34 / 53
葡萄味の
しおりを挟む
「アカリ、ヒロ」
蒼さんの声に振り返る。
「ここはお父さんたちに任せて行きなさい」
そう言った蒼さんと百合ちゃんは嬉しそうに微笑んでいた。
「はい。眼鏡」
ポンと僕の右肩に手を乗せたお父さんが拾った眼鏡を渡してくれた。
「アカリちゃん、カッコ良かったわよ」
ポンとアカリちゃんの右肩に手を乗せたお母さんにアカリちゃんはニッと笑顔で返した。
僕たちの肩に乗せた手はそのまま背中に移動し、そっと押された。
「「行きなさい」」
「「うん!」」
どちらともなく手を繋ぎ会場を飛び出した。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
会場を出てからはアカリちゃんに手を引かれて進んだ。
どこに向かっていいか分からない僕とは反対に、アカリちゃんは行先を知っていて迷いがない。
「アカリちゃん、どこ行くの?」
「そりゃ決まってるでしょ。ふっふっふー」
渡り廊下を抜け本館に進み、そのままエレベーターに乗り込む。
アカリちゃんは胸ポケットからカードを取り出し、センサーにかざすとエレベーターのドアは閉まり動き出した。
着いた先は上層階の宿泊エリアだった。
たぶん、スイートルームのエリア。
アカリちゃんはカードの部屋番号を確認して、該当の部屋の前で電子キーにカードを翳した。
「えっ?えっ?どういうこと?」
「おとーさんが用意してくれたに決まってるでしょ」
ウィンクをして悪そうな笑顔を浮かべるアカリちゃんに手を引かれ部屋の中に入ると、ビックリするくらい広い部屋だった。
「うわぁ、ベッドおっきーい!あっ、フルーツあるー。わー夕焼け綺麗だよーヒロ!」
「あ、うん」
アカリちゃんは、摘んだフルーツを口に入れモグモグしながら窓から見える景色を眺める。
僕もアカリちゃんの隣りで景色を眺める。
このホテルは山の上だから、下を見るとオレンジ色に染まった山の麓の街が見えた。
ちょうど明かりがポツポツと灯り始めていた。
「ホントだ。すっごく綺麗だね」
「ねぇ、後で部屋暗くして星空見ようよ!」
「この部屋だけ暗くしても見えるかなぁ?」
「もーヒロは夢がないなー。やってみなきゃ分かんないじゃん」
チュッ
「ふわぁっっ」
口を尖らせて抗議するアカリちゃんが可愛いくて、思わずキスをしてしまった。
不意打ちのキスに顔を真っ赤にして動揺するアカリちゃんにつられて僕の顔も赤くなる。
ふと、フワリと唇から香りがしてペロっと舐める。
「あ、葡萄の味がする」
「そりゃそうだよ。今葡萄食べたんだから」
「そっか…」
「そう」
「美味しいね」
ふふふふと顔を寄せ合って笑い、「んー」と口を尖らせたアカリちゃんの唇にもう一度キスをする。
さっきより深く。
さっきより長く。
絡む舌から葡萄の味がどんどん薄くなっていくけど、僕の髪をかき混ぜるアカリちゃんの手が気持ちよくて、もっともっとと強請ってしまう。
「んふっ……あ…んっ?」
「い゛っっ」
甘い雰囲気から一転、勢いよく耳を引っ張られ痛みのあまりちょっと涙出た。
「コレって……」
親指の腹でピアスの形をなぞるように僕の耳朶を触れ、マジマジと見られる。
「どう…かな?」
「思った通りだ……すごく似合ってる」
目を合わせてニンマリと満足そうに笑い、またピアスに目線を戻す。
「でも、ちょっと血が出てる。さっきの時?」
「うーん、どうだろう。家を出る前に付け替えた時もちょっと出たから…」
「穴、いつ開けたの?」
「月曜日」
「……って、まだぜんぜん安定してないじゃん。変えちゃダメだよ」
「でも…」
「んもぉー………」
本気で叱られシュンとする僕の首に、アカリちゃんは腕を回してキュッと抱きしめる。
「どうしよう……嬉しすぎて泣きそう…」
ズズッと鼻を啜る音が聞こえる。
「アカ、リ、ちゃーー」
きゅるきゅるきゅるるるる~
「………ぷっ、あはっ、あははっ」
僕のお腹は空気も読まず盛大に鳴った。
空腹を主張するお腹に、今度は僕が泣きそうになった。
「もーアカリちゃん、笑いすぎ!」
「あははっ、お腹痛ーい!」
__________________
安心してお腹が空いたのかもしれませんね。
ヒロとアカリの関係はこのくらいが一番好きです。
蒼さんの声に振り返る。
「ここはお父さんたちに任せて行きなさい」
そう言った蒼さんと百合ちゃんは嬉しそうに微笑んでいた。
「はい。眼鏡」
ポンと僕の右肩に手を乗せたお父さんが拾った眼鏡を渡してくれた。
「アカリちゃん、カッコ良かったわよ」
ポンとアカリちゃんの右肩に手を乗せたお母さんにアカリちゃんはニッと笑顔で返した。
僕たちの肩に乗せた手はそのまま背中に移動し、そっと押された。
「「行きなさい」」
「「うん!」」
どちらともなく手を繋ぎ会場を飛び出した。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
会場を出てからはアカリちゃんに手を引かれて進んだ。
どこに向かっていいか分からない僕とは反対に、アカリちゃんは行先を知っていて迷いがない。
「アカリちゃん、どこ行くの?」
「そりゃ決まってるでしょ。ふっふっふー」
渡り廊下を抜け本館に進み、そのままエレベーターに乗り込む。
アカリちゃんは胸ポケットからカードを取り出し、センサーにかざすとエレベーターのドアは閉まり動き出した。
着いた先は上層階の宿泊エリアだった。
たぶん、スイートルームのエリア。
アカリちゃんはカードの部屋番号を確認して、該当の部屋の前で電子キーにカードを翳した。
「えっ?えっ?どういうこと?」
「おとーさんが用意してくれたに決まってるでしょ」
ウィンクをして悪そうな笑顔を浮かべるアカリちゃんに手を引かれ部屋の中に入ると、ビックリするくらい広い部屋だった。
「うわぁ、ベッドおっきーい!あっ、フルーツあるー。わー夕焼け綺麗だよーヒロ!」
「あ、うん」
アカリちゃんは、摘んだフルーツを口に入れモグモグしながら窓から見える景色を眺める。
僕もアカリちゃんの隣りで景色を眺める。
このホテルは山の上だから、下を見るとオレンジ色に染まった山の麓の街が見えた。
ちょうど明かりがポツポツと灯り始めていた。
「ホントだ。すっごく綺麗だね」
「ねぇ、後で部屋暗くして星空見ようよ!」
「この部屋だけ暗くしても見えるかなぁ?」
「もーヒロは夢がないなー。やってみなきゃ分かんないじゃん」
チュッ
「ふわぁっっ」
口を尖らせて抗議するアカリちゃんが可愛いくて、思わずキスをしてしまった。
不意打ちのキスに顔を真っ赤にして動揺するアカリちゃんにつられて僕の顔も赤くなる。
ふと、フワリと唇から香りがしてペロっと舐める。
「あ、葡萄の味がする」
「そりゃそうだよ。今葡萄食べたんだから」
「そっか…」
「そう」
「美味しいね」
ふふふふと顔を寄せ合って笑い、「んー」と口を尖らせたアカリちゃんの唇にもう一度キスをする。
さっきより深く。
さっきより長く。
絡む舌から葡萄の味がどんどん薄くなっていくけど、僕の髪をかき混ぜるアカリちゃんの手が気持ちよくて、もっともっとと強請ってしまう。
「んふっ……あ…んっ?」
「い゛っっ」
甘い雰囲気から一転、勢いよく耳を引っ張られ痛みのあまりちょっと涙出た。
「コレって……」
親指の腹でピアスの形をなぞるように僕の耳朶を触れ、マジマジと見られる。
「どう…かな?」
「思った通りだ……すごく似合ってる」
目を合わせてニンマリと満足そうに笑い、またピアスに目線を戻す。
「でも、ちょっと血が出てる。さっきの時?」
「うーん、どうだろう。家を出る前に付け替えた時もちょっと出たから…」
「穴、いつ開けたの?」
「月曜日」
「……って、まだぜんぜん安定してないじゃん。変えちゃダメだよ」
「でも…」
「んもぉー………」
本気で叱られシュンとする僕の首に、アカリちゃんは腕を回してキュッと抱きしめる。
「どうしよう……嬉しすぎて泣きそう…」
ズズッと鼻を啜る音が聞こえる。
「アカ、リ、ちゃーー」
きゅるきゅるきゅるるるる~
「………ぷっ、あはっ、あははっ」
僕のお腹は空気も読まず盛大に鳴った。
空腹を主張するお腹に、今度は僕が泣きそうになった。
「もーアカリちゃん、笑いすぎ!」
「あははっ、お腹痛ーい!」
__________________
安心してお腹が空いたのかもしれませんね。
ヒロとアカリの関係はこのくらいが一番好きです。
0
お気に入りに追加
219
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
運命の人じゃないけど。
加地トモカズ
BL
αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。
しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。
※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる