150 / 209
Day‘s Eye デイジーの花が開くとき
信じること、嫉妬すること
しおりを挟む
「あたしっテオのことが好きだった!」
「…ありがとな、でも」
「いいの! スッキリするために告白したかっただけだから!」
そう言って村の女の子は言い逃げした。それをテオはぽかんと見送る。
──数ヶ月前に行われた婚活祭りでは多数の番が成立した。そのため、女の子側は相手の住む町や村へ嫁ぐこととなっており、皆その準備に勤しんでいた。
テオを射止めようと頑張っていた女子も見切りをつけて、いい感じになった男性との結婚を決めた。それはとてもおめでたいのだが、最後の総仕上げとばかりに好きだった男に告白してスッキリするというのが彼女たちの流行らしい。
告白した方はスッキリだろうが、断る方は変な罪悪感があるようで、相次ぐ告白にテオはぐったりしていた。
「おつかれ」
道のど真ん中で突っ立って途方に暮れる奴に声をかけると、テオはギュンと振り返り、私を腕の中に閉じ込めた。そして安定のスーハー。私の匂いは精神安定の効果でもあるんだろうか。
「…なんかここ最近言い逃げで告白されるんだけど」
「スッキリしたいだけの自己満足でしょ。あんたは「ありがとう、ごめんね」って言っときゃいいのよ」
彼女らにはいずれ番となる男性がいる。それなのにテオに告白するのは、自分の恋心を知っておいてほしいだけの完全な自己満だ。テオはそのすべてをまともに受け入れなくてもいいと思う。
「…お前淡々としすぎじゃない? 妬いたりとかしねーのかよ」
「逐一嫉妬して怒鳴るの? やだよ疲れる」
そもそも私がそういう性格じゃないとあんたはわかってるだろう。浮気現場を見た訳でもないのに、嫉妬して怒鳴って誰が得するというのか。
私はテオの獣耳に手を伸ばすと、きゅっと軽く引っ張った。それがくすぐったいのか、テオは目を細めていた。
「あんたは私のことが好きなんでしょ? なら、嫉妬するだけ無駄じゃない」
テオが私のことを好きなのは公然の事実だし、それをわかってるから私は落ち着いていられるのだ。
嫉妬するだけが愛情表現じゃないと思うんだ。信じることも大事だと私は思う。
だが、テオは獣人だから逆の考え方なのだろうか。なんか尻尾ブンブン振ってるけど。
テオは私のおでこにキスを落とすと、ぐりぐりと頬ずりしてきた。ほら、あんたが好き好きと愛情表現するのはこの世界で私だけでしょ?
テオの首に腕を回して引き寄せると、テオの唇に自分のそれを押し付ける。触れるだけの簡単なキスだが、テオの心に火を付けたらしい。キスの嵐をお見舞いされ、私はキスで窒息しそうになった。
私が愛情1与えると、10返してくるテオ。こんな状態なのに、告白現場見ただけで嫉妬しろと言うのは無理な話だろう。
同級生たちが結婚を決め、我先にと番と結ばれていく。私達もいつかは、とは思っているが、具体的には決まっていない。
テオも求婚したそうだが、男性側にも準備というものが必要らしく、裏でコソコソしているみたいなのだ。なので私は気づかないふりをして過ごしていた。
獣人社会では、相手の家族の許しを得なくては求婚できないしきたりなのである。経済力に人柄、相手の家族のこととかその他諸々しっかり調べ上げられて判断される。
……そこで相手の親が反対したら、男性は求婚すら出来ない。たとえ、恋人同士であったとしてもだ。
そんな訳でテオは今、村の養両親に加えてフォルクヴァルツの実両親に求婚のお伺いを立てている。2倍大変な思いをして、お許しを待っている最中なのである。
私達はしばらく離れていた期間があったし、まだ恋人になって日が浅い。なので、私は失った時間を取り戻す形で恋人期間を楽しんでも構わないので彼らを急かしたりはしない。
だけどテオはその逆でめちゃくちゃ焦ってるみたいだ。私は別に呆れて逃げたりしないから大丈夫なのに。
■□■
「ここに薬作りが得意な魔術師がいると聞いたのだけど…」
その人は私の評判を聞いて村へとわざわざ足を運んできたのだという。素朴な田舎には不似合いな華やかな装いの女性は、親子ほどの年の差婚した夫が死んで、つい半年ほど前に未亡人となったとか。
