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◆ 第5章

30. 愛には真心が、恋には下心がある 中編 ◆

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「んん、んぅ……ぁぅ、んっ……」
「腰にクるよなぁ、七海の声」
「や、ちが……ぁ、あん」
「可愛くて、ずっと聞いてたくなる」
「やぁ、ああ……っ!」

 濡れた蜜芽を優しく丁寧に、けれど確実に性感を増すように扱かれると、喉の奥からは自然と甘えるような声が溢れる。その声を堪能するように、将斗がくすくすと笑みを零した。

 楽しそうに七海をいじめる将斗と違い、七海にはまったく余裕がない。腕の拘束も解いてくれないので涙目のまま将斗を睨み、

「いじわるしないでください……っ」

 と文句を言うと、

「七海ほどじゃない」

 と返された。

「俺はもうずっと焦らされてるぞ。いじわるされて、そっぽ向かれて……」
「ふぁ、あ……ぁん」

 将斗が笑いながら濡れた花芽をゆるゆると擦り続ける。しかもその指は徐々に深い場所へ潜り込み、中央の秘所に到達している。

 蜜穴につぷ、と指を差し入れられて、濡れた縁を強く撫でられる。さらに第二関節が埋まる場所まで指を挿入されて、ぐちゅぐちゅとかき回される。それだけで七海の喉の奥から言葉にならない声が止め処なく溢れた。

「けどこの表情も、声も、心も、身体も……ココも」
「ひぁ、ぁっ!?」
「いつか絶対俺のものにしてやる、って思ったら、燃えるな」
「あ、あぁ、ん……あ……っぁ」

 七海の乱れる声や姿を見ても将斗は動じないばかりか、より一層楽しそうに笑うだけだ。ココ、と言いながら濡れた蜜壺をぬちゅぬちゅとかき混ぜて、さらに自分のものにする、と明確に宣言される。

 独占欲と支配欲が剥き出しになった願望を耳の中へ注がれた瞬間、七海の身体がびくっと過剰に反応した。けれどそこに恐怖の感情はない。あるのはきっと、期待と歓喜だ。

 七海が将斗に一切の恐怖を抱かないのは、彼が向ける感情の本質が七海の尊厳や個人の意思を奪うものではないと知っているから。ただ愛する人を独り占めしたいという、意外にも可愛らしい望みだと理解しているから。

 そして七海自身も、いつかなることを望んでいるから――……

「やぁ……あん……だめ、将斗さ……っぁん、手……離してっ……」
「ん?」
「あ、だめ、だめっ……!」

 将斗の欲望と自分の秘めた欲望が一致しているかもしれない、と感じた瞬間、七海の膣内をかき混ぜる将斗の動きが急に激しくなった。きゅう、と疼く間もなくちゅこちゅこと淫らに愛撫され、驚きと快感のあまり無意識に首を振る。

 しかし将斗は手の動きを止めるどころか、指を一本から二本に増やしてさらに激しく中をかき混ぜてくる。一気にわけがわからなくなった七海は、子宮の奥からせり上がってきた怒涛の快感を押し留めるため、下唇を噛んでぎゅっと目を閉じた。

「ん――っ――ッ~~ぁ……! ……んぅ~~っ」

 だが腕を拘束されて口は覆えないし顔も隠せなかったせいか、それとも将斗の指遣いが激しい割に丁寧だからか、やってきた快感の波をやり過ごすことは出来なかった。

 淫花がきゅう、きゅん、と激しく震えて内股が痙攣する。その直後に身体の自由を完全に奪うほどの強い快楽が押し寄せる。

 激しい感覚が過ぎ去るのを大人しく待っていた七海の表情や反応から、将斗も『気がついた』らしい。手の動きを止めた将斗が、指をちゅぷ、と一気に引き抜いてまた楽しそうに笑う。

「軽くイッたな?」
「んぅ……あ……」
「唇噛まなくてもいいだろ。……あぁ、さては俺が『声聞きたい』って言ったから、照れたな?」

 将斗に図星を指されて沈黙する。その様子を見てくすくすと楽しそうに笑われると、余計に恥ずかしくなる。

「七海はそーゆーツンデレなとこ、ほんと可愛すぎてズルいな」

 恥ずかしさのあまり顔を背けて将斗の指摘に耐えていると、様子を見た将斗がようやく左手の拘束を解いてくれた。

 それほどきつく押さえつけられていたわけではないが、解放されて腕が自由に使えるようになるだけで安心感がある。

 楽しそうな表情と自由を得たことに安堵する七海だったが、安寧の時間はそう長く続かない。腕は動かせるようになっても、七海の身体の上に跨る将斗が退けてくれたわけではないのだ。

「……っ」

 将斗が小さな四角い袋を取り出して片手と歯だけで破く様子を見て、思わず息を呑む。

「挿入れるぞ――次は声出せよ」
「え……あ……」
「七海が感じるとこ、ちゃんと聞かせてほしい」

 口では緊張する七海を優しく諭しつつ、手は猛った陰茎に薄膜を被せる行動に徹する。七海の目の前で行われる『準備』は、これから七海を愛すること、一つに繋がること、身体で愛を教えることの『宣言』にしか思えない。喉が震えてひくりと鳴る。

 わざわざ見せつけなくてもいいのに、と思いながら目を背けていると、準備を終えた将斗が七海の両脚を掴んで掲げ、その中央を左右に割り開いた。

 十分に慣らして濡らされた場所に薄膜を被せた陰茎を宛がわれると、今度は喉ではなく秘部がひくん、と疼いた。

「あ、あ……ぅ」
「っ……七海……」
「はぁ……あ……あッ」

 将斗の雄竿をいつもより太くて硬く感じる。それにいつもより熱を持っていて、何度か繋がっているはずなのに初めてのような、妙な緊張感がある。

 押し込まれた雁首が膣内に沈むと、太腿を掴んでいた将斗の手が七海から離れて、代わりに屈んだ将斗にゆるく身体を抱きしめられた。身体をぴったりと重ねるように肌を合わせると、さらに緊張感が増す。

 脚を開いて上から押し潰すように挿入されると圧迫感もあったが、それが嫌なわけではない。挿入の衝撃に耐えるために閉じていた瞼をうっすら開いてみると、将斗が真剣な表情で七海の顔を見つめていることに気がついた。

 首の後ろから腕を差し込まれて、ベッドに肘をつくように頭を抱えられる。挿入されながら抱擁されるという体勢のせいで、視界には将斗の嬉しそうな表情以外は何も映らない。

「七海、好きだ」

 その密着姿勢の中で、将斗がまた自分の感情を明確に口にした。

 まるで飼い猫を可愛がるように、優しく抱きかかえられたまま頬も撫でられ、際限のない恋慕の情で埋めつくすほど何度も愛の言葉を刻まれる。

「七海が、好きなんだ」
「っ……まさと、さ」

 まるで七海に『好き』と言えることそのものが嬉しいと示すように。これまでずっと胸の内に秘めてきて、けれど言葉に出しても七海に信じてもらえないばかりか、警戒されてしまうと思っていた言葉を――本当は言いたくて言いたくてたまらなかった告白を、ひとつずつ丁寧に重ねるように。

「好き……七海、好きだ」
「……っ~~ッ!」

 七海の目をじっと見つめながら右耳の中に、七海の頭を抱えた手の先で髪や頬を撫でながら左耳の中に。顔の角度を変えて繰り返されるのはキスをされるよりもよっぽど深い献身的な求愛。

 七海が好き――その言葉が胸の中にじわりと広がる。七海に『本物の愛』を教えてくれる。

「もう……恥ずかし、から……っ……やめてください……っ」

 将斗の本気すぎる視線と告白がいたたまれなくなって、思わず彼の指を避ける。だが将斗は七海が本心から拒否して逃げているのではなく、それよりも照れる感情が強すぎて恥ずかしがっているだけだと気づいているらしい。

 くすくすと笑った将斗の唇が右耳の傍に近づいてくると、体重をかけられたせいで結合部の繋がりもずぶぶ、と深まった。

「好きな相手に『好き』って言いながらイくの、すげぇ気持ちいいだろ?」

 将斗の恥ずかしい教えに驚いて、身体がひくっと震えて硬直する。どう反応すればわからずそのまま固まっていると、一瞬動きを止めた将斗が、ふっと笑みを零して耳の傍でさらに意外な問いかけをしてきた。

「七海、今までの相手に言ったことないのか? 好き、って言いながら気持ち良くなったことない?」
「な……ないですよ……っ」
「なんだ、そうなのか」

 七海の驚きと焦りが混ざった返答に、将斗がほっと安堵したような表情を見せる。その将斗がまた予想外の台詞を告げてきた。

「じゃあ、俺に言えよ」

 命令のような口調での要求に、思わず「え?」と声が出る。至近距離で目が合ったのでぱちぱちと数度瞬きすると、将斗がにやりと意地悪な笑みを浮かべた。

「七海の『演技』でもいいぞ? 俺に愛されて、その気になった演技してみろよ」
「え? あ……あっ」

 いうや否や、それまで停止していた将斗の腰が上下にゆったりと揺れ始めた。ぬぷぷ、と音を立てながら、緩慢な動作で蜜壺から陰茎が引き抜かれる。けれど最後まで抜けきらないうちに、少し勢いをつけて奥までじゅぷんっと熱棒を埋め込まれる。

 彼を受け入れることに慣れた身体はもう痛みなど感じないが、それと引き換えに恐怖を感じるほどの快感を覚えるようになった。

「んっ、ああ……ぅ」

 形と質量と温度を覚え込ませるように深く挿入され、そこで馴染ませるように小刻みに腰を揺らされると、喉から甘える声が零れる。けれど陰茎の形に馴染んで蜜壁が震える前にまた引き抜かれ、内壁の表面をごりごりと抉られる。

「ほら、七海――言えって。……気持ち良くしてやるから」
「やぁ……あぁ、あん」

 常に部下を大切に扱う将斗の口から、これほど明確な〝命令〟を受けたことはない。言え、という語気の強い指示は己の職務を完遂したいと思う秘書・七海の心を揺さぶるが、恥ずかしい命令に照れる妻・七海としては素直に受け入れられない。

 ふるふると首を振って『言えない、恥ずかしい』と示すと、将斗がさらに攻勢を強めた。

「ひぅ……ぁ……んんっ」
「なーなみ? 別に、嘘でも冗談でも、いいんだ……難しく、ないだろ?」

 腰を打つスピードがまた少し上がる。最奥を小刻みに叩く亀頭もさらに膨らんだようで、七海の性感も一段階高い場所に引き上げられる。

「こうやって……奥、突いたときに……っ」
「あ、あっ……!」
「『将斗さん、好き』って、言えば……それで気持ち、良く、なれる……」
「んあぁっ……あ」

 抽挿のために腰を揺らしているせいか、将斗の言葉もいつになく途切れ途切れになっている。その台詞の端々に混ざる吐息と唸り声に雄々しい色香を感じるたび、結合部がさらにきゅう、と収縮する。

「将斗さ……っ」

 優しく抱きしめられると、互いの体温を直に感じることができる。熱くもあり温かくもある温度に包まれていると、七海の心の中にも温かな気持ちが生まれ始めた。

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