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同居終了:25日目 1/15(土)
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財布持った。
スマホ持った。
ハンカチ持った。
そして、タッパー持った。
「いってきます」
俺は家を出た。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
今日はバイトの後に、真琴さんと会う約束をしている。
タッパー返すために。
この前の電話はタッパーを何処かで返してもらえないかという相談だった。
先週、たくさんの料理をタッパーに詰めて家に持って来たため、真琴さんの実家のタッパーのストックが足りなくなってしまったそうだ。
まあ買えば済む話ではあるが、真琴さんが持ってきたタッパーはその辺のワンコインショップで買えるお得なものではなかった。
あと、大量のタッパーを家に置いておくと邪魔になると思ったらしい。
タッパーはそこまで大きくなく、同じサイズのもので重ねたらそれほど嵩張らなかったが、確かに家ではこんなに使わないな。
持ってきた時はパンパンで重かったトートバッグは、サイズも重さも半分以下になった。
タッパーを返す話を家族にすると、翌日、母さんが某有名なチョコレートを買ってきてトートバッグに突っ込んだ。
終業前に真琴さんはカフェを訪れた。
前回のことがあるから、今回は割とギリギリにしてもらった。
「立花くん、あの人がそうなんだぁ」
「なんだよ」
「なんでもなーい」
沙也が興味津々に真琴を見る。
チラッと見ると時間が少しすぎていた。
「着替えてくるので少し待ってて下さい」
「うん」
真琴さんに声を掛けてバックヤードに戻る。
急いで着替えを済ますと姿見で身嗜みを整え、荷物を持ってフロアに戻った。
「あ、紫陽くん。遅ーい」
「は?そんなに遅くないだろ。つか…」
何で名前で呼んでんだよ、沙也。
ジロリと見ると、ベッと舌を出してカウンターに戻っていった。
視線を真琴さんに戻すと俯いていて表情が見えなかった。
「真琴さん、お待たせしました」
「あ、うん。大丈夫、そんなに待ってないよ」
ニッコリ笑い返すがどこかぎごちない。
俺がいない間に何かあったのは間違いない。
たぶん、原因は…。
「そうだ、これ。ありがとうございます」
「あ、うん。……あれ、何か入ってる?」
「母が真琴さんにって、お礼です」
「わっ、チョコレート。ありがとう」
チョコレートのパッケージを見て嬉しそうに微笑んだ。
「家族がまたご飯食べましょうと言ってました」
「……そう」
「真琴さん?」
紅茶の最後の一口飲むと真琴さんは立ち上がった。
「外で話さない?」
「え、あぁ、分かりました」
真琴さんはコートとマフラーを手早く身に付け伝票を持ってレジで会計を済ますと、「近くに公園があるからそこに行こう」と俺に声を掛けて外に出た。
オフィス街にある公園まで一言も言葉を交わさずに歩いた。
店を出る時振り返えると沙也がまたベッと舌を出して手を振っていた。
この状況はやはり沙也が何か言ったんだろう。
「まーー」
「紫陽くん。この間の返事、今して良いかな?」
「えっ…」
振り返った真琴さんは穏やかな笑みを浮かべて深々とお辞儀した。
「ごめんなさい。僕は紫陽くんとは付き合えない」
「ーーっ!」
頭を上げた真琴さんはその笑みを崩すことなく続けた。
「もう君とは会わない……もう…連絡もしない…」
「なんっ、で…」
俺の問いに答えてくれることはなく、穏やかな笑みを浮かべ続けた。
「さようなら」
スマホ持った。
ハンカチ持った。
そして、タッパー持った。
「いってきます」
俺は家を出た。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
今日はバイトの後に、真琴さんと会う約束をしている。
タッパー返すために。
この前の電話はタッパーを何処かで返してもらえないかという相談だった。
先週、たくさんの料理をタッパーに詰めて家に持って来たため、真琴さんの実家のタッパーのストックが足りなくなってしまったそうだ。
まあ買えば済む話ではあるが、真琴さんが持ってきたタッパーはその辺のワンコインショップで買えるお得なものではなかった。
あと、大量のタッパーを家に置いておくと邪魔になると思ったらしい。
タッパーはそこまで大きくなく、同じサイズのもので重ねたらそれほど嵩張らなかったが、確かに家ではこんなに使わないな。
持ってきた時はパンパンで重かったトートバッグは、サイズも重さも半分以下になった。
タッパーを返す話を家族にすると、翌日、母さんが某有名なチョコレートを買ってきてトートバッグに突っ込んだ。
終業前に真琴さんはカフェを訪れた。
前回のことがあるから、今回は割とギリギリにしてもらった。
「立花くん、あの人がそうなんだぁ」
「なんだよ」
「なんでもなーい」
沙也が興味津々に真琴を見る。
チラッと見ると時間が少しすぎていた。
「着替えてくるので少し待ってて下さい」
「うん」
真琴さんに声を掛けてバックヤードに戻る。
急いで着替えを済ますと姿見で身嗜みを整え、荷物を持ってフロアに戻った。
「あ、紫陽くん。遅ーい」
「は?そんなに遅くないだろ。つか…」
何で名前で呼んでんだよ、沙也。
ジロリと見ると、ベッと舌を出してカウンターに戻っていった。
視線を真琴さんに戻すと俯いていて表情が見えなかった。
「真琴さん、お待たせしました」
「あ、うん。大丈夫、そんなに待ってないよ」
ニッコリ笑い返すがどこかぎごちない。
俺がいない間に何かあったのは間違いない。
たぶん、原因は…。
「そうだ、これ。ありがとうございます」
「あ、うん。……あれ、何か入ってる?」
「母が真琴さんにって、お礼です」
「わっ、チョコレート。ありがとう」
チョコレートのパッケージを見て嬉しそうに微笑んだ。
「家族がまたご飯食べましょうと言ってました」
「……そう」
「真琴さん?」
紅茶の最後の一口飲むと真琴さんは立ち上がった。
「外で話さない?」
「え、あぁ、分かりました」
真琴さんはコートとマフラーを手早く身に付け伝票を持ってレジで会計を済ますと、「近くに公園があるからそこに行こう」と俺に声を掛けて外に出た。
オフィス街にある公園まで一言も言葉を交わさずに歩いた。
店を出る時振り返えると沙也がまたベッと舌を出して手を振っていた。
この状況はやはり沙也が何か言ったんだろう。
「まーー」
「紫陽くん。この間の返事、今して良いかな?」
「えっ…」
振り返った真琴さんは穏やかな笑みを浮かべて深々とお辞儀した。
「ごめんなさい。僕は紫陽くんとは付き合えない」
「ーーっ!」
頭を上げた真琴さんはその笑みを崩すことなく続けた。
「もう君とは会わない……もう…連絡もしない…」
「なんっ、で…」
俺の問いに答えてくれることはなく、穏やかな笑みを浮かべ続けた。
「さようなら」
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