いつか◯◯◯になる

むー

文字の大きさ
上 下
10 / 29

10.サナギ

しおりを挟む
あの瞳に吸い込まれそうになった。

たくさん走って苦しかった胸は、衛に触れられてまた苦しくなった。

掌を舐められた時なんて、背中がゾクゾクした。
今までに感じたことのないもので、それがどういう類いのものか分からなかった。

「でも、嫌じゃなかった……」

絆創膏を貼った上から掌の傷口に唇を寄せるが、あの時に感じたものを感じることはできなかった。


翌日、いつも通りに衛とお昼を一緒にしたが、恥ずかしい気持ちが込み上げでずっと落ち着かなかった。
それはほんの少し胸の痛みを伴っていた。

「何だろう。この感じ……」

この時の僕にはまだ分からなかった。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

学校祭当日。

「この通り。お願い!」

僕はクラスの女子に囲まれて拝まれていた。

「いや、僕裏方だし。他の子にやって貰えないかーー」
「無理。大体、ウチらじゃ身長足りなくて裾踏んじゃうし、横のサイズも違うから」

僕はおおいに困った。
ヒロイン役の女子が所属する空手部の先輩が休んでしまったため、劇の時間帯までにその子が戻って来れなくなったからだ。
彼女のサイズに近い僕がそのドレスの調整に付き合ったから、着れるのは僕か、ヒロインの彼女より細い子に限られる。
残念ながら、そこに当てはまるのはやっぱり僕だけだった。

「で、でも、髪だって……」
「うっ……それはこれから考える。だから、サナギくん、この通りお願い!」

それでも僕は首を縦に振ることができず俯いてしまった。

「あ、いた。あーげはっ!」

教室の入り口から声をかけられ、ハッと顔を上げる。
そこには帽子を目深に被りサングラスを掛けた姉の瑠璃が「やっほー」と手を振っていた。

「え……姉さん⁉︎」
「サナギくんのお姉さんって……えっ、モデルのLuri⁉︎」

教室内は一気に色めきだった。

瑠璃は『モーセの十戒』のように、囲む人たちを片手をあげて僕までの道を開けさせた。

「ねぇ、揚羽、何揉めてるの?」
「えっ、あの……」
「あのっ、劇のヒロインの子が出れなくなって、その代役を身長が近いサナっ、深山くんにお願いできないかってお願いしてたんです!」

答えられない僕の代わりに、女子が答えた。
正直、一番知られたくない相手に知られてしまった。

「ふーん。で、揚羽、どうするの?出るの?」
「え……、や、僕は……大体、髪も短いし……」
「だから、それはこれから考えるって」
「ロングのカツラならあるわよ。ほら」

「「えっ?」」

瑠璃は僕たちの目の前で帽子ごと頭を持ち上げた。
持ち上げた手には帽子と長い髪の毛だけがあり、その下の瑠璃の髪はショートカットだった。

「今度、舞台に出ることが決まって、役に合わせて切ったんだ。あ、まだ内緒ね」

瑠璃は口の前に人差し指を立ててウィンクをした。

「「はい!」」

僕を囲んでいた女子たちは嬉しそうに元気に頷いた。

「じゃあ、あとは私に任せてもらってもいい?最高のお姫様にするから」

「「はいっ。お願いしますっ‼︎」」

女子たちが元気に返事をして、僕の背中を押した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

モブ男子ですが、生徒会長の一軍イケメンに捕まったもんで

天災
BL
 モブ男子なのに…

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

処理中です...