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僕の願い
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週末。
今日は一城家と棗家の顔合わせの日。
こんなにも時の流れが早く感じたのは初めて。
ほとんど眠れないまま朝を迎えた。
「おはよう、ヒロ………って、何その凄い隈は⁉︎」
ダイニングに朝食を並べていたお母さんは驚いて駆け寄り、僕の顔を両手でガシッと掴み上げて目元に親指を当てる。
勢いが良すぎて「うぐっ」って変な声が出た。
「ホットタオル用意しておくから顔洗ってきなさい」
そう言うとお母さんは僕を洗面所に追いやる。
冷たい水で顔を洗い鏡を見ると、目の下が黒く窪んでいた。目蓋も少し浮腫んでいて半分くらいしか目が開いてなかった。
ダイニングに戻るとお母さんに引きずられリビングのソファーに寝かさた。
「眠くなったら寝ても良いから、このまま少し横になっていなさい」
載せたれたホットタオルの上から目蓋を押さえられると、ジンワリと目元が温かくなった。
その気持ち良さに意識が遠のいた。
「ん…」
眩しさに目覚めた。
頬にひんやりとした感触が当たり手を当てると、すっかり冷めてしまったタオルだった。
「起きたの?………うん、だいぶ薄くなったわね。若いうちから隈なんて作ったら消えなくなるんだからね!」
またしても両手でガシッと僕の顔を掴んで確認するお母さん。
「お母さん、今何時?」
「えっ、13時よ。お腹空いた?おにぎり握ったから持ってくるね」
捲し立てるお母さんの声が途中から聞こえなかった。
「え………じゅうさんじって………えっ、1時⁈」
「1時ね」
のほほんと答えるお母さん。
「ヒロどうした?」
「えっ、あっ、その……」
バクバクと言う心臓を押さえる僕に、1人掛けのソファーに座り雑誌を読んでいたお父さんが声をかけてきたけど、僕は言葉が出てこない。
「ほら、お茶飲んで落ち着きなさい。あと、おにぎりどーぞ」
お母さんが温かいお茶と小さいおにぎりを2個載せたお皿をテーブルに置く。
「で、でもっ」
「いいから飲みなさい!」
「はい」
熱すぎず温すぎない緑茶を一口飲む。
「はい、おにぎり」
「はいっ」
おにぎりを齧る。
モグモグしている内にだいぶ落ち着いてきた。
2個目のおにぎりを食べ終え、残りのお茶を飲み干す。
「食後のミルクティーよ。これ飲んだら落ち着くわよ」
「……うん」
おしぼりで手を拭き時計を見上げる。
13時半。
後1時間半で始まってしまう。
焦る気持ちを押し殺して、カップを手に取りミルクティーを一口飲む。
ジンワリと甘さが胃に流れ込むと、少しだけ気持ちが落ち着いた。
落ち着いたら頭に浮かんでくるのはひとつだった。
僕はなんでここに居るんだろう。
僕は
僕は…
「ひ、ヒロっ⁈」
お母さんが慌てておしぼりを僕の頬に当てる。
「どうしたの?」
「ぁ……ぃたい……アカリちゃんに………アカリちゃんに逢いたい………ひっく………僕、アカリちゃんに逢いたい……うっ」
止まらない涙に構うことなく僕は今の気持ちを言葉にする。
「逢い……たい…」
「ヒロ」
目を上げると、お父さんが僕の足元に片膝をついて真っ直ぐ僕の目を見ていた。
「会ってどうする?」
「わか、らない………でも、逢いたい……ただ、逢いたい…んだ…」
「ん、分かった。なら、会いに行こうか」
お父さんは、僕の頭にポンと手を乗せるとそう言って立ち上がった。
会いに行く…?
今から行っても間に合わないのに…。
見上げる僕にお父さんはウィンクをした。
「さぁて、たまには財力にものを言わせてみようか」
ポケットからスマホを取り出したお父さんは、どこかに電話を掛けた。
「ヒロ、行くならこれに着替えなさい」
「ふへっ?」
「ほら、時間ないんだから急いでー」
お母さんは嬉しそうに洋服を僕に渡し、リビングから僕を追い出した。
僕は言われるがまま、部屋に戻って渡された洋服を着る。
襟がアシンメトリーのチェック柄のシャツに、サイドにもチェック柄が入ったタイトなパンツにはサスペンダーがついていて、襟元だけデザイン違うジャケット。
百合ちゃんの新作?どれも見たことがない。
着替えが終え、机の引き出しから小さな小箱を取り出し、そこに入っていた小さな赤い石を掴む。
アカリちゃんから貰ったピアスを、左耳の穴に付け替える。
それまで着けていたピアスを無理やり外したらピリッと痛みが走ったけど構ってはいられない。
消毒液を付けた綿棒で滲んだ血を軽く拭き取り部屋を出ると、階下の玄関にはスーツに着替えた両親が僕を待っていた。
「タクシーが来た。行くぞ」
「うん!」
着いた先は"natsume"の本社ビルだった。
顔パスでエントランスを抜けるお父さんたちについて行ってエレベーターに乗り込むと屋上へ向かった。
「へ、へりこぷたぁ⁉︎」
「言っただろう。財力にものを言わせるって」
開いた口が塞がらない僕にとても楽しそうにお父さんは笑った。
ヘリコプターに乗り込みシートベルトを装着するとすぐ離陸した。
「30分ほどで着くから、それまで空の旅を楽しみなさい」
お父さんはそう言うと、お母さんとデート気分で空の旅を楽しんだ。
僕は楽しむ気分にはなれず、遠くの景色を眺めながらアカリちゃんに会ったときに伝えたい言葉を脳内でシミュレーションした。
__________________
物語がやっと動きます。
実は「金に物を言わせる」展開、やってみたかったんです(笑)
ヘリコプターの移動時間は私のイメージで、実際、どのくらい掛かるのかはわかりません。。。
今日は一城家と棗家の顔合わせの日。
こんなにも時の流れが早く感じたのは初めて。
ほとんど眠れないまま朝を迎えた。
「おはよう、ヒロ………って、何その凄い隈は⁉︎」
ダイニングに朝食を並べていたお母さんは驚いて駆け寄り、僕の顔を両手でガシッと掴み上げて目元に親指を当てる。
勢いが良すぎて「うぐっ」って変な声が出た。
「ホットタオル用意しておくから顔洗ってきなさい」
そう言うとお母さんは僕を洗面所に追いやる。
冷たい水で顔を洗い鏡を見ると、目の下が黒く窪んでいた。目蓋も少し浮腫んでいて半分くらいしか目が開いてなかった。
ダイニングに戻るとお母さんに引きずられリビングのソファーに寝かさた。
「眠くなったら寝ても良いから、このまま少し横になっていなさい」
載せたれたホットタオルの上から目蓋を押さえられると、ジンワリと目元が温かくなった。
その気持ち良さに意識が遠のいた。
「ん…」
眩しさに目覚めた。
頬にひんやりとした感触が当たり手を当てると、すっかり冷めてしまったタオルだった。
「起きたの?………うん、だいぶ薄くなったわね。若いうちから隈なんて作ったら消えなくなるんだからね!」
またしても両手でガシッと僕の顔を掴んで確認するお母さん。
「お母さん、今何時?」
「えっ、13時よ。お腹空いた?おにぎり握ったから持ってくるね」
捲し立てるお母さんの声が途中から聞こえなかった。
「え………じゅうさんじって………えっ、1時⁈」
「1時ね」
のほほんと答えるお母さん。
「ヒロどうした?」
「えっ、あっ、その……」
バクバクと言う心臓を押さえる僕に、1人掛けのソファーに座り雑誌を読んでいたお父さんが声をかけてきたけど、僕は言葉が出てこない。
「ほら、お茶飲んで落ち着きなさい。あと、おにぎりどーぞ」
お母さんが温かいお茶と小さいおにぎりを2個載せたお皿をテーブルに置く。
「で、でもっ」
「いいから飲みなさい!」
「はい」
熱すぎず温すぎない緑茶を一口飲む。
「はい、おにぎり」
「はいっ」
おにぎりを齧る。
モグモグしている内にだいぶ落ち着いてきた。
2個目のおにぎりを食べ終え、残りのお茶を飲み干す。
「食後のミルクティーよ。これ飲んだら落ち着くわよ」
「……うん」
おしぼりで手を拭き時計を見上げる。
13時半。
後1時間半で始まってしまう。
焦る気持ちを押し殺して、カップを手に取りミルクティーを一口飲む。
ジンワリと甘さが胃に流れ込むと、少しだけ気持ちが落ち着いた。
落ち着いたら頭に浮かんでくるのはひとつだった。
僕はなんでここに居るんだろう。
僕は
僕は…
「ひ、ヒロっ⁈」
お母さんが慌てておしぼりを僕の頬に当てる。
「どうしたの?」
「ぁ……ぃたい……アカリちゃんに………アカリちゃんに逢いたい………ひっく………僕、アカリちゃんに逢いたい……うっ」
止まらない涙に構うことなく僕は今の気持ちを言葉にする。
「逢い……たい…」
「ヒロ」
目を上げると、お父さんが僕の足元に片膝をついて真っ直ぐ僕の目を見ていた。
「会ってどうする?」
「わか、らない………でも、逢いたい……ただ、逢いたい…んだ…」
「ん、分かった。なら、会いに行こうか」
お父さんは、僕の頭にポンと手を乗せるとそう言って立ち上がった。
会いに行く…?
今から行っても間に合わないのに…。
見上げる僕にお父さんはウィンクをした。
「さぁて、たまには財力にものを言わせてみようか」
ポケットからスマホを取り出したお父さんは、どこかに電話を掛けた。
「ヒロ、行くならこれに着替えなさい」
「ふへっ?」
「ほら、時間ないんだから急いでー」
お母さんは嬉しそうに洋服を僕に渡し、リビングから僕を追い出した。
僕は言われるがまま、部屋に戻って渡された洋服を着る。
襟がアシンメトリーのチェック柄のシャツに、サイドにもチェック柄が入ったタイトなパンツにはサスペンダーがついていて、襟元だけデザイン違うジャケット。
百合ちゃんの新作?どれも見たことがない。
着替えが終え、机の引き出しから小さな小箱を取り出し、そこに入っていた小さな赤い石を掴む。
アカリちゃんから貰ったピアスを、左耳の穴に付け替える。
それまで着けていたピアスを無理やり外したらピリッと痛みが走ったけど構ってはいられない。
消毒液を付けた綿棒で滲んだ血を軽く拭き取り部屋を出ると、階下の玄関にはスーツに着替えた両親が僕を待っていた。
「タクシーが来た。行くぞ」
「うん!」
着いた先は"natsume"の本社ビルだった。
顔パスでエントランスを抜けるお父さんたちについて行ってエレベーターに乗り込むと屋上へ向かった。
「へ、へりこぷたぁ⁉︎」
「言っただろう。財力にものを言わせるって」
開いた口が塞がらない僕にとても楽しそうにお父さんは笑った。
ヘリコプターに乗り込みシートベルトを装着するとすぐ離陸した。
「30分ほどで着くから、それまで空の旅を楽しみなさい」
お父さんはそう言うと、お母さんとデート気分で空の旅を楽しんだ。
僕は楽しむ気分にはなれず、遠くの景色を眺めながらアカリちゃんに会ったときに伝えたい言葉を脳内でシミュレーションした。
__________________
物語がやっと動きます。
実は「金に物を言わせる」展開、やってみたかったんです(笑)
ヘリコプターの移動時間は私のイメージで、実際、どのくらい掛かるのかはわかりません。。。
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