至高のオメガとガラスの靴

むー

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僕の闘い

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そこは広い会場にも拘らず、10人程掛けれるような大きなテーブルがひとつだけだった。


「だ、誰だっ」

よくあるお決まりのセリフが飛ぶ。

「待たせたな」
「ああ、待ったよ」

涼しい顔で会話するお父さんと蒼さん。

僕は……

両親にガッシリと両脇を抱えられていた。
さながら、囚われの宇宙人。

ゆっくり降ろされ、フラつきつつ自分の足で立つ。
ちょっとカッコ悪い登場にも関わらず、それを笑う人は1人もいなかった。

背筋を伸ばししゃんとすると、大きく目を見開いたアカリちゃんと目が合った。

「……ひ、ろ…」

「アカリちゃん………逢いたかった」

僕は嬉しくて笑顔になった。
体は自然にアカリちゃんに向かって一歩また一歩足を進めるが、その歩みは突然、胸ぐらを掴まれ阻まれた。

「何でお前が来てるんだ?邪魔だ、出て行け」
「ヒロっ!」

僕は絨毯の敷かれた床に肩から落とされた。

「かはっ……」
「出て行けよ」

衝撃で息が詰まりうまく呼吸ができない僕を見下ろし、一城先輩は告げる。

「い、やだ」
「何?」
「嫌だ。僕はアカリちゃんに逢いにきたんだ……だから、出て行かない」

一城先輩の目を見据えて言った。

「ふざけんなっ」

痛みでまだ立ち上がることができない僕は、一城先輩に蹴られて倒れた。
弾みで掛けてた眼鏡が外れた。
衝撃で頭がクラクラして、口の中にジワリと鉄の味が広がる。

「アカリは僕の番でもう僕の物だ。今更お前の出番はないんだよ」

ニヤリ口角を上げて僕を見下す一城先輩の言葉に、プツンと何かが切れる音が頭の中に響いた。
肩と頬の痛みが遠のき、僕は立ち上がって一城先輩を真っ直ぐ睨む。

「アカリちゃんは物じゃない。……項を噛んだからといって、貴方がアカリちゃんの番とは限らない。だって、アカリちゃんの番はアカリちゃんが決めることだから」
「はっ、そんな屁理屈……ぇ……な、なんだ、その眼は…?」

一城先輩が一歩後退する。
それを追うように僕は一歩前に出る。

「僕は………僕は、貴方と比べたらアルファとして出来損ないで欠陥品かもしれません。……でも、僕は……たとえアカリちゃんが僕以外の人を好きになっても……」

視線をアカリちゃんに移して続ける。

「それでも、僕は……アカリちゃんの一番近くにいたい……誰よりも近くにいたい」
「ヒロ……」
「僕はずっとアカリちゃんだけが好きで、アカリちゃんだけしか見ていなかった……だから……アカリちゃんが誰を選んだとしても、僕はこれからもずっとアカリちゃんだけしか見えないし、アカリちゃんしか好きじゃない」

そうだ。

それはとっても単純なことだった。

僕は今も昔もずっとアカリちゃんだけだった。

アカリちゃんだけが好きだった。

好きだから、ずっと一緒にいた。

だってーー

初めて会った時から、ずっと……。

アカリちゃんは僕の……。

パズルのピースがピタッと嵌った感じにスッキリして、「ふふふふっ」ってつい笑ってしまう。
なんでこんなに悩んでいたんだろう。

「なに、笑ってんだ………おま、え……ふざけんなっ」 
「ヒロっ!」

アカリちゃんの声にハッとした僕は再び胸ぐらを掴まれ、目の前に一城先輩の振り上げた拳が迫ってきた。

けど、その拳はもう少しのところで僕には届かず、一城先輩が真横に吹っ飛んだ。

❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

スローモーションでも見ているかのようだった。

胸ぐらを掴まれた瞬間、テーブルに飛び上がるアカリちゃんの姿が視界に入った。
すぐ一城先輩の体で見えなくなって、次に見えたのは飛び蹴りをかましたアカリちゃんだった。
かっこいいいな……でも。

「テーブルの上に土足で乗るなんて行儀悪いよ」

目の前に着地したアカリちゃんを注意をする。

「えー、今それ言うとこ~?」
「うん……」

クスッと小さく笑いあう。

「うん………逢いたかった」

僕は壊物を扱うようにそっとアカリちゃんを抱きしめる。
そうすると、フワリとアカリちゃんの"いい匂い"に包まれた。
僕の好きなアカリちゃんの匂いだ。

「ヒロ………」
「アカリちゃん、大好きだよ」

アカリちゃんの耳元で囁く。
やっとわかった僕の気持ちを伝えると、ズッと鼻を啜る音が聞こえた。

「ボクも………ボクもヒロが大好き………ずっと…ずっと逢いたかった」

アカリちゃんの腕が僕の背中に回り、ぎゅうっと僕の体を抱きしめる。
それを返すように僕も強く抱きしめた。


__________________

ヒロ、頑張りました。

実はここまでヒロはアカリに「大好き」って言葉を直接口にしていなかったんです。
(最近、そのことに気付いて私が焦りました)
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