金の野獣と薔薇の番

むー

文字の大きさ
上 下
61 / 78
番外編 瑠可/楓

番外編 Kaede-1

しおりを挟む
瑠可と楓の話の、楓視点になります。
瑠可の視点の時の楓がどんなことを考えて行動していたのか、という話になります。

____________________

如月家にとって、オメガは特別な存在。
如月は嗅覚が鋭い一族で、その能力はオメガ性の方が高いからだ。
如月のオメガはオメガの子供を産みやすいことで有名だが、優秀なアルファを産むことでも有名だ。
故に、代々当主は能力の高いオメガが担うことになっている。

そして、その環境で育ったアルファは、オメガを大切にするように躾けられるため、番は特別な存在となる。

それが、如月に生まれた者のルール。

父は母と出会った時、「心が震えた」と言った。
母もそうだと言った。
それは【運命】だったのかもしれない。

俺にとっての【特別な存在】はまだ現れていない。

だから、まだ何もわからない。

心が震えるほどの想いも……。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

最初はただ要警戒人物とだけ思ってた。

夏休み最終日。
両親が寮に戻る弟を送るというから付き合った。
そこで会ったのは、弟のクラスメイトのオメガだった。
一見、可愛らしくて人懐こそうな子だが、初見から胡散臭かった。
三日月に細める瞳はどこか冷たく、一瞬、敵意を見せる。
警戒しておいた方がいい。
そんな奴だった。
それだけだった。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

5つ下の弟とは血は繋がっていない。
俺が小学6年の時に、事故に巻き込まれて記憶をなくした結季を両親は引き取った。
両親は結季に自分たちを「叔父さん」「叔母さん」と呼ぶように言った。
いつか結季の取り巻く環境が改善されたら本当の両親の元に返すからだと言った。
でも、うちの子には変わらない。
結季はずっとお前の弟だ。
そう言われた。

だから、血の繋がりなんて関係なく結季は俺たちの大切な家族になった。


うちの一族は少し変わっている。
本家の当主はオメガで女性だ。
如月家のオメガは嗅覚が鋭く、特にフェロモンの匂いで相手の善悪を見分けることができる高い能力を持つ。
俺の父は如月の直系で、アルファだが嗅覚が鋭い。
俺もアフルァで父ほどではないが嗅覚が鋭い方だ。

だから、あの日に出会ったアイツ・瑠可を要注意人物と見なした。

その後、外で瑠可を見ることが増えた。
瑠可は従兄弟が経営するカフェの常連客だった。

「なあ、あいつ知ってる?」

そう聞くと、

「知ってるよ。見かける度に違うベータの男といて。相手はたぶんセフレだね。あ、俺、高校生はパスだけどね」

紫陽、お前の見立てと意見は聞いてない。
とか…

「可愛いからチェックしてたんですけど、なんか小悪魔っぽくて…。俺は天使みたいな子が好きっす」

遼平、お前の好みは聞いてない。
とか…

「沙也、あの子嫌ーい。沙也が目を付けてた子を盗ったんだもん」

沙也はもう少し身近な人間に目を向けるべきだと思うぞ。

そんな意見を元に1ヶ月ほど観察すると、確かに男が被ることはなかった。
カフェの中では楽しそうに笑っているのに、ふと見せる表情は少し寂しげだった。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

次に対面したのは、12月の終業式。
両親と弟を迎えに行くと、玄関にいた。
弟を見送りに来た瑠可は、発情期の熱が残っていて少し濃いフェロモンを発していた。
その時に、他のオメガの発情期に当てられやすい体質だと知った。


更に次に対面したのは、冬休み明け。
父の代わりに弟を寮に送った時だ。
嬉しそうに出迎える姿と匂いからはもう敵意はなかった。
少し気になった。

1月はカフェで瑠可を見かけても1人でいることが多かった。
カフェで会って、カフェで別れる。
それ以外、瑠可はただぼーっと窓の外を眺めていた。

瑠可を見る俺の中から警戒はなくなって、ただ少し気になる奴になった。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

瑠可に対する俺の気持ちが劇的に変化したのは、それから1ヶ月近く経った2月中旬。

従兄弟のカフェへからの帰り、何となしに気ままにぶらぶら歩いていた。
ふと何処かで嗅いだことのある匂いが俺の鼻が捉えた。
気になって、その匂いに導かれるように進むとラブホテルが立ち並ぶ通りに出た。

「な、にやってんだよ」

その先に見つけた人物に、苛立ち、舌打ちをして接近した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】《BL》拗らせ貴公子はついに愛を買いました!

白雨 音
BL
ウイル・ダウェル伯爵子息は、十二歳の時に事故に遭い、足を引き摺る様になった。 それと共に、前世を思い出し、自分がゲイであり、隠して生きてきた事を知る。 転生してもやはり同性が好きで、好みも変わっていなかった。 令息たちに揶揄われた際、庇ってくれたオースティンに一目惚れしてしまう。 以降、何とか彼とお近付きになりたいウイルだったが、前世からのトラウマで積極的になれなかった。 時は流れ、祖父の遺産で悠々自適に暮らしていたウイルの元に、 オースティンが金策に奔走しているという話が聞こえてきた。 ウイルは取引を持ち掛ける事に。それは、援助と引き換えに、オースティンを自分の使用人にする事だった___  異世界転生:恋愛:BL(両視点あり) 全17話+エピローグ 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

私が攻めで大丈夫なのか?!

琴葉悠
BL
東雲あずさは、トラックの事故に巻き込まれたと思ったら赤子になっていた。 男の子の赤ん坊に転生したあずさは、その世界がやっていた乙女ゲームの世界だと知る。 ただ、少し内容が異なっていて──

なぜか第三王子と結婚することになりました

鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!? こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。 金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です ハッピーエンドにするつもり 長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

婚約破棄されたら魔法使いが「王子の理想の僕」になる木の実をくれて、気付いたらざまぁしてた。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
僕は14年間の婚約者である王子に婚約破棄され、絶望で死にそうに泣いていた。 そうしたら突然現れた魔法使いが、「王子の理想の僕」になれる木の実をくれた。木の実を食べた僕は、大人しい少年から美少年と変化し、夜会へ出掛ける。 僕に愛をくれる?

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

処理中です...