私たちはケダモノだもの

紺乃 藍

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愛獣の章

我々獣故 ② R

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 奥まで一気に突き入れられた存在感と圧迫感に、そのまま達してしまいそうになる。

 強烈な快感の波に流されないよう必死に耐えたので、絶頂には至らなかった。しかし少し腰が引いたと思った矢先にまた奥まで押し込まれ、更に小刻みに律動を繰り返されると、我を忘れたように喘いでしまう。

「や、やぁっ、ぁ、あ、あっ……!」
「……ステラ」

 再び身体を抱きしめられ、耳元で名前を呼ばれる。素肌同士が触れ合うと、混ざり合った温度と汗の匂いに酔い痴れて頭がくらくらする。

 熱を刻みつけるように少しずつ奥を突かれると、だんだん身体が上へずり上がるように逃げていく。けれどアルシスは逃亡を許してくれず、身体を密着させたままでステラを追い詰める。

「アルシ、っさ……ん、……やっぱり、おこっ、……?」

 サーシャのためとはいえ、アルシスに事前に確認せずにディアンと同調魔法を使ったこと――直前に呟いた言葉から、やっぱり彼はステラに対して不満を抱いているのかもしれない。腰を掴まえて熱塊を押し込まれて最奥をトントンと突かれる度に、そんな罪悪感を抱いてしまう。

 しかし笑顔を作ったアルシスは、すぐにステラの考えを否定してきた。

「いや、全然? ただ、ステラに……お仕置きしたいだけ」
「なっ……あ、っ……ぁ、やぁっ」

 いつになくギラついている視線に、深い情欲の色を感じ取る。内壁を抉りながら奥を叩く動きはこわいほどに的確で、声音が優しいことが逆に恐ろしい。

 アルシスの行為が『お仕置き』ならば、確かに今のステラにとっては拷問に等しい刺激だ。緩慢な動きで侵入してきた陰茎は、奥の弱い場所に何度か触れるとすぐに引いていく。

 その動きはゆるやかにステラの心と身体を蝕んでいく。達することも出来ず、快感を落ち着かせることもできない。

「ん、ごめんごめん」
「っぅ、……?」

 アルシスがふっと破顔する。濡れた唇が『意地悪しすぎた?』と訊ねる。指先に目尻を拭われると、アルシスの焦らし方に身体が限界を迎えていたのだと気付かされた。

 ステラとしてはアルシスが与えたいならばどんな罰でも受け入れるつもりでいた。その反面、身体は彼を求めている。

 お仕置きでも何でもいい。早く全てを教えて欲しくて、結合部も腟内も蠢いている。焦らされた身体の限界は、また涙になって溢れてくる。

「っぁあ! だ、っだめ、まだ……!」

 最奥の突起に熱い温度を持った鈴口が触れると、快感に震えるように全身が痺れた。膨張した熱にいちばん深い場所を突かれた瞬間、そのまま意識が飛びかける。顔同士が近い位置でステラの反応を観察するアルシスに、ふるふると首を振る。

 拒否ではない。ただ、このまま一方的に三度目の絶頂を迎えたくない。

「……いっしょが、いい……です」
「っ、……そんな可愛い理由?」

 アルシスの小さな問いかけが耳に届く。それに応える前に、ゆるやかだった抽挿が突然速度を速めた。

「っあぁ、ああっ、ん!」

 急加速した腰の動きに従うように、喉からは声が溢れてくる。あまりに大きな声が出てしまったので、部屋の外に声が漏れてしまったかもしれない。それに天蓋とベルベットのドレープに包まれた空間は狭く、ぐちゅ、ぬちゅ、と水に濡れた摩擦音がやけにはっきりと響いている。

 恥ずかしい。けれど音の心配などすぐに何処かへ霞んで消える。

 意識が一瞬逸れると、アルシスの指が胸の尖端を押しつぶすように撫でた。その刺激があまりにも強すぎて、一気に快感を極めてしまう。

 すっと感覚が無くなったと感じた直後に、下腹部を中心に強烈な痺れが広がった。そして一気に弾ける。

「やぁ、あっ、あああっ……!」

 我を忘れたように身体がびく、びくっと跳ねてしまう。甘いしびれが全身を埋め尽くして、意識も思考も蜜の色に塗り潰す。アルシスは強く反応してしまう身体を愛おしそうに抱きしめ、自身もステラの中に精を放った。

「んっ……気持ち、い……、ですか……?」
「ああ、最高だ……」
「よかっ……あぁっ!」

 恍惚の表情を浮かべてステラの疑問を肯定したアルシスだったが、頷き返す前にまた強く突き込まれる。おかげで正確な言葉を紡ぐことができず、悲鳴のような声が溢れた。

 その声と卑猥に濡れた音に混ざって、アルシスの嘆息も耳に届いた。

「ダメだな……、止まらない……っ」
「ふぁ、ああ、あ……っん」

 たった今達したばかりだというのに、アルシスの体力と驚異の回復力は一体どうなっているのだろう。本人に問いかけようと思っても、蜜口を擦られ、内壁を押し広げられ、最奥を塗りつぶす男根の熱量と質量に負けてしまうと、再び身体が快感を求める。

「っゃあ、あっ、まっ……だめぇっ」

 アルシスに与えられる快感に負けないように制止の声をかける。しかし腰を前後に揺らしながらステラの顔を覗き込み、確かめるように深く口付けてくる瞳に射抜かれると、負けないどころか一気に性感が高まって身体が震えてしまう。

「んん、んぅ……っ、ふぁ、あぁ、ぁあー…っ」

 今度は唇を塞がれたまま腰を掴んで強く揺さぶられた。まだ絶頂の波が引いていない身体には刺激が強く、結合部の隙間から透明な飛沫を、唇の合間からは甘ったるい声を零しながらあっけなく果ててしまった。

 ようやくアルシスの陰茎がステラの中から出ていく。収まるものが無くなった蜜筒がひくひくと蠢いている。

 快感の余韻で身体が強く痙攣している間、アルシスは何度もステラに口付けて、唇を舐めて、頭を撫でてくれた。

 恋人同士の交わりがあまりに久しぶりすぎて、強烈に果ててしまって、回復に時間がかかってしまう。それでも優しいアルシスはその時間まで愛おしむように、髪や身体に触れながらステラが落ち着くのを待ってくれる。

 いつもはそうだから、今日もそうだと思っていた。

「ステラ、腕ついて」
「っえ……?」

 アルシスに誘導されて身体をうつ伏せに転がされると、シーツの上に腕をつくように指示された。

 普段は正面から抱き合って愛し合うことが多く、背中やお尻を見られる経験はない。いつもは晒すことがない後ろ姿をまじまじと見つめられているだけで恥ずかしい。

 まだ快感の波が引いておらず、体力も回復していない。そんなひどく弱った姿を目の当たりにしているはずなのに、今日のアルシスには容赦がない。

 お尻をむにゅっと包むと、添えられた親指が蜜口を広げる。

「あ、やだ……! こっ、この体勢……恥ずかしぃ……です」

 秘部が空気に触れると、ひどくはしたない姿勢になっていると気が付く。何度か達した身体では『ついて』といわれた腕にも上手く力が入らず前へ崩れてしまう。そのせいでアルシスにお尻を突き出すような格好になってしまい、やけに恥ずかしく感じる。

 頭を振ってアルシスに羞恥を訴えるが、脱力した身体では上手く拒むこともできない。ステラのお尻を引き寄せたアルシスは、とろとろと白い蜜液が溢れる場所に再度雄竿の先を押し当てた。

「ゃあっ……」

 すでに硬さと角度を取り戻している圧倒的な存在感に、思わず小さな声が漏れる。しかしステラの制止の言葉は受け入れられず、熱く滾った雄竿が再び同じ場所を貫いた。

「んぅ、ぁああっ……!」

 達したばかりで敏感に震えていた場所は、あっという間に太い棒を飲み込んでしまう。絶頂の余韻で痙攣している場所は感覚を失っているはずだが、与えられる快感を欲しているように簡単に受け入れてしまう。きゅうきゅうと締め付けるように、全身で反応してしまう。

「あ、あっ、あ、あんっ……」
「かわいいな、ステラ。……ほら、もっと」
「あ、だめ、だめぇ、っ、ぁ、ゃあぁっ!」

 後ろから何度も貫かれ、深い場所を抉られ、思考が飛んでしまいそうなほどに感じる。はしたない、恥ずかしい、という感情も吹き飛び、先ほどよりも深く挿入されることに全身で悦んでしまう。

「はぁ、んんっ……!」
「っう……、――ッ」
「や、ふ、ああぁ――っ!」

 お互いすでに達しているはずなのに、絶頂までの感覚が短かった。ぐちゅ、と深くまで突き入れられた瞬間、目の前で閃光が散って、あっという間に果ててしまう。再び結合部を締め付けるとアルシスも吐息を漏らしたが、彼の短い声はステラが甘く啼く声がかき消してしまった。

「はぁ、……ぁ、ア……シス、さん……」

 腰を掴んでいた手が離れると、とさ、とシーツの上に身体が崩れ落ちる。すぐにキスを与えてくれるアルシスの首に腕を伸ばして、再び愛しい名前を呼ぶ。名前だけではない。

「もういっかい……」

 ぼそりと呟くと、彼のエメラルドの瞳が一瞬だけ大きく見開かれた。しかしステラの情欲を見抜いたのか、すぐに表情を緩めて頬に口付けを落として来た。

「足りない?」
「……はい」

 そっと確認されるので、静かに頷く。

 本当は足りなかったわけではない。アルシスに与えられる快感は甘く深く強く、十分すぎるほどに愛情を感じている。

 けれどそうじゃない。
 きっと、それだけじゃない。

「甘え上手で可愛いな。ずいぶん積極的だ」
「だって」

 心も身体も十分に満たされているはずなのに、渇きを覚えるほどに彼を欲している。だから理解してしまう。

 この身体はアルシスに与えられるすべてを知りたがっている。まだ知り尽くしていない、と気付いている。

 それにアルシスがステラの内心を見抜くように、ステラもアルシスが秘めている情欲の片鱗を感じ取っている。恐らくまだ隠し持っているはずの彼の愛情を、すべて見せて欲しいと思っている。限界の向こう側にある世界を、他でもない彼から与えられたいと感じている。

「私たち、ケダモノですから」

 ――きっとまだ、食べ足りない。
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