上 下
23 / 59
【 第3章 ミント味の口づけ 】

-5

しおりを挟む


「そういうわけで、気難しいが扱いさえ間違えなきゃ良い女だよ、あいつは。まぁ、隣国の国王はレーニャを怒らせて、国中に疫病を広げたらしいけどな」
「…待ってください」

そんな中、声をあげたのは今まで静かに話を聞いていたアレクセイだった。


「エリク神様、真実を見抜く貴方なら知っているでしょう。ジャスミンを危険な場所へと送ることはできません。リーリエ様が倒れたのは隣国の…」
「はぁーー本当に、頭がキレる男は嫌になるよ。だからいいんだろう?この国の皇帝であるヴィクトルがたった1人愛したジャスミンが隣国に行くからこそ、面白くなるっていうのに…ちっ、早くに答え合わせしやがって」


エリク神がそう告げると、急激に周囲が暗くなった気がした。森の外に大きな風が吹き始め、ざわざわと木々が揺れる音がする。それはまるで…エリク神が大きな災害を起こしたあの日と同じ兆候だった。


「エリク神様、お辞めください!!!」

そう先に口にしたのはティモンだった。ティモンはすぐさま、エリク神の足元に跪く。


「はは、案ずるな、ちょっと脅しただけだ」

その瞬間、周囲にまた温かな木漏れ日が戻ってきて、鳥たちの穏やかな囀りが聞こえてくる。それはまるで今のことはまるでなかったかのように、元の日常へと戻っているのだった。


「なぁ、アレクセイ。神たちにはそれぞれ考えがある。人間の前に姿を現すってことは、それなりの思惑があるってことだ。それをただ1人の人間が、まるで同じ立場だと思って歯向かわないことだな」

そう告げるエリク神の言葉に、誰もが目を離せなくなった。


「いいか、このままじゃジャスミンは隣国の刺客によって無惨に死ぬ。そうして迎える最悪な結末を変える手段を俺は今、提示してるんだ。これが神の言葉であり、お前にその言葉を否定する権利はない。我らは常にお前らよりも先の運命を見据えているからな」

いつのまにか、そう話すエリク神の手はジャスミンの首元へと向かう。そうしてきゅっと指を締めるような動作をした瞬間、ジャスミンは恐怖で体が震えた。しかし、エリク神はそんなジャスミンににっこりと微笑む。


「ま、所詮は人と神ってことだな。…アレクセイ、お前は恋人からもう少し神への信仰を学べ。神をも利用するくらいじゃないと国は守れない。お前も、ヴィクトルもな。いいか、この先、お前も間違った選択をした時は愛する者の記憶を奪われると思え」

最後にふっと笑ったエリク神は、テーブルの上にあるクッキーを皿ごと掴むとジャスミンに「また用意しておけ」だなんて告げて、どこかに消えてしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フォーリーブス ~ヴォーカル四人組の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
デュエットシンガーとしてデビューしたウォーレン兄妹は、歌唱力は十分なのに鳴かず飛ばずでプロデューサーからもそろそろ見切りをつけられ始めている。そんな中、所属する音楽事務所MLSが主催する音楽フェスティバルで初めて出会ったブレディ兄妹が二人の突破口となるか?兄妹のデュエットシンガーがさらに二人の男女を加えて四人グループを結成し、奇跡の巻き返しが成るか?ウォーレン兄妹とブレディ兄妹の恋愛は如何に? == 異世界物ですが魔物もエルフも出て来ません。直接では無いのですけれど、ちょっと残酷場面もうかがわせるようなシーンもあります。 == ◇ 毎週金曜日に投稿予定です。 ◇

学園アルカナディストピア

石田空
ファンタジー
国民全員にアルカナカードが配られ、大アルカナには貴族階級への昇格が、小アルカナには平民としての屈辱が与えられる階級社会を形成していた。 その中で唯一除外される大アルカナが存在していた。 何故か大アルカナの内【運命の輪】を与えられた人間は処刑されることとなっていた。 【運命の輪】の大アルカナが与えられ、それを秘匿して生活するスピカだったが、大アルカナを持つ人間のみが在籍する学園アルカナに召喚が決まってしまう。 スピカは自分が【運命の輪】だと気付かれぬよう必死で潜伏しようとするものの、学園アルカナ内の抗争に否が応にも巻き込まれてしまう。 国の維持をしようとする貴族階級の生徒会。 国に革命を起こすために抗争を巻き起こす平民階級の組織。 何故か暗躍する人々。 大アルカナの中でも発生するスクールカースト。 入学したてで右も左もわからないスピカは、同時期に入学した【愚者】の少年アレスと共に抗争に身を投じることとなる。 ただの学園内抗争が、世界の命運を決める……? サイトより転載になります。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...