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アカリちゃんとの再会
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アカリちゃんが消えた。
僕はすぐ僕とアカリちゃんの両親に連絡した。
僕の両親と百合ちゃんは30分ほどで帰宅した。
蒼さんは会社に残って探すと聞き、僕は3人にアカリちゃんが居なくなった時の状況を説明した。
その後、防犯カメラの映像を確認した。
映像には門に寄ったアカリちゃんの姿があった。
門に背を向けた直後、侵入してきた男に背後を取られたアカリちゃんは、あっという間に男の絞め技で気絶し連れ去られた。
日が落ち始め薄暗かったことと、男がカメラを意識して動いていたようで、顔をは判別できないとお父さんに言われた。
アカリちゃんを捜索しようにもGPSが付いたネックプロテクターもカフスを身につけていなかったため、早々にお手上げ状態だ。
会社で捜索している蒼さんの連絡を待つしかない。
アカリちゃんが行方不明になってから4時間が過ぎた10時頃、蒼さんが帰ってきた。
「アカリが見つかった。これから迎えに行く」
リビングに居た僕たちに蒼さんはそう言うと百合ちゃんはソファーから立ち上がり、蒼さんと玄関に向かう。
「蒼さん」
とっさに蒼さんの元に駆け寄った。
「僕も……僕も一緒に行かせてもらえませんか?」
発した言葉は完全に無意識だった。
「…ヒロ…これから行くところに君が来ることをアカリは望んでいないと俺は思う」
「蒼くんっ」
僕の方に手を置き話す蒼さんは、今まで見たことのない暗い目をしてる。
たぶんその理由をここに居る僕以外、全員気付いている。
たぶん僕も薄々気づいていたんだと思う。
「でもっ…」
「たぶん、ヒロにとっては酷な場所になると思う。それでも…俺も百合も本心ではヒロに一緒に来て欲しいと思ってる」
僕の腕に触れる百合ちゃんが僕に声を掛ける。
「アカリもヒロくんのこと待っているわ」
「ヒロ、一緒に行ってくれるかい?」
ゴクリと唾を飲み込む音が鼓膜に響く。
「行きたい!行かせてください!」
僕には躊躇いはなかった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
そこは30分ほど車で走ると着いた。
大きな塀に囲まれた豪華な門が自動で開いた。
そのまま車で侵入し、エントランスで止まると僕たちは降りた。
大きな扉は待ち構えていたドアマンによって開けられ、中に迎えられた。
「棗さん、ようこそいらっしゃいました」
主人と思しきお腹が出た中年の男と細っそりした妻が歓迎した。
「一城さん、夜分遅くに申し訳ありません」
「とんでもない、疲れたでしょう。さっお茶を用意してますから、飲んで一息つきましょう」
「いえ、アカリを連れてすぐ帰ります」
社交辞令な挨拶もそこそこに、蒼さんは本題を告げる。
どうやらここは一城先輩の家のようだ。
どこかの屋敷を丸ごと買い取ったと噂を聞いたことがある一城邸は、日本のトップメーカーらしい大豪邸だった。
屋敷の主人が執事に目配せすると、執事は階段を登っていった。
その姿を目で追った先に一城先輩が現れた。
「棗さん、ようこそおいで下さいました」
優雅に階段を降りてくる一城先輩の顔は自信に漲っていた。
「はじめまして、一城可那斗です」
爽やかな笑顔を浮かべ手を差し出し挨拶する一城先輩に、蒼さんは握手を交わすことなく頷く。
少しして階段の上から複数の足音が聞こえた。
「アカリ、おいで」
一城先輩が振り返り声を掛けると、小柄な男の子と執事に体を支えられたアカリちゃんが現れた。
2人に支えられながらゆっくり階段を降りると、待ち構えていた一城先輩に腕を引かれ抱き寄せられる形で横に立たされた。
その時一瞬、首の後ろを覆うように被せられた白いガーゼが見えて、僕の心臓がドクンと跳ねる。
「先程、僕とアカリは番になりました」
その言葉に目の前が一瞬で真っ黒に塗り潰された気がした。
呆然とアカリちゃんを見つめるけど、アカリちゃんは俯き決して僕たちを見ない。
「アカリを連れて帰ります。さあ、アカリ、帰るよ」
蒼さんは一城先輩の言葉に返すことはせず、アカリちゃんに手を差し伸べる。
アカリちゃんは一城先輩を押し退け、ふらつきながらその手を縋るように蒼さんに抱きついた。
蒼さんは顔を埋めてしがみ付くアカリちゃんの背中を優しく撫で、そのまま抱き上げた。
「棗さん、2人が番になったのですからすぐ結納をしましょう。こう言うことは早めに済ませておかないといつ下世話な輩に嗅ぎ付けられるがわかりませんから。このまま泊まられて明日、日取りを決めませんか?」
一城先輩の背後にいた先輩の父親が蒼さんに声を掛け、ベラベラと捲し立てた。
「その件については後日こちらから連絡を差し上げます」
「失礼します」と蒼さんと百合ちゃんはニッコリ笑顔で会釈して玄関に向かった。
「ヒロ、行くよ」
未だ動けないでいた僕は、蒼さんの声でようやく動くことができた。
僕は蒼さんたちを追いかけて一城邸を出た。
助手席に座り振り返ると、アカリちゃんは後部座席で百合ちゃんに抱きついていた。
泣くこともなく、眠っているのではないかと錯覚するくらい静かだった。
帰りの車中は行きよりも更に重い空気を纏った。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「これ、透に渡してくれる」
「はい」
家の前で車を降ろされた僕が受け取ったのは、一城邸の門の前にいた男の子から蒼さんが受け取った紙袋だ。
その中身は、使用済みのペンタイプの注射器と錠剤の空き袋だった。
蒼さんはその子といくつか言葉を交わし「あとで連絡するね」と連絡先を交換していた。
僕はこのまま病院へ向かうと言う蒼さんたちを見送り、一人家に帰った。
__________________
人を気絶させる方法を一生懸命調べました。
ごめんよ、アカリさん…。
僕はすぐ僕とアカリちゃんの両親に連絡した。
僕の両親と百合ちゃんは30分ほどで帰宅した。
蒼さんは会社に残って探すと聞き、僕は3人にアカリちゃんが居なくなった時の状況を説明した。
その後、防犯カメラの映像を確認した。
映像には門に寄ったアカリちゃんの姿があった。
門に背を向けた直後、侵入してきた男に背後を取られたアカリちゃんは、あっという間に男の絞め技で気絶し連れ去られた。
日が落ち始め薄暗かったことと、男がカメラを意識して動いていたようで、顔をは判別できないとお父さんに言われた。
アカリちゃんを捜索しようにもGPSが付いたネックプロテクターもカフスを身につけていなかったため、早々にお手上げ状態だ。
会社で捜索している蒼さんの連絡を待つしかない。
アカリちゃんが行方不明になってから4時間が過ぎた10時頃、蒼さんが帰ってきた。
「アカリが見つかった。これから迎えに行く」
リビングに居た僕たちに蒼さんはそう言うと百合ちゃんはソファーから立ち上がり、蒼さんと玄関に向かう。
「蒼さん」
とっさに蒼さんの元に駆け寄った。
「僕も……僕も一緒に行かせてもらえませんか?」
発した言葉は完全に無意識だった。
「…ヒロ…これから行くところに君が来ることをアカリは望んでいないと俺は思う」
「蒼くんっ」
僕の方に手を置き話す蒼さんは、今まで見たことのない暗い目をしてる。
たぶんその理由をここに居る僕以外、全員気付いている。
たぶん僕も薄々気づいていたんだと思う。
「でもっ…」
「たぶん、ヒロにとっては酷な場所になると思う。それでも…俺も百合も本心ではヒロに一緒に来て欲しいと思ってる」
僕の腕に触れる百合ちゃんが僕に声を掛ける。
「アカリもヒロくんのこと待っているわ」
「ヒロ、一緒に行ってくれるかい?」
ゴクリと唾を飲み込む音が鼓膜に響く。
「行きたい!行かせてください!」
僕には躊躇いはなかった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
そこは30分ほど車で走ると着いた。
大きな塀に囲まれた豪華な門が自動で開いた。
そのまま車で侵入し、エントランスで止まると僕たちは降りた。
大きな扉は待ち構えていたドアマンによって開けられ、中に迎えられた。
「棗さん、ようこそいらっしゃいました」
主人と思しきお腹が出た中年の男と細っそりした妻が歓迎した。
「一城さん、夜分遅くに申し訳ありません」
「とんでもない、疲れたでしょう。さっお茶を用意してますから、飲んで一息つきましょう」
「いえ、アカリを連れてすぐ帰ります」
社交辞令な挨拶もそこそこに、蒼さんは本題を告げる。
どうやらここは一城先輩の家のようだ。
どこかの屋敷を丸ごと買い取ったと噂を聞いたことがある一城邸は、日本のトップメーカーらしい大豪邸だった。
屋敷の主人が執事に目配せすると、執事は階段を登っていった。
その姿を目で追った先に一城先輩が現れた。
「棗さん、ようこそおいで下さいました」
優雅に階段を降りてくる一城先輩の顔は自信に漲っていた。
「はじめまして、一城可那斗です」
爽やかな笑顔を浮かべ手を差し出し挨拶する一城先輩に、蒼さんは握手を交わすことなく頷く。
少しして階段の上から複数の足音が聞こえた。
「アカリ、おいで」
一城先輩が振り返り声を掛けると、小柄な男の子と執事に体を支えられたアカリちゃんが現れた。
2人に支えられながらゆっくり階段を降りると、待ち構えていた一城先輩に腕を引かれ抱き寄せられる形で横に立たされた。
その時一瞬、首の後ろを覆うように被せられた白いガーゼが見えて、僕の心臓がドクンと跳ねる。
「先程、僕とアカリは番になりました」
その言葉に目の前が一瞬で真っ黒に塗り潰された気がした。
呆然とアカリちゃんを見つめるけど、アカリちゃんは俯き決して僕たちを見ない。
「アカリを連れて帰ります。さあ、アカリ、帰るよ」
蒼さんは一城先輩の言葉に返すことはせず、アカリちゃんに手を差し伸べる。
アカリちゃんは一城先輩を押し退け、ふらつきながらその手を縋るように蒼さんに抱きついた。
蒼さんは顔を埋めてしがみ付くアカリちゃんの背中を優しく撫で、そのまま抱き上げた。
「棗さん、2人が番になったのですからすぐ結納をしましょう。こう言うことは早めに済ませておかないといつ下世話な輩に嗅ぎ付けられるがわかりませんから。このまま泊まられて明日、日取りを決めませんか?」
一城先輩の背後にいた先輩の父親が蒼さんに声を掛け、ベラベラと捲し立てた。
「その件については後日こちらから連絡を差し上げます」
「失礼します」と蒼さんと百合ちゃんはニッコリ笑顔で会釈して玄関に向かった。
「ヒロ、行くよ」
未だ動けないでいた僕は、蒼さんの声でようやく動くことができた。
僕は蒼さんたちを追いかけて一城邸を出た。
助手席に座り振り返ると、アカリちゃんは後部座席で百合ちゃんに抱きついていた。
泣くこともなく、眠っているのではないかと錯覚するくらい静かだった。
帰りの車中は行きよりも更に重い空気を纏った。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「これ、透に渡してくれる」
「はい」
家の前で車を降ろされた僕が受け取ったのは、一城邸の門の前にいた男の子から蒼さんが受け取った紙袋だ。
その中身は、使用済みのペンタイプの注射器と錠剤の空き袋だった。
蒼さんはその子といくつか言葉を交わし「あとで連絡するね」と連絡先を交換していた。
僕はこのまま病院へ向かうと言う蒼さんたちを見送り、一人家に帰った。
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人を気絶させる方法を一生懸命調べました。
ごめんよ、アカリさん…。
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