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その17「スライムとモーション練習」
しおりを挟むヨーイチ
「ん。頼りにしてるぞ」
チナツ
「ふふふ」
レヴィ
「あるじ様。私も居ますよ」
ヨーイチ
「分かってる」
ヨーイチはレヴィに答えた。
それにまたしても、チナツが反応した。
チナツ
「何がだい?」
ヨーイチ
「胸のイシに話してた」
チナツ
「……紛らわしいね」
ヨーイチ
「すまんな」
ヨーイチ自身、面倒だとは思っていた。
だが、こうして話すしか方法が無いのだから、仕方が無い。
ヨーイチ
「さて、それじゃ……」
ヨーイチは、スライムの群れに近付いていった。
いちばん近くに居るスライムが、ヨーイチに気付いたようだ。
半透明の、丸っこい魔獣が1体、ヨーイチに近付いてきた。
ヨーイチは、手に持っている槍を収納した。
そして、新しい槍を取り出した。
チナツ
「持ち替えた……?」
ヨーイチは、槍を構えてスライムに向かった。
ヨーイチ
(弱突き)
ヨーイチは、近付いてくる茶色のスライムに、突きを放った。
下段の、地を這うような突きだ。
槍は、スライムに突き刺さった。
ヨーイチ
「む……」
ヨーイチは、小さく呻き、槍を引き抜いた。
そして、後ろに下がり、スライムと距離を取った。
スライムは、健在だった。
今までと大差ない速度で、じりじりとヨーイチに向かってきた。
ヨーイチ
「ダメか……」
チナツ
「厄介だよね。スライムは」
チナツ
「小さな核をピンポイントで攻撃しないと、仕留められないんだから」
ヨーイチ
「それは物理攻撃の話な」
チナツ
「うん。スライムには呪文が良く効くんだよね」
ヨーイチ
「そうだ。けど、それだけじゃない」
チナツ
「どういうこと?」
ヨーイチ
「ちょっと待ってくれ。そろそろ成功すると思う」
チナツ
「うん」
スライム
「…………!」
スライムは、ヨーイチに飛びかかろうとした。
ヨーイチは、それをステップで回避した。
そして、もう1度スライムを突いた。
またしても、スライムを倒すことは出来なかった。
ヨーイチは間合いをはかり、もう1度突きをはなった。
ヨーイチ
(良し)
すると……。
小さな爆炎が発生し、スライムを吹き飛ばした。
スライムは、影も形も残らなかった。
後には、魔石だけが残されていた。
チナツ
「これは……」
ヨーイチ
「パーフェクトモーションの力だ」
ヨーイチは、チナツの方へ下がり、答えた。
ヨーイチ
「ダンジョンアームの中には、完璧なモーションで振ると、追加効果を発揮するモノが有る」
ヨーイチ
「このプロンズスピアもその1つだ」
ヨーイチ
「ブロンズスピアの追加効果は、魔力による範囲攻撃だ」
ヨーイチ
「属性が乗ってるから、スライムくらいなら瞬殺できる」
チナツ
「へぇ……」
チナツ
「そういえばアキラくんの剣にも、飛び道具を放つモーションが有ったね」
ヨーイチ
「俺との戦いじゃ、使わなかったけどな」
ヨーイチ
「……舐めやがって」
ヨーイチは、別のスライムへ向かっていった。
そして、突いた。
パーフェクトモーションが成立した。
爆炎が発生し、スライムは撃破された。
ヨーイチは槍を持ち替え、さらに別のスライムへ向かい、突きをはなった。
パーフェクトモーションは失敗した。
少し下がり、もう1度突いた。
パーフェクトモーションが成立し、スライムが撃破された。
チナツ
「……地味だね」
チナツは、率直な感想を述べた。
ひたすらに、スライムを突いていくだけだ。
ほとんどの人が、同じ感想を漏らすことだろう。
ヨーイチ
「さいしょのお城の周りで、スライムとダラダラ過ごす」
ヨーイチ
「序盤のレベル上げなんてのは、そんなもんだろ?」
チナツ
「そうかもしれないけどね」
チナツ
「昔のゲームでも、スライムだけじゃなくて、おおからすくらいは居る気がするよ」
ヨーイチ
「そうか?」
チナツ
「ボクはこのまま、見てるだけなのかな?」
ヨーイチ
「べつに、倒したかったら倒しても良いぞ」
チナツ
「良いんだ?」
ヨーイチ
「どっちにせよ、EXPの半分は入るわけだしな」
EXPとは、魔獣が殺害された時に放たれる力だ。
それを吸収することで、冒険者はクラスレベルを上げることが出来る。
倒した本人でなくとも、EXPは入手出来る。
魔獣が倒される瞬間、その近くに居れば良い。
つまり、まったく戦闘に参加していない者でも、EXPを得ることは可能だった。
チナツ
「そういえば、今のボクって経験値ドロボーだよね」
ヨーイチ
「気にしねーよ。同じパーティの仲間だろ?」
ヨーイチ
「一緒に強くなろうぜ」
チナツ
「……うん」
チナツ
「それじゃ、ボクも頑張りますか」
チナツは、ダンジョンブロンズ製の杖を、スライムに向けた。
そして、呪文を唱えた。
チナツ
「かざたち」
風の刃が、スライムに放たれた。
スライムは両断され、絶命した。
呪文がコアに直撃したわけでは無い。
微小な余波が、コアを破壊したのだった。
スライムのコアは、魔術に対し、それほどまでに脆弱だった。
チナツ
「うーん弱い……」
まるで作業のように、スライムは撃破された。
ヨーイチ
「スライムだからな」
ヨーイチ
「スライムごときに呪文使うの、疲れないか?」
武器攻撃と比べ、呪文攻撃は、消耗が激しい。
これが普通の攻略であれば、温存すべきところだった。
チナツ
「仕方ないだろ? ボクは魔術師なんだから」
ヨーイチ
「パーフェクトモーションを使え」
ヨーイチは、スライムを爆散させながら言った。
チナツ
「え?」
ヨーイチ
「お前のフレイムブロンズロッドも、パーフェクトモーションで追加攻撃が出る」
ヨーイチ
「その杖は、炎属性だ」
ヨーイチ
「上手くやれば、青と赤以外のスライムは、1撃で倒せるはずだ」
チナツ
「……マニアックだね」
チナツ
「けど、杖のモーションなんて、ボク知らないよ」
ヨーイチ
「貸してみろ」
チナツ
「……うん」
ヨーイチは、チナツから杖を受け取った。
他人の武器を使うという行為は、厳密に言えば良くない。
だが、これくらいは良いだろう。
ヨーイチはそう考え、杖を構えた。
そして、黒いスライムに向かっていった。
ヨーイチ
(弱スラ)
ヨーイチは杖を振り、スライムに叩きつけた。
弱スラの、パーフェクトモーションが成立した。
杖が爆炎を放ち、スライムを絶命させた。
黒いスライムの弱点は、光属性だ。
炎属性では、弱点攻撃にはならない。
だが、スライムは弱い。
耐性の有る属性でなければ、特に問題は無かった。
ヨーイチ
(槍よりも簡単だな)
ヨーイチ
「これがブロンズロッドの、弱スラのモーションだ」
チナツ
「えっ……」
ヨーイチ
「どうした?」
チナツ
「いきなりどうして、杖のパーフェクトモーションが出せるの?」
ヨーイチ
(やり込んでるからだが……)
ヨーイチ
「天才だからかな?」
チナツ
「なんだかはぐらかされてる気がする」
ヨーイチ
「ハハハマサカ」
チナツ
「いかがわしいオーラでズルしてない?」
ヨーイチ
「してねーよ」
ヨーイチ
「良いからやってみろ」
ヨーイチは、チナツに杖を返却した。
チナツ
「うん……」
チナツは杖を構え、スライムに向かっていった。
チナツ
「ええと……こう?」
チナツはスライム目がけ、杖を振った。
杖の先端が、スライムにぶつかった。
スライムには、強い弾力が有った。
チナツ
「ひゃっ!」
杖が押し返された。
その勢いで、チナツは体勢をくずした。
そして、しりもちをついてしまった。
チナツ
「いたた……」
そこまで痛かったわけではない。
サムライの体は、転んだくらいではびくともしない。
だが、乙女の嗜みとして、チナツは痛がってみせた。
スライム
「…………!」
茶番の隙に、スライムは跳んだ。
スライムが、チナツに飛びかかった。
チナツ
「あっ……」
このままいけば、チナツの顔面が、スライムの体当たりを受ける。
そのとき……。
ヨーイチ
「っと」
ヨーイチのミドルキックが、スライムを蹴り飛ばした。
スライムはごろごろと、地面を転がっていった。
チナツ
「ありがとう」
チナツは立ち上がり、ヨーイチに礼を述べた。
チナツ
「どうにも、ボクは天才じゃなかったみたいだ」
ヨーイチ
「最初はそんなもんだ」
ヨーイチ
「毎日素振りしてたら、そのうち出来るようになる」
チナツ
「うーん……。そこまでする必要有るかな?」
ヨーイチ
「手札は多い方が、良いと思うがな」
チナツ
「それじゃあ、ちょっとだけ頑張ってみるよ」
ヨーイチ
「頑張れ」
チナツは杖を構え、ぶんぶんと素振りを始めた。
再びスライムに襲い掛かるのは、愚策だと考えたらしい。
ヨーイチ
(へったくそだな……)
ヨーイチは、下手な素振りを横目で見ながら、スライムを狩っていった。
そして……。
ヨーイチ
「ぜんめつめつ」
100を超えるスライムの群れが、広間から消滅していた。
ヨーイチが、狩り尽くしたのだった。
チナツ
「終わったんだ?」
ヨーイチ
「いや。むしろこれからだが」
チナツ
「…………?」
ヨーイチ
「そっちの具合はどうだ?」
チナツ
「10回に1回くらいは、パーフェクトモーションが出せるようになってきたよ」
チナツは嬉しそうに言った。
ヨーイチ
「まだまだだな」
ヨーイチは、辛辣だった。
チナツ
「えぇ……」
チナツ
「最初の頃よりは、上手くなったんだけどなぁ……」
ヨーイチ
「そもそも、1モーションしか使えないってのが、論外だ」
ヨーイチ
「武器1つにつき、だいたい20個のモーションを、身に付ける必要が有る」
ヨーイチ
「そして、基本モーションは99%成功するくらいじゃないとダメだ」
チナツ
「ハードルが高い……」
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