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【 第2章 引き出しの奥に隠していたもの 】

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ヴィクトルの執務室には、ヴィクトルとアレクセイ、そしてリーリエが目覚めたと聞いて慌ててやってきた婚約者のルスラン侯爵がいた。


「医者の見立てだと、リーリエの体にはやはり毒に犯されているような形跡があるという。エリク神がその根源ごと消したようだから助かったものの…そうじゃなければ正直、リーリエの回復は叶わなかったようだ」
「あぁ…そうですか」

そう話すルスラン侯爵は額から流れる汗をハンカチで拭いた後、ぐっと紅茶を飲み干す。


「陛下…その、私は今日まで取り乱していたようで…」

1か月前にリーリエが倒れてから、ルスラン侯爵の変貌っぷりは周囲を驚かせた。普段は温厚な性格であるが、リーリエが毒で倒れたらしいと知ると絶対に犯人を探し出してやるとギラギラとした視線に変わり、ヴィクトル含めリーリエに関わる全ての人間を疑っていた。

ナイフを向けて脅してきたり、犯人を知っているものが居れば報酬をやるといって多額の宝石や金銭を用意していたりもしていた。処刑が行われた日のヴィクトルの中の記憶は薄れているが、彼が”誰か”に対して酷い暴言を吐いていたのを覚えている。記憶は不自然に薄れていることから、ルスラン侯爵はきっとジャスミンと言う女を責め立てていたのだろう。


「いい。大切に思う婚約者が毒のようなもので倒れれば、誰だってあんな風になるのであろう」
「しかし…私は無実のジャスミンを責め立ててしまいました。…私はもう、リーリエにも合わせる顔がない…」

つい先ほど、医者の診断が終わった後に、ヴィクトルはリーリエが毒で倒れた後の一連の流れを説明した。すると、リーリエはジャスミンを処刑しようとしたヴィクトルを酷く責め、泣き出してしまったのだ。病み上がりなのにも関わらず、ふらつきながらもヴィクトルに小物や枕などを投げてくるリーリエ。


『ジャスミンが絶対に私を殺そうとするはずないわ!!…どうして、どうしてそんなことを!!!』

そう悲痛に叫ぶリーリエの様子は、見ていて胸が痛いものだった。結局、ジャスミンと言う女のことを全く覚えていないヴィクトルは、「なぜジャスミンを疑ったのか?」なんて部分を答えることが出来ず、強引に部屋を追い出されてしまった。そして、そんな様子をたまたま屋敷にやってきたルスラン侯爵も見ていたのだ。



そもそも、一番犯人に近いジャスミンを処刑し、その心臓をエリク神に捧げたうえで罪を暴こうと決めたのはルスラン侯爵だった。リーリエにとっては本当の姉のように慕っていたジャスミン。そのうえ、彼女が自分から王城を出ていったと知り、リーリエは酷く傷ついていた。


「確かに冷静に考えれば、あの優しいジャスミンがリーリエを殺すはずないと分かっていたはずなのです。それでも、私はどうしてかジャスミンが一番怪しいと…」
「悔いても仕方のないことだ。実際に私もその判断を受け入れたのだしな。それよりも俺たちに今出来ることは、リーリエに毒を飲ませた犯人を見つけることだろう。幸いリーリエも目覚めたことだから、落ち着いたころに毒で倒れる前のことを聞き取ってみれば、また新たな犯人像が浮かぶかもしれない」
「…そう、ですね…」


その後、リーリエの侍女がルスラン侯爵を呼ぶために執務室にやってきて、真っ青な顔をしたルスラン侯爵はふらふらと部屋を出ていった。
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