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◆ 第3章
【番外編】 家政婦はなにも見ていない 4 ★
しおりを挟む(あ……ごむ……)
そもそもの発端は、翔が秘密裏に準備してくれていた避妊具を掃除中の美果が見つけてしまったから。恋人同士が肌を合わせるときの必需品ともいえるそれを、美果に気を遣わせないようにさり気なく準備してくれることは確かにありがたいと思うけれど。
指先に挟んだ小袋を口の端で破く様子をじっと見つめていた美果は、ふと翔と目が合った瞬間ドキッと心臓が跳ね上がった。そんな美果の瞠目を確認した翔が、ふっと妖艶に微笑む。
「美果はいやらしい子だな」
「え、なっ……?」
ずばり言い切られた言葉に反論しようとするが、美果にはその隙も与えられない。美果が見ている目の前で、翔が下着から取り出した自身の亀頭にリングを被せ、それをくるくると引き下ろしていく。その卑猥すぎる光景に釘付けになった美果を見た翔が、くすくすと笑う。
「このケース、わざと閉じずに上のとこ開けてあるんだ。ほら、これなら片手で取り出せるだろ?」
「っ……」
どきどきと緊張したまま翔の準備を見守っていた美果だが、彼の説明を聞いたことでようやくこの状況に陥った種明かしをされた気分になった。
美果は昨日、翔が隠し持っていたポーチを発見してしまったとき、開いているファスナーを閉じてから引き出しの中に戻した。仕事中はともかく私生活ではずぼらな翔のことだから、今回もファスナーを閉め忘れたのだろうと早合点したのだ。
だが実際は、ポーチのファスナーをあえて開けた状態にしてあった。彼の言うように『こういう状況下で取り出しやすい』というのも理由のひとつかもしれないが、どちらかというと几帳面な美果が口の開いたポーチを発見すれば、丁寧にそれを閉じて見なかったことにすると予想していたのだろう。
そして翔の予想は見事に的中した。まんまと罠にかかった美果が『見なかったことにした』と確認した彼は、美果を問い詰めることで『お仕置き』の時間を作ったのだ。
「美果」
「翔さ、ん……まっ……」
翔の策謀に落ちた美果に、その気になった彼を止めることはできない。緑色の薄い膜を被せた陰茎の先がぬかるんだ蜜口に宛がわれると、そのままじゅぷん、と挿入された。
「ふぁ、ああっ……ん!」
困惑する間もなく蜜孔を貫かれ、思わず目を背けて衝撃に耐える。大きな声が出ないように咄嗟に手首で口元を覆ったが、翔の手にそれを退かされそのままシーツの上に優しく押さえつけられた。
「声、聞かせろ」
「あ、やぁ、ああっ……っふぁ」
恋人同士になってから特に優しくなった翔は、基本的にいつも美果を可愛がって大切に扱ってくれる。そんな彼が発する最近の美果にはあまり向けられていなかった命令口調に、びくんと身体が強張る。
とはいえ久しぶりに聞いた命令は美果の行動を制限したり、美果を苦しめるためのものではない。美果をもっと感じたい、という感情がストレートに伝わる言葉に、思わず下腹部に力が入ってしまう。
「ん……美果の中……熱い」
「やぁ、あっ……ああッ」
翔の腰が前後に揺れるたび、結合部からぱちゅん、ぱちゅ、と激しい水音が溢れ出す。確かに存在する薄い膜の感覚はほとんどなく、まるで翔の存在を直に感じるようだ。
「しょお、さ……っぁん」
「美果……」
熱い存在と激しい抽挿に耐えるように、けれど彼の求めに応じるように、素直に翔に甘えて縋る。美果の身体を抱きしめながら腰を振り、トントンと最奥を叩く陰茎にどんどん性感が高まっていく。
「ん、ふぅ、あ……っぁ」
ぎゅっと強く抱き合って唇を重ね合う。翔のルームシャツと丸出しにされた胸の頂が擦れる感覚も快感に変わっていって、最初は子宮の奥だけで蠢いていた微熱がどんどん大きく膨れ上がる。
「やぁ、ああっ……っぁあっ」
結合部が強く擦れるたびに卑猥な音が響く。熱を帯びた視線で美果を見つめ、必死に腰を揺らす翔の表情にもまた興奮してしまう。朝からこんなに、恥ずかしいはずなのに……。
「だめ、ぁ……あっ……ぁん!」
「美果――っ……」
「ああ、あぁあっ……ひぁ――あぁんっ!」
子宮の奥に生まれた熱が最大まで膨張し、ある瞬間に突然パン、と弾けた。それと同時に美果の下腹部がガクガクと震え、あっという間に絶頂の極みに到達する。
「美果……」
「んぅ……、ん」
美果と同時に快楽を極めた翔も、緑の薄膜の中に精を放ったらしい。絶頂に麻痺してほとんど感覚が失われた膣内でも、翔の剛直がビクビクと跳ねる感覚だけはいつも的確に拾い上げる。
唇を重ねて深く貪り合っていた二人だが、次第に熱が引いてくると冷静さも取り戻していく。思考が働くようになると恥ずかしさのあまり翔の顔もまともに見れなくなって、
「続きは、また今夜しような」
という言葉にも、
「はい……」
と従順に頷いてしまった。
だが直後に違和感に気がついて「……え?」と小さく首を傾げる。
密着した状態で至近距離にいた翔が、コツンと額同士をくっつけて優しく微笑む。
「今日は早く帰ってくる。美果も、明日は休みだよな?」
「え、っと……そう、ですが……」
翔の説明に、だんだん話が繋がってくる。
実は美果の家政婦のシフトは、水曜日と日曜日が休みであることが圧倒的に多い。日曜日は固定の休みであと一日は好きに設定していいことになっているが、行政機関で用事を足したり人が少ない平日に好きなことをするために、あえて土曜日ではなく平日の水曜日を休暇として設定しているのだ。
だが今週は翔自ら水曜日に出勤して欲しいと頼まれ、代わりに土曜日と休みを入れ替えるという変則的なシフトになっていた。
水曜日に出勤する明確な理由までは聞いていなかったし、特に疑問にも思っていなかったが、ここに来て突然、その理由に思い当たる。
「翔さん……まさか、そこから……?」
「ん?」
そうだ。考えてみれば違和感はたくさんある。
木曜日である昨日、掃除中にポーチを発見したとき、美果は『昨日は引き出しなんて開いていなかった』と思った。だがもしいつも通りに水曜日が休暇のシフトなら、当然前日は掃除をしていないので、『昨日は』という感想は絶対に抱かない。
そして今日の翔はなぜか美果が出勤する前から起きていて、事前に洗顔も歯磨きも済ませていた。だから最初にキスをしたときにミントの香りを感じたのだ。
これは翔がわざわざ早起きして、美果と『する』ために準備をしていたから――出勤時間が遅い今朝、できるだけ長い時間美果といちゃつこうとしていたからだ。
つまり翔は、美果がポーチを発見するように仕込んだけではなく数日単位で用意周到に『悪戯計画』を立てている。
おそらくこうして激しく戯れて少しだけ愛し合うことも、今夜改めてちゃんと肌を重ねるときの伏線なのだろう。なんなら自分の出勤時間が遅い日に、美果の業務開始時刻を遅らせ、その代わり終業時間を後ろ倒しにすることで夜スムーズに美果を泊めさせようとするところまで計算通り。
――もはや美果には、理解が出来ない。
「私を遅くまで勤務させる日の次の日をお休みにするところも、知ってて……?」
「さあ、どうだろうな?」
「!」
翔がにやりと笑う表情に言葉を失う。彼がちょっぴり意地悪で悪戯好きなのはわかっていたはずなのに、まんまと引っかかってしまう自分の間抜けさに恥ずかしくなってしまう。
翔は朝から楽しそうだ。少し浮かれた様子で『一緒に夕飯食べような』と微笑む表情なんて、何がそんなに楽しいのかと聞きたくなってしまう。いや、美果も翔と過ごす週末が嬉しくないわけではないのだけれど。
けれどその先にある今夜の戯れは、きっと今以上に強く激しく甘いはずで。
「……。」
家政婦、秋月美果。最後に『快楽』が入れられたパンドラの箱は、気になってももう絶対に開かない、と固く誓うのだった。
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