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同居終了:2日目 12/23(木) side makoto
しおりを挟む1ヶ月前、ほんの気まぐれで路上に転がっていた彼を拾った。
泥酔していて住所も言えなかった彼に嘔吐されて、僕まで帰ることが出来なくなった。
仕方がなく、祖父が経営する近くのホテルに連れて行った。
幸い僕を知る支配人が居たため、部屋を用意してもらい、服も超特急でクリーニングしてもらえるように手配して貰った。
スタッフ2人かがりで陽気に鼻歌を歌う彼をお風呂に入れて綺麗にした。
その後ベッドで大人しく眠っていたから油断してしまった。
シャワーから出た時、僕は寝惚けた彼と目が合った。
そこからは、本当にあり得ないことばかりだった。
あの瞳に僕は捕らえられた。
路上で声を掛けたのは気紛れだったけど、拾ってしまったのは目の前で色が変わったあの綺麗な紫色の瞳に惹かれたから。
家族以外とは誰とも触れ合うことなどもうできないと思っていたし、触れ合いたいとも思わなかったのに……。
彼は震える僕を優しく触れた。
発情期でもない僕をベッドの中で身も心も解してくれた。
その回数はえげつなく項も噛まれてしまったけど、オメガの悦びに触れた僕が意識を手放す頃にはもう震えていなかった。
だから、祖父に見つかってしまった時、彼を利用しようと考えた。
1ヶ月間だけ。
彼なら僕の夢を叶えてくれる。
束の間だけど、永遠の夢を。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
この1ヶ月、色々あった。
はじめて家族以外の誰かにご飯を作った。
彼は「美味しい」ってたくさん食べてくれた。
お手伝いさん以外の人とご飯を一緒に作ったのもはじめてだった。
アルファの匂いに思い出したくなかった記憶を呼び起こされて苦しんだこともあった。
そんな僕を彼は心配してくれ、遅くまで僕の帰りを待ってくれた。
そのうえ僕にご飯も作ってくれた。
マナミさんの香り。
一瞬でも彼を惑わす強烈なオメガの匂いだつた。
それと、先日、お祖父様に呼び出され今後の相談をした帰りに出会った2人の学生さん。
望月さんに車で送られている途中に見つけた2人はオメガだった。
他のオメガの発情期に当てられた2人は甘い匂いを漂わせていた。
その匂いに寄ってきた男たちに連れてかられそうになっていたところを望月さんが助け彼らの寮まで送った。
マナミさんとその2人の学生さん。
そのどの匂いにも当てられなかった自分がどれほど不完全なオメガかを思い知った。
でも彼は僕を迎えにきてくれた。
どんなに逃げても僕を見つけ、真正面から向かい合って心ごと掬い上げてくれた。
そして彼はーー。
僕の匂いを最初から「いい匂いだ」って言ってくれた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
僕の夢は終わった。
夢が終わったその時、彼はもう一度抱いてくれた。
ほんの少し夢が延長されたひと時。
あの日のように彼は優しく触れてくれた。
回数は覚えていない。
彼が眠りについたことを確認した僕は黙って家を出た。
1ヶ月も空けた自宅のマンションに戻ると、涙が溢れて止まらなくて仕事を休んだ。
メッセージアプリの彼の連絡先はブロックした。
でもメッセージは消すことはできなかった。
1日経つと身体に残っていた彼の匂いはすっかり消えた。
残るのは彼が付けた鬱血痕だけだ。
これもあと数日で消えてしまう。
これでいいんだ。
オメガとしての未来がない僕が誰かを愛することは、相手にとっては重荷でしかない。
何度も何度も自分に言い聞かせる。
空を仰ぎニッコリ笑う。
どうかこれから出会う運命の人と幸せになって。
願いを風に載せる。
空はどこまでも青く澄んでいた。
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