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第三幕

「オレの友情は、愛よりも重い。」~龍神少年 肆~

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第三幕

 鳳凰城に留め置かれてから、三日が過ぎた。
 その間、将軍は何も言って来ないが、緋皇ひおう翡蓮ひれんと会うこともできなかった。
 食事は豪勢だし、欲しいと言った物は何でもすぐに持って来る。城内も自由に探索できるが、必ず誰かがついて来て、翡蓮のいる一画には近づけない。部屋の中までは監視されていないが。
 緋皇は、思わず唇をかみしめて…唇をかみ切ってしまった日の夜のことを思い出す。
 試練の間から部屋に戻ると、翡蓮が「緋皇、血が出てるじゃないか。」と気づいて、薬箱を出してきたのだ。「こんなのほっときゃいいんだよ。」「小さい傷でも、馬鹿にしちゃいけないんだぞ。」「めんどくせー。」「だったらオレが塗ってやるから。」というやりとりで、結局、翡蓮が薬を塗ったのだ。
 次の日、大久保と再会し、鳳凰城で何かが起きたのだと確信して、舌先に感じた苦さ。
 あれは、予感だったのかもしれない。
「いい加減、限界だぜ。なあ、翡蓮。壁とか壊して脱走しねえ?」
と言ってから、緋皇はハッと我に返る。
 翡蓮はいない。
 緋皇が、チッと舌打ちした。
 いつも傍にいるのが当たり前になっているから、翡蓮の不在に慣れない。
 気が付くと、金髪の輝きを探している。
(来なきゃよかったか。)
 と不機嫌さが増す。
 緋皇が鳳凰城に来たのは、二つ理由がある。一つ目は、二度と会えないまま将軍が死んでも、緋皇は何とも思わないのだが、翡蓮がそれを気にしそうだと思ったからだ。
 二つ目は、鳳凰城で何が起きているのか把握するためだ。
 元日嗣の君緋皇を目障りに思う人間は、この鳳凰城には一定数存在する。それは、御台所に殺された寵姫の一族や、今の日嗣の君の母方の一族だ。将軍の寵姫の親族は、何かと甘い汁が吸える。それを取り上げられた者は、「皇」を恨んでいるだろうし、今現在享受している者は、それを失う可能性があれば、どんなに小さくても排除したいと望む。
 緋皇は、正神殿にいれば、絶対安全だなどと油断してはいない。
 それが、権力の中枢で生まれ育った緋皇の、骨の髄にまで染み込んだ警戒心だ。
 どんな場所でも、それが正神殿であっても、間者や暗殺者が入り込めない場所などない。
 だから、鳳凰城で、自分を殺す計画が持ち上がっているのかどうか確かめて、それがあるなら潰そうと思っていた。
(だが、この事態は想定外だったぜ。将軍、何をトチ狂ったのか…。)
 緋皇は、将軍に親子の情愛があるなどとは、全く考えていない。そんなものがあるなら、六年前、会議で一切発言をせず、我が子の処遇を臣下に丸投げなどしなかっただろう。いくら寵姫を突然失って哀しみに暮れていようとも。しかも、一年もたてば新たな寵姫に夢中になっていたのだから。それが、今の日嗣の君の母親だ。
 この事態は想定外だが、今のところ、緋皇の身には何の危険もない。問題は。
(くそっ。こんなことなら翡蓮を連れて来るべきじゃなかった。)
 翡蓮に一緒に来い、と言ったのは、ここが、翡蓮との始まりの場所だから。
 緋皇は、この鳳凰城に未練も愛着も無いが、翡蓮と出会った場所という一点でのみ、大切な思い出があると言える。だから、訪れるなら翡蓮と一緒がいいと思った。
 その甘えが、この事態を招いた。
『今更、そんなこと言ってもしかたないだろ。それよりも、状況を変えるために知恵をしぼらなきゃ。』
 翡蓮なら言いそうな台詞が思考をかすめる。
(周囲のやつらぶちのめして、翡蓮迎えに行ったら…怒るよなあ、あいつ。)
 これでも、日嗣の君として育った身だ。将軍家の権力は承知している。神殿は、幕府とも朝廷とも対等で、友好関係を築いている。だからこそ、廃嫡されたとは言え、将軍の一の君である緋皇の暴挙は、三つの勢力の均衡を崩しかねない。
 緋皇は、正直、神殿がどうなろうとも構わないが、(だけど翡蓮はそうじゃねえからな…)と、眉をひそめる。
 そばにいなくても、翡蓮だけが、緋皇の行動を抑えられる。
(力づくってのは最後の手段だな。)
 だから、今は、今できることを、と考えて緋皇は立ち上がる。
 窓を開け放つ。
 今いる部屋は、ずいぶんと高い場所にある。
 日嗣の君に与えられていた部屋ほどではないが、それでも城下が一望できた。
 雲一つ無い、真冬の蒼穹。
 少し前まで紅葉が見事で、山吹色や赤朽葉に染まっていたはずの山々は、その鮮やかさを失いつつある。
 緋皇は、空中に図形を描く。
「三級神術発動、劫火狂獣。」
 出現するのは、炎の狼。
 燃える瞳で主を見つめる狼に、緋皇は命じた。
「行け。」
 狼は、窓から飛び立つ。
 くっきりと青い空に映える、真紅に燃える炎。
 空を翔る狼。
 緋皇は、それをじっと見送る。
 正直、うまくいくかどうかわからない。この策は、炎の狼が目的地にたどり着くまで、緋皇が神術を維持する必要がある。人の足なら、七日の距離。空を翔るモノなら、何日で辿り着くか。
(神術がもったところで、あいつが気づかきゃ無意味だが…。)
 分の悪い賭けだ。そして、誰かの力を借りることは、本来、緋皇の性には合わないので、内心腹正しい。
 それでも翡蓮のために、緋皇は選び、動く。

「よろしいでしょうか、<宝珠>様。」
 と問われ、文机に向かっていた翡蓮は
「どうぞ。」
と、答えた。
 ふわり、と甘い香りが空気を染めて。
「失礼致します、<宝珠>様。」
と、流れるような洗練された所作で部屋に入って来たのは、十二、三の少年だ。同年代の少年を世話係にしたのは、少しでも気楽に過ごせるようにという配慮か、それとも何か別の理由があるのか。
 将軍の意図がどこにあったとしても、ソウビと名乗り、将軍付の小姓だと告げたこの少年は、細やかな気配りが行き届いている。そうでなければ、東の統治者の傍近くに仕える名誉には預かれないのだろう。
 初日の夕餉は、贅を尽くした豪華な膳だったのだが、翡蓮は、緋皇が心配でほとんど喉を通らなかった。翡蓮は華奢と言えるくらいに細身だが、育ち盛りで食べ盛りなので、ふだんなら何とか平らげられる量だったのだが。
 翡蓮に食欲がないと知ったソウビは、翌日の朝餉からは、喉を通りやすく、少量でも滋養のある料理に変えた。さらに、「一の君様から、<宝珠>様は甘い物がお好きだと聞きましたので。」と、未の刻には、甘味を用意してくれる。寒牡丹の練り切りだったのだが、薄い花弁がまるで本物のようだった。あまりに精巧で、翡蓮は別の意味で食べるのをためらうほどだった。
 気遣いに加えて、咲き誇る花のような、ため息を誘うほどの美貌の持ち主だ。
 秀麗にして、優艶。
(緋皇も、見た目だけなら負けてないけど、何しでかすかひやひやさせられることが多くって、のんびり見ていられるときが少ないからなあ…。)
 華麗だが苛烈な印象の強い緋皇の顔が、ふっと脳裏をよぎり、翡蓮は思わずため息をついた。
(もう三日も緋皇に会っていない…。)
「私が言うべきではないのでしょうが、元気を出してください、<宝珠>様。一の君様から、新しい本を預かって参りました。」
と、ソウビが数冊の冊子を差し出す。
 翡蓮は、複雑な思いで冊子を受け取った。どれも、貴重で高価な稀覯本だということはわかる。
 そんな本をソウビに渡してくれる緋皇の優しさは嬉しいけれど、
(優しくなくていいから、そばにいてほしい。)
と、切実に思う。
 いつもなら、稀少な本を夢中になって読みふけっただろう。けれど、今は、緋皇のことが気になって、つい、頁をめくる手が止まってしまう。
(緋皇、おまえ、今、何してる?騒ぎが起きてる様子はないから、ちゃんと大人しくしてるんだよな。でも、こんな広い城だから、騒ぎが起きててもわからない可能性もあるか。将軍の若君ってばれてるんだから、危険が及ぶようなことはないよな?)
 思考はぐるぐる回るけれど
(このままずっと会えなかったら…。)
という背筋が寒くなる恐怖にぶつかって、もう何も考えられなくなる。
 この三日間、翡蓮は、気後れするほどのもてなしを受けた。まるで大名の子息のような扱いで、食事の膳一つとっても、庶民なら一生口にできない高価な食材が、ふんだんに使われていた。
 けれど、城内を歩くときは、必ず誰かが…主にソウビが付き添い、しかも足を踏み入れていい場所は限定されていた。緋皇がどこにいるのかさえ、わからない。
 鳳凰城の中に、龍眼は持ち込めなかったので、神殿と連絡も取れない。
 帰るどころか、緋皇にいつ会えるのかすら、全くわからない状況に、不安と焦りだけが募っていく。
 翡蓮の胸の内を察してか、ソウビが柔らかな声で言う。
「<宝珠>様。気晴らしに散策しませんか。よろしければ、宝物庫や書庫をご案内します。歴史のある品や本が多いですから、神官候補生様である<宝珠>様の興味を惹く品もあるかと。」
「お願いできますか。」
と、答えたのは、このまま部屋にいると、どんどん塞ぎこみそうだったからだ。ソウビの親切を無下にしたくはなかったし、彼の言う通り興味もある。鳳凰城の宝物庫や書庫に立ち入る機会など、この先そうそう訪れないだろう。翡蓮は知識欲が旺盛だ。
「はい。では、参りましょう。」
 ソウビはにこりと優雅に微笑む。
 ふわりと、また甘い香りが広がるようだった。

 鳳凰城の宝物庫は、城内に点在しているそうで
「ここにあるのは、ごく一部です。」
と、ソウビは言った。
「これで、一部…。」
と、翡蓮は目を丸くする。
 百畳ほどの広さに、ずらりと棚が並んで、迷路のような様相を帯びている。そこにびっしりと由緒ある品が飾られているのは、壮観だった。
「その屏風は、狩野派の祖である、正信の最高傑作で、数百両の値打ちがあります。」
「その刀は、天下五剣のうちの一振りで、最も美しいと称される、三日月宗近です。三日月のように見える刃文が、その名の由来で…。」
「その茶碗は、耀変天目という異国からもたらされた大変稀少な茶碗です。黒いうわぐすりの下地に、瑠璃色の模様が見える様が、星のようだと称されて…。」
 次々と示される品々は、どれも、きらびやかで、目を奪われる輝きを放っている。淀みなく、流れるように語るソウビの博識にも驚かされるが。
(本当なら、これは全部、緋皇のものになるはずだったのか…。)
 翡蓮の中に、ふっと、そんな考えが浮かび上がる。
 この鳳凰城の全てを、緋皇は…否、皇はいずれ手にするはずだったのだ。
 急に、遠く感じた。
 三日前まで、誰よりも近いところにいたのに。手を伸ばせば、まだ丸みを失っていない頬にも、輝く銀色の髪にも触れることができたのに。
「そして、そこにある三つの面は、鬼才、夜叉王の手によるものです。彼の打った面はその迫力ゆえに、様々な伝説に彩られています。その面をつけて舞った役者は、舞台では大成功をおさめ、万雷の拍手を浴びるが、必ず狂死すると。」
 ソウビが、小首をかしげて翡蓮の目をのぞきこむ。
 吸い込まれそうに深い、漆黒の双眸。
「<宝珠>様は、神官候補生様ですから、本物の鬼を見たことがおありですか?」
「はい。下位の鬼なら調伏したことがあります。上位種には、正神殿の上層部の神官でなければ、太刀打ちできないと聞いています。幸いにも、数が少ないので、目にしたことはありません。」
 ソウビに答えながらも、翡蓮の意識は緋皇に向かったままだ。
(下位の鬼の調伏も、無傷では済まなかったな…。緋皇を庇ったら、後ですごく怒られて…。)
 思い切り乱暴に、傷口の薬をねじ込まれたことを思い出す。山全体が燃えているように見える、秋の最中の頃だった。ほんの一月ほど前のことなのに、ずいぶん昔のことのようだ。
「<宝珠>様ともなると、本物の鬼とも戦われるのですね…。では、人が鬼に変わるということも、本当にあるのですか?」
 ソウビは、興味を惹かれたように問いを重ねる。
 翡蓮は、神殿で受けた講義を思いだす。
「あまりに負の感情が強くなりすぎると、人も鬼へ堕ちるのだと聞いています。憎悪や悲哀に心を支配された時に、此岸と彼岸の境界を踏み越えてしまうのだと。」
 琥珀は、どの講義のときも、真剣に、熱意をこめて語るが、あの時はいつもよりも、声に力が入っていた。「人の心は、容易に闇に堕ちる脆さを抱えているのです。私たちも、けして例外ではありません。『怪物と闘う者は、自らが怪物とならぬよう心せよ。汝が深淵を見つめる時、深淵も等しく汝を見つめ返す。』とは、異国の学者の言葉ですが、常に妖と対峙する私たちこそ、その危険に最も近いところにいるということを忘れてはなりません。」
「では、この面について語られる、もう一つの伝説も、真実なのかもしれませんね。天才能面師、夜叉王は、丑の刻参りをしている女と出会い、彼女が鬼と化す様を目撃したと。だから、この三つの面は…。」
 すっと、爪の先まで整えられた指先が、面を指す。
「人から鬼へ変わる過程を写し取った面だと伝わっております。」
 あらためて眺めると、そんな曰くがついたのも頷ける面だ。
 本物の鬼の生首と言われても、信じるだろう。我が身を焼き、鬼と化すほどの怒りと憎しみが、ほとばしっている…。
 鬼と化す三つの段階については、講義で習ったので知っている。
 最初の面は、「生成」。角は生えているが、まだ短い。表情も、怒りよりも、哀しみが勝っているように見える。
 次の面は、「中成」。またの名を「般若」。角が伸び、口は耳まで裂けている。作り物とわかっていても、伝わってくる激しい憎悪に、自然と目を反らしてしまう。
 最後の面は、「本成」。またの名を「真蛇」。憤怒を通り越して、狂喜しているかのような表情は、憎い相手をとり殺すことが可能な力を手に入れたからだろうか。最大の特徴は、耳が消えたこと。もはや、聞く耳をもたぬという、この状態に至ってしまえば、救うことはできない。
「この面は恐ろしいですが、私には、同時にひどく哀しいものだと思えるのです。」
 ふいに、ソウビが告げる。
 翡蓮は、美貌の小姓に目を向けた。
「この面が示すのは、他の女ができた男に捨てられ、嫉妬に狂った女の成れの果て。愛とは、恐ろしいものですね。人を鬼に変えてしまうのですから。愛していたがゆえに、裏切りを許せなかったのでしょう。なぜ、人の心は、たやすく変わってしまうのでしょうね…。」
 それは、東の王城の主に仕え、彼をとりまく寵姫たちを知るがゆえの言葉か。権力者に弄ばれ、いともあっさり捨てられる、哀れな美姫たちを。ソウビの声には実感がこもっている。
 いつの間にか、雲が出てきたようだった。
 日射しが遮られてぐっと気温が下がり、肌が粟立つようだ。急に薄暗く感じる、宝物庫の中。
「永遠を誓っても、心など簡単に覆る。」
 翡蓮は、びくりと、肩がはねた。
 鼓動が速くなる。
 戦っているわけでもないのに、息が苦しい。
 ソウビが、翡蓮をのぞきこむ。
 磨き抜かれた黒曜石のような瞳。
 吸い込まれそうに深い。深淵の双眸。
 甘い香りが増すのは何故。
 麝香か、伽羅か。
 くらりとするほど濃密で、むせかえるほどに甘い。
 つい最近、かいだ香りだ。どこで、と記憶をたどるが。
 酔ったように眩暈がして思い出せない。
 甘い香りが、虫が食い荒らすように、思考を侵食していく。
 現実が遠くなる中で、ソウビの笑みだけが、視界いっぱいに広がる。
「<宝珠>様、一の君様のおっしゃる「一生」は、信じるに足る言葉ですか?」
「なんで、それを、知って…。」
 翡蓮の声が震える。ソウビに話した覚えなどない。
(怖い。)
 どんな妖と対峙した時よりも。
 膝が砕けて座りこみそうだ。
 ソウビの笑みが、深く、妖しくなる。妖艶さを増して、もう、同い年の少年には見えない。その人間離れした美貌も、どこかで見た気がするのに。
「所詮、口先だけの戯れ。おかわいそうな<宝珠>様。一の君様が、本来の地位にもどってしまえば、貴方はいとも容易く捨てられてしまうのでは?もともと、釣り合う身分などではないのだから…。」
「やめ…。」
 翡蓮は耳を塞ぐ。ぎゅっと目を閉じた。いつも凛として、どんな敵にも毅然と立ち向かっていた翡蓮とは、まるで別人。
 そんな翡蓮を、「なに、らしくねー顔してんだよ!」と叱咤してくれる緋皇は、今はこの場にいない。
 否。
 もしかしたら、もう二度と。
「幼い日に、友達になったのでしたね?それなのに、再会した一の君様は、貴方を突き放した。哀しかったでしょう?辛かったでしょう?貴方は、一の君様のために、家族も将来も、全てを捨てて、神殿に行ったのに。一の君様は、気まぐれで残酷なひどい方だ。さあ、次に会うとき、一の君様が、貴方に笑いかけてくれる保証は、どこにあるのでしょう?」
 耳を塞いでいるのに、ソウビの声はまるで毒のように注がれる。
「だから、ね…<宝珠>様。一の君様と離れていてはいけないんですよ。だって、一緒にいなかったら、一の君様は、また貴方を裏切るかもしれない。貴方の手の中に、一の君様を閉じ込めておかなければ。それを邪魔する者は、全て、貴方の敵。そうでしょう?」
 翡蓮が、ソウビの言葉にこくりと頷いた。
 翡蓮の、閉じたまぶたから、一粒の涙が伝う。
 水晶のように煌めいて、露のように儚く散る。
 ソウビは、くすくすと愉しげに笑う。
(堕ちた。)

 昼間は、雲一つなく晴れ渡り、冬にしては明るい陽光の降り注ぐ小春日和だったのに、昼過ぎから、一つ二つと湧き出した雲は、あっという間に空を覆ってしまった。薄墨色だった雲は、次第にその濃さを増して行った。灰色から鉛色になり、重く垂れこめた雲からは、ぱらぱらと雫が落ち、すぐに土砂降りになった。
 夕方には、既に真夜中のように暗くなり、さらに時折空が光る。寒雷が、漆黒の空を切り裂く。
「荒れてまいりましたな。」
 冬の雷は、夏のそれよりも甚大な被害をもたらす。落ちねばよいのですが、と思案顔の大久保に、緋皇は、はっと鼻先で嗤う。
「雷は、神が鳴るって言うぜ。神官候補生を閉じ込めたから、紫龍が怒ってるんじゃねーの?」
 皮肉な笑みに、唇の端をつり上げる緋皇。
困った顔をして黙り込む大久保に、緋皇はそれ以上の言葉はかけない。
 大久保にはどうしようもない、ということくらい、緋皇には百も承知だ。
 大久保が、本当の孫のように、自分を大切に思っていることも。しかし、大久保にとって最優先されるのは、将軍への忠義だということも。
 だからこそ、その命を破ってまで、緋皇に会いに来ることはできなかった。六年もの間。
 それを責める気は、緋皇には毛頭ないし、寂しいとも思わない。数十年、幕府に仕えてきた大久保には、その生き方しかできないだろう。緋皇は、そこまで大久保に期待をしていない。
 結局、緋皇は、翡蓮以外、誰一人として信じていないし、必要としていないのだ。緋皇は、翡蓮以外の全てを切り捨てている。それは、幼いころ、実の父母よりも近くにいて、彼らが与えてくれなかった愛情を、代わりに注いでくれた大久保に対しても同じだ。
「蓮殿は、元気に過ごしていらっしゃいます。皇様のおっしゃる通り、珍しい書物を幾冊も届けておりますし、菓子も、選りすぐりのものを。」
 大久保も、緋皇にどう思われているかは自覚している。毎日を傍で過ごした頃も、無条件で自分を信じてはくれなかった若君。だからこそ、初めて会ったその日に、皇が、蓮に心を開いたことに、吃驚したのだ。
 緋皇は、ぎろっと、真紅の双眸で大久保をにらむ。
「当たり前だ。不自由させてたら、この城ごとみんな焼き払ってやる。」
「わかっております。皇様、今しばらくご辛抱を。」
 と、大久保が宥めるように言ったとき。
 鳳凰城が揺れた。
 雷が落ちたかと思ったほどの衝撃。
 しかし、緋皇だけは、即座に違う、とわかった。
 瘴気。
 距離があっても、その濃さが感じ取れる。胸が悪くなるような、邪悪でどす黒い瘴気は、並の妖の放つものではない。
 緋皇は考えるより早く走り出している。
(邪神?でなきゃ鬼の上位種か?)
 嫌な予感が背筋を走り抜ける。
「皇様!皇様、お待ちください!!」
 大久保の制止などに耳を貸さず、緋皇は瘴気の源へ急ぐ。

 天下に誇る、東の王城、鳳凰城の一角が、無惨に崩れ落ちている。
 砲撃を浴びたか、それこそ落雷でもなければ、堅固な城壁がここまで破壊されることはないだろう。瓦礫の山ができている。
 天守閣に近く、出入りできる者が限られている場所なので、幸いにも負傷者はいないようだ。
 十数人の武家が集まっているが、皆、破壊されてからここに駆け付けた者なのだろう。鳳凰城に敵襲など、幕府が開かれてから一度としてなかったことだが、日頃の訓練の賜物か、皆、剣や槍を手にしている。
ただ、真っ暗闇で、敵の姿は見えず、声も一切聞こえない。自分たちの息遣い以外は何一つ。どうしたらいいのかわからず、武器を手にして佇むだけだ。
 暗黒の夜空から、容赦なく降り注ぐ大粒の雨が、彼らを無情に濡らし、体温を奪っていく。
「四級神術発動、華焔乱舞。」
 よく通る、少年の声が響き、周囲がぱっと明るく照らされる。
 反射的に灯りの方を見た、武家たちは、この場にいてはならない人物を目にして凍りつく。
「い、一の君様…!!」
「おもどりください、ここは危険です!!」
 緋皇は、彼らに一瞥すら与えなかった。
 華焔乱舞は、突風に乱された桜吹雪が舞い踊るように、炎の花弁が四方八方に飛び散る神術だが、今は、緋皇の周囲に停止させている。
 そのせいで、緋皇の姿だけが暗闇に浮き上がる。
 炎の照り返しを受ける、銀の髪。紅玉の双眸。
 緋皇は、その目を鋭く細め、す、と軽く手を振った。炎の花の一部が、上空へ舞い上がる。
 燃える桜花が照らし出したのは、漆黒の夜空に浮かぶ、美貌の少年。
 緋皇と対をなす色彩。金の髪。碧玉の双眸。
 翡蓮が、空に浮かんでいる姿なんて、緋皇は見慣れている。戦う時だけではなく、緋皇が木に登っていると、「風翼飛翔」で、上からのぞきこんでくるのが常だった。
 しかし、今、翡蓮の背中に、透明な風の翼は見当たらない。
 代わりに、翡蓮を支えるのは、夜闇よりもさらに暗く、深い、漆黒の闇の塊。
 瘴気、だ。
 けれど、緋皇は、全く別のことを叫んだ。
「翡蓮、何があった!?どうして泣いてる?」
 翡蓮の頬を伝う雫。
 緋皇の炎が紅く照らすせいで、血の涙を流しているかのよう。
 翡蓮は白い首をかしげた。
 雨が伝っていく、その首筋の細さが、ひどく儚げで、翡蓮が今にも消えてしまいそうで。
 緋皇が、焦りから声を荒げる。
「翡蓮!!答えろ!なんで泣いてるんだ!!」
「泣いてなんかいないよ?」
 翡蓮は、緋皇は変なことを言うなあ、とおかしそうに唇の端を上げて言う。
 その間にも、白い頬を、次々と、光る雫がこぼれ落ちていく。
 澄んだ碧の目が濡れて、金色のまつげから、また一つ。
「これは雨だよ。泣いてなんかいない。だって、オレはもう決めたから。」
 ふざけんな、と怒鳴りつけたいのを、緋皇は必死でこらえる。
 今、この均衡を崩したら、翡蓮がどうなってしまうかわからなかった。
 緋皇は、できるだけ声を抑えて訊く。
「おまえ、一体何をしようとしている?」
「消すんだ。」
 翡蓮は、無邪気に笑う。
 いつもと変わらない笑顔で、いつもの翡蓮なら、絶対言わないことを。
「みんな殺す。」
 いともあっさり言い放つ。
「オレからおまえを奪う者は、全部。」
 何かが、ピシリと音をたてて割れた気がした。
「だって、駄目なんだ。離れてしまったら、おまえは、また、オレをきらいになってしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。耐えられない。だから、オレとおまえを引き裂く者は、全部、殺してしまわないと。」
「翡蓮!」
 緋皇が叫ぶよりも。
 翡蓮が手を振る方が早い。
