38 / 53
至高のオメガとガラスの靴
しおりを挟む
この一週間、眠れない日々を過ごしていたから、終わった後からの記憶がなかった。
所謂"寝落ち"
でも、ぐっすり眠れた。
「わあああっー!」
僕の安眠はその悲鳴で終わった。
「ふあっ?」
頭を起こす。
右の二の腕が少しジンジンしている。
さっきまでそこに温もりがあったのか、シーツがほんのり温かい。
「って、アカリちゃん?」
起き上がり手をついてベットから降りようとしたら、右腕が痺れて力が入らずゴトンとベットから盛大に落ちた。
「イタタタ……はっ、それどころじゃない!」
痺れていない左腕で身体を支えて立ち上がって、声のしたバスルームに駆け込む。
「アカリちゃん!」
「あ、ヒロ。おはよー」
そこには、片手にスマホ、片手に手鏡を持ったアカリちゃんがいた。
「お風呂入ろー」
そのまま、お風呂に連れ込まれた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
ベタベタが残る身体を洗い流して湯船に浸かる。
「ふわああぁー。朝風呂気持ちいいねー」
「うん、そうだね」
広い湯船に向かい合わせになる。
お花のいい香りがする乳白色の入浴剤を入れたので、お互いの身体が見えず、僕はホッとする。
「そ、そういえば、さっき大きな声が聞こえたんだけど、どうしたの?」
「ああ、アレはねぇーーそうだ!」
「わわっ、あ、アカリちゃん⁈」
ザバッと湯船から立ち上がるアカリちゃんに、思わず両手で自分の顔を押さえる。
指の隙間からなんて、み、見てないよ。
ちょっとしか。
バタバタと出て行ったと思ったら、すぐ戻ってきてザバンッと湯船が波打った。
腕に何かが触れた気がして顔から手を外すと、目の前にアカリちゃんの背中があった。
「ヒロ、写真撮って」
アカリちゃんは振り返ってスマホを僕に渡すと、両手で後ろ髪をかき分け項を露わにした。
少し赤黒くなってはいたけど、そこには昨日僕が付けた歯型だけがあった。
「あ、あれ…?」
「ヒーロ、早くー」
「あ、うん」
説明できない違和感を感じつつ、アカリちゃんの項にピントを合わせて写真を撮る。
スマホを返すとアカリちゃんは写真を確認する。
「あーやっぱり!」
「何が?」
「ほら見て」
僕が撮った写真を見せられる。
違和感は感じるけど、やっぱりわからなくて首を傾げる。
「んもぉー」
スマホを操作して別の写真を見せられる。
昔僕が付けた三角形の小さな窪みのある項の写真。
その写真の項と目の前の項を見比べる。
「あ、あれっ?あれっ?あの痕は?」
「やっと気付いた?そうなの、あの痕なくなったの」
「ええーっ!」
「うっそー」
「えっ、嘘⁈」
僕は混乱した。
アカリちゃんの項に一城先輩の噛み跡がなかったことはすぐに気付いた。
それは番契約が成立しなかったことを意味する。
でも、ずっとあったはずの赤ちゃんの時の僕の痕がないのは何でだ?
アカリちゃんを見てもニコニコしているだけでわからない。
「その前にいっこメール送らせて」
ポチポチと素早くタップして「そーしん」と言いながらメールを送ると、僕にもたれかかってきた。
「さっきの写真はね、8月のボクの誕生日にお母さんに撮ってもらったものなんだ。毎年、誕生日の朝にこの写真を撮ってもらってるの」
そう言い、8月5日フォルダの写真を見せてくれた。
一番古いのは噛まれてすぐのものだった。
少しふっくらした首にクッキリと赤く残る3つの窪み。
1ヶ月後の写真には傷が塞がり、窪みだけが残っていた。
それから後は、誕生日に撮った写真だけだった。
「で、この3つの痕の当たり触ってみて」
スマホを僕に預けて、髪をかき分ける。
瘡蓋になりつつあるそこをそっと触ると、アカリちゃんの身体がブルっと震え肩をすくませた。
写真を見ながら3つの窪みがあったところを触れると、僕の犬歯と奥歯の2本とピッタリ重なっていた。
「えっ、僕が噛んじゃったの?」
「そうなの!スゴイよね!ボク、感動しちゃった!」
ガバリと振り返り、そのまま正面を向いて僕の膝の上に座り直した。
「赤ちゃんのヒロが噛んだ痕が見えなくなっちゃったのは寂しいけど……それは、あの時からこうなるって………なんか…運命みたいで……嬉しかった…」
「アカリちゃん……」
「すごく嬉しい…」
項をさすりながら薄ら涙を浮かべたアカリちゃんは僕の肩にコツンと頭を乗せた。
「アカリちゃーー」
「でさぁ」
スマホを持っていない手をアカリちゃんの背中に回しかけた瞬間、アカリちゃんは頭を上げた。
「えっ?」
「なんか、シンデレラみたいじゃない、これ」
「しんでれら…?」
「そう、舞踏会で落としたガラスの靴で王子様とハッピーエンドになるアレ!」
さっきの潤んだ瞳は幻だったかのように目の前のアカリちゃんは目をキラキラさせながら話す。
「ガラスの靴って….……あれ?………それって……?」
「嗚呼、あなたこそ、ボクが探し求めていた人だ」
僕の顔に両手を添えると王子様のセリフと共にチュッと触れるだけのキスをした。
王子様役も様になっていてカッコいい。
うっかり見惚れてしまった僕にニヤリと笑うアカリちゃん。
数秒後、その意味にようやく気付く。
「えっ?あれっ?えっ?……僕がシンデレラなの?」
「あははー」
アカリちゃんは僕の首に腕を回し、強く抱きしめた。
拍子にアカリちゃんのフェロモンが強く香ってきてクラッとする僕の耳元に甘い囁きが届く。
「も一回……シよ」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
幼なじみのアカリちゃんは男の子だけどオメガ。
誰よりも綺麗で勉強も運動も出来る。
そして、アカリちゃんから漂うフェロモンは誰もが惹きつけらる。
正に"至高のオメガ"
でも、その項には噛み跡があった。
一歳の僕が付けた噛み跡が……。
今は、17歳の僕の噛み跡がある。
昔の僕の噛み跡にピッタリ重なった……。
今も昔も僕だけの噛み跡が……
おしまい
__________________
ちょっと無理矢理感ありますが、タイトルの『ガラスの靴』が何を指していたのか分かりましたでしょうか?
ヒロとアカリのお話はこれで終了ですが、この後、後日談などをアップします。
ヒロ視点での展開だったため、「?」となったところがあったと思います。
ヒロの左目の秘密など諸々のことは、この後の『後日談』で判明する予定ですので、もう少しだけお付き合い頂けますと幸いです。
所謂"寝落ち"
でも、ぐっすり眠れた。
「わあああっー!」
僕の安眠はその悲鳴で終わった。
「ふあっ?」
頭を起こす。
右の二の腕が少しジンジンしている。
さっきまでそこに温もりがあったのか、シーツがほんのり温かい。
「って、アカリちゃん?」
起き上がり手をついてベットから降りようとしたら、右腕が痺れて力が入らずゴトンとベットから盛大に落ちた。
「イタタタ……はっ、それどころじゃない!」
痺れていない左腕で身体を支えて立ち上がって、声のしたバスルームに駆け込む。
「アカリちゃん!」
「あ、ヒロ。おはよー」
そこには、片手にスマホ、片手に手鏡を持ったアカリちゃんがいた。
「お風呂入ろー」
そのまま、お風呂に連れ込まれた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
ベタベタが残る身体を洗い流して湯船に浸かる。
「ふわああぁー。朝風呂気持ちいいねー」
「うん、そうだね」
広い湯船に向かい合わせになる。
お花のいい香りがする乳白色の入浴剤を入れたので、お互いの身体が見えず、僕はホッとする。
「そ、そういえば、さっき大きな声が聞こえたんだけど、どうしたの?」
「ああ、アレはねぇーーそうだ!」
「わわっ、あ、アカリちゃん⁈」
ザバッと湯船から立ち上がるアカリちゃんに、思わず両手で自分の顔を押さえる。
指の隙間からなんて、み、見てないよ。
ちょっとしか。
バタバタと出て行ったと思ったら、すぐ戻ってきてザバンッと湯船が波打った。
腕に何かが触れた気がして顔から手を外すと、目の前にアカリちゃんの背中があった。
「ヒロ、写真撮って」
アカリちゃんは振り返ってスマホを僕に渡すと、両手で後ろ髪をかき分け項を露わにした。
少し赤黒くなってはいたけど、そこには昨日僕が付けた歯型だけがあった。
「あ、あれ…?」
「ヒーロ、早くー」
「あ、うん」
説明できない違和感を感じつつ、アカリちゃんの項にピントを合わせて写真を撮る。
スマホを返すとアカリちゃんは写真を確認する。
「あーやっぱり!」
「何が?」
「ほら見て」
僕が撮った写真を見せられる。
違和感は感じるけど、やっぱりわからなくて首を傾げる。
「んもぉー」
スマホを操作して別の写真を見せられる。
昔僕が付けた三角形の小さな窪みのある項の写真。
その写真の項と目の前の項を見比べる。
「あ、あれっ?あれっ?あの痕は?」
「やっと気付いた?そうなの、あの痕なくなったの」
「ええーっ!」
「うっそー」
「えっ、嘘⁈」
僕は混乱した。
アカリちゃんの項に一城先輩の噛み跡がなかったことはすぐに気付いた。
それは番契約が成立しなかったことを意味する。
でも、ずっとあったはずの赤ちゃんの時の僕の痕がないのは何でだ?
アカリちゃんを見てもニコニコしているだけでわからない。
「その前にいっこメール送らせて」
ポチポチと素早くタップして「そーしん」と言いながらメールを送ると、僕にもたれかかってきた。
「さっきの写真はね、8月のボクの誕生日にお母さんに撮ってもらったものなんだ。毎年、誕生日の朝にこの写真を撮ってもらってるの」
そう言い、8月5日フォルダの写真を見せてくれた。
一番古いのは噛まれてすぐのものだった。
少しふっくらした首にクッキリと赤く残る3つの窪み。
1ヶ月後の写真には傷が塞がり、窪みだけが残っていた。
それから後は、誕生日に撮った写真だけだった。
「で、この3つの痕の当たり触ってみて」
スマホを僕に預けて、髪をかき分ける。
瘡蓋になりつつあるそこをそっと触ると、アカリちゃんの身体がブルっと震え肩をすくませた。
写真を見ながら3つの窪みがあったところを触れると、僕の犬歯と奥歯の2本とピッタリ重なっていた。
「えっ、僕が噛んじゃったの?」
「そうなの!スゴイよね!ボク、感動しちゃった!」
ガバリと振り返り、そのまま正面を向いて僕の膝の上に座り直した。
「赤ちゃんのヒロが噛んだ痕が見えなくなっちゃったのは寂しいけど……それは、あの時からこうなるって………なんか…運命みたいで……嬉しかった…」
「アカリちゃん……」
「すごく嬉しい…」
項をさすりながら薄ら涙を浮かべたアカリちゃんは僕の肩にコツンと頭を乗せた。
「アカリちゃーー」
「でさぁ」
スマホを持っていない手をアカリちゃんの背中に回しかけた瞬間、アカリちゃんは頭を上げた。
「えっ?」
「なんか、シンデレラみたいじゃない、これ」
「しんでれら…?」
「そう、舞踏会で落としたガラスの靴で王子様とハッピーエンドになるアレ!」
さっきの潤んだ瞳は幻だったかのように目の前のアカリちゃんは目をキラキラさせながら話す。
「ガラスの靴って….……あれ?………それって……?」
「嗚呼、あなたこそ、ボクが探し求めていた人だ」
僕の顔に両手を添えると王子様のセリフと共にチュッと触れるだけのキスをした。
王子様役も様になっていてカッコいい。
うっかり見惚れてしまった僕にニヤリと笑うアカリちゃん。
数秒後、その意味にようやく気付く。
「えっ?あれっ?えっ?……僕がシンデレラなの?」
「あははー」
アカリちゃんは僕の首に腕を回し、強く抱きしめた。
拍子にアカリちゃんのフェロモンが強く香ってきてクラッとする僕の耳元に甘い囁きが届く。
「も一回……シよ」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
幼なじみのアカリちゃんは男の子だけどオメガ。
誰よりも綺麗で勉強も運動も出来る。
そして、アカリちゃんから漂うフェロモンは誰もが惹きつけらる。
正に"至高のオメガ"
でも、その項には噛み跡があった。
一歳の僕が付けた噛み跡が……。
今は、17歳の僕の噛み跡がある。
昔の僕の噛み跡にピッタリ重なった……。
今も昔も僕だけの噛み跡が……
おしまい
__________________
ちょっと無理矢理感ありますが、タイトルの『ガラスの靴』が何を指していたのか分かりましたでしょうか?
ヒロとアカリのお話はこれで終了ですが、この後、後日談などをアップします。
ヒロ視点での展開だったため、「?」となったところがあったと思います。
ヒロの左目の秘密など諸々のことは、この後の『後日談』で判明する予定ですので、もう少しだけお付き合い頂けますと幸いです。
0
お気に入りに追加
219
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
運命の人じゃないけど。
加地トモカズ
BL
αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。
しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。
※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる