30 / 53
僕の願い
しおりを挟む
週末。
今日は一城家と棗家の顔合わせの日。
こんなにも時の流れが早く感じたのは初めて。
ほとんど眠れないまま朝を迎えた。
「おはよう、ヒロ………って、何その凄い隈は⁉︎」
ダイニングに朝食を並べていたお母さんは驚いて駆け寄り、僕の顔を両手でガシッと掴み上げて目元に親指を当てる。
勢いが良すぎて「うぐっ」って変な声が出た。
「ホットタオル用意しておくから顔洗ってきなさい」
そう言うとお母さんは僕を洗面所に追いやる。
冷たい水で顔を洗い鏡を見ると、目の下が黒く窪んでいた。目蓋も少し浮腫んでいて半分くらいしか目が開いてなかった。
ダイニングに戻るとお母さんに引きずられリビングのソファーに寝かさた。
「眠くなったら寝ても良いから、このまま少し横になっていなさい」
載せたれたホットタオルの上から目蓋を押さえられると、ジンワリと目元が温かくなった。
その気持ち良さに意識が遠のいた。
「ん…」
眩しさに目覚めた。
頬にひんやりとした感触が当たり手を当てると、すっかり冷めてしまったタオルだった。
「起きたの?………うん、だいぶ薄くなったわね。若いうちから隈なんて作ったら消えなくなるんだからね!」
またしても両手でガシッと僕の顔を掴んで確認するお母さん。
「お母さん、今何時?」
「えっ、13時よ。お腹空いた?おにぎり握ったから持ってくるね」
捲し立てるお母さんの声が途中から聞こえなかった。
「え………じゅうさんじって………えっ、1時⁈」
「1時ね」
のほほんと答えるお母さん。
「ヒロどうした?」
「えっ、あっ、その……」
バクバクと言う心臓を押さえる僕に、1人掛けのソファーに座り雑誌を読んでいたお父さんが声をかけてきたけど、僕は言葉が出てこない。
「ほら、お茶飲んで落ち着きなさい。あと、おにぎりどーぞ」
お母さんが温かいお茶と小さいおにぎりを2個載せたお皿をテーブルに置く。
「で、でもっ」
「いいから飲みなさい!」
「はい」
熱すぎず温すぎない緑茶を一口飲む。
「はい、おにぎり」
「はいっ」
おにぎりを齧る。
モグモグしている内にだいぶ落ち着いてきた。
2個目のおにぎりを食べ終え、残りのお茶を飲み干す。
「食後のミルクティーよ。これ飲んだら落ち着くわよ」
「……うん」
おしぼりで手を拭き時計を見上げる。
13時半。
後1時間半で始まってしまう。
焦る気持ちを押し殺して、カップを手に取りミルクティーを一口飲む。
ジンワリと甘さが胃に流れ込むと、少しだけ気持ちが落ち着いた。
落ち着いたら頭に浮かんでくるのはひとつだった。
僕はなんでここに居るんだろう。
僕は
僕は…
「ひ、ヒロっ⁈」
お母さんが慌てておしぼりを僕の頬に当てる。
「どうしたの?」
「ぁ……ぃたい……アカリちゃんに………アカリちゃんに逢いたい………ひっく………僕、アカリちゃんに逢いたい……うっ」
止まらない涙に構うことなく僕は今の気持ちを言葉にする。
「逢い……たい…」
「ヒロ」
目を上げると、お父さんが僕の足元に片膝をついて真っ直ぐ僕の目を見ていた。
「会ってどうする?」
「わか、らない………でも、逢いたい……ただ、逢いたい…んだ…」
「ん、分かった。なら、会いに行こうか」
お父さんは、僕の頭にポンと手を乗せるとそう言って立ち上がった。
会いに行く…?
今から行っても間に合わないのに…。
見上げる僕にお父さんはウィンクをした。
「さぁて、たまには財力にものを言わせてみようか」
ポケットからスマホを取り出したお父さんは、どこかに電話を掛けた。
「ヒロ、行くならこれに着替えなさい」
「ふへっ?」
「ほら、時間ないんだから急いでー」
お母さんは嬉しそうに洋服を僕に渡し、リビングから僕を追い出した。
僕は言われるがまま、部屋に戻って渡された洋服を着る。
襟がアシンメトリーのチェック柄のシャツに、サイドにもチェック柄が入ったタイトなパンツにはサスペンダーがついていて、襟元だけデザイン違うジャケット。
百合ちゃんの新作?どれも見たことがない。
着替えが終え、机の引き出しから小さな小箱を取り出し、そこに入っていた小さな赤い石を掴む。
アカリちゃんから貰ったピアスを、左耳の穴に付け替える。
それまで着けていたピアスを無理やり外したらピリッと痛みが走ったけど構ってはいられない。
消毒液を付けた綿棒で滲んだ血を軽く拭き取り部屋を出ると、階下の玄関にはスーツに着替えた両親が僕を待っていた。
「タクシーが来た。行くぞ」
「うん!」
着いた先は"natsume"の本社ビルだった。
顔パスでエントランスを抜けるお父さんたちについて行ってエレベーターに乗り込むと屋上へ向かった。
「へ、へりこぷたぁ⁉︎」
「言っただろう。財力にものを言わせるって」
開いた口が塞がらない僕にとても楽しそうにお父さんは笑った。
ヘリコプターに乗り込みシートベルトを装着するとすぐ離陸した。
「30分ほどで着くから、それまで空の旅を楽しみなさい」
お父さんはそう言うと、お母さんとデート気分で空の旅を楽しんだ。
僕は楽しむ気分にはなれず、遠くの景色を眺めながらアカリちゃんに会ったときに伝えたい言葉を脳内でシミュレーションした。
__________________
物語がやっと動きます。
実は「金に物を言わせる」展開、やってみたかったんです(笑)
ヘリコプターの移動時間は私のイメージで、実際、どのくらい掛かるのかはわかりません。。。
今日は一城家と棗家の顔合わせの日。
こんなにも時の流れが早く感じたのは初めて。
ほとんど眠れないまま朝を迎えた。
「おはよう、ヒロ………って、何その凄い隈は⁉︎」
ダイニングに朝食を並べていたお母さんは驚いて駆け寄り、僕の顔を両手でガシッと掴み上げて目元に親指を当てる。
勢いが良すぎて「うぐっ」って変な声が出た。
「ホットタオル用意しておくから顔洗ってきなさい」
そう言うとお母さんは僕を洗面所に追いやる。
冷たい水で顔を洗い鏡を見ると、目の下が黒く窪んでいた。目蓋も少し浮腫んでいて半分くらいしか目が開いてなかった。
ダイニングに戻るとお母さんに引きずられリビングのソファーに寝かさた。
「眠くなったら寝ても良いから、このまま少し横になっていなさい」
載せたれたホットタオルの上から目蓋を押さえられると、ジンワリと目元が温かくなった。
その気持ち良さに意識が遠のいた。
「ん…」
眩しさに目覚めた。
頬にひんやりとした感触が当たり手を当てると、すっかり冷めてしまったタオルだった。
「起きたの?………うん、だいぶ薄くなったわね。若いうちから隈なんて作ったら消えなくなるんだからね!」
またしても両手でガシッと僕の顔を掴んで確認するお母さん。
「お母さん、今何時?」
「えっ、13時よ。お腹空いた?おにぎり握ったから持ってくるね」
捲し立てるお母さんの声が途中から聞こえなかった。
「え………じゅうさんじって………えっ、1時⁈」
「1時ね」
のほほんと答えるお母さん。
「ヒロどうした?」
「えっ、あっ、その……」
バクバクと言う心臓を押さえる僕に、1人掛けのソファーに座り雑誌を読んでいたお父さんが声をかけてきたけど、僕は言葉が出てこない。
「ほら、お茶飲んで落ち着きなさい。あと、おにぎりどーぞ」
お母さんが温かいお茶と小さいおにぎりを2個載せたお皿をテーブルに置く。
「で、でもっ」
「いいから飲みなさい!」
「はい」
熱すぎず温すぎない緑茶を一口飲む。
「はい、おにぎり」
「はいっ」
おにぎりを齧る。
モグモグしている内にだいぶ落ち着いてきた。
2個目のおにぎりを食べ終え、残りのお茶を飲み干す。
「食後のミルクティーよ。これ飲んだら落ち着くわよ」
「……うん」
おしぼりで手を拭き時計を見上げる。
13時半。
後1時間半で始まってしまう。
焦る気持ちを押し殺して、カップを手に取りミルクティーを一口飲む。
ジンワリと甘さが胃に流れ込むと、少しだけ気持ちが落ち着いた。
落ち着いたら頭に浮かんでくるのはひとつだった。
僕はなんでここに居るんだろう。
僕は
僕は…
「ひ、ヒロっ⁈」
お母さんが慌てておしぼりを僕の頬に当てる。
「どうしたの?」
「ぁ……ぃたい……アカリちゃんに………アカリちゃんに逢いたい………ひっく………僕、アカリちゃんに逢いたい……うっ」
止まらない涙に構うことなく僕は今の気持ちを言葉にする。
「逢い……たい…」
「ヒロ」
目を上げると、お父さんが僕の足元に片膝をついて真っ直ぐ僕の目を見ていた。
「会ってどうする?」
「わか、らない………でも、逢いたい……ただ、逢いたい…んだ…」
「ん、分かった。なら、会いに行こうか」
お父さんは、僕の頭にポンと手を乗せるとそう言って立ち上がった。
会いに行く…?
今から行っても間に合わないのに…。
見上げる僕にお父さんはウィンクをした。
「さぁて、たまには財力にものを言わせてみようか」
ポケットからスマホを取り出したお父さんは、どこかに電話を掛けた。
「ヒロ、行くならこれに着替えなさい」
「ふへっ?」
「ほら、時間ないんだから急いでー」
お母さんは嬉しそうに洋服を僕に渡し、リビングから僕を追い出した。
僕は言われるがまま、部屋に戻って渡された洋服を着る。
襟がアシンメトリーのチェック柄のシャツに、サイドにもチェック柄が入ったタイトなパンツにはサスペンダーがついていて、襟元だけデザイン違うジャケット。
百合ちゃんの新作?どれも見たことがない。
着替えが終え、机の引き出しから小さな小箱を取り出し、そこに入っていた小さな赤い石を掴む。
アカリちゃんから貰ったピアスを、左耳の穴に付け替える。
それまで着けていたピアスを無理やり外したらピリッと痛みが走ったけど構ってはいられない。
消毒液を付けた綿棒で滲んだ血を軽く拭き取り部屋を出ると、階下の玄関にはスーツに着替えた両親が僕を待っていた。
「タクシーが来た。行くぞ」
「うん!」
着いた先は"natsume"の本社ビルだった。
顔パスでエントランスを抜けるお父さんたちについて行ってエレベーターに乗り込むと屋上へ向かった。
「へ、へりこぷたぁ⁉︎」
「言っただろう。財力にものを言わせるって」
開いた口が塞がらない僕にとても楽しそうにお父さんは笑った。
ヘリコプターに乗り込みシートベルトを装着するとすぐ離陸した。
「30分ほどで着くから、それまで空の旅を楽しみなさい」
お父さんはそう言うと、お母さんとデート気分で空の旅を楽しんだ。
僕は楽しむ気分にはなれず、遠くの景色を眺めながらアカリちゃんに会ったときに伝えたい言葉を脳内でシミュレーションした。
__________________
物語がやっと動きます。
実は「金に物を言わせる」展開、やってみたかったんです(笑)
ヘリコプターの移動時間は私のイメージで、実際、どのくらい掛かるのかはわかりません。。。
0
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~
日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。
女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。
婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。
あらゆる不幸が彼女を襲う。
果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか?
選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。
神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。
どうやら、食料事情がよくないらしい。
俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと!
そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。
これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。
しかし、それが意味するところは……。
君を愛するのは俺だけで十分です。
屑籠
BL
独自設定ありのオメガバースの世界観です。
アルファとオメガには、魔力がある。
それがこの世界の常識で、どんな親から生まれるかわからないオメガを保護する目的で、オメガ保護施設というものが造られた。
そんな世界で出会った番たちのお話。
Ωの愛なんて幻だ
相音仔
BL
男性オメガの地位が最底辺の世界から、Ωが大事に愛しまれている世界へと迷い込んでしまった青年。
愛されているのは分かるのに、育った世界の常識のせいで、なかなか素直になれない日々。
このひとの愛はホンモノなのだろうか?自分はいったいどうすればいいのだろう。
「Ωの愛なんて幻だ」そう思っていた青年が答えを見つけるまでの物語。
※この小説はムーンライトノベルズでも投稿しています。向こうでは完結済み。
投稿は基本毎日22時。(休日のみ12時30と22時の2回)
・固定CP α(貴族・穏やか・敬語・年上)×Ω(幸薄・無気力・流されやすい・年下)
・ちょっと不思議な設定がある程度でファンタジー(魔法)割合は低め。
・オメガバースで本番ありなので、18歳未満の方はNG。そこそこの描写がある回はタイトルまえに※入れてあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる