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私はサイキック・ガール!

第2話 隔絶された場所とおひさまのような少年

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 自分が超能力者だと判明したあと、すぐに学校を転校しなければいけなくなった。そのため、私は出来たばかりの友人と入学したての高校にお別れをした。
 入学したて友達になりたてだったので、そこまで深く親しくなったわけじゃないが、少しだけ寂しかった。
 入学して何回かしか着用していない真新しいセーラー服。あちらの学校の制服が出来上がっていないので、しばらくはこの制服で学校生活を送ることになる。彩研究学園高等部の制服はブレザーなのだそうだ。
 自室ともしばしのお別れをして、私は荷物を持って部屋を出た。


「いってらっしゃーい!」
「元気でなー!」

 両親は旅立つ私に歓声を送り、バンザーイバンザーイとまるで戦争へ出征する息子を見送るかのように万歳三唱をして見送ってきた。
 私としてはもう少し引き止めてほしいと言うか、さみしいって感情を見せてほしかったのだが、我が両親は「我が誉れよ!」と言わんばかりに喜んでいた。

 …帰ってこれないのに。次に会えるのは成人してからなのに…。
 超能力者の保護のために、学生は帰省が許されていないのだ。中には危険な能力を持っていて、それを外部の人間が利用しようと企む恐れがあるから仕方ない措置だとは説明されたけどさ……
 なんか切ないじゃないのよ。 

 送り迎えの黒塗りの車に乗って、家と両親が見えなくなるまでリアガラス越しに見続けた。
 両親はいつまでも腕を振って見送っていた。……その姿が滲んで見えた。
 お父さんお母さんと数年会えない。
 私はもうホームシックになってしまって、車の中で少し泣いてしまった。


 向かう先は国立研究都市内にある、国立彩研究学園。そこは限られた人しか立ち寄ることのできない、特別な場所だという。
 国立彩研究学園とは、どんな場所なのだろう。私と同じ超能力者がいる学校にはどんな人達がいるのだろうか……


■□■


「では、私はここまでしか入れませんので、この先はお一人でお願いします」
「えっ!? 私ここのことなんにも知らないんですよ!?」
「関係者の方がお迎えに来てくれていると思いますので。そういうことなのでよろしくお願いいたします」

 最初から最後までクソ真面目なお兄さんは、自分の仕事は終わったとばかりに私を放置してさっさと帰ってしまった。
 確かに、無能力者は立ち入り厳禁の場所だって聞いていたけどさぁ!

 学校どころか、研究都市の重厚な出入り口付近で放置された私は呆然としていた。一人でお願いしますったって右も左もわからんのに。そもそもお迎えに来てる人誰もおらんよ……
 門番をしている守衛さんに聞いたら学校までの道がわかるだろうか。

「…君、大武藤さん?」
「えっ…?」

 後ろから名前を呼ばれた。
 その声は、声変わりを終えたばかりの男子の声だったのだけど、なんだか抗えないような、落ち着くような不思議な声をしていた。

 私が振り返るとそこに一人の少年がいた。同じ年くらいの少年だ。彼は私を見下ろして柔和な笑みを浮かべている。紺のブレザーの制服を着崩すことなく着こなしていた。
 全体的に柔らかい雰囲気を持つ少年だった。顔のパーツ一つ一つが綺麗に配置されており、上品な顔立ちをしている。
 優しそうな顔立ちにしても、爽やかそうな雰囲気にしても、どこから見ても好青年じみているのだが……私はなんだか違和感を覚えた。
 なんだろう…なぜだろう……

「どうしたの?」
「あっ、いえ! はじめまして大武藤と申します!」
「敬語はいいよ、僕と君は同じ学年だから。僕は日色ひいろ隆一郎りゅういちろう。Sクラス所属だよ」

 あぁ、そうかわかったぞ。
 声だ。
 悪い印象じゃない。……嫌な感じはしないんだ。こう…吸い寄せられるような気がするんだ。いつまでも聞いていたいような声。

「早速、学校まで案内するよ。時間がないから街の案内はできないけど」

 なんだか申し訳無さそうな顔をされた。いやいや、初対面の人にそこまでさせられんよ。
 さわやかな日色君の先導で案内しながら口頭で簡単に街の説明をされた。この研究都市内は動き回ってもいい場所で、大体のお店や物が揃っているらしい。
 許可があれば、外部から通販などもできるそうだ。

「外部の人との連絡はどうやって取ってるの?」

 そういえばそれが気になっていたんだ。学校内はスマホ・パソコン持ち込み禁止って聞いていたから、連絡とかどうするのかなと思っていたんだけど…
 私の問いに日色君の表情は陰った。

「…この研究都市内の情報漏えい防止のために、外部との連絡は原則禁止となってるんだ」
「あ、そうなんだ」
「ただ、手紙くらいだったら検閲を条件に許可してもらえるよ。写真は添付できないけどね」

 随分アナログな…。
 スマホがないと不便だな。もう既にスマホ依存の禁断症状が出始めてるぞ……

「そうなんだ…」

 ここにいる人よく平気だな……

「日色君はネットとか電話できなくても平気なの?」 
「はは、僕の場合は9歳のときからここにいるから」
「きゅ、9歳…!?」

 そんなお子様時代からこの閉ざされた都市にいるのか……それってお子様の情緒成長面で問題ないの? 家族とも会えない、連絡は手紙のみって……
 私の心の声が漏れ聞こえていたのか、日色君は苦笑いしていた。

「なにも僕だけじゃないよ。ここにいる生徒みんなだ。逆に大武さんのようにこの年齢まで能力が発覚しなかったことのほうが珍しいんだ」

 そうなんや……
 なんか色々とショックだわ。
 能力者を育成、保護するためとはいえ、お子様には酷な話ではないか……

「大武さんは確か念動力、サイコキネシスだっけ?」
「うん、亡くなったおじいちゃん譲りの能力なんだって」

 話題を変えようと日色君が超能力の話を持ち出してきた。気を遣わせたかな?

「そっか、その能力を持つ人は多いから、相談する人もいて良かったね」
「ありふれた能力なんだね。日色君はどんな能力なの?」

 超能力ってどのくらい種類あるんだろう。その辺の話何も聞けてないんだよね。

「僕の能力は天候を操る能力と……声で人を従わせることかな」
「へ……」
「安心して? 正当な理由なく能力は行使出来ない決まりなんだ」

 天気を操る?
 声で人を従わせる……
 日色君の表情が悲しげに揺れたが、私はそれを気に留めてあげる余裕がなかった。

「なにそれ! めっちゃかっこええやん!」
「…え?」

 日色君は爽やかな笑顔のまま固まった。

「私とかせいぜい暴走車を素手で止めて再起不能にする程度の能力だもん! どうせならもう少し捻った能力が欲しかったなぁ! いいなぁ! それかっこいいね! 天気操るとか、声で人を従わせるって!」

 すごくね? 文字にするだけでもすごくね?
 いいなーかっこいいなー。私ももっとすごいのがほしかった。しかも能力2つ持ち! いいなぁ!

「ふっ、ふふふ…そうかな?」
「そうだよ! 今まで超能力と無縁の生活していたけど、私なんだかワクワクしてきた!」

 他にはどんな能力を持つ人がいるんだろう。だんだん目の前の世界がワクワクでいっぱいに見えてきた。
 受験頑張って高校入学したのに速攻で転校になってしまった上に、親元から離れ、環境が変わってしまったけど、住めば都っていうし、なんとかなるよね。

 日色君は私を見て、クスクスと口元を抑えて笑っている。私、そんなに笑えること言ったかな?
 …しかし彼は見た目だけでなく、笑い方まで爽やかだな。大口開けて大笑いとかしないのだろうか。

「大武さんなら大丈夫そうだね」
「? なにが?」

 目を細めて言われたそれに私は首を傾げた。だけど日色君は首を軽く振って苦笑いしていた。

「ううん、なんでも。何か困ったことがあったら相談に乗るからいつでも言って」
「わかった、ありがとう!」

 いい人だ。
 そういえば彼と私は同じクラスなのだろうか? だから彼が迎えに来たのか? そう思って彼に尋ねると、「違うクラスだよ」と言われた。
 クラスが違うのに日色君が私を迎えに来てくれたのか?

「僕は中等部の頃生徒会長だったんだ。そのせいで顔を覚えられていて、先生によくこき使われるんだ。それでお迎え役を仰せつかったというわけ」
「そうだったんだ…なんかごめんね」
「謝らないでよ。僕は大武さんと会えて嬉しかったよ」

 ニッコリ爽やかに微笑むその姿はまるで春の木漏れ日のように暖かかった。なんなのこの人、めっちゃいい人…
 正直超能力者の集まる学校って聞いて怖かったけど、それは杞憂だったのかもしれない。

「大武さんはね、普通クラスに編入予定だよ。恐らくAクラス辺りかな? 僕が所属するのは希少能力者や、危険能力を保持している生徒が入っているクラスなんだ」

 へーなるほど、エリートってことか。日色君って見るからに優等生って感じだもんね。能力者ごとにレベルがあるのか……私は普通クラスで、日色君は特進クラスみたいな認識でいいんだよね。

「あ、ここが教員塔だよ。中で君の担任の先生になる人がお待ちのはずだ。そのまま入ってもらって大丈夫だよ」

 日色君が示した先にレンガ造りの建物があった。少々古ぼけた作りだが、味があってなかなかいい建物である。本校舎もこんな作りをしているのだろうか。
 それはそうと案内してくれた相手にお礼を言わなきゃ。

「案内してくれてありがとう」
「どういたしまして……この学園生活が君にとってより良いものになることを祈っているよ」

 微笑む彼の笑顔はやっぱりあたたかい。まるでおひさまのようだ。
 ……先ほど彼は“理由なく能力を行使出来ない”と言っていたが、本当かな。
 彼の声はまるでゆりかごのようだ。聞いていると安心感がある。もっとおしゃべりしたいなと思ったけど、彼は次の授業があるからと立ち去ってしまった。

 また今度すれ違うことがあったら話しかけてみよう。
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