……』……んん……気持ち……い……『誘うは常しえの闇……常世ノ門ダークゲート……』」

 ブンッと、マヤを中心に薄く黒い膜が広がる。その膜は人や物を通り抜けてどんどんと広がり、やがてイルネルベリ全てを覆って消えた。

「な、なんですか今のは……?」
「今のは任意の対象を別次元に隔離する大規模魔術よ。これから発生する魔獣を全て別次元の闇の空間へと隔離するわ。ようやく大規模魔術が出来るくらいに魔素が溜まったから……」

 これも嘘だ。マヤは元から大規模魔術が可能な魔素を有している。むしろマヤの魔素量であれば、何度でも大規模魔術を発動可能だろう。

「そ、それならジェシカさんを殺さなくても……」
「この魔術は隔離するだけよ? 効果もずっとじゃないし……? ほら……ここもこんなにしちゃって……殺すって考えて興奮した……? んん……」
「あぁ……マヤ様……」

 こうしてジェシカとヨーコはマヤによって追い詰められて行くことになる。この流れはロキの意図した流れではないが、ロキもまた、ジェシカとヨーコが追い詰められることを望んでいる。

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