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公妃になるなんて無茶難題過ぎます。
あなたが公妃になるくらいなら、私がなって差し上げてよ!
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「あんた自分が何したかわかってるの!? どうしてそこでぼうっと突っ立ってるの? あんたのせいでヴィックが怪我しちゃったのになんで何もしないの?」
自分こそ婚約者であると名乗り出てきたくせにその相手を傷つけているんだぞ? なにぼうっと突っ立っているんだ。救護くらいして見せたらどうなのさ。
それとも気に入らないときはカップを投げるものって学んでいると言い訳するつもり?
「し、知らないわ、間に入ってきたのはそちらでしょ!」
私に怒鳴られてハッとした彼女は苦虫を噛み締めた表情を浮かべ、そして逆ギレした。人を傷つけておいて謝ることもできないの? どんな育ち方をしたらそんな酷いことを言えるのだ!
あっちのスラムに来たばかりのヴィックも深い事情があるとはいえ、周りに反発してお礼とか謝罪の言葉を知らない様子だったから、もしかしたら貴族は謝ることを知らないのかも知れない。謝ったら負け、みたいな世界で生きているのかもしれない。
──だが、あいにく私はそんな事情を理解してやるつもりもない。
「人を傷つけたらごめんなさいでしょ? なに開き直って自分を正当化してるの?」
だいたいこの人は自分のしていることがどんなことかわかってない。
公国を追われたヴィックが大変な時そばにいなかった。探そうともしなかった。何もしてあげなかった。面倒ごとはゴメンだと言わんばかりに見てみぬふりをしていたんだろう…!
それなのに戻ってきたらすり寄ってきて……自分がどれだけ身勝手な行いをしているか理解していないからこうして人を傷つけても自己保身に走るんだ…!
どうせこの人は今後ヴィックがまたピンチに陥ったら見てみぬふりして逃げるんだろう。そうに違いない。エーゲシュトランドの恩恵だけを求めて近づいてきた女にヴィックを奪われてたまるもんか!
「公国は今ものすごく大事な時期なの。あんたみたいな高飛車わがまま女にはヴィックを支えられないよ」
「なんですのそれっ、スラムの汚らしい小娘が何を偉そうに…!」
「黙れっ! あんたにはヴィックはもったいなさすぎるって言ってるの! あんたにヴィックは渡さない!」
確かに私は身分が最底辺の人間だ。本来であればここで物申す権利なんてないはずだ。だけど黙っていられない。
「あんたみたいな身分とプライドだけが高い頭カラッカラのアホに譲るくらいなら、私が公妃になる! ヴィックと一緒に公国を蘇らせてみせる!」
身分なんか知ったことか! 私は究極の貧しさを知っているんだ! 後は上に上り詰めるだけ。怖いことなんてないんだよ! 温室育ちのあんたにサバイバル力で負ける気はないね! あんたよりも私のほうがこの国のためを想って行動できる自信がある! 私の方がヴィックを想う気持ちは強いはずだ!
正直売り言葉に買い言葉である。この女がヴィックの嫁になるくらいならって意地が働いて勢いで言った感じだ。これで高飛車女がハンカチ噛み締めながら敗走してくれたらいいな!
だけど私の発言は彼には特別な響きに聞こえたらしい。
「リゼット」
背後から伸びてきた腕によって身体を引っ張られた私はそのまま後ろのソファに腰掛けていたヴィックの膝に乗っかった。周りに人がいる前でお膝抱っこである。ぎょっとした私にお構いなしに、彼は甘い甘い瞳を私に向けてくるとそれは嬉しそうに微笑んだ。
「嬉しいよ、君がそこまで本気で考えてくれていたなんて」
お試し期間とか言うから不安だったけど、それ以上に君も真剣に私との将来を考えてくれていたんだね、とささやくと、たまらないとばかりに私の唇に吸い付いてきた。
「!? ぷはっ…駄目だよ!?」
ぎょっとした私はすぐに唇を引き離したのだけど、ヴィックはどうして? と不思議そうに首を傾げてくる。
「見られてる! 周りに人がいるの!」
私が今は駄目だと意見すると、ヴィックは私の唇を指で撫でた。ふにふにと触られているだけなのだが、ヴィックの甘い表情とその動きがやたら官能的で、私はヒョッ…と息を呑み込んでしまった。
「──見せつければいい。私には君しか見えないよリゼット」
「現実逃避しないで!? ヴィックは頭から血が出てるから興奮してるだけだよ!!」
あかん、この人頭のネジがどっかに飛んでったっぽい。
早くお医者さん呼んで。ヴィックの頭がハッピーセットになったから治してあげて。
そばにいた侍従さんに私がそう訴えると、ヴィックが私の顔を引き寄せて再度唇を塞いできた。
「んん…!」
周りの人は家具かなにかですか、そうですか。周りなんか気にせず自分だけを見てろと言いたいんですね。むしろわざとだろうと聞きたくなるような激しいキスをぶちかまされた私はヘロヘロになった。
私がヴィックに唇を貪られていた間に、いちゃつく私達を前にして戦意喪失した高飛車令嬢は部屋の外に連れて行かれ、そのままお引き取り願ったそうだ。もちろん有能な側近さんたちがヴィックに怪我させた慰謝料とか謝罪とかを彼女の家宛てに請求してくれ、後始末までしっかりこなしてくれたとか。
さすが修羅場にヴィックと共に戦った人たちである。仕事ができる。
自分こそ婚約者であると名乗り出てきたくせにその相手を傷つけているんだぞ? なにぼうっと突っ立っているんだ。救護くらいして見せたらどうなのさ。
それとも気に入らないときはカップを投げるものって学んでいると言い訳するつもり?
「し、知らないわ、間に入ってきたのはそちらでしょ!」
私に怒鳴られてハッとした彼女は苦虫を噛み締めた表情を浮かべ、そして逆ギレした。人を傷つけておいて謝ることもできないの? どんな育ち方をしたらそんな酷いことを言えるのだ!
あっちのスラムに来たばかりのヴィックも深い事情があるとはいえ、周りに反発してお礼とか謝罪の言葉を知らない様子だったから、もしかしたら貴族は謝ることを知らないのかも知れない。謝ったら負け、みたいな世界で生きているのかもしれない。
──だが、あいにく私はそんな事情を理解してやるつもりもない。
「人を傷つけたらごめんなさいでしょ? なに開き直って自分を正当化してるの?」
だいたいこの人は自分のしていることがどんなことかわかってない。
公国を追われたヴィックが大変な時そばにいなかった。探そうともしなかった。何もしてあげなかった。面倒ごとはゴメンだと言わんばかりに見てみぬふりをしていたんだろう…!
それなのに戻ってきたらすり寄ってきて……自分がどれだけ身勝手な行いをしているか理解していないからこうして人を傷つけても自己保身に走るんだ…!
どうせこの人は今後ヴィックがまたピンチに陥ったら見てみぬふりして逃げるんだろう。そうに違いない。エーゲシュトランドの恩恵だけを求めて近づいてきた女にヴィックを奪われてたまるもんか!
「公国は今ものすごく大事な時期なの。あんたみたいな高飛車わがまま女にはヴィックを支えられないよ」
「なんですのそれっ、スラムの汚らしい小娘が何を偉そうに…!」
「黙れっ! あんたにはヴィックはもったいなさすぎるって言ってるの! あんたにヴィックは渡さない!」
確かに私は身分が最底辺の人間だ。本来であればここで物申す権利なんてないはずだ。だけど黙っていられない。
「あんたみたいな身分とプライドだけが高い頭カラッカラのアホに譲るくらいなら、私が公妃になる! ヴィックと一緒に公国を蘇らせてみせる!」
身分なんか知ったことか! 私は究極の貧しさを知っているんだ! 後は上に上り詰めるだけ。怖いことなんてないんだよ! 温室育ちのあんたにサバイバル力で負ける気はないね! あんたよりも私のほうがこの国のためを想って行動できる自信がある! 私の方がヴィックを想う気持ちは強いはずだ!
正直売り言葉に買い言葉である。この女がヴィックの嫁になるくらいならって意地が働いて勢いで言った感じだ。これで高飛車女がハンカチ噛み締めながら敗走してくれたらいいな!
だけど私の発言は彼には特別な響きに聞こえたらしい。
「リゼット」
背後から伸びてきた腕によって身体を引っ張られた私はそのまま後ろのソファに腰掛けていたヴィックの膝に乗っかった。周りに人がいる前でお膝抱っこである。ぎょっとした私にお構いなしに、彼は甘い甘い瞳を私に向けてくるとそれは嬉しそうに微笑んだ。
「嬉しいよ、君がそこまで本気で考えてくれていたなんて」
お試し期間とか言うから不安だったけど、それ以上に君も真剣に私との将来を考えてくれていたんだね、とささやくと、たまらないとばかりに私の唇に吸い付いてきた。
「!? ぷはっ…駄目だよ!?」
ぎょっとした私はすぐに唇を引き離したのだけど、ヴィックはどうして? と不思議そうに首を傾げてくる。
「見られてる! 周りに人がいるの!」
私が今は駄目だと意見すると、ヴィックは私の唇を指で撫でた。ふにふにと触られているだけなのだが、ヴィックの甘い表情とその動きがやたら官能的で、私はヒョッ…と息を呑み込んでしまった。
「──見せつければいい。私には君しか見えないよリゼット」
「現実逃避しないで!? ヴィックは頭から血が出てるから興奮してるだけだよ!!」
あかん、この人頭のネジがどっかに飛んでったっぽい。
早くお医者さん呼んで。ヴィックの頭がハッピーセットになったから治してあげて。
そばにいた侍従さんに私がそう訴えると、ヴィックが私の顔を引き寄せて再度唇を塞いできた。
「んん…!」
周りの人は家具かなにかですか、そうですか。周りなんか気にせず自分だけを見てろと言いたいんですね。むしろわざとだろうと聞きたくなるような激しいキスをぶちかまされた私はヘロヘロになった。
私がヴィックに唇を貪られていた間に、いちゃつく私達を前にして戦意喪失した高飛車令嬢は部屋の外に連れて行かれ、そのままお引き取り願ったそうだ。もちろん有能な側近さんたちがヴィックに怪我させた慰謝料とか謝罪とかを彼女の家宛てに請求してくれ、後始末までしっかりこなしてくれたとか。
さすが修羅場にヴィックと共に戦った人たちである。仕事ができる。
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