魔法使いと眠れるオメガ

むー

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同居:26日目 12/17(金)

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朝から憂鬱だ。

それもこれも、悟が厄介なものを持ち込んだからだ。

一応、真琴さんの許可はもらったが、やっぱりいい顔はしなかった。
理由が理由だから仕方がない。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「カンパーイ」

19時。
悟の掛け声で合コンは始まった。
俺の目の前にはオメガの女性、名前は確かマナミだったかな。
この前カフェに来た時も思ったが、顔は確かに可愛いが俺の好みではない。

自己紹介もそこそこに早速席移動し、右にマナミ、左にベータの女に俺は挟まれた。
マナミは発情期が近いのか、フェロモンが強い。
それにプラスして左の女からむせるほど漂う香水の匂いが、混ざって早々に胸焼け気味だ。
今までこの匂いに抵抗がなかったのが不思議なくらいクラクラする。
そんな時思い出してしまうのは、真琴さんの石鹸の清潔な匂いに微かに混ざる甘い香りだ。

「紫陽くん、飲んでないね」
「あー、明日バイトあるからあまり飲めないんだ。ごめんね」

左の女に指摘され咄嗟に答えた。
明日のバイトは休みだが、こう言っておけば一次会で抜けられるだろう。

「じゃあ、もっと軽いもの飲もうよぉ。カクテルとかぁ」
「今日はビールの気分だからいいよ」

マナミは俺の腕に胸を押し付けてきて誘ってくるが、カクテルの方が度数は高いから飲まねーよ。

2時間の合コン(1回戦)は左に座る女は変わったが、右のマミコはずっと俺の腕に胸を押し付けてしなだれていた。
その間、何度も「途中で抜けよ」と誘ってきたが聞こえないふりをした。
隣でマナミのフェロモンを嗅ぎすぎたせいか頭が少し痛くなった。

二次会(2回戦)は上手く抜け出せたと思ったが、最寄駅についた時、それが失敗したことに気づいた。

「紫陽くんの最寄駅ってココなんだ。マナの家から結構近いんだね」

マナミだ。
やっと解放されて安心したことと、この頭痛のせいで油断した。

「もう帰るから君も帰りな。タクシー乗り場まで連れて行くから」
「ええーヤダァー。マナ、紫陽くんのお家に行きたーい」

マナミは俺の腕にしがみ付いて離れようとしない。
ああ、ウゼェ。

「俺、聞き分けの悪い子嫌いなんだ。今日は本当にダメだから帰って」

そう言って、タクシーにマナミを押し込んだ。


……はずなんなけどな。

「紫陽くん、おっそーい」

マナミはマンションの前にいた。

「何で家知ってるの?」
「ナ・イ・ショ」

マナミは俺の首に腕を回して抱きついてきた。

「ちょ……止めろ」
「ヤーダァー、紫陽くんのお家行くー」

マナミは意外に力強くて、腕がなかなか剥がせない。

「やめっ…んっ」

俺の一瞬の隙をついてマナミはキスをしてきた。
閉じた唇に舌を割り込んできて歯列を舐めて口を開けさせようとするが、俺は頑なに抵抗をする。
タコのように吸い付いてくるマナミの唇は簡単には剥がれない。
マナミのフェロモンを間近で嗅ぎ続け俺の頭痛は酷くなった。
割れるような痛みに噛み締めたあと力を抜いてしまいマナミの舌の侵入を許してしまった。
口腔内を肉厚な舌が動き回る。
お世辞抜きにマナミのキスは上手い。
うっかり唾液を飲み込んでしまうとその甘さにクラクラと意識が溶けて俺の腕は無意識にマナミの背中にゆっくり伸びた。

「紫陽くん!」

背後から聞こえた声に俺の意識は呼び戻された。
それにはマナミも驚いたようで、腕が緩んだところでガバリと引き剥がして振り返った。

「あ…」
「こんなところで何しているの?浮気?」

俺は咄嗟に手の甲で唇を拭うとべったりと口紅が付いた。

「紫陽くん、この人誰ぇ?」
「僕は紫陽くんの婚約者だけど、貴女は何?」

ニッコリ微笑む真琴さんの背後にブリザードが見えた気がした。

「婚約者がいるなんて聞いてなーい。てか、あなたって本当にオメガなの?ふふっ、全然見えなーい」
「おい、もういいだろ。帰れよ」
「コンシェルジュがタクシー呼んだからすぐ来るからそれで帰るといいよ」

マナミは笑顔の真琴さんを睨みつけ、タイミングよく来たタクシーに乗り込んで帰っていった。

「あ、あの…まこーー」
「…コンシェルジュから連絡があって、マンションの前で紫陽くんと女の人が揉めてるって……」
「………」
「邪魔しちゃった?ごめんね……あと、もう少しは、やく、そく…だから…」

俯いて話す真琴さんの表情は見えない。
俺を見ようとせず踵を返しマンションに戻ろうとした手を思わず掴んだ。

「あの…真琴さん」
「話なら部屋で聞くから…先にシャワー浴びてくれないかな」
「……はい」



部屋に戻った俺はすぐシャワーを浴びてマナミの匂いを洗い流した。
拭いきれず残った口紅はなかなか落ちなくて、擦り過ぎた唇は真っ赤になり少し切れた。
リビングに行くと、真琴さんがロイヤルミルクティー用意して待ってくれていた。

今日の出来事を包み隠さず話した。
真琴さんは口を挟むことなく静かに最後まで聞いてくれた。

一気に喋ったため喉が渇いて、お茶を一口飲む。
ミルクと蜂蜜のほのかな甘さが昂った俺の気持ちを落ち着かせてくれる。
そのままゴクゴクと飲み干し、空のカップを置くと真琴さんはすぐ追加を注いでくれた。

「君の話はわかった。話してくれてありがとう」
「真琴さーー」

何かを話さないとと名を呼ぼうとすると、それを遮るように真琴さんは立ち上がった。

「今日はもう遅いし、僕も仕事が忙しくて疲れたから休むね。此処は明日片付けるからこのままでいいよ」
「まーー」
「おやすみなさい」

真琴さんはニッコリ笑って、自室に戻っていった。
目の前に何か目に見えない壁を感じた。




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