 瘴気が降り注いだ。
 武家たちの上に。
「二級神術発動、業火炸裂!!」
 爆炎が、瘴気に襲い掛かる。
 ぶつかり合って相殺する。
「翡蓮、おまえ…。」
 緋皇は、信じられない思いで、翡蓮を見上げる。みっともないほど、声が震えた。力を入れていないと、その場に膝をつきそうだった。
 悪夢なら醒めてほしいと、本気で思う。
 緋皇が、武家たちを攻撃したとき、彼らを庇ったのは翡蓮だった。今、翡蓮が、何のためらいもなく瘴気を浴びせかけた中には、道中、一緒だった顔見知りの武家もいる。
「皇様、ご無事ですか!?」
 追いついた大久保に、緋皇が怒鳴る。
「来るな!!」
 再び落とされる瘴気。
「二級神術発動、業火炸裂!!」
 緋皇の炎が焼き尽くして事なきを得るが、全く迷いのなかった翡蓮に、緋皇が蒼ざめた。
 大久保は、翡蓮にとって、ただ顔を知っているという程度の相手ではない。
 ぎりっと奥歯をかみしめた緋皇に、翡蓮が翠の目を細めた。
「おまえ、やっぱり日嗣の君にもどりたいのか?もう、オレはいらないのか?」
「そんなことあるわけねえだろ!」
「でも、今、そいつらを守ったじゃないか!!」
 翡蓮が、初めて、声を荒げた。
 激昂した声に、緋皇は全身が凍りつく。
「ちがうっ!!オレはっ。」
 瘴気が叩き付けられる。
 緋皇に向かって。
 動揺しすぎていて、神術を発動させられなかった。
 こういう時に、いつも緋皇を庇ってくれたのは翡蓮だった。
 しかし、今は。
 瘴気に弾き飛ばされ、緋皇は、瓦礫に突っ込んだ。
「っ!!」
 声も出ない。
 息さえ止まる衝撃。
 緋皇が維持していた「華炎乱舞」が消え、周囲が闇に沈む。
 武家たちも、大久保も、あまりに驚愕しすぎて、身動きどころか、声さえ出せない。
 不気味な静寂の中、生温いものが伝う。
 瘴気で全身が激痛にさいなまれ、どこが切れているのか、闇の中ではわからない。
 口の中にも、鉄の味が広がる。
 トンッと、軽い足音が、緋皇の近くに下りた。
 知っている。見えなくったって、わかる。
 いつだって、触れるほど近くにいた。
「翡蓮…。」
 抱き起こされた。
 その腕のぬくもりは、緋皇の肌に馴染んだ温度。もう、自分の体温ととけ合うくらいに。
 すべらかな、白磁の肌の感触も。
 ぽたっと、滴が落ちた。
 つうっと、緋皇の頬を伝わって、鎖骨に落ちる。
 雷鳴が、轟いた。
 稲光が、一瞬だけ、その光景を照らし出す。
 刹那の光景が、緋皇の脳裏に永遠に焼き付いた。
 翡蓮のこめかみから、鮮血が滴り落ちている。
 緋皇の頬に伝わったのは、翡蓮の血だった。
 翡蓮のこめかみの肌を突き破り、角が生えている。
 全身雨に打たれ、血に濡れて、妖しく微笑む美しい鬼。
 緋皇は、何もかも忘れた。
 雷光が照らした、ほんの一瞬。一目で魂を奪われるほど、鬼と化した翡蓮は凄艶だった。
「生成だよ。」
 そう言ったのは、今の翡蓮なのか。それとも、緋皇の記憶にある声なのか。講義をさぼった緋皇に、翡蓮が、内容を手短にまとめて伝えてくれるのはよくあることだった。その時に、翡蓮が言ったのだ。
 人が鬼と化したときの、最初の姿だと。
 緋皇の意識が遠のく。
 闇に沈む直前に、抱きしめられた気がした。
 血のにおいに混じって、いつもの翡蓮の香りがした。清々しくて、かすかに甘い。泣くなよ、翡蓮と言ってやりたかった。声に出せたのかは、わからない。

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 緋皇(ひおう)と翡蓮(ひれん)の友情譚、第三弾。この話は、「もう二度と放してやらねーから、覚悟しな。」~龍神少年~、「傷つけていいから、オレのそばにいろよ!!」~龍神少年 弐~の続編ですので、先にその二つを読んでいただけるとありがたいです。舞台は、七柱の龍神が創造し、守護する龍神国。妖や鬼が跳梁跋扈し、神官が、龍神の力を行使する技、「神術」を使って、それらから無辜の民を守っている。緋皇と翡蓮は、神官候補生として、神殿で修行中の少年たち。候補生といっても、妖の調伏を任されており、今回は、鬼を倒すために神殿から離れた地に派遣された。戦いの最中、緋皇を庇って翡蓮が負傷し、緋皇は自分を犠牲にする翡蓮と、そうさせてしまった自分に苛立つ。強くなると誓う緋皇だが、悲劇は再び二人を襲う。翡蓮のためなら、神さえ敵に回すと言い放つ緋皇。その執着が、怖い物知らずだった緋皇を変えていく。「おまえが死んだら、オレは狂う。」翡蓮が倒れたとき、緋皇の心は。和風異世界を舞台に、少年たちの絆と成長を描いた、バトルファンタジーです。よろしくお願いします。

「おまえさえいれば、帰る場所なんかいらない。」~雷の絆・炎の約束~

火威
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 惹かれた。魅入られた。心を奪われた。だから、傍にいなければ駄目になる。/こいつは、オレの獲物だ。横取りはさせない。それだけのはずだ。それなのに。/種族も立場も性根も、全く異なる二人の少年は出逢い、衝突し、知らなかった感情を知っていく。舞台は、平安時代風の異世界。元服前の少年でありながら、陰陽頭の父の元、陰陽寮で研鑽を積む氷月と火陽の兄弟。秀才で、何でもさらりとこなす兄の氷月と違い、火陽は戦う術は抜きんでているものの、座学はとことん苦手。しかし、明るく元気でまっすぐな気性を誰からも愛されて、のびのびと育っていた。しかし、京を荒らす「銀の鬼」、雷火と出会い、その運命は大きく変わっていく。冷酷で残忍な鬼の少年、雷火は、自分にたてついた火陽を殺そうとするが、「命乞いしてみろよ。」と迫った自分に「ぜってーやだ!」と火陽が答えたことで、気が変わる。「気まぐれで生かしておいてやる。」と。夜の京で何度も対峙する二人。しかし、芽生えてはならない禁忌の絆ゆえに、雷火は、鬼の同胞を葬ることになる。その時、雷火と火陽の前に立ちはだかったのは、鬼の首領、酒呑童子だった。「その子を殺して、生首を私に持っておいで。」そうすれば、雷火の罪を許すと。果たして雷火の選択は。そして火陽の思いは。鬼と陰陽師。敵として出会った二人の少年が行き着く先は、破滅か。それとも。  R指定にはしていませんが、雷火は人を殺しているので、苦手な方はご注意ください。

「もう二度と放してやらねーから、覚悟しな。」~龍神少年~

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「おまえって、なんで、オレのやったこと全部許すんだよ。」七柱の龍神が建国した、龍神国。そこは、妖が跳梁跋扈し、それらを調伏する神官が、龍神の力を行使する術、神術によって、無辜の民を守っている。神官候補生として修行中の少年、翡蓮(ひれん)は、候補生たちのまとめ役である<宝珠>であり、皆から慕われている。ただ一人、天才児だが異端児である少年、緋皇(ひおう)を除いて。問題ばかり起こす緋皇を、翡蓮は庇い続けるが、緋皇は翡蓮に心を開かない。候補生や神官が暮らす神殿から脱走した緋皇。自分の全てを懸けてでも、緋皇を守ろうとする翡蓮。翡蓮の思いは、緋皇に届くのか。そして、なぜ、翡蓮はそこまで緋皇に執着するのか。緋皇が翡蓮に向ける苛立ちの奥には、何が秘められているのか。全ての始まりは、遠い夏の日に交わされた約束。「絶対、おまえに会いに行くから、待ってろ。」少年たちの危うい絆の行き着く先は…?  江戸時代風の異世界を舞台にした、和風バトルファンタジーです。

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