金の野獣と薔薇の番

むー

文字の大きさ
上 下
27 / 78
本編

2月 ② side Luca 1

しおりを挟む
ここは…。

どうやってここまで来たのかよく覚えていなかった。

つい数時間前、ボクは失恋した。

叶わない想いだってことは分かっていた。
ボクの好きな人はあの子に出会ってから変わったから。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

今日はボクの誕生日で、やっと16歳になったんだ。
先輩が16歳以上しか抱かないって公言してたから、この日が来るのをずっと待っていた。

「先輩、ボク、今日誕生日で16歳になったんです。だからボク……先輩がーー」
「ごめん……。もう誰も抱かない………好きでもない奴を抱いたりする気はない」

そう言うと先輩は去っていった。
ボクは、告白すらさせて貰えなかった。


そこからどうやって此処に来たのか覚えてない。

制服のまま飛び出してしまった。
もちろん、外出許可なんて下りてない。
出してないんだから。

見慣れた街をトボトボ歩く。
平日だからスーツ姿の人が多い。
その流れを逆らって進むと、外出の度に寄るカフェにたどり着いた。
お店に入る人。出ていく人。
中で楽しそうに飲食を楽しむ人。
ドアに伸ばしていた手を引っ込めて後退る。
人にぶつかって、今度は人の流れに乗って歩き出す。
涙は出なかった。

「君、どうしたの?」
「おい、ナンパかよ。……って、コイツ、もしかしてオメガか?」
「マジでオメガ?すっげぇ可愛いし、なんかいい匂いもする。発情期なんじゃね?」
「発情期ならこんなとこいねぇべ」
「でも俺たちみたいなベータでもフェロモンわかんだからもうすぐなのかもな」
「じゃあ、俺たちで助けてやんないとな」
「うっわっ、エロオヤジかよ」
「ほら、横取りされる前に連れてこうぜ」
「だな」

頭の上で声がする。
肩に手が乗った?
背中にも手が当たって押されて足が動く。

しばらく歩いていると不意に止まった。

「此処でいっか」

視界にラブホの看板が見えた。
そうか……するんだ。
また背中を押され、一歩足が出た。

「おい、そいつをどうする気だ」
「っ……」

今度は背後から声が聞こえた。
すごく怒ってる?

「聞いてんだろ。どうするつもりだ?」
「はぁ?お前、このオメガの彼氏か?」
「違う」
「なら、関係ないだろ」
「関係なくはない。そいつは俺の弟の友達だ」
「くっ」

ボクの肩と背中から手がなくなった。

「瑠可?……おい、瑠可?……ちっ」

ボクの名を呼ぶ声がする。
温かい手がボクの手首を掴んで引っ張った。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「……ああ……そうだ……うん、頼んだ」

ここはどこだろう?
ホテル?
そうか……。

「おいっ、何脱いでんだよ」
「するんでしょ。いいよ。ゴム持ってないならなしでもいいよ。ボク、もうすぐ発情期だけど、赤ちゃんできても責任取れとか言わないかーー」
「やんねーよ」

フワリと上着を肩に掛けられた。
森林の中にいるような、なんだかすごく落ち着くいい匂い。

「ボク、魅力ない?」
「そうじゃない」
「ボク、初めてじゃないよ。いろんな人たちとたくさんしてるし、みんな上手いって、気持ちいーって言ってくれるよ?」
「そうじゃない。そういうつもりで連れて来たわけじゃない」
「じゃあーー」

コンコン

ノック音がした。

「ちょっと待ってろ」

男は離れてノック音がしたドアを開けて何か話してすぐ戻ってきた。

「ほら、これ飲め」
「これ……」
「抑制剤だ。近いんだろ?匂いが落ち着いたら寮まで送る」
「やだっ」

差し出された錠剤を叩き落とした。
男は怒ることはなかったけど何も言わなかった。
視線が刺さる。

「も、もう、ボクを抱いてくれないなら、アンタなんか必要ない」
「ダメだ」

立ち上がろうとしたボクをいとも簡単にベットに戻す男を睨む。

「なんで邪魔するの?ボクは今めちゃくちゃにされたいんだ。気持ち良くなくてもいいんだ。痛い方がいい。たくさんして嫌なこと全部忘れたいんだ。だから、それをしてくれないアンタは要らないっ」

一気に捲し立てるボクに男は息を吐いた。

「……そうだな。俺はお前を抱かない。だってお前、本当はアルファ怖いだろ?」
「っ…」
「……ん。だから抱かない……けど、抱きしめてやるよ。お前の気が済むまで」

必死に震えを押さえるボクを、目の前の男ー如月楓ーは丸ごと抱きしめてきた。

「なっーー」
「はいはい、落ち着け」

赤ちゃんをあやす様に背中をポンポンされる。
怖いはずのアルファの匂いが優しく肺を満たし、心地よい振動が心を激しく揺さぶる。

「やだ、止めてよ……やめっ……」
「うん……やめない」
「やめ……ふ、ふっ…ふっ、ふぇぇ」

目から溢れた水滴を男の着ている服の肩口付近が吸って濡れる。
ボクはその服の裾を両手で固く握って、あの時出ることのなかった涙を流した。


__________________

長くなったので2つに分けました。
後半に続く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハッピーエンド=ハーレムエンド?!~アフターストーリー~

琴葉悠
BL
異世界アルモニアで、ゲーム的に言うとハッピーエンドを迎えたダンテ。 しかし、まだまだ人生は長く── これは、ダンテが奮闘した学生時代の後話。 アフターストーリーである。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

私が攻めで大丈夫なのか?!

琴葉悠
BL
東雲あずさは、トラックの事故に巻き込まれたと思ったら赤子になっていた。 男の子の赤ん坊に転生したあずさは、その世界がやっていた乙女ゲームの世界だと知る。 ただ、少し内容が異なっていて──

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

とある隠密の受難

nionea
BL
 普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。  銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密  果たして隠密は無事貞操を守れるのか。  頑張れ隠密。  負けるな隠密。  読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。    ※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

処理中です...