至高のオメガとガラスの靴

むー

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閑話:アカリのきもち④

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大好きな人と結ばれた。

心も体も。

触れられる手も気持ちが良かった。

匂いも体温も息遣いも全て。

挿れられたときは久しぶりの大きさにちょっと苦しかったけど、慣れたらただただ気持ち良くてずっと繋がっていたいくらい幸せだった。

射精とともに項を噛まれ、暫くその状態が続き出し切ると、大好きな人はボクの中から出ていってそのまま眠ってしまった。
興奮止まぬボクはそんな愛しい人の寝顔の眺めた。
よく見ると目元には薄ら隈があった。
ボクのことを想って眠れなかったのかなって考えたら、すごく愛おしくてその隈に何度もキスをした。
その後、ベットサイドに置いておいたピルを口に含みペットボトルの水で流し込む。

発情期に入ったオメガは妊娠の確率がほぼ100%。
番契約の時は着けずにするため、おこなったら飲むようにとあ母さんに言われてた。
大好きな人との子供ならいつでも欲しいけど、高校を卒業するまでは子供を作らないってお母さんと約束したから、今は我慢。

いつの間にか仰向けになった大好きな人の腕に頭を乗せて、目を閉じる。

ピル飲んだから、ボクの中に注がれたものはそのまま居てもいいよね。
せめて次に目覚めるまでは……。

大好きな人の腕の中で、大好きな人の匂いに包まれたボクは、今日の出来事を思い出しながら眠りについた。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


少し遡って。
棗家と一城家の顔合わせ当日。

お母さんが異常に浮かれていた。
浮かれすぎて、新しい服まで用意していた。
襟の長さが違うアシンメトリーのシャツと、チェック柄が入ったネクタイとパンツ。左右のデザインが違うジャケット。
1人で着るにはバランスの悪い服だ。
服には合わないからとネックプロテクターを外された。
せめてチョーカーだけ着けたいって言ったけど却下された。

スースーする首元に不安になりながら会場に向かった。
浮かれているのはお母さんだけかと思ったら、お父さんも少し浮かれた様子でお母さんと話をしていた。

会場はホテルのラウンジではなく、長い渡り廊下の先にある別館だった。
待機していたスタッフに案内され席に着くと、一城家はまだ到着していなかった。

「懐かしいわね~ふふっ」
「ああ懐かしいな………」

ニコニコするお母さんと対照的に、苦い顔をするお父さん。
ここは2人にとって思い出の場所なのかもしれない。

「そうだ、アカリ、これ」

お父さんはボクの胸ポケットに一枚のカードを入れた。


5分後、扉のノック音がした。
それだけでボクの背筋が伸びて、カタカタと身体が震えがきた。
視界が徐々に歪んでくるのを必死に堪えた。

「アカリ……大丈夫だ」

ボクの両手を包み込む手に顔を上げると、暖かく優しい眼差しをボクに向ける両親の顔があった。

「前に言ったでしょ。お母さんの一族のオメガは特別だ、って」

お母さんはそう言うとウィンクをした。

お父さんの合図でスタッフが扉が開く。
一城可那斗を先頭に彼の両親が入ってきた。

「お待たせして申し訳ございません。道路が混んでいて遅れました」
「大丈夫ですよ、まだ」

一城可那斗の言葉にお父さんはニッコリ笑顔で返した。


「本日は顔合わせとのことですが、態々こんな場所まで来たのですから、先に式の日取りや会場を決めましょう」
「こんな場所?」
「あ…いや…」

一城可那斗の父親は一言多い。
席に着くなり結婚式の話を始めようとした。
それに対して、お父さんは態と不機嫌な声を出す。
お母さんも声には出さないけど、ボクの手を握る手がピクリと動いた。

「招待客を考えますと、式と披露宴は都内の三つ星のホテルを早めに押さえておきましょう」

一城可那斗は父親以上に空気を読まない男だ。
彼の両親ですら失言で相手の気を悪くしたことに気付いて口を噤んでいるのに。

「可那斗くん」
「はい」
「君のお父さんの一城さんには今日は顔合わせと伝えたけど、アカリとの結婚についての顔合わせとは言ってないよ」
「ぇっ…」
「ですよね、一城さん」

穏やかな口調なのに威圧感を感じるお父さんの言葉に、一城可那斗は驚き隣りに座るを自分の父親を見る。
一城可那斗の父親はお父さんとのやりとりを思い出したのか、一瞬ハッとした顔をした後「あの…その…」としどろもどろな返答をする。

「まあまあ、アフタヌーンティーの準備ができたようですから、先ずはお茶にしましょう。ここの紅茶はどれも美味しいんですよ~」

ハンカチを口の前に当てたお母さんが、のんびりした口調で気まずい空気を和ませた。
その言葉通り、ノック音の後にワゴンを押した数名のスタッフが現れてアフタヌーンティーのセッティングを始めた。

ティーカップに紅茶が注がれるとフレーバーティーのフルーティーな香りと共にどこからか嫌な臭いを感じた。

あの日から感じることがなかった臭いだ。
発情期が近いせいなのかもしれないけど、久しぶりに嗅いだ匂いはやっぱり臭い。
折角の紅茶が不味くなりそうなくらい。

たとえ番契約が結ばれていたとしても、やっぱりこの男とは一緒になりたくない。
無意識に膝の上に乗せた拳に力が入ってしまう。

「アカリ、大丈夫よ。もうすぐよ。今の貴方ならそれがちゃんと判るはずだから」

ボクにだけ聞こえる声でお母さんは言った。

今のボクならーー?


不意にここにはない匂いを感じた気がした。

あの時諦めるしかなかった。

とても懐かしくて。

とても好きな匂い。

そんなはずはないのに……。

鼻の奥がツンと痛くなった。

でも、数十秒後、大きな音を立てて扉が開き乱入者が現れた。

「「ちょっと待ったぁーーー!」」

え……。

ボクは夢を見ているの……?


ボクはまだ諦めなくていいの……?

__________________

「あ、扉の修理代の請求は『七月』へお願いしますね」
by.蒼

後半はヒロたちが乱入するまでのアカリの回想です。

次回、最終話です。

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