魔法使いと眠れるオメガ

むー

文字の大きさ
上 下
27 / 79

同居:27日目 12/18(土)

しおりを挟む
朝、ダイニングにはおにぎりと玉子焼きがメモと共に置いてあった。

『用事があるので出掛けます。お昼は用意できません。ごめんね。』

また逃げられた?

「めんどくせぇ」

不貞腐れて齧り付いたおにぎりは冷え切っていた。
だいぶ前に作られたようだ。
モグモグしながらメモを見返す。

「ごめんねって、謝るのは俺の方だろ」

皿をシンクに置いて、メモに『ごちそうさまでした。美味しかったです』と書いてテーブルに置いた。
今日は特に予定もなかったが、何となく俺も居づらくて外に出た。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「店長。俺どうしたらいいと思いますー?」

パントリーで忙しなく調理をする店長に声を掛ける。

「うるせぇ、暇なら手伝え」
「俺、今日休みでーす」
「俺は仕事中だ」

気が付いたらバイト先のカフェに着いてた。
既にオープンしててバックヤードには誰もいなかったから店長がいるパントリーに行って隅で丸椅子に座わって昨日の事を相談したのだが、忙しそうに動き回る店長はイライラを隠さず荒げた声をあげ、俺にエプロンを投げつけた。
渋々、手を洗い皿にサラダを盛り付け、出来上がった料理をパントリーとフロアを仕切っているカウンターに置いた。


「で、お前はどうしたい訳?」

賄いのパスタをモグモグする俺を、一段落した店長は呆れた顔で聞いてきた。

「えっ、あー、仲直り?したいです……けど、キッカケが思いつかなくて……」

あれが喧嘩なのかは分からないけど、この気まずい状況は嫌だ。
でも、ちゃんと話したいと思うし、一緒にご飯も食べたい。

「あーちょっと待ってろ」

店長はそう言うと、何かを作り始めた。


15分ほどで持ち帰り用の容器に入った2人分のリゾットを俺に持たせた。

「これ今日のバイト代。温めるだけならお前でもできるだろ。あと、明日お前早番な。14時で上げてやるから、そのマコトさんとデートしろ」
「えっ」

店長はそう言うとポチポチとスマホを弄って何処かへ連絡した。

「此処に呼び出せばすぐ行けるだろ」
「デート、って…」
「映画でも見てこいってこと……チッ」

連絡先からすぐ返事が来たようで、苦虫を噛んだような顔で舌打ちをした。

「でも、俺遅番」
「助っ人呼んだから問題ない。ほら帰れ、仕事の邪魔だ」

店長はそう言うと、オーダーが入った料理を作り始めた。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「ただいまぁ」

そおっとリビングダイニングのドアを開けるが、中はしんと静まり返っていた。
ダイニングテーブルにリゾットが入った袋を置くと朝俺が追記したメモが残ったままだった。
よくよく見渡すと、部屋は冷え冷えとして真琴さんが戻った様子はない。

「戻ってないのか」

すぐ真琴さんの部屋の前に行きドアをノックして声をかけるがやはり居ないようだ。

「お邪魔します」

申し訳ないと思いつつ、ドアを開けて真琴さんの部屋に覗くが真っ暗で何も見えず電気を付けて入った。
はじめて入った真琴さんの部屋は俺の部屋よりちょっと広く、机とデスクチェア、クローゼットの前にダブルベットだけと簡素なもので、本当に人が住んでいるのか謎なくらいものがなかった。

「まだ出掛けてーーって、えっ?嘘だろ…」

部屋を出ようと振り返った時、ハンガーに掛かったコートが視界に入った。
マフラーと一緒に掛けられたコートはいつも見るものだ。
しかもこれ以外のコートを着て出掛ける真琴さんを俺は見たことがない。
ちょっとそこまで出かけるつもりで出掛けたのか?

いつから?

慌てて電話を掛けるとすぐ近く、ベッドの上からバイブ音がした。

「クソッ」

ハンガーに掛かったコートを掴んで外に飛び出した。


冬の日没は早いから6時を過ぎると辺りは真っ暗だ。
駅ビル、スーパー、喫茶店と、一緒に出掛けたことのある場所を回り、かれこれ1時間近く探しているのだが一向に見つからない。
真琴さんの行動範囲を俺は把握していなかった事を今更ながら激しく後悔した。
一緒に出かけたのなんて一度だけだった。
だから、それ以外の場所に行かれたらもうお手上げだ。

もしかして、もう家に帰っているかもしれないともう一度電話を掛けてみるが、コール音が虚しく聞こえるだけだった。

「どこにいるんだよ…」

スマホを握りしめトボトボ歩いていると、少し先にある公園の入り口が目に入った。
マンションから近い位置にあるこの公園を俺は知らなかった。
フワリと鼻をくすぐる香りを感じて釣られるように公園の中に入ると、奥に小さな池がある公園だった。

池まで行くとさっきの香りがまた感じ右に顔を向けると、奥のベンチに人影が見えた。
俺は弾かれるようにその人影に向かって走った。

「見つけた」
「………紫陽、くん?」

目の前に立つ俺を、俯いていた顔を上げた真琴さんは目を大きくして驚いた。

「探したんですよ。いつから此処にいたんですか?」
「あれ、いつからだろう……?家に帰ったのは4時近かったと思う…けど」
「今、7時過ぎてますよ。なんでそんな格好で出かけるんですか……それに、携帯は携帯しないと意味がありませんからっ」

持ってきたコートを真琴さんの肩に掛けると冷たかったのかブルリと震えた。
俺は着ていたダウンを脱いで掛け直した。

「あ、ダメだよ、紫陽くんの体が冷えちゃう」

慌てて脱ごうとする手を掴むと、氷のように冷たかった。

「ダメじゃないです。もう……こんなに冷えてるじゃないですか」

真琴さんの両手を包み込んで熱を与える。

「ご、ごめんなさい。考え事してて……」
「とりあえず、帰りましょう」

真琴さんの手を引いてマンションへ帰った。


真琴さんがお風呂に入っている間に、俺はリゾットを鍋に移して温め直した。


「ごちそうさまでした。とても美味しかった」

真琴さんの冷え切った体はお風呂とご飯で熱が戻り、青白かった顔も頬にピンクがさすほどの状態に戻った。

「真琴さん、今日は……いや、今は聞きません。話せる時が来たら教えてくれますか?」

コクリと頷くのを確認すると、俺は本題に移った。

「だから、真琴さん、明日俺とデートしてくれませんか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...