209 / 209
Day‘s Eye 咲き誇るデイジー
わちゃわちゃタルコット家からのおたより 【三人称視点】
しおりを挟む
──拝啓、レイラ様
いかがお過ごしでしょうか。
我が家は毎朝忙しいです。おむつ拒否の双子が家を飛び出し、捕まえるのに魔法駆使しております。私の魔力は我が子を捕獲するためにあったのだろうかと自問自答する日々を送ってます。
長男はテオに似て、赤子ながら女の子によくモテます。
この間も町で女の子に餌付けされていました。その日の晩はお腹を下して大変なことになりました。この子の将来が心配です。
行く先で女の子に拾われて飼われそうになるので、いっそ首輪を付けたほうがいいのかと考えております。脱走常連者その1です。
次男は私に似てとても好奇心旺盛です。
彼には不思議な能力が備わっているようで、病気の人の悪い部位を嗅ぎ分けることができるようなのです。
私のように勉強好きに成長するかもしれません。脱走常連者その2です。
実家の両親が手配して設置してくれた柵も彼らの牙によって破壊され、もうぼろぼろです。テオが手の空いた時に修理してくれますが、直したそばから脱走常連者たちが破壊するのでもう諦めました。歯がかゆいんでしょうか。
ふたりとも獣人寄りの子なので魔術師の才能には恵まれないでしょうが、子どもたちにはできる限りの教育を受けさせたいと考えてます。
テオも元気です。
私達は共働きなので、私の負担にならぬよう彼は率先して家事をしてくれます。
子守りも慣れたもので、私は彼がこんなに子ども好きだとは思いませんでした。今では子どもたちをおむつマンに仕立てるのがとても上手になりました。
子どもが一気に2人生まれて毎日大忙しですが、私達は元気にやっています。
レイラ様もお身体お大事になさってください。悪阻止めの薬を同送します。ご活用いただければと思います。
元気な赤ちゃんが生まれるよう、遠い地で祈っております。
それでは。
デイジーより
◆◇◆
「脱走常連者…」
彼女は便箋に顔を伏せてフルフル震えていた。
文章からはちゃめちゃ一家の情景が思い浮かんだのであろう。おそらく彼女が想像する以上に手紙の送り主はてんやわんやしているだろうが。
送り主のデイジーと受け取り主のレイラは、当初微妙な関係で、最悪の結末を迎えた間柄ではあったが、今は手紙を通じて交流を図っていた。
一時は運命の番に拒絶されて廃人状態になったレイラだったが、別の町に住んでいた狼獣人の男性から熱烈な求婚をされ、それを受け入れた。その後は彼のすすめで故郷を離れ、西の港町に居着いた。
彼女がいたのは獣人で固まった村。見知った顔の彼らはレイラがどんな状態に陥ってどんなことをしでかしたかを知っているため、彼女のことを誰も知らない人達のいる場所で暮らしたほうがいいと思った夫の判断である。
そこで夫との新婚生活を送りながら、レイラは少し前までの自分のことを俯瞰するようになった。
あの時、レイラは確かにテオに惹かれた。心の奥底から身体が彼を欲していた。
──だけど今思えばそれは、性欲が反応する、自分の体の相性とぴったりな相手だったからあんなにも惹かれたのかもしれないと思うようになった。
当時のレイラは文字通り狂っていた。テオの心を射止めた彼女を憎いと思っていた。想い合う彼らを引き裂こうとしたのは自分なのに、レイラは自分が選ばれる立場なんだと謎の自信を抱いていた。
だけど結局、テオはレイラを拒絶した。
それはそうだ、テオに薬を盛って既成事実を作ろうとした上に、彼の好きな人をレイラは殺そうとした。いくら運命の番を欲するがゆえの衝動とは言え、レイラはやってはいけないことに足を踏み入れてしまったのだ。
レイラが自ら、運命の番との運命を断ち切ってしまったのだ。
手紙を送ってデイジーに謝罪したのは自分のためだった。自己満足の身勝手な行動。ただ懺悔してスッキリしたかっただけ。だから小包付きで返事が来た時は驚いた。彼女の薬は評判で、遠いこの港町にもあちらの村に足を運んで購入している人がいるくらいだ。それをお試しとはいえこんなにもらっていいのかと困惑したくらいである。
運命の番に溺れて凶行に走ったレイラをデイジーは許してくれた。その時やっと、彼女は運命の番の呪いから解き放たれたのだ。
彼女たちの今の関係性を周りはあまり良くは思わないかもしれないだろうが、彼女たちは定期的な手紙のやり取りをしている。
「なにかおもしろいことが書いてあるの?」
にゅっと後ろから伸びてきたたくましい腕がレイラを優しく包み込む。レイラはその腕に身を任せ、甘えるように相手の首元に頭を擦り付けた。
「私達の子も脱走常連者になるかもしれないわ」
「…そうだね」
くすくす笑うレイラの額に軽く口づけした男性はふとあることに気づいた。
「身体が冷えているじゃないか。ほら冷やさないで」
妊婦に冷えは禁物だ。初の妊娠ということで神経質になっている男性はショールを引っ張ってきてレイラの肩にそっとかけてあげていた。
「大事にしなきゃいけないよ。君はもう一人の身体じゃないんだから」
レイラは夫となった男性に甘えるようにしなだれかかると、目をつぶり幸せそうに微笑んだ。
運命の番という呪縛に縛られ、狂った彼女は今、運命の相手じゃないが彼女を愛し大切にしてくれる伴侶と出会い、幸せに暮らしていた。
いかがお過ごしでしょうか。
我が家は毎朝忙しいです。おむつ拒否の双子が家を飛び出し、捕まえるのに魔法駆使しております。私の魔力は我が子を捕獲するためにあったのだろうかと自問自答する日々を送ってます。
長男はテオに似て、赤子ながら女の子によくモテます。
この間も町で女の子に餌付けされていました。その日の晩はお腹を下して大変なことになりました。この子の将来が心配です。
行く先で女の子に拾われて飼われそうになるので、いっそ首輪を付けたほうがいいのかと考えております。脱走常連者その1です。
次男は私に似てとても好奇心旺盛です。
彼には不思議な能力が備わっているようで、病気の人の悪い部位を嗅ぎ分けることができるようなのです。
私のように勉強好きに成長するかもしれません。脱走常連者その2です。
実家の両親が手配して設置してくれた柵も彼らの牙によって破壊され、もうぼろぼろです。テオが手の空いた時に修理してくれますが、直したそばから脱走常連者たちが破壊するのでもう諦めました。歯がかゆいんでしょうか。
ふたりとも獣人寄りの子なので魔術師の才能には恵まれないでしょうが、子どもたちにはできる限りの教育を受けさせたいと考えてます。
テオも元気です。
私達は共働きなので、私の負担にならぬよう彼は率先して家事をしてくれます。
子守りも慣れたもので、私は彼がこんなに子ども好きだとは思いませんでした。今では子どもたちをおむつマンに仕立てるのがとても上手になりました。
子どもが一気に2人生まれて毎日大忙しですが、私達は元気にやっています。
レイラ様もお身体お大事になさってください。悪阻止めの薬を同送します。ご活用いただければと思います。
元気な赤ちゃんが生まれるよう、遠い地で祈っております。
それでは。
デイジーより
◆◇◆
「脱走常連者…」
彼女は便箋に顔を伏せてフルフル震えていた。
文章からはちゃめちゃ一家の情景が思い浮かんだのであろう。おそらく彼女が想像する以上に手紙の送り主はてんやわんやしているだろうが。
送り主のデイジーと受け取り主のレイラは、当初微妙な関係で、最悪の結末を迎えた間柄ではあったが、今は手紙を通じて交流を図っていた。
一時は運命の番に拒絶されて廃人状態になったレイラだったが、別の町に住んでいた狼獣人の男性から熱烈な求婚をされ、それを受け入れた。その後は彼のすすめで故郷を離れ、西の港町に居着いた。
彼女がいたのは獣人で固まった村。見知った顔の彼らはレイラがどんな状態に陥ってどんなことをしでかしたかを知っているため、彼女のことを誰も知らない人達のいる場所で暮らしたほうがいいと思った夫の判断である。
そこで夫との新婚生活を送りながら、レイラは少し前までの自分のことを俯瞰するようになった。
あの時、レイラは確かにテオに惹かれた。心の奥底から身体が彼を欲していた。
──だけど今思えばそれは、性欲が反応する、自分の体の相性とぴったりな相手だったからあんなにも惹かれたのかもしれないと思うようになった。
当時のレイラは文字通り狂っていた。テオの心を射止めた彼女を憎いと思っていた。想い合う彼らを引き裂こうとしたのは自分なのに、レイラは自分が選ばれる立場なんだと謎の自信を抱いていた。
だけど結局、テオはレイラを拒絶した。
それはそうだ、テオに薬を盛って既成事実を作ろうとした上に、彼の好きな人をレイラは殺そうとした。いくら運命の番を欲するがゆえの衝動とは言え、レイラはやってはいけないことに足を踏み入れてしまったのだ。
レイラが自ら、運命の番との運命を断ち切ってしまったのだ。
手紙を送ってデイジーに謝罪したのは自分のためだった。自己満足の身勝手な行動。ただ懺悔してスッキリしたかっただけ。だから小包付きで返事が来た時は驚いた。彼女の薬は評判で、遠いこの港町にもあちらの村に足を運んで購入している人がいるくらいだ。それをお試しとはいえこんなにもらっていいのかと困惑したくらいである。
運命の番に溺れて凶行に走ったレイラをデイジーは許してくれた。その時やっと、彼女は運命の番の呪いから解き放たれたのだ。
彼女たちの今の関係性を周りはあまり良くは思わないかもしれないだろうが、彼女たちは定期的な手紙のやり取りをしている。
「なにかおもしろいことが書いてあるの?」
にゅっと後ろから伸びてきたたくましい腕がレイラを優しく包み込む。レイラはその腕に身を任せ、甘えるように相手の首元に頭を擦り付けた。
「私達の子も脱走常連者になるかもしれないわ」
「…そうだね」
くすくす笑うレイラの額に軽く口づけした男性はふとあることに気づいた。
「身体が冷えているじゃないか。ほら冷やさないで」
妊婦に冷えは禁物だ。初の妊娠ということで神経質になっている男性はショールを引っ張ってきてレイラの肩にそっとかけてあげていた。
「大事にしなきゃいけないよ。君はもう一人の身体じゃないんだから」
レイラは夫となった男性に甘えるようにしなだれかかると、目をつぶり幸せそうに微笑んだ。
運命の番という呪縛に縛られ、狂った彼女は今、運命の相手じゃないが彼女を愛し大切にしてくれる伴侶と出会い、幸せに暮らしていた。
10
お気に入りに追加
148
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
巨×巨LOVE STORY
狭山雪菜
恋愛
白川藍子は、他の女の子よりも大きな胸をしていた。ある時、好きだと思っていた男友達から、実は小さい胸が好きと言われ……
こちらの作品は、「小説家になろう」でも掲載しております。
え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。
ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。
ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」
ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」
ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」
聞こえてくる声は今日もあの方のお話。
「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16)
自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。
【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
七夜かなた
恋愛
家のために大学卒業と同時に親の決めた人と結婚し、あげく婿養子の夫と愛人に全てを奪われ死んでしまった私。
来世があるなら心から好きな人と幸せになりたいと思って目覚めると、異世界で別人に生まれ変わっていた。
しかも既に結婚していて夫は軍人らしく、遠く離れた地へ単身赴任中。もう半年以上別居状態らしい。
それにどうやら今回も政略結婚で、互いに愛情なんて持っていない。
もう二度と不幸な結婚はしたくない。
この世界の何もかもを忘れてしまった私は一から猛勉強し、夫に捨てられても生きて行けるよう自立を目指します。
え、もう帰って来たの!帰ってくるなら先に連絡ください。
でも、今度の旦那様は何だか違う?
無愛想な旦那様と前世のトラウマが原因で素直に愛を受け取れない主人公。
★は主人公以外目線です。
【*】はR18
本編は完結済みです。37万文字
捨てられた婚約者は隠れチートで無双します!
(笑)
恋愛
貴族の娘フィオナ・アスタークは、将来を約束された王太子との婚約が突然破棄され、すべてを失う。絶望の中、彼女は自身に秘められた力を発見し、かつての自分から新しい人生を歩み始めることを決意する。王都に戻った彼女は、薬師として成功を収め、多くの命を救う存在となるが、彼女を取り巻く人々との再会や、謎めいた呪いの影が王国に忍び寄る。フィオナは自らの力と信念をもって、未来を切り開くために戦う。果たして、彼女が選び取る運命とは――?
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる