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Day's Eye 森に捨てられたデイジー
私がガリ勉クイーンなら、彼はガリ勉キング
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私が呪い返しをしたことで続行不可能となった公開取り調べ。あの後の話を先生から聞かされた。
リリス・グリーンの身柄は王直轄の魔法庁へ輸送されたそうだ。魔法魔術省を抜かして庁のほうの役人が動いたということはそれほど大きな案件だからであろう。一国の王子・貴族令嬢を禁忌の黒呪術で追い詰め、国家転覆を狙った罪は消して軽くはない。
しかし、リリスを刑罰に処するのは難しいかもしれないという。
私の行った防衛術でリリスは現在大変なことになっている。
リリスが過去にかけた禁術はそこそこ多く、魔術師がその返ってきた呪いの効果を打ち消すにしても、途方も無い時間と力が必要とのこと。むしろ解呪が追いつかないそうだ。リリスがどれだけ人に黒呪術をかけてきたんだという話になる。
今は延命の術をかけられてなんとか生かしているが、返ってきた呪いのせいで永くは保たない。リリスは異形の形となって、死を待つのみの状態に陥っているそうだ。
言葉は通じるので、命あるうちにすべて自供させようとするが、リリスが吐く気配はなく、呪詛ばっか吐き出すそうだ。しかたなく記憶を覗き込む術をかけようとしたが、リリスはそれを拒絶する術に長けており、探ることも難しい。もうむしろ禁術である服従術を特例で使っては? という話も出てきているらしい。
結局協力者もとい親玉はわからないまま。使い方を間違えなければ、素晴らしい魔術師になれただろうに、リリス・グリーンはなぜ、犯罪に手を染めたのであろう。
それで私は学校まで出向いてきた魔法庁の役人さんから事情聴取を受けたが、大勢の目撃者がいること、ただ単に呪い返しをして防御しただけだったのでお咎めなしであった。
かなり後味悪い結末になったが、リリスは禁術に手を染めていたので、死罪は免れなかった。なるようにしてなったようなものである。
いやしかし、自分が黒呪術を操った術者の行く末を目の当たりにするとは思わなんだ……絶対黒呪術には手を染めないと心に誓った14の冬であった。
「この本は持ち出しが出来ないこととなっているんです」
「あ…そうですか…」
王太子殿下直々に特別塔の図書館入場許可証を発行してもらった私はその日以降、放課後も休日も特別塔図書館に通いっぱなしになった。
とはいえ、借りた後一般塔の図書館や寮の部屋に持ち込んで読み込んでいたのだが、ここに来て持ち出し禁止の本が出てきた。私はしょんぼりしてしまう。
特別許可を頂いたとはいえ、私はしがない一般庶民。お貴族様の目にはつかないように長居を避けてきたのだが……そうか…持ち出しできないのか……
「ここで読まれたらいいのではないかしら」
「あ…ファーナム様…ごきげんよう」
今日もきらきらなお姫様であるファーナム嬢がいつの間にか自分の後ろにいた。びっくりした。いつからいたの。
「あなたは許可を頂いているから、ここで本を読んでも許されるのよ?」
「あー…」
まぁ、この特別塔の図書館も人が多いってわけじゃない。ここにやってくる常連さんは読書家か勉強家の人ばかりみたいなので、私がチョロチョロしていてもそのへんのドブネズミみたいな扱いで目もくれない。
この本は読みたい。だけど持ち出せない。それなら次に取る行動はひとつだけだ。
「…そうですね…じゃあ目立たない席で読ませていただくことにします」
私は司書さんにペコリと頭を下げると、図書館の本棚の奥の方に歩をすすめた。
「マックさん? 席はあちらにも…」
私の行動を不思議そうに見ていたファーナム嬢に呼び止められたが、私は「大丈夫です」と返す。本を探している時に見つけたんだ。ひっそりとした場所を。
本棚に挟まれた、隠れ家的な奥まった場所には時代を感じる古びた席がある。薄暗く読書には向かないが、そこはランプに火を付けて明かりを灯せば問題ない。使い古された机は薄汚れており、傷だらけですり減っているが、自然と手に馴染む。クッション部分が破けた椅子、古い机。設備の整った特別塔の図書館には不釣り合いだが、私はそこが気に入ったのだ。
「あら…こんな場所があったのね」
「ひっそりしていて集中しやすそうでしょう?」
私はそこに座るとランプ明かりに火をともした。うん、いい感じである。
この辺の本棚には人が寄り付かない。結構昔の本が置いてあってどれも面白そうなのだけど、誰も手に取らないのだ。勿体無い。こんな素晴らしい図書館が存在するのに、なぜお貴族様達は図書館を利用しないのか。自分たちがいかに恵まれているか考えるべきである。実に勿体無い。
「ここまで気に入られると、きっと本も喜んでいるわ…そういえば、マックさんは王立図書館には行ったことある?」
「ないですね」
王立図書館に庶民が行けると思う? 行けないでしょうが。国民全員に開放しているとはいえ、敷居が高すぎて入れません。
「そしたら今度案内するわ。きっとあなたのお眼鏡に叶うはずよ」
「はぁ…」
あれ以降もファーナム嬢は私と交流を持とうとする。彼女の厚意がどうであれ、線引きは必要なので、私はいつも3歩くらい下がった位置から接する。過剰な太鼓持ちするわけじゃないが、相手は貴族のお姫様、未来の王妃様なので、それ相応の礼儀をはらっている。
そんな私の存在が面白くないのか、「物珍しいドブネズミを気まぐれに愛でているだけ」と聞こえるように悪口を言う貴族もいたが、否定はできないので聞こえないふりをしている。まさか私がお貴族様に陰口を叩かれる日が来るとは。ドブネズミな庶民の存在を認められていることが凄い。
ファーナム嬢だけでなく、王太子殿下、フレッカー卿という王族、上位貴族からの覚えがめでたいのも気に入らない理由の一つなんだろう。ちなみにフレッカー卿は侯爵家出身だそうだ。
人というものは自分よりも下の存在に安心する生き物だ。自分よりも下の庶民が尊い立場の人に良くされている光景を見ると面白くないのだろう。
私はなにもお貴族様に喧嘩を売る気はない。私は本を読みに来ているのだ。何人たりとも私の勉強の邪魔をすることは許さぬ…!
そんなこんなで通い詰めていくうちに、その席は私の指定席となった。他のお貴族様とも顔見知りになったりもしたが、極力関わりを持たなかった。私の目的は本である。お貴族様に用はない。
はじめは私の存在に眉をひそめていたお貴族様たちも私の気迫に圧倒されたのか、避けて通るようになった。
ガリ勉クイーンとここでも陰口を叩かれているらしいが、私は胸を張って言える。どうも私がガリ勉クイーンのデイジー・マックです。って。
「もうすぐ試験が始まるが、調子はどうだね?」
調べ物で図書館にやってきたというフレッカー卿から問われた言葉に私は自信満々に笑ってみせた。
「多分大丈夫です。中間試験でもいい成績を残せましたし、3年生の内容はだいたい把握できました。次も学年トップを目指します」
ひと月前に中間テストが行われたが、私は満点の3学年トップの成績を修めた。暇さえあれば先生をとっ捕まえて質問責めにするのも相変わらずで、私が職員室にやってくると先生方がピシッと緊張状態になるようになった。
別に怖がる必要はないと思うのだけど、今日は誰だ? 誰を質問攻めにするんだ? と怯えた目で見られるんだ。まぁそんな目で見られても質問は遠慮なくするけど。
「そしたら次は4年生の教科書を貸してあげよう。…本当、君が一般塔の生徒なのが惜しいくらいだよ」
「ははは…いつもありがとうございます」
来月には一ヶ月の長期休暇に入る。その時にまた勉強をすすめてしまおう。可能であればまた飛び級試験が受けたい。
カンナはそんな私を急ぎすぎ、慌てすぎというが、これが自分の速度なのだ。私は元来勉強が好きな性質なので、勉強することは苦ではない。魔法の練習も好きだし、それらが自分の血肉になっているとわかるととてもうれしいのだ。
「一日も早く、立派な魔術師になりたいです」
私がそう言うと、フレッカー卿は少し呆けた顔をしていた。しかしすぐにフッと軽く笑うと、「この学校に来た時点で君はもうすでに魔術師なんだよ。その調子で頑張りなさい」と応援してくれた。
私とフレッカー卿は親子ほどの年の差があるが、もしも同い年だったらいい学友になれた気がする。
きっと彼も学生の頃はガリ勉キングと呼ばれていたに違いない。
リリス・グリーンの身柄は王直轄の魔法庁へ輸送されたそうだ。魔法魔術省を抜かして庁のほうの役人が動いたということはそれほど大きな案件だからであろう。一国の王子・貴族令嬢を禁忌の黒呪術で追い詰め、国家転覆を狙った罪は消して軽くはない。
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今は延命の術をかけられてなんとか生かしているが、返ってきた呪いのせいで永くは保たない。リリスは異形の形となって、死を待つのみの状態に陥っているそうだ。
言葉は通じるので、命あるうちにすべて自供させようとするが、リリスが吐く気配はなく、呪詛ばっか吐き出すそうだ。しかたなく記憶を覗き込む術をかけようとしたが、リリスはそれを拒絶する術に長けており、探ることも難しい。もうむしろ禁術である服従術を特例で使っては? という話も出てきているらしい。
結局協力者もとい親玉はわからないまま。使い方を間違えなければ、素晴らしい魔術師になれただろうに、リリス・グリーンはなぜ、犯罪に手を染めたのであろう。
それで私は学校まで出向いてきた魔法庁の役人さんから事情聴取を受けたが、大勢の目撃者がいること、ただ単に呪い返しをして防御しただけだったのでお咎めなしであった。
かなり後味悪い結末になったが、リリスは禁術に手を染めていたので、死罪は免れなかった。なるようにしてなったようなものである。
いやしかし、自分が黒呪術を操った術者の行く末を目の当たりにするとは思わなんだ……絶対黒呪術には手を染めないと心に誓った14の冬であった。
「この本は持ち出しが出来ないこととなっているんです」
「あ…そうですか…」
王太子殿下直々に特別塔の図書館入場許可証を発行してもらった私はその日以降、放課後も休日も特別塔図書館に通いっぱなしになった。
とはいえ、借りた後一般塔の図書館や寮の部屋に持ち込んで読み込んでいたのだが、ここに来て持ち出し禁止の本が出てきた。私はしょんぼりしてしまう。
特別許可を頂いたとはいえ、私はしがない一般庶民。お貴族様の目にはつかないように長居を避けてきたのだが……そうか…持ち出しできないのか……
「ここで読まれたらいいのではないかしら」
「あ…ファーナム様…ごきげんよう」
今日もきらきらなお姫様であるファーナム嬢がいつの間にか自分の後ろにいた。びっくりした。いつからいたの。
「あなたは許可を頂いているから、ここで本を読んでも許されるのよ?」
「あー…」
まぁ、この特別塔の図書館も人が多いってわけじゃない。ここにやってくる常連さんは読書家か勉強家の人ばかりみたいなので、私がチョロチョロしていてもそのへんのドブネズミみたいな扱いで目もくれない。
この本は読みたい。だけど持ち出せない。それなら次に取る行動はひとつだけだ。
「…そうですね…じゃあ目立たない席で読ませていただくことにします」
私は司書さんにペコリと頭を下げると、図書館の本棚の奥の方に歩をすすめた。
「マックさん? 席はあちらにも…」
私の行動を不思議そうに見ていたファーナム嬢に呼び止められたが、私は「大丈夫です」と返す。本を探している時に見つけたんだ。ひっそりとした場所を。
本棚に挟まれた、隠れ家的な奥まった場所には時代を感じる古びた席がある。薄暗く読書には向かないが、そこはランプに火を付けて明かりを灯せば問題ない。使い古された机は薄汚れており、傷だらけですり減っているが、自然と手に馴染む。クッション部分が破けた椅子、古い机。設備の整った特別塔の図書館には不釣り合いだが、私はそこが気に入ったのだ。
「あら…こんな場所があったのね」
「ひっそりしていて集中しやすそうでしょう?」
私はそこに座るとランプ明かりに火をともした。うん、いい感じである。
この辺の本棚には人が寄り付かない。結構昔の本が置いてあってどれも面白そうなのだけど、誰も手に取らないのだ。勿体無い。こんな素晴らしい図書館が存在するのに、なぜお貴族様達は図書館を利用しないのか。自分たちがいかに恵まれているか考えるべきである。実に勿体無い。
「ここまで気に入られると、きっと本も喜んでいるわ…そういえば、マックさんは王立図書館には行ったことある?」
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「はぁ…」
あれ以降もファーナム嬢は私と交流を持とうとする。彼女の厚意がどうであれ、線引きは必要なので、私はいつも3歩くらい下がった位置から接する。過剰な太鼓持ちするわけじゃないが、相手は貴族のお姫様、未来の王妃様なので、それ相応の礼儀をはらっている。
そんな私の存在が面白くないのか、「物珍しいドブネズミを気まぐれに愛でているだけ」と聞こえるように悪口を言う貴族もいたが、否定はできないので聞こえないふりをしている。まさか私がお貴族様に陰口を叩かれる日が来るとは。ドブネズミな庶民の存在を認められていることが凄い。
ファーナム嬢だけでなく、王太子殿下、フレッカー卿という王族、上位貴族からの覚えがめでたいのも気に入らない理由の一つなんだろう。ちなみにフレッカー卿は侯爵家出身だそうだ。
人というものは自分よりも下の存在に安心する生き物だ。自分よりも下の庶民が尊い立場の人に良くされている光景を見ると面白くないのだろう。
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「ははは…いつもありがとうございます」
来月には一ヶ月の長期休暇に入る。その時にまた勉強をすすめてしまおう。可能であればまた飛び級試験が受けたい。
カンナはそんな私を急ぎすぎ、慌てすぎというが、これが自分の速度なのだ。私は元来勉強が好きな性質なので、勉強することは苦ではない。魔法の練習も好きだし、それらが自分の血肉になっているとわかるととてもうれしいのだ。
「一日も早く、立派な魔術師になりたいです」
私がそう言うと、フレッカー卿は少し呆けた顔をしていた。しかしすぐにフッと軽く笑うと、「この学校に来た時点で君はもうすでに魔術師なんだよ。その調子で頑張りなさい」と応援してくれた。
私とフレッカー卿は親子ほどの年の差があるが、もしも同い年だったらいい学友になれた気がする。
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