2 / 10
1999年6月1日 火曜日
しおりを挟む
梅雨の時期とは思えぬくらい眩しい日差しが病室内を照らしていた。入院案内の説明を聞いているとき、ちゃんと医師の説明を聞いていればよかった。個室での生活がこれほどまでに退屈だとは思わなかったわ…。と芝頼子は唇を噛んだ。ふと時間を確認するために時計に目を向ける。時刻は午後四時五十一分。もうすぐ三人の息子と夫が来る時間だ。頼子はそっと笑みを浮かべ、四人を迎える支度に入った。頼子にとって唯一楽しみにしている時間がやってくる。頼子は心を弾ませながら四人を待った。
「ただいまーお母さん」
ガラガラと病室のドアを開けながら、長男の清が言った。続いて次男の隆、三男の正を病室に迎え入れ、最後に夫の慶太郎を出迎えた。
「おかえり清、隆、正」頼子は笑った。「それと今日もお疲れ様です。お父さん」
「ありがとう」
芝は椅子に座り、頼子に向かって微笑んだ。子供たちはそれぞれ今日の報告をする。テストで百点を取った。友達と仲直りした。新しいゲームが欲しい。など他愛のない会話を進めた。頼子の闘病生活が始まって五年経つ初夏のことだった。
頼子に子宮頸がんが発覚したのが丁度五年前の六月。夫婦で検査を受けたところ、頼子の子宮と骨髄にがんが見つかり、ここ中山医科大学病院付属世田谷総合医療センターに入院することになった。医師との話し合いの結果、最大ステージの一歩手前のステージ三まで進んでいたため、手術ではなく抗がん剤による化学療法治療を行うことにした。家事はそれぞれ分担し、一日に一回は必ず家族全員集まることにする。という約束をし、以後ここまでやってこられた。
「そういえば今日はなんだか妙にうれしそうだなお母さん」
芝がそういうと、頼子は笑った。
「ウフフ、だって医師にいわれたんですもの。がんの進行がなく、このまま治療を続けていれば早くても八月には退院できますよ。って」
「それ、本当か?」
芝と息子の顔の色が明るくなった。
「ええ本当よ。嘘だと思うのなら医師に聞いてみなさいな。きっと喜んで話すと思うわ」
「そうか…それは良かった」
「お母さんの病気、もうすぐ直るの?」
隆が目を輝かせながら聞いた。
「そうよ。隆がちゃんといい子にしていたらお母さんは戻って来られるわよ」
「へへっ、ならちゃんといい子にしているよ。そうしたらオイラは風呂掃除やらなくて済むのかーやったー!」
「こら!隆ったら…」
「隆兄ちゃんはいつも風呂を入れ忘れるからね」
ずっと口を紡いでいた正が口を開くと隆の顔が赤くなった。その光景を見て、ほかの四人はゲラゲラと笑いあったのだった…。
「ただいまーお母さん」
ガラガラと病室のドアを開けながら、長男の清が言った。続いて次男の隆、三男の正を病室に迎え入れ、最後に夫の慶太郎を出迎えた。
「おかえり清、隆、正」頼子は笑った。「それと今日もお疲れ様です。お父さん」
「ありがとう」
芝は椅子に座り、頼子に向かって微笑んだ。子供たちはそれぞれ今日の報告をする。テストで百点を取った。友達と仲直りした。新しいゲームが欲しい。など他愛のない会話を進めた。頼子の闘病生活が始まって五年経つ初夏のことだった。
頼子に子宮頸がんが発覚したのが丁度五年前の六月。夫婦で検査を受けたところ、頼子の子宮と骨髄にがんが見つかり、ここ中山医科大学病院付属世田谷総合医療センターに入院することになった。医師との話し合いの結果、最大ステージの一歩手前のステージ三まで進んでいたため、手術ではなく抗がん剤による化学療法治療を行うことにした。家事はそれぞれ分担し、一日に一回は必ず家族全員集まることにする。という約束をし、以後ここまでやってこられた。
「そういえば今日はなんだか妙にうれしそうだなお母さん」
芝がそういうと、頼子は笑った。
「ウフフ、だって医師にいわれたんですもの。がんの進行がなく、このまま治療を続けていれば早くても八月には退院できますよ。って」
「それ、本当か?」
芝と息子の顔の色が明るくなった。
「ええ本当よ。嘘だと思うのなら医師に聞いてみなさいな。きっと喜んで話すと思うわ」
「そうか…それは良かった」
「お母さんの病気、もうすぐ直るの?」
隆が目を輝かせながら聞いた。
「そうよ。隆がちゃんといい子にしていたらお母さんは戻って来られるわよ」
「へへっ、ならちゃんといい子にしているよ。そうしたらオイラは風呂掃除やらなくて済むのかーやったー!」
「こら!隆ったら…」
「隆兄ちゃんはいつも風呂を入れ忘れるからね」
ずっと口を紡いでいた正が口を開くと隆の顔が赤くなった。その光景を見て、ほかの四人はゲラゲラと笑いあったのだった…。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる