上 下
31 / 59
【 第4章 毒の雨が降る国で 】

-4

しおりを挟む


「っ…ここは」

次に目を覚ました時、ジャスミンは見知らぬ部屋の中にいた。騒がしい声が聞こえることからか、ここは酒場だろうか。ジャスミンの体は縄のようなもので後ろ手で縛り付けられており、足も同様に縄で結ばれている。


「…逃げなきゃ」

このままじゃ絶対に男たちに犯されるとわかっていたジャスミンは、どうにか逃げ出す手段がないかと思考を巡らせた。そんな中ではふと、自分のカバンが近くに投げ入れられていることに気付いたジャスミン。ジャスミンは縛られた体のままなんとか動き出し、鞄の中身を見た。中を漁られていないのであればきっと…。

金目のものはいくつか抜かれていたものの、ジャスミンは薬草関係がそのまま入れられていることに気付いた。そうして目当ての物もそこにある。

瓶の中に入った無色の液体。とある薬草を絞った汁だが、この液体は薄めずに使えば人の肌ほど溶かす恐ろしいものである。

ジャスミンは何とかうまくその瓶を手繰り寄せて、コルク部分を口で抜こうと力を籠めるが上手くいかない。そんな中では仕方なく、瓶をその場で割ってしまうことにした。音が出ることを覚悟しながら、置いた瓶を縛られた両手で思いっきり殴りつけることにしたジャスミン。

計画は上手くいき、ジャスミンの両手に瓶の液体がかかり、激痛を感じながらも縄が溶けていくことが分かる。その後も痛みをこらえながら必死に、ジャスミンは足の縄を外したのだが…。


「ひゅー、良くやるな」

ジャスミンの物音に気付いたのか、部屋の扉が開けられ、1人の兵士がジャスミンの姿を面白そうに見ていた。縄を溶かすために使った液体は飛び散り、ジャスミンの着ていた服はところどころ溶けている。そんな姿を、兵士は熱のこもった視線で見つめていたのだった。


「おい、皆!この女は待ちきれなかったみたいだぞ」

扉の奥は酒場に直接繋がっていたのか、眩しい光と共にジャスミンは奥に広がる光景を見る。そこには酒を片手に、こちらをギラギラとした視線で見る男たちがいたのだった。


「ははは、久々に活きのいい女が来たな!」
「なぁ、もう始めちまおうぜ!」
「それもいいな。団長が帰ってくるまで、俺たちが準備してやればいいんだよ」

兵士たちが立ち上がり、ジャスミンのいる部屋に近づいてくる。ジャスミンはそんな状況に、咄嗟に部屋の窓を目指し、なんとか小さな隙間から逃げ出した。大柄な兵士たちは遠回りするしかないようで、ジャスミンはその隙に急いで足を進める。


「追え!民家の方に逃げだぞ!!!」

ジャスミンの目に広がるのは、あまりに静かな住宅地の様子だった。この国ではリーリエ様と同じような病気が流行っていることから、多くの人は眠りについてしまっているのかもしれない。ただ、そんな状況が逆にジャスミンに有利に働き、とある小さな家に入り込んでも家主はジャスミンに驚くことはなかった。小さな子供と両親が眠ってしまっている家の中、ジャスミンはひっそりと息を潜める。

兵士たちの喧騒が段々と遠くなっていき、ジャスミンはようやく息を吐くことができた。安心したのか涙が止まらなくなり、真っ赤に爛れた手にぽつぽつと涙が落ちていく。



「…怖かった」

それは素直な感想だった。ジャスミンは幼いころから森で父親に守られて暮らし、ザハール国でも大きな危険に巻き込まれたことがなかったため、こうした身の危険を感じることは少なかった。今日の兵士たちに比べたら、森に住む獣たちの方が可愛く思えるほどだ。体が震え、泣き声を必死に堪えるジャスミン。


そんなときだった…ふと、どこからか綺麗な歌声が聞こえた。驚いてジャスミンが顔を上げた時、胸元のロザリオが小さく音を鳴らして揺れる。

そう言えば、ティモンは以前、隣国のレーニャ神は夜に歌声を聞かせると話していた。女たちを寝かせ、狙った男を寝所に誘うのだというその歌声。ジャスミンの不安だった気持ちは段々と消えていき、ジャスミンは抗えないままその場で眠ってしまうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

センシティブなフェアリーの愛♡協奏曲《ラブコンツェルト》

夏愛 眠
ファンタジー
とある大きなお屋敷の花園で生まれた、実体を持たないフェアリーのアシュリー。 ある日、禁忌のヒト化の魔法を使って、うっかりそのまま戻れなくなってしまったアシュリーは、初めて感じる実体の『触覚』のトリコになってしまう。 人間社会のモラルを持たないアシュリーは、お屋敷のお坊ちゃんのエルナンや庭師のジャンと次々関係を持っていくが……!? 天然ビッチなヒロインのイチャラブ♡逆ハーレムストーリーです。 ★ムーンライトノベルズに先行で投稿しています。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処理中です...