春の日の追憶

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あの人は

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「なあ、頼子さんを振ったって本当か?」
そう聞いてきたのは、同じゼミの板倉誠一郎いたくらせいいちろうだった。
「ああ、そのことか」
鼻で笑いながら、明石康太あかしこうたは答えた。
「だって、つまんないんだもんあの女。俺に尽くしてばっかで、楯突くことすら知らない奴だったし。甘えるのは上手かったけど、俺が何か言ってもスルーすることの方が多かったからな。ただ可愛いだけの女だったな」
「そこまで言うことはないだろ」板倉は眉間にシワを寄せた。「頼子さんは頼子さんなりにお前を愛していたはずだ。確かにお前からの自慢は多かったけど…あんだけ楽しそうにしてただろ。なんでそんなくだらない理由で別れたんだ」
「わかってないなあ、板倉は」ニヤリと笑みを浮かべた。「ああやって尽くしてばかりいて、裏切ることすら知らなさそうな女はいずれ家庭に入るときに辛い思いをする。だから今のうちに耐性をつけさせたんだよ。これも一つの経験さ」
「耐性って…お前は何を言っているんだ」
板倉は耳を疑った。
「まあいずれ分かることだ。女はどうせ結婚したら家事をやる。それで男は仕事。夫婦関係は悪化するか、そのまま良好かはわからない。そうして男はほかの女と関係を持つ。逆も然り。つまりそういうことさ」
板倉はさらに眉間にシワを寄せた。
「まー俺はやっぱり、自分のレベルに合うような女と付き合う方が向いているってことだ」
そう言い、明石は板倉の肩を叩いた。
「…それであの慶應の女に手を出したのか」
「言い方考えてくれるか?ただ単にあっちから付き合おうって言い出してくれただけ。あっちも彼氏を振ったら一緒になろうって言ってくれた。俺は悪くない」
その話を聞いて板倉は、彼に対する嫌悪感が湧き上がるのと同時に心底振られた二人に同情した。こんな奴と今まで付き合っていたのか。かわいそうに…振られて正解だったな。
これ以上関わってもいいことはない。板倉は静かに離れた。
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