その割には服装が派手だが……夫を亡くした夫人が喪服のような白黒の服装で居るのは気持ちの問題だし、別に悪いことじゃないんだけどさ。
多額の遺産を相続して、お金に不自由しない彼女の目的は私の作った美容クリーム。しかも高い金額払う代わりに、普段のクリームよりもいいものを作って欲しいとの注文だ。
はるばるやってきて美容クリーム……薬じゃないのか…と心の中でがっかりしたのは秘密である。
「より高濃度の美容クリームとなると、お時間をいただかなくてはならなくなりますが……代金もそれなりに高額になりますし」
成分の見直し、作り方の変更を余儀なくされるので、テスト期間も欲しい。納品まで時間をくれと告げると、彼女は鷹揚に頷いた。
「しばらく隣の町に滞在するから構わないわ。お金には糸目をつけないから安心して頂戴」
「わかりました。それでは滞在先の宿名とご依頼主様のお名前を控えさせてください。それと前金で5000リラいただきます」
私が販売する通常の美容クリームは現在2500リラだ。だがそれよりも高濃度のクリームをオーダーされたので、注文代金としてちょっと多めに前金を請求する。
すると彼女は一緒に出向いてきた侍女らしき壮年の女性から小さなお財布を受け取り、きっちり5000リラ支払った。
「出来上がりを楽しみにしてるわね」
ニッコリと笑うと彼女は差していた日傘をくるりと回して踵を返した。そのまま来た時に乗ってきた馬車で戻るんだろうなと思って見送っていたのだが、なぜだか彼女の足はピタリと止まってしまった。
「…どうかされました?」
怪訝に思って私が後ろから声をかけるも、彼女の反応は鈍い。風にのってふわっと日傘が飛んでいく。その御蔭で原因がわかった。
テオである。彼はなんだか顔をしかめている。ものすごい匂いを嗅いでしまったとばかりに歪められており、それは不機嫌そうにも見えた。
未亡人はテオの姿を見て、呆然とした。その瞳は潤み、白粉がはたかれた真っ白な肌には赤みがさす。まるで恋に落ちた人間である。
「まぁ…あなた、狼獣人ね? お名前は?」
「…? テオですけど…」
目をキラキラさせて擦り寄ってきた彼女にテオは少し顔をしかめていた。……恐らく彼女の香水の匂いが嫌なのだろう。なるべく態度には出さないようにしているが、獣人の鼻には公害のような匂いがするのだろう。息を止めてる気配すらする。
それに気づかないのだろう。夫人はテオの腕に手を絡めると、ギュムッと胸を押し付けていた。唇に引かれた紅が弧を描き、なんだか艶かしく映った。
「あなた、今晩私と食事でもどうかしら?」
真っ昼間から堂々とお誘いである。
未亡人が誘うと如何わしく聞こえるのはなぜなのか。間違いなく下心込みだろうけど。
私がぽけーっと眺めているのに気づいたテオは彼女の腕をそっと離すと素早く離れて、私を力いっぱい抱きしめてきた。
その際私の匂いを嗅ぐのも忘れない。初対面の人間の前でそれはやめろ。恥ずかしいし失礼だろう。しばらくスーハースーハーして、一拍置いた後に奴はキリッとした顔でこう言った。
「悪いですけど、俺はデイジー以外の女には興味ないですから」
カッコよく決めたと言わんばかりにキメ顔しているが、その前の行動がすべてを台無しにしている。
「あら…魔術師さんの恋人なの……」
えらくがっかりした声で未亡人がつぶやいた。物欲しげに尖らせた唇に指先を押し当てていた彼女はテオから視線を離さなかった。その目はまるで野生の肉食獣のようである。
テオは警戒しているようでビビビと細かく震えている。野生の勘か、優れた五感で貞操の危機を察知しているのかな。
「…お金を払うと言ったら譲ってくれるかしら?」
その言葉に私はぎょっとする。
まるで金で買えるみたいな言い方じゃないか。テオは男娼でもないし、奴隷でもないんだぞ。何だその言い方は。
「ふざけんなよ、尚更断るっつの」
グルグル唸るテオ。
純朴な村育ちなテオだが、彼の気質は狼そのもの。一途な彼はこの未亡人のような奔放な女性が苦手なんだろう。
テオが他の女になびくとは私も思ってない。だけどそれでも、面白くはないな。
「前金で頂いていたお金返します。あなたのご依頼をお断りさせていただきます」
私は受け取ったばかりの5000リラを突き返した。
「あら、怒らせてしまったかしら?」
小娘をからかって遊んでいるつもりなのか、それとも大人の余裕なのか。目を細めて笑う彼女はなかなかいい性格をしているようだ。
私は自分の大切な人を侮辱するような相手の依頼なんか受けたくないのだ。
「私には客を選ぶ権利はありますし、お金には困ってないので。あとテオはモノじゃないのでお断りします」
ただ単純に腹が立つ。
テオを守るようにざっと前に出ると、後ろからたくましい腕が回ってきて私を抱き寄せてきた。
「俺にはお前だけだぞ?」
「何も言ってないでしょうが」
私のこめかみに口づけを落としてベタベタしてくるテオ。人前でいちゃつくなといつも言っているのに、全くもう…
「…気分を害したのはごめんなさい、だけどあなたの美容クリームはどうしても使いたいの。謝罪するから許してくれない?」
そんなに溺愛されてるなら、諦めるからと肩をすくめた未亡人は、飛んでしまった日傘を侍女から受け取っていた。
「謝罪されても、テオは売りませんから……二度はありませんよ」
「わかったわ。倍額払うからどうか機嫌を直して頂戴な」
私の頭の上でグルグル唸るテオと、お金を握らせてくる未亡人に挟まれ、私は葛藤した。
…まぁ、仕事は仕事だからな。
謝罪を受け取った私はしっかりお金を受け取った。
研究に研究を重ねた特濃美容クリームは様々な薬草や生薬、美容成分を組み合わせたものになった。パッチテスト試験合格後に未亡人へ納品した。
その美容クリームは彼女のお眼鏡に叶い、定期購入として遠くに住む彼女へ月イチ配達するようになったのである。
「…ありがとな、でも」
「いいの! スッキリするために告白したかっただけだから!」
そう言って村の女の子は言い逃げした。それをテオはぽかんと見送る。
──数ヶ月前に行われた婚活祭りでは多数の番が成立した。そのため、女の子側は相手の住む町や村へ嫁ぐこととなっており、皆その準備に勤しんでいた。
テオを射止めようと頑張っていた女子も見切りをつけて、いい感じになった男性との結婚を決めた。それはとてもおめでたいのだが、最後の総仕上げとばかりに好きだった男に告白してスッキリするというのが彼女たちの流行らしい。
告白した方はスッキリだろうが、断る方は変な罪悪感があるようで、相次ぐ告白にテオはぐったりしていた。
「おつかれ」
道のど真ん中で突っ立って途方に暮れる奴に声をかけると、テオはギュンと振り返り、私を腕の中に閉じ込めた。そして安定のスーハー。私の匂いは精神安定の効果でもあるんだろうか。
「…なんかここ最近言い逃げで告白されるんだけど」
「スッキリしたいだけの自己満足でしょ。あんたは「ありがとう、ごめんね」って言っときゃいいのよ」
彼女らにはいずれ番となる男性がいる。それなのにテオに告白するのは、自分の恋心を知っておいてほしいだけの完全な自己満だ。テオはそのすべてをまともに受け入れなくてもいいと思う。
「…お前淡々としすぎじゃない? 妬いたりとかしねーのかよ」
「逐一嫉妬して怒鳴るの? やだよ疲れる」
そもそも私がそういう性格じゃないとあんたはわかってるだろう。浮気現場を見た訳でもないのに、嫉妬して怒鳴って誰が得するというのか。
私はテオの獣耳に手を伸ばすと、きゅっと軽く引っ張った。それがくすぐったいのか、テオは目を細めていた。
「あんたは私のことが好きなんでしょ? なら、嫉妬するだけ無駄じゃない」
テオが私のことを好きなのは公然の事実だし、それをわかってるから私は落ち着いていられるのだ。
嫉妬するだけが愛情表現じゃないと思うんだ。信じることも大事だと私は思う。
だが、テオは獣人だから逆の考え方なのだろうか。なんか尻尾ブンブン振ってるけど。
テオは私のおでこにキスを落とすと、ぐりぐりと頬ずりしてきた。ほら、あんたが好き好きと愛情表現するのはこの世界で私だけでしょ?
テオの首に腕を回して引き寄せると、テオの唇に自分のそれを押し付ける。触れるだけの簡単なキスだが、テオの心に火を付けたらしい。キスの嵐をお見舞いされ、私はキスで窒息しそうになった。
私が愛情1与えると、10返してくるテオ。こんな状態なのに、告白現場見ただけで嫉妬しろと言うのは無理な話だろう。
同級生たちが結婚を決め、我先にと番と結ばれていく。私達もいつかは、とは思っているが、具体的には決まっていない。
テオも求婚したそうだが、男性側にも準備というものが必要らしく、裏でコソコソしているみたいなのだ。なので私は気づかないふりをして過ごしていた。
獣人社会では、相手の家族の許しを得なくては求婚できないしきたりなのである。経済力に人柄、相手の家族のこととかその他諸々しっかり調べ上げられて判断される。
……そこで相手の親が反対したら、男性は求婚すら出来ない。たとえ、恋人同士であったとしてもだ。
そんな訳でテオは今、村の養両親に加えてフォルクヴァルツの実両親に求婚のお伺いを立てている。2倍大変な思いをして、お許しを待っている最中なのである。
私達はしばらく離れていた期間があったし、まだ恋人になって日が浅い。なので、私は失った時間を取り戻す形で恋人期間を楽しんでも構わないので彼らを急かしたりはしない。
だけどテオはその逆でめちゃくちゃ焦ってるみたいだ。私は別に呆れて逃げたりしないから大丈夫なのに。
■□■
「ここに薬作りが得意な魔術師がいると聞いたのだけど…」
その人は私の評判を聞いて村へとわざわざ足を運んできたのだという。素朴な田舎には不似合いな華やかな装いの女性は、親子ほどの年の差婚した夫が死んで、つい半年ほど前に未亡人となったとか。
その割には服装が派手だが……夫を亡くした夫人が喪服のような白黒の服装で居るのは気持ちの問題だし、別に悪いことじゃないんだけどさ。
多額の遺産を相続して、お金に不自由しない彼女の目的は私の作った美容クリーム。しかも高い金額払う代わりに、普段のクリームよりもいいものを作って欲しいとの注文だ。
はるばるやってきて美容クリーム……薬じゃないのか…と心の中でがっかりしたのは秘密である。
「より高濃度の美容クリームとなると、お時間をいただかなくてはならなくなりますが……代金もそれなりに高額になりますし」
成分の見直し、作り方の変更を余儀なくされるので、テスト期間も欲しい。納品まで時間をくれと告げると、彼女は鷹揚に頷いた。
「しばらく隣の町に滞在するから構わないわ。お金には糸目をつけないから安心して頂戴」
「わかりました。それでは滞在先の宿名とご依頼主様のお名前を控えさせてください。それと前金で5000リラいただきます」
私が販売する通常の美容クリームは現在2500リラだ。だがそれよりも高濃度のクリームをオーダーされたので、注文代金としてちょっと多めに前金を請求する。
すると彼女は一緒に出向いてきた侍女らしき壮年の女性から小さなお財布を受け取り、きっちり5000リラ支払った。
「出来上がりを楽しみにしてるわね」
ニッコリと笑うと彼女は差していた日傘をくるりと回して踵を返した。そのまま来た時に乗ってきた馬車で戻るんだろうなと思って見送っていたのだが、なぜだか彼女の足はピタリと止まってしまった。
「…どうかされました?」
怪訝に思って私が後ろから声をかけるも、彼女の反応は鈍い。風にのってふわっと日傘が飛んでいく。その御蔭で原因がわかった。
テオである。彼はなんだか顔をしかめている。ものすごい匂いを嗅いでしまったとばかりに歪められており、それは不機嫌そうにも見えた。
未亡人はテオの姿を見て、呆然とした。その瞳は潤み、白粉がはたかれた真っ白な肌には赤みがさす。まるで恋に落ちた人間である。
「まぁ…あなた、狼獣人ね? お名前は?」
「…? テオですけど…」
目をキラキラさせて擦り寄ってきた彼女にテオは少し顔をしかめていた。……恐らく彼女の香水の匂いが嫌なのだろう。なるべく態度には出さないようにしているが、獣人の鼻には公害のような匂いがするのだろう。息を止めてる気配すらする。
それに気づかないのだろう。夫人はテオの腕に手を絡めると、ギュムッと胸を押し付けていた。唇に引かれた紅が弧を描き、なんだか艶かしく映った。
「あなた、今晩私と食事でもどうかしら?」
真っ昼間から堂々とお誘いである。
未亡人が誘うと如何わしく聞こえるのはなぜなのか。間違いなく下心込みだろうけど。
私がぽけーっと眺めているのに気づいたテオは彼女の腕をそっと離すと素早く離れて、私を力いっぱい抱きしめてきた。
その際私の匂いを嗅ぐのも忘れない。初対面の人間の前でそれはやめろ。恥ずかしいし失礼だろう。しばらくスーハースーハーして、一拍置いた後に奴はキリッとした顔でこう言った。
「悪いですけど、俺はデイジー以外の女には興味ないですから」
カッコよく決めたと言わんばかりにキメ顔しているが、その前の行動がすべてを台無しにしている。
「あら…魔術師さんの恋人なの……」
えらくがっかりした声で未亡人がつぶやいた。物欲しげに尖らせた唇に指先を押し当てていた彼女はテオから視線を離さなかった。その目はまるで野生の肉食獣のようである。
テオは警戒しているようでビビビと細かく震えている。野生の勘か、優れた五感で貞操の危機を察知しているのかな。
「…お金を払うと言ったら譲ってくれるかしら?」
その言葉に私はぎょっとする。
まるで金で買えるみたいな言い方じゃないか。テオは男娼でもないし、奴隷でもないんだぞ。何だその言い方は。
「ふざけんなよ、尚更断るっつの」
グルグル唸るテオ。
純朴な村育ちなテオだが、彼の気質は狼そのもの。一途な彼はこの未亡人のような奔放な女性が苦手なんだろう。
テオが他の女になびくとは私も思ってない。だけどそれでも、面白くはないな。
「前金で頂いていたお金返します。あなたのご依頼をお断りさせていただきます」
私は受け取ったばかりの5000リラを突き返した。
「あら、怒らせてしまったかしら?」
小娘をからかって遊んでいるつもりなのか、それとも大人の余裕なのか。目を細めて笑う彼女はなかなかいい性格をしているようだ。
私は自分の大切な人を侮辱するような相手の依頼なんか受けたくないのだ。
「私には客を選ぶ権利はありますし、お金には困ってないので。あとテオはモノじゃないのでお断りします」
ただ単純に腹が立つ。
テオを守るようにざっと前に出ると、後ろからたくましい腕が回ってきて私を抱き寄せてきた。
「俺にはお前だけだぞ?」
「何も言ってないでしょうが」
私のこめかみに口づけを落としてベタベタしてくるテオ。人前でいちゃつくなといつも言っているのに、全くもう…
「…気分を害したのはごめんなさい、だけどあなたの美容クリームはどうしても使いたいの。謝罪するから許してくれない?」
そんなに溺愛されてるなら、諦めるからと肩をすくめた未亡人は、飛んでしまった日傘を侍女から受け取っていた。
「謝罪されても、テオは売りませんから……二度はありませんよ」
「わかったわ。倍額払うからどうか機嫌を直して頂戴な」
私の頭の上でグルグル唸るテオと、お金を握らせてくる未亡人に挟まれ、私は葛藤した。
…まぁ、仕事は仕事だからな。
謝罪を受け取った私はしっかりお金を受け取った。
研究に研究を重ねた特濃美容クリームは様々な薬草や生薬、美容成分を組み合わせたものになった。パッチテスト試験合格後に未亡人へ納品した。
その美容クリームは彼女のお眼鏡に叶い、定期購入として遠くに住む彼女へ月イチ配達するようになったのである。
10
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。
せいめ
恋愛
婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。
そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。
前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。
そうだ!家を出よう。
しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。
目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?
豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。
金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!
しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?
えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!
ご都合主義です。内容も緩いです。
誤字脱字お許しください。
義兄の話が多いです。
閑話も多いです。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【本編・改稿版】来世でも一緒に
霜月
恋愛
「お父様にはお母様がいて、後継には弟がいる。後は私が素敵な殿方をゲットすれば万事おっけー! 親孝行にもなる!!」
そう豪語し、その為に血の滲むような努力をしてきたとあるご令嬢が、無愛想で女嫌いと噂される王弟・大公に溺愛される話。
◆8月20日〜、改稿版の再掲を開始します。ストーリーに大きな変化はありませんが、全体的に加筆・修正をしています。
◆あくまで中世ヨーロッパ『風』であり、フィクションであることを踏まえた上でお読みください。
◆R15設定は保険です。
本編に本番シーンは出て来ませんが、ちょいエロぐらいは書けている…はず。
※R18なお話は、本編終了後に番外編として上げていきますので、よろしくお願いします。
【お礼と謝罪】
色々とありまして、どうしても一からやり直したくなりました。相変わらずダメダメ作家で申し訳ありません。
見捨てないでいてくださる皆様の存在が本当に励みです。
本当にすみません。そして、本当にありがとうございます。
これからまた頑張っていきますので、どうかよろしくお願い致します。
m(_ _)m
霜月
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる