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真琴の過去 ③
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目覚めると真っ白な天井が見えた。
目の端に見えた点滴袋から出る管を追えば、自分の腕にたどり着いた。
起きあがろうとするけど、全身筋肉痛で少し動かすだけでも痛くて呻いてしまった。
「真琴、起きたのか?」
カーテンの向こうから聴き覚えのある声がした。
「お父さん?」
カーテンの隙間からひょっこり現れた父は、髪は乱れ、シャツはヨレヨレだった。
「気分はどうだ?」
起きあがろうとして苦戦している僕を父が手伝って、なんとか起き上がる。
「身体中が痛い。あと、喉も痛い」
「そうだな、声ガラガラだ」
微笑む父の顔に僕はホッとする。
「僕、どのぐらい眠ってた?」
「2日、かな」
「"かな"って…ふふっ」
口元を押さえて笑ったら膝の上にポツッと水滴が落ち、布団に吸い込まれた。
ハッとして僕の顔を見た父は泣きそうな顔をした。
それは、僕の目から涙が溢れていたから。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
side Father
あの日、学校から呼び出された私は、やりかけの仕事を片付けると、真琴の祖父でもある父の秘書の運転する車で息子に迎えにいった。
呼び出しから2時間後。
昼過ぎに教職員用の通用口に到着するとパニックになった保健医に会った。
そこで真琴が保健室から消えた報告を受けた。
下駄箱に靴が残っていたため外には出ていないと推測し、クラス担任と手が空いていた数名の教師も加わり学校中探すが見つからない。
時間だけが過ぎ困り果てていると、一年の生徒が2人、時間になっても理科担当の先生が来ないと言ってきた。
そこで教師たちは、朝から理科担当の真田を誰も見ていなかったことに気付いた。
担任は真田が真琴のことを異常と感じるほど気にかけていること、真琴について真田から理不尽な注意を受けたと言う生徒が複数いたことを思い出し私に報告した。
また、真田が管理している部室棟の確認を誰もしていないことに別の教師が気づき、真琴がそこにいる可能性に辿り着いた。
部室棟2階奥の空き部屋に当たりをつけて合鍵の束を持って向かうと、予想通り部屋の中から人の気配がした。
ドアの隙間から漏れ出るアルファのフェロモンの香りに同じアルファである私と秘書、2人の教師が気づく。
その香りには微かにオメガのフェロモンが混じっていた。
耳を澄ますと泣いているような声が聞こえてきたため、部屋の前にいる全員が部屋の中に真田と真琴がいることを確信しドアを開けようとするが予想通り鍵がかかっていた。
しかも、持ってきた合鍵は真田によって別の鍵と差し替えられていたため開けることができなかった。
そこで秘書がピッキングで開錠を試みた。
ものの十数秒で鍵は開けられ中になだれ込むと、目の前では息子が真田に覆い被され犯されていた。
我々の登場に真田は慌て、真琴の項を噛もうとした。
寸前で背後に回った秘書に引き剥がされ締め技で気絶した。
幸い真琴の項は噛まれずに済んだが、全員が眉を顰めるほど目の前の光景は酷いものだった。
腕の中でジャケットに包まれて眠る真琴の顔は瞼が腫れ、涙と鼻水と涎に塗れてぐちゃぐちゃだった。
その身体には殴られた形跡なかったが、真田がつけたたくさんの鬱血痕と噛み跡が残されていた。
ピッキングの間、聴こえてきた息子が助けを求め叫ぶ声を思い出し、また胸が張り裂けそうなくらい辛くなった。
静かに泣く息子の背中をさすりながら、診察した医師の話を思い出す。
「中を洗浄し、緊急避妊薬を投与しましたが、息子さんはすでに発情期に入っていたため妊娠した可能性が極めて高いです」
医師の言葉に目の前が真っ暗になった。
愛した妻が最後に産んだ息子は妻と同じオメガで、彼女が亡くなる直前まで気にかけていた息子がこんな目にあうなんて。
墓前の彼女になんて報告してよいか分からなかった。
警察に連行された真田は「真琴は私の運命の番だ。愛する者同士の行為をしたまでだ」と今も取り調べで言っているらしい。
しかし、あの現場を居合わせた誰もが、真田の一方的な行為でしかないと確信している。
それにより、発情期を知らない真琴は心も身体もボロボロにされた。
その上、妊娠までしていたら心が壊れてしまうだろう。
せめて、妊娠だけはしていないことを願いながら、泣き疲れて眠るまで息子の背中をさすり続けた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
だが、現実は非情だった。
三日間の入院ののち真琴は退院し自宅療養となった。
2週間後、妊娠の有無の検査のため病院に行く準備をしていると、真琴が突然お腹を押さえて蹲った。
履いていたパンツのお尻の部分が血で真っ赤に染まっていたため、ブランケットで真琴を包み急いで病院へ向かった。
そこで知らされたのは、妊娠と流産だった。
発情期を迎えたばかりの真琴の子宮は子供を育てるにはまだ未熟だった。
真田に何度も犯されたことで子宮が傷ついていたのも原因の一つだったが、真琴にはその言葉は届かず、地獄に突き落とされるほどのショックを受けた。
その場で嘔吐した真琴は、そのまま1ヶ月間入院することになった。
入院中にすっかり食も細くなり、痩せ気味の体は更に薄くなった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
真琴は転校し少しずつ元気になっていったが、ひとつだけ大きな変化があった。
フェロモンが出なくなり発情期が来なくなったのだ。
傍に発情期のオメガが居ても、そのフェロモンに当てられることもない。
更にオメガとしての成長が止まったことにより、オメガ特有の見た目の華やかさもなくなった。
見た目も地味、発情期もこないオメガは子を成すこともできないため、真琴は欠陥品のオメガと見られるようになった。
それは、真琴が子供の頃に夢見た未来は永遠に来ないことでもある。
それでいいと真琴は言い、涙を浮かべて続けた。
「僕の身体は汚れてしまったけれど、唇だけは守ったんだ。ここだけが、唯一、僕の綺麗な部分」
「だから、このままそっと消えてしまいたい」と言った言葉は聞こえないふりをした。
あの日、彼に出会うまで真琴はそう願っていた。
目の端に見えた点滴袋から出る管を追えば、自分の腕にたどり着いた。
起きあがろうとするけど、全身筋肉痛で少し動かすだけでも痛くて呻いてしまった。
「真琴、起きたのか?」
カーテンの向こうから聴き覚えのある声がした。
「お父さん?」
カーテンの隙間からひょっこり現れた父は、髪は乱れ、シャツはヨレヨレだった。
「気分はどうだ?」
起きあがろうとして苦戦している僕を父が手伝って、なんとか起き上がる。
「身体中が痛い。あと、喉も痛い」
「そうだな、声ガラガラだ」
微笑む父の顔に僕はホッとする。
「僕、どのぐらい眠ってた?」
「2日、かな」
「"かな"って…ふふっ」
口元を押さえて笑ったら膝の上にポツッと水滴が落ち、布団に吸い込まれた。
ハッとして僕の顔を見た父は泣きそうな顔をした。
それは、僕の目から涙が溢れていたから。
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side Father
あの日、学校から呼び出された私は、やりかけの仕事を片付けると、真琴の祖父でもある父の秘書の運転する車で息子に迎えにいった。
呼び出しから2時間後。
昼過ぎに教職員用の通用口に到着するとパニックになった保健医に会った。
そこで真琴が保健室から消えた報告を受けた。
下駄箱に靴が残っていたため外には出ていないと推測し、クラス担任と手が空いていた数名の教師も加わり学校中探すが見つからない。
時間だけが過ぎ困り果てていると、一年の生徒が2人、時間になっても理科担当の先生が来ないと言ってきた。
そこで教師たちは、朝から理科担当の真田を誰も見ていなかったことに気付いた。
担任は真田が真琴のことを異常と感じるほど気にかけていること、真琴について真田から理不尽な注意を受けたと言う生徒が複数いたことを思い出し私に報告した。
また、真田が管理している部室棟の確認を誰もしていないことに別の教師が気づき、真琴がそこにいる可能性に辿り着いた。
部室棟2階奥の空き部屋に当たりをつけて合鍵の束を持って向かうと、予想通り部屋の中から人の気配がした。
ドアの隙間から漏れ出るアルファのフェロモンの香りに同じアルファである私と秘書、2人の教師が気づく。
その香りには微かにオメガのフェロモンが混じっていた。
耳を澄ますと泣いているような声が聞こえてきたため、部屋の前にいる全員が部屋の中に真田と真琴がいることを確信しドアを開けようとするが予想通り鍵がかかっていた。
しかも、持ってきた合鍵は真田によって別の鍵と差し替えられていたため開けることができなかった。
そこで秘書がピッキングで開錠を試みた。
ものの十数秒で鍵は開けられ中になだれ込むと、目の前では息子が真田に覆い被され犯されていた。
我々の登場に真田は慌て、真琴の項を噛もうとした。
寸前で背後に回った秘書に引き剥がされ締め技で気絶した。
幸い真琴の項は噛まれずに済んだが、全員が眉を顰めるほど目の前の光景は酷いものだった。
腕の中でジャケットに包まれて眠る真琴の顔は瞼が腫れ、涙と鼻水と涎に塗れてぐちゃぐちゃだった。
その身体には殴られた形跡なかったが、真田がつけたたくさんの鬱血痕と噛み跡が残されていた。
ピッキングの間、聴こえてきた息子が助けを求め叫ぶ声を思い出し、また胸が張り裂けそうなくらい辛くなった。
静かに泣く息子の背中をさすりながら、診察した医師の話を思い出す。
「中を洗浄し、緊急避妊薬を投与しましたが、息子さんはすでに発情期に入っていたため妊娠した可能性が極めて高いです」
医師の言葉に目の前が真っ暗になった。
愛した妻が最後に産んだ息子は妻と同じオメガで、彼女が亡くなる直前まで気にかけていた息子がこんな目にあうなんて。
墓前の彼女になんて報告してよいか分からなかった。
警察に連行された真田は「真琴は私の運命の番だ。愛する者同士の行為をしたまでだ」と今も取り調べで言っているらしい。
しかし、あの現場を居合わせた誰もが、真田の一方的な行為でしかないと確信している。
それにより、発情期を知らない真琴は心も身体もボロボロにされた。
その上、妊娠までしていたら心が壊れてしまうだろう。
せめて、妊娠だけはしていないことを願いながら、泣き疲れて眠るまで息子の背中をさすり続けた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
だが、現実は非情だった。
三日間の入院ののち真琴は退院し自宅療養となった。
2週間後、妊娠の有無の検査のため病院に行く準備をしていると、真琴が突然お腹を押さえて蹲った。
履いていたパンツのお尻の部分が血で真っ赤に染まっていたため、ブランケットで真琴を包み急いで病院へ向かった。
そこで知らされたのは、妊娠と流産だった。
発情期を迎えたばかりの真琴の子宮は子供を育てるにはまだ未熟だった。
真田に何度も犯されたことで子宮が傷ついていたのも原因の一つだったが、真琴にはその言葉は届かず、地獄に突き落とされるほどのショックを受けた。
その場で嘔吐した真琴は、そのまま1ヶ月間入院することになった。
入院中にすっかり食も細くなり、痩せ気味の体は更に薄くなった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
真琴は転校し少しずつ元気になっていったが、ひとつだけ大きな変化があった。
フェロモンが出なくなり発情期が来なくなったのだ。
傍に発情期のオメガが居ても、そのフェロモンに当てられることもない。
更にオメガとしての成長が止まったことにより、オメガ特有の見た目の華やかさもなくなった。
見た目も地味、発情期もこないオメガは子を成すこともできないため、真琴は欠陥品のオメガと見られるようになった。
それは、真琴が子供の頃に夢見た未来は永遠に来ないことでもある。
それでいいと真琴は言い、涙を浮かべて続けた。
「僕の身体は汚れてしまったけれど、唇だけは守ったんだ。ここだけが、唯一、僕の綺麗な部分」
「だから、このままそっと消えてしまいたい」と言った言葉は聞こえないふりをした。
あの日、彼に出会うまで真琴はそう願っていた。
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