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同居:27日目 12/18(土)
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朝、ダイニングにはおにぎりと玉子焼きがメモと共に置いてあった。
『用事があるので出掛けます。お昼は用意できません。ごめんね。』
また逃げられた?
「めんどくせぇ」
不貞腐れて齧り付いたおにぎりは冷え切っていた。
だいぶ前に作られたようだ。
モグモグしながらメモを見返す。
「ごめんねって、謝るのは俺の方だろ」
皿をシンクに置いて、メモに『ごちそうさまでした。美味しかったです』と書いてテーブルに置いた。
今日は特に予定もなかったが、何となく俺も居づらくて外に出た。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「店長。俺どうしたらいいと思いますー?」
パントリーで忙しなく調理をする店長に声を掛ける。
「うるせぇ、暇なら手伝え」
「俺、今日休みでーす」
「俺は仕事中だ」
気が付いたらバイト先のカフェに着いてた。
既にオープンしててバックヤードには誰もいなかったから店長がいるパントリーに行って隅で丸椅子に座わって昨日の事を相談したのだが、忙しそうに動き回る店長はイライラを隠さず荒げた声をあげ、俺にエプロンを投げつけた。
渋々、手を洗い皿にサラダを盛り付け、出来上がった料理をパントリーとフロアを仕切っているカウンターに置いた。
「で、お前はどうしたい訳?」
賄いのパスタをモグモグする俺を、一段落した店長は呆れた顔で聞いてきた。
「えっ、あー、仲直り?したいです……けど、キッカケが思いつかなくて……」
あれが喧嘩なのかは分からないけど、この気まずい状況は嫌だ。
でも、ちゃんと話したいと思うし、一緒にご飯も食べたい。
「あーちょっと待ってろ」
店長はそう言うと、何かを作り始めた。
15分ほどで持ち帰り用の容器に入った2人分のリゾットを俺に持たせた。
「これ今日のバイト代。温めるだけならお前でもできるだろ。あと、明日お前早番な。14時で上げてやるから、そのマコトさんとデートしろ」
「えっ」
店長はそう言うとポチポチとスマホを弄って何処かへ連絡した。
「此処に呼び出せばすぐ行けるだろ」
「デート、って…」
「映画でも見てこいってこと……チッ」
連絡先からすぐ返事が来たようで、苦虫を噛んだような顔で舌打ちをした。
「でも、俺遅番」
「助っ人呼んだから問題ない。ほら帰れ、仕事の邪魔だ」
店長はそう言うと、オーダーが入った料理を作り始めた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「ただいまぁ」
そおっとリビングダイニングのドアを開けるが、中はしんと静まり返っていた。
ダイニングテーブルにリゾットが入った袋を置くと朝俺が追記したメモが残ったままだった。
よくよく見渡すと、部屋は冷え冷えとして真琴さんが戻った様子はない。
「戻ってないのか」
すぐ真琴さんの部屋の前に行きドアをノックして声をかけるがやはり居ないようだ。
「お邪魔します」
申し訳ないと思いつつ、ドアを開けて真琴さんの部屋に覗くが真っ暗で何も見えず電気を付けて入った。
はじめて入った真琴さんの部屋は俺の部屋よりちょっと広く、机とデスクチェア、クローゼットの前にダブルベットだけと簡素なもので、本当に人が住んでいるのか謎なくらいものがなかった。
「まだ出掛けてーーって、えっ?嘘だろ…」
部屋を出ようと振り返った時、ハンガーに掛かったコートが視界に入った。
マフラーと一緒に掛けられたコートはいつも見るものだ。
しかもこれ以外のコートを着て出掛ける真琴さんを俺は見たことがない。
ちょっとそこまで出かけるつもりで出掛けたのか?
いつから?
慌てて電話を掛けるとすぐ近く、ベッドの上からバイブ音がした。
「クソッ」
ハンガーに掛かったコートを掴んで外に飛び出した。
冬の日没は早いから6時を過ぎると辺りは真っ暗だ。
駅ビル、スーパー、喫茶店と、一緒に出掛けたことのある場所を回り、かれこれ1時間近く探しているのだが一向に見つからない。
真琴さんの行動範囲を俺は把握していなかった事を今更ながら激しく後悔した。
一緒に出かけたのなんて一度だけだった。
だから、それ以外の場所に行かれたらもうお手上げだ。
もしかして、もう家に帰っているかもしれないともう一度電話を掛けてみるが、コール音が虚しく聞こえるだけだった。
「どこにいるんだよ…」
スマホを握りしめトボトボ歩いていると、少し先にある公園の入り口が目に入った。
マンションから近い位置にあるこの公園を俺は知らなかった。
フワリと鼻をくすぐる香りを感じて釣られるように公園の中に入ると、奥に小さな池がある公園だった。
池まで行くとさっきの香りがまた感じ右に顔を向けると、奥のベンチに人影が見えた。
俺は弾かれるようにその人影に向かって走った。
「見つけた」
「………紫陽、くん?」
目の前に立つ俺を、俯いていた顔を上げた真琴さんは目を大きくして驚いた。
「探したんですよ。いつから此処にいたんですか?」
「あれ、いつからだろう……?家に帰ったのは4時近かったと思う…けど」
「今、7時過ぎてますよ。なんでそんな格好で出かけるんですか……それに、携帯は携帯しないと意味がありませんからっ」
持ってきたコートを真琴さんの肩に掛けると冷たかったのかブルリと震えた。
俺は着ていたダウンを脱いで掛け直した。
「あ、ダメだよ、紫陽くんの体が冷えちゃう」
慌てて脱ごうとする手を掴むと、氷のように冷たかった。
「ダメじゃないです。もう……こんなに冷えてるじゃないですか」
真琴さんの両手を包み込んで熱を与える。
「ご、ごめんなさい。考え事してて……」
「とりあえず、帰りましょう」
真琴さんの手を引いてマンションへ帰った。
真琴さんがお風呂に入っている間に、俺はリゾットを鍋に移して温め直した。
「ごちそうさまでした。とても美味しかった」
真琴さんの冷え切った体はお風呂とご飯で熱が戻り、青白かった顔も頬にピンクがさすほどの状態に戻った。
「真琴さん、今日は……いや、今は聞きません。話せる時が来たら教えてくれますか?」
コクリと頷くのを確認すると、俺は本題に移った。
「だから、真琴さん、明日俺とデートしてくれませんか?」
『用事があるので出掛けます。お昼は用意できません。ごめんね。』
また逃げられた?
「めんどくせぇ」
不貞腐れて齧り付いたおにぎりは冷え切っていた。
だいぶ前に作られたようだ。
モグモグしながらメモを見返す。
「ごめんねって、謝るのは俺の方だろ」
皿をシンクに置いて、メモに『ごちそうさまでした。美味しかったです』と書いてテーブルに置いた。
今日は特に予定もなかったが、何となく俺も居づらくて外に出た。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「店長。俺どうしたらいいと思いますー?」
パントリーで忙しなく調理をする店長に声を掛ける。
「うるせぇ、暇なら手伝え」
「俺、今日休みでーす」
「俺は仕事中だ」
気が付いたらバイト先のカフェに着いてた。
既にオープンしててバックヤードには誰もいなかったから店長がいるパントリーに行って隅で丸椅子に座わって昨日の事を相談したのだが、忙しそうに動き回る店長はイライラを隠さず荒げた声をあげ、俺にエプロンを投げつけた。
渋々、手を洗い皿にサラダを盛り付け、出来上がった料理をパントリーとフロアを仕切っているカウンターに置いた。
「で、お前はどうしたい訳?」
賄いのパスタをモグモグする俺を、一段落した店長は呆れた顔で聞いてきた。
「えっ、あー、仲直り?したいです……けど、キッカケが思いつかなくて……」
あれが喧嘩なのかは分からないけど、この気まずい状況は嫌だ。
でも、ちゃんと話したいと思うし、一緒にご飯も食べたい。
「あーちょっと待ってろ」
店長はそう言うと、何かを作り始めた。
15分ほどで持ち帰り用の容器に入った2人分のリゾットを俺に持たせた。
「これ今日のバイト代。温めるだけならお前でもできるだろ。あと、明日お前早番な。14時で上げてやるから、そのマコトさんとデートしろ」
「えっ」
店長はそう言うとポチポチとスマホを弄って何処かへ連絡した。
「此処に呼び出せばすぐ行けるだろ」
「デート、って…」
「映画でも見てこいってこと……チッ」
連絡先からすぐ返事が来たようで、苦虫を噛んだような顔で舌打ちをした。
「でも、俺遅番」
「助っ人呼んだから問題ない。ほら帰れ、仕事の邪魔だ」
店長はそう言うと、オーダーが入った料理を作り始めた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「ただいまぁ」
そおっとリビングダイニングのドアを開けるが、中はしんと静まり返っていた。
ダイニングテーブルにリゾットが入った袋を置くと朝俺が追記したメモが残ったままだった。
よくよく見渡すと、部屋は冷え冷えとして真琴さんが戻った様子はない。
「戻ってないのか」
すぐ真琴さんの部屋の前に行きドアをノックして声をかけるがやはり居ないようだ。
「お邪魔します」
申し訳ないと思いつつ、ドアを開けて真琴さんの部屋に覗くが真っ暗で何も見えず電気を付けて入った。
はじめて入った真琴さんの部屋は俺の部屋よりちょっと広く、机とデスクチェア、クローゼットの前にダブルベットだけと簡素なもので、本当に人が住んでいるのか謎なくらいものがなかった。
「まだ出掛けてーーって、えっ?嘘だろ…」
部屋を出ようと振り返った時、ハンガーに掛かったコートが視界に入った。
マフラーと一緒に掛けられたコートはいつも見るものだ。
しかもこれ以外のコートを着て出掛ける真琴さんを俺は見たことがない。
ちょっとそこまで出かけるつもりで出掛けたのか?
いつから?
慌てて電話を掛けるとすぐ近く、ベッドの上からバイブ音がした。
「クソッ」
ハンガーに掛かったコートを掴んで外に飛び出した。
冬の日没は早いから6時を過ぎると辺りは真っ暗だ。
駅ビル、スーパー、喫茶店と、一緒に出掛けたことのある場所を回り、かれこれ1時間近く探しているのだが一向に見つからない。
真琴さんの行動範囲を俺は把握していなかった事を今更ながら激しく後悔した。
一緒に出かけたのなんて一度だけだった。
だから、それ以外の場所に行かれたらもうお手上げだ。
もしかして、もう家に帰っているかもしれないともう一度電話を掛けてみるが、コール音が虚しく聞こえるだけだった。
「どこにいるんだよ…」
スマホを握りしめトボトボ歩いていると、少し先にある公園の入り口が目に入った。
マンションから近い位置にあるこの公園を俺は知らなかった。
フワリと鼻をくすぐる香りを感じて釣られるように公園の中に入ると、奥に小さな池がある公園だった。
池まで行くとさっきの香りがまた感じ右に顔を向けると、奥のベンチに人影が見えた。
俺は弾かれるようにその人影に向かって走った。
「見つけた」
「………紫陽、くん?」
目の前に立つ俺を、俯いていた顔を上げた真琴さんは目を大きくして驚いた。
「探したんですよ。いつから此処にいたんですか?」
「あれ、いつからだろう……?家に帰ったのは4時近かったと思う…けど」
「今、7時過ぎてますよ。なんでそんな格好で出かけるんですか……それに、携帯は携帯しないと意味がありませんからっ」
持ってきたコートを真琴さんの肩に掛けると冷たかったのかブルリと震えた。
俺は着ていたダウンを脱いで掛け直した。
「あ、ダメだよ、紫陽くんの体が冷えちゃう」
慌てて脱ごうとする手を掴むと、氷のように冷たかった。
「ダメじゃないです。もう……こんなに冷えてるじゃないですか」
真琴さんの両手を包み込んで熱を与える。
「ご、ごめんなさい。考え事してて……」
「とりあえず、帰りましょう」
真琴さんの手を引いてマンションへ帰った。
真琴さんがお風呂に入っている間に、俺はリゾットを鍋に移して温め直した。
「ごちそうさまでした。とても美味しかった」
真琴さんの冷え切った体はお風呂とご飯で熱が戻り、青白かった顔も頬にピンクがさすほどの状態に戻った。
「真琴さん、今日は……いや、今は聞きません。話せる時が来たら教えてくれますか?」
コクリと頷くのを確認すると、俺は本題に移った。
「だから、真琴さん、明日俺とデートしてくれませんか?」
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