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【 第4章 毒の雨が降る国で 】
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しおりを挟む「っ…ここは」
次に目を覚ました時、ジャスミンは見知らぬ部屋の中にいた。騒がしい声が聞こえることからか、ここは酒場だろうか。ジャスミンの体は縄のようなもので後ろ手で縛り付けられており、足も同様に縄で結ばれている。
「…逃げなきゃ」
このままじゃ絶対に男たちに犯されるとわかっていたジャスミンは、どうにか逃げ出す手段がないかと思考を巡らせた。そんな中ではふと、自分のカバンが近くに投げ入れられていることに気付いたジャスミン。ジャスミンは縛られた体のままなんとか動き出し、鞄の中身を見た。中を漁られていないのであればきっと…。
金目のものはいくつか抜かれていたものの、ジャスミンは薬草関係がそのまま入れられていることに気付いた。そうして目当ての物もそこにある。
瓶の中に入った無色の液体。とある薬草を絞った汁だが、この液体は薄めずに使えば人の肌ほど溶かす恐ろしいものである。
ジャスミンは何とかうまくその瓶を手繰り寄せて、コルク部分を口で抜こうと力を籠めるが上手くいかない。そんな中では仕方なく、瓶をその場で割ってしまうことにした。音が出ることを覚悟しながら、置いた瓶を縛られた両手で思いっきり殴りつけることにしたジャスミン。
計画は上手くいき、ジャスミンの両手に瓶の液体がかかり、激痛を感じながらも縄が溶けていくことが分かる。その後も痛みをこらえながら必死に、ジャスミンは足の縄を外したのだが…。
「ひゅー、良くやるな」
ジャスミンの物音に気付いたのか、部屋の扉が開けられ、1人の兵士がジャスミンの姿を面白そうに見ていた。縄を溶かすために使った液体は飛び散り、ジャスミンの着ていた服はところどころ溶けている。そんな姿を、兵士は熱のこもった視線で見つめていたのだった。
「おい、皆!この女は待ちきれなかったみたいだぞ」
扉の奥は酒場に直接繋がっていたのか、眩しい光と共にジャスミンは奥に広がる光景を見る。そこには酒を片手に、こちらをギラギラとした視線で見る男たちがいたのだった。
「ははは、久々に活きのいい女が来たな!」
「なぁ、もう始めちまおうぜ!」
「それもいいな。団長が帰ってくるまで、俺たちが準備してやればいいんだよ」
兵士たちが立ち上がり、ジャスミンのいる部屋に近づいてくる。ジャスミンはそんな状況に、咄嗟に部屋の窓を目指し、なんとか小さな隙間から逃げ出した。大柄な兵士たちは遠回りするしかないようで、ジャスミンはその隙に急いで足を進める。
「追え!民家の方に逃げだぞ!!!」
ジャスミンの目に広がるのは、あまりに静かな住宅地の様子だった。この国ではリーリエ様と同じような病気が流行っていることから、多くの人は眠りについてしまっているのかもしれない。ただ、そんな状況が逆にジャスミンに有利に働き、とある小さな家に入り込んでも家主はジャスミンに驚くことはなかった。小さな子供と両親が眠ってしまっている家の中、ジャスミンはひっそりと息を潜める。
兵士たちの喧騒が段々と遠くなっていき、ジャスミンはようやく息を吐くことができた。安心したのか涙が止まらなくなり、真っ赤に爛れた手にぽつぽつと涙が落ちていく。
「…怖かった」
それは素直な感想だった。ジャスミンは幼いころから森で父親に守られて暮らし、ザハール国でも大きな危険に巻き込まれたことがなかったため、こうした身の危険を感じることは少なかった。今日の兵士たちに比べたら、森に住む獣たちの方が可愛く思えるほどだ。体が震え、泣き声を必死に堪えるジャスミン。
そんなときだった…ふと、どこからか綺麗な歌声が聞こえた。驚いてジャスミンが顔を上げた時、胸元のロザリオが小さく音を鳴らして揺れる。
そう言えば、ティモンは以前、隣国のレーニャ神は夜に歌声を聞かせると話していた。女たちを寝かせ、狙った男を寝所に誘うのだというその歌声。ジャスミンの不安だった気持ちは段々と消えていき、ジャスミンは抗えないままその場で眠ってしまうのだった。
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