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【 最終章 愛する人へ贈りたいもの 】

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リーリエの部屋で、ジャスミンは湯船に半ば強制的に入れられ、侍女たちから甲斐甲斐しく世話を受けた。そうして着替えを終えたころには、同じく着替えを終えたルスラン侯爵も部屋におり、暖炉の前でお茶を飲みながら話をしているのだった。


「ジャスミン、寒くない?早くこちらに来て」
「リーリエ様、何から何までありがとうございます」
「何を言ってるの!私にとって、あなたは大切な友人なんだからね!」

そういうリーリエの言葉が嬉しく思えるジャスミン。そんなリーリエの手には、あの時池で拾ったアクセサリーケースがあるのだった。


「その…勝手に見ていいか悩んだんだけど、錆びてしまうのも嫌で拭いていたの。そしたら、これ…」

そんな風にしてリーリエが教えてくれたのは、ピアスの裏に彫られたジャスミンの名前だった。

確かにこのピアスは、ヴィクトルがジャスミンに送ろうとしてくれたものだろう。ジャスミンは気づけば目に涙を溜めてしまい、そんなピアスを受け取る。


ヴィクトルがこれを捨てようとしていたところは見てしまったものの、それでもこうして一度は愛されていたんだと感じることが出来て今は胸がいっぱいだった。

ずっとずっと、処刑の時に聞いたヴィクトルからの告白は、夢じゃないか?と自分を疑っていた。死ぬ瞬間に自分の都合の良い夢を見て、ただ妄想していたんじゃないか?と考えて胸が痛くなることが多かったジャスミン。

そんなジャスミンにとってこのピアスは、あの時のヴィクトルの言葉が嘘じゃないかったと思わせてくれるものだった。


「…嬉しい。ありがとうございます、リーリエ様」
「でも、このままで本当にいいの?お兄様はこんな風にピアスを池に捨てていたんだもの、ジャスミンのことなんか捨てて、本当に他の女と結婚するつもりなのかもしれないわ。そうなったらジャスミンはまた国を出て行ってしまうの?」
「リーリエ、それ以上はジャスミンにも辛いだろう」

早口になり、少し怒っているような様子のリーリエにそう言って優しく宥めるルスラン侯爵。いつだってリーリエが暴走気味な時は、ルスラン侯爵がこうして支えてくれる。ジャスミンはそんな2人が本当に大好きだった。


「…はい、リーリエ様が大切な友人だと言って下さったこと、本当に嬉しいです。けれど、私はやっぱり国を出ようと思います。陛下の側に愛する人ができることも、陛下に子が出来すくすくと育っていくことを側で見守っていくことはできません。多くの嘘の吐くことになり、きっといつか息が出来なくなってしまう気がしますので」
「うん、わかるわ。私ももし同じ立場だったら、きっと同じ選択をするはずだもの」

そういうリーリエはルスラン侯爵の方を見つめ、その後、優しくジャスミンの握りしめてくれる。


「ジャスミン、あんな冷たい最低男のお兄様よりも、素敵な男性を見つけてね」
「…はい。私の理想はリーリエ様とルスラン侯爵のような支えられる夫婦なので、2人の結婚式は最後まで見届けさせてください」
「…わかったわ。寂しいけれど、私はあなたのことを応援するわ。ジャスミン」
「俺もだ、ジャスミン。何だって協力する。だから幸せになってくれ」

いつしか、部屋では3人そろって鼻をすすったり、お互いに励まし合うように肩をさすり合うのだった。

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