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第一部 第一章 プロローグ─夢の残火編─

ルカス 2

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「……どういう意味だ?」
「ほら、ルイスも僕に似て綺麗な顔でしょう? かわいいなーって思ったことは? ドキッとしたことくらいあるんじゃないんです?」
「もしかして……知ってんのか?」
「ふふふ、『顔も綺麗だしいい女』……なんですよね?」
「ちっ、んな事まで手紙に書いてやがったのかよ。ルイスのやろぉ手紙だと饒舌なんだな」

 聖レイナス騎士団がまだ正式な騎士団ではなく、レイナス団と呼ばれていた頃、団員に『ノヒンはどんな女が好みなんだ? やっぱり副団長のジェシカか?』と聞かれたことがある。

 それに対してルイスが男だと気付いていなかったノヒンは、『まあ確かにジェシカは綺麗な顔だと思うが性格が……な。俺はどっちかと言えばルイスみてぇに静かな女が好きだ。顔も綺麗でいい女だしな。あの顔で鍛冶師なんて信じられるか?』と発言し、大笑いされた過去がある。

「ルイスが饒舌なのはノヒンさんのことだけですよ? もしかしたらルイスは……ノヒンさんのことが好きなんじゃないですか? もちろん男として」
「茶化すなよ。俺とルイスはそんなんじゃねぇ……」

 確かにノヒンに対するルイスの態度は、他の団員に対してのものとは違った。それを茶化す団員がいたのも確かだ。それに対してジェシカが、『ノヒンが相手なんてルイスに対して失礼にもほどがある』と、キレていたなと思い出す。

「ふーん……まあいいでしょう。ノヒンさんはこの後どうするんです? すぐにパラン様の所へ?」
「そうだな。武器も戻ってきたことだし、パランのところに向かう。それより礼はどうすればいい? 金はあまり持ってねぇんだ」
「大丈夫ですよ。お礼ならたくさん頂きましたから」
「なんのことだ?」
「ノヒンさんが大量に倒したガルムですよ。骨や皮が丈夫なので、色々と使い道があるんです。血を使えば任意の素材で呪具を作ることも出来ますし」
「そういうことか。っても呪具は使えるやつがいねぇんだろ? 需要はあんのか?」

 呪具を使い続ければ命を落とす可能性や、魔に落ちて降魔になってしまう可能性があるということだったが……

「師匠は言葉が足りないんですよねぇ。話すのが下手と言いますか……。確かに呪具と呼ばれる物は使える人がほとんどいません。ですが魔具であれば別です」
「魔具? 呪具と違うのか?」
「師匠は素材を魔獣の血に浸して呪具にするって言いましたよね? そうじゃないんです。素材を魔獣の血に浸すことで、魔素を宿した魔具になる。魔具を魔具によって鍛えることで呪具になる。呪具になったものは呪具でしか鍛えられない。つまり魔具を普通の鍛冶道具で鍛えれば呪具にはならず、魔具のままなんです。魔具であれば人体や精神に影響はありません。魔獣の皮や骨は元から魔具なので、加工は難しいですが……普通の鍛冶道具で鍛えれば、魔具のままなんです。加工が難しくて材料も手に入りにくくはありますが、それなりに出回ってはいますよ? 魔獣の血に関しては強い魔素を持っているので、扱いが難しいですけどね」
「全然バランガの説明と違うじゃねぇかよ。頭が痛くなってきやがった」
 
 そう言ってノヒンがガシガシと頭を掻きむしり、ルカスが「師匠には困ったものですよねぇ」と笑う。

「……まあですが、魔具と呼んでいるのは鍛冶師だけなので、知らないのも当然ですよ。たぶんノヒンさんが騎士団時代に使っていたツヴァイヘンダーも魔具だったんじゃないかと思います。魔具をへし折るなんてとんでもない人なんだなぁーと思ったものです」
「ちっ……ならルイスも説明しとけってんだ」
「ふふふ、師匠とルイスには苦労させられますよぉ。ルイスも僕くらい話せたら……ノヒンさんがお兄さんになってたかもしれないんですけどねぇ? 残念です」
「そのネタまだ引っ張るのかよ」
「いやいや意外と見えてることだけが真実とは限りませんよ? ……と、まあ援護射撃はこれくらいにしておきますか。そろそろ出ます? 師匠が鍛冶場に篭ってしまってすることがないので……出るならパラン様の所まで案内しますよ?」
「……いやいい」

 ノヒンの雰囲気ががらりと変わる。先程までとは打って変わり、突き放すような冷たい視線でルカスを見る。

「あれ? もしかして嫌われちゃいました?」
「そうじゃねぇんだルカス。理由は言えねぇが、今日は外に出るな。とりあえず家にいてくれねぇか?」
「パラン様の屋敷で何かするつもりですか? 理由如何いかんによっては……」

 ルカスの顔から笑みが消え、まっすぐとノヒンを見据える。

「そう……だな。迷惑はかけねぇから黙って行かせてくれ」
「ふふっ、冗談ですよ。実は少し前にルイスから手紙が届いていたんです。『そのうち例の筋肉長がマルタに行くと思う。出来れば何も聞かずに手を貸してくれないか』って」
「あいつ……」

 「死なない……ですよね?」と、ルカスが真剣な表情でノヒンを見る。

「……終わったら戻ってきて話してくれます?」
「まだどうなるか分かんねぇんだ。死ぬつもりはねぇが……」
「師匠が『最高の呪具を作るんじゃ』って張り切って鍛冶場に篭ってますし……。絶対に戻ってきて下さい。もし戻ってこなかったりしたら……」

 「愛してるって遺言をノヒンさんが残したとルイスに伝えますね」と、ルカスが意地悪そうに笑った。

「ちっ、しつけぇよ」
「では僕は……鉄臭い干し肉でもかじって待っていますね」

 そう言ってテーブルから落ちた干し肉をルカスが齧り、うへぇと顔を歪めた。